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【完結】悪女と呼ばれた令嬢、望まぬ婚約寸前で剣聖皇子に奪い去られる【10月下旬に三章更新予定】  作者: しのギドラ
1章

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2話 閉じられた部屋での口付け

 扉が閉まり、鍵が回る無機質な音が静まり返った室内に響いた。


「……ジーク、待って。話し合いましょう。少し頭が冷えるまで――」


「嫌だね」


 振り向きざま、ジークの手が私の肩を掴んだ。

 抗う間もなく、視界が大きく揺れる。


「逃がさないと言っただろう、エル。君がこのきっかけを作ったんだ。……君のすべてを奪ってやる」


「離して、ジーク……いつものあなたじゃないみたい……冷静になって!」


 私が怯えたように瞳を震わすと、ジークの黄金色の双眸が、ほんの一瞬だけ、かすかに揺らいだ。

 だが次の瞬間、彼はその手を緩めるどころか、むしろ引き寄せるように顔を近づける。


「……そうだな。俺も今の自分が自分じゃないみたいだ。君が他の男に触れられる想像をしただけで、その男も、エルを差し出そうとするこの国も、全部切り刻んでやりたい衝動に駆られてる」


「ジーク……っ」


「エル、九百九十九回戦って、君の癖も、弱点も、誰よりも俺が知っている。……なのに、どうして知らない男の所有物になるなんて言えるんだ?」


 ジークの声は低く、酷く濡れた色を帯びていた。

 彼はそのまま、私のあごを強引に上向かせる。


「俺だけを見てろ。俺だけを考えて、俺の名前だけを呼べ。……王太子なんて、二度と思い出せなくしてやる」


「ジーク……うんっ!?」


 言い終わるより早く、熱い唇が降ってきた。

 私の必死の抵抗を無視するように、腰を強く引き寄せて。


「やめ……ジー、ク……!」


「……今ここで離したら、エルはどこかに言ってしまう。そうするくらいなら、今ここで全てを奪い取ってやる」


 彼の瞳には嘘などどこにもなく、そこには痛切なほどの想いが宿っている。

 だからこそ、彼がこんなことする本心を聞きたかった。


「……ジーク。教えて、……私のこと、本当はどう思っているの?」


 かすれた声で、私は問いかけた。

 ジークはそっと視線を落とし、私の頬を愛おしげに指先でなぞった。


「伝わってなかったのかよ。……好きだ、愛してるよ、エル。初めて会ったあの時から、俺の心の中にいるのは……君だけだった」


 鼓膜の底まで響く愛の言葉。

 ジークは静かに私の髪をすくい上げ、熱い唇を落とした。


「ジーク……」


「……君はどうなんだ、エル。……言ってくれ。俺を、どう思ってる?」


 誤魔化しや逃げ場を与えない光が、その瞳の奥で凪いでいた。

 何を言っても結果は変わらないと言うように。


「……私は……」


「まあ、『はい』でも『いいえ』でも、もう離してやるつもりはないけどな」


 傲慢で、けれど微かに揺れる声音に、私の胸が締め付けられる。

 私はゆっくりと視線を伏せ、ジークの胸元に顔を寄せた。


「……私もジークが好き……。ずっと好きだった……。あなたのその……誰にも屈しない強さも、不器用な優しさも……全部、好き……」


「……なんだ、両思いだったのか……。なら、余計に離さない」


 ジークの腕が、強く私を引き寄せた。

 私の体温を確かめるように、何度も抱きしめ直す。


「エル……俺と結婚しよう。君を絶対に、世界一幸せにする」


「……っ、嬉しいわ。……でも、無理よ。ジーク……無理なのよ」


 涙があふれ、ジークの胸を濡らす。


「それは、王太子殿下との婚約のことがあるからか?」


「王命に逆らうことはできないわ。ベルシュタイン家の娘として、王家への不忠は許されないわ……」


「関係ないね。国も、王太子も。俺からエルを奪えるものは、この世に何もない」


「ジーク……っ! 王家に逆らえば、あなただってただじゃ済まないわ! 国家反逆罪になれば、その首が飛ぶかもしれないのよ!? 私のために、あなたが死ぬなんて……そんなの嫌よ!」


 ジークは私の額に唇を落とし、取り乱す私をなだめるように、ふっと笑った。


「何があっても、俺がそばにいる。全部ねじ伏せてやるから、エルは何も心配しなくていい」


「ジーク……!」


「君の横に立つために、俺は強くなった。……エル、聞くのはひとつだけだ。俺と、結婚してくれるか?」


 不敵で、力強い言葉が、胸の奥まで真っ直ぐに届いた。

 私は潤んだ瞳で彼を見つめ、震える唇を開いた。


「……あなたの隣にいられたら、きっと幸せだわ。でも、もう時間がないの。次の晩餐会で、正式に婚約が……」


「心配するな。全部片付けて、必ず迎えに行く。……それまで、俺を信じてくれるか?」


 ジークの黄金色の瞳が、悲しみに震える私を包み込むように輝いた。

 彼の想いを感じながら、そのたくましい首に腕を回した。


「その言葉だけで十分よ。ありがとう、ジーク……。私はあなたのその心と、言葉だけを糧に、生きていくから。お願いだから、危険なことはしないで……」


「危険なことなんてないよ。世界中を敵に回してでも、エルを迎えに行く」


「だから、ジーク……ん!」


 私の言葉をさえぎるように、ジークは強引に唇を重ねる。

 言葉より雄弁な、それが彼の答えだった。

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※カクヨムにも掲載
【代表作】→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
◆累計ページビュー63,000pv超え感謝◆

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あらすじ→「全員生き残るか、一人残らず死ぬか」その二択しかない極限の乙女ゲーム。
前世の記憶を取り戻したルナリアは、自分が"全滅エンド"を招く悪役令嬢だと知る。
導き出した答えは、誰とも関わらず、孤独に生きること。
そう誓った矢先に出会ってしまったのは、攻略対象——公爵令息のグレン。
父の虐待を見抜き、どんなに突き放しても離れない彼に、距離を取ろうとするほど執着されていく。
やがて暴かれる、最初から大切な人を"殺す力"を宿していたという残酷な真実。
それでも彼は、皆の前で誓った。
「生涯をかけて君を幸せにする」と。
虐げられた令嬢×公爵令息。
作品ページはこちら→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
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