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【完結】悪女と呼ばれた令嬢、望まぬ婚約寸前で剣聖皇子に奪い去られる【10月下旬に三章更新予定】  作者: しのギドラ
2章

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14話 これから進む道、暗殺計画の露呈

 幾重もの結界を通り抜け、ジークに手を引かれて辿り着いた扉を開けた瞬間、私は思わず息を呑んだ。


「ここは……?」


 私の唇から、感嘆の吐息がこぼれる。

 そこは、城の堅牢な石造りの印象からは想像もつかない、幻想的な庭園だった。


 見たこともない植物が銀色の葉を揺らし、水晶のように澄んだ水が、重力を無視するように空中を緩やかに流れては池へと落ちていく。


「神龍の庭と呼ばれている場所だ。……正確には、皇族……つまり龍の契約者以外は、立ち入ることさえ許されない聖域だよ」


「……そんな大切な場所に、私が入って大丈夫なの?」


「大丈夫。龍の契約者が、自身の『番(つがい)』だと認めた相手なら、この庭が拒むことはない」


 ジークは、懐かしそうに、思い出をたどるように辺りを見回した。


「……昔から、この場所の空気が好きだったんだ。十年経っても、変わっていないようで安心したよ」


 ジークは懐かしそうに目を細め、一本の巨大な銀樹の下へと私を導いた。

 そこには柔らかな草が広がり、二人が座るのを待っているかのようだった。


「……ジーク。これから、どうするつもりなの?」


「エルのしたいことなら、何でも叶えるよ」


「私は、あなたがしたいことを聞きたいの。……私の意見じゃなくて、あなたの本当の気持ちを」


 私の問いに、ジークはしばらくの間、無言で空中に浮かぶ水の流れを見つめていた。

 アッシュブルーの髪が、庭の光を受けて不思議な光沢を放っている。


「とりあえず、しばらくは静かにしているつもりだよ。ただ、第二皇子が戻ってきたって広まったら、面倒が舞い込んできそうだな」


「……白龍のこともあるものね」


「ああ。だから、表向きは『アストルシアから招いた賓客と、その護衛騎士』のまま、しばらくは羽を伸ばそうと思う。……エルも色々あって疲れただろう。少し、休んでほしい」


 ジークの言葉には、私への深い労わりが込められていた。

 彼は私の指先を一本ずつなぞるように撫でながら、自身の胸の内を少しずつ、吐露するように語り始めた。


「もし、俺たちがこのまま龍帝国に残るなら……俺は、皇帝になる兄上の支援に回るのも良いかな。今回のことで、かなり世話になったし」


「オーウェン殿下の?」


「ああ。兄上は真面目すぎて、一人で背負い込みすぎる。兄上がこの国を治めるというのなら、俺はその背後で、剣を振るう……いわば、帝国の影の守護者として生きるのが、一番性に合ってるかな」


 ジークは自嘲気味に笑った。

 最強の龍を従えながら、頂点に立つことを拒み、誰かを守るための剣でありたいと願う。

 その欲のなさが、かえって彼の強さを表しているように私には思えた。


「でも……皇位継承権ある限り、契約龍の問題はつきまといそうね。剣聖と呼ばれる実力があるからこそ、契約龍の詮索は避けられないでしょう」


「……そこなんだよね、一番の問題は」


 ジークは困ったように眉根を寄せた。

 アストルシアの晩餐会で、彼は大勢の貴族たちの前でその実力を見せつけ、さらに龍帝国の第一皇子であるオーウェン殿下が「弟」として彼を呼ぶ姿を晒してしまった。

 情報はいずれ、商人や旅人の口を通じて大陸中へと広がるだろう。


「しばらくしたら、ちょっと騒がしくなるかもな。……エル、君までその騒動に巻き込むことになるかもしれない」


「……構わないわ。あなたがすべてを捨てて、あの晩餐会に来てくれた時……私はもう、何が起きてもあなたの隣にいると決めたの。私は、あなたと一緒にいたい。……守りたい。それだけなのよ」


「エル……」


 ジークの黄金の瞳が、熱を帯びて揺れた。

 彼は私を引き寄せ、額に深い誓いのようなキスを落とした。


「……君は、本当に強いな。……わかった。何が起きても、俺が君を守り抜く。……俺の自由は、君と共に歩むためにあるのだから」


 神龍の庭を吹き抜ける風が、銀樹の葉を鳴らし、二人の言葉を祝福するように周囲を舞った。


 しばらくの間、二人は寄り添ったまま、未来への不安を希望へと変えていく。


 銀樹の葉の間から差し込む光が、重なり合う二人の影を美しく照らし出ていた。


◇


 神龍の庭から離宮へと続く、月光の射し込む回廊。

 甘やかな余韻に浸りながら、私とジークは手を繋いで歩いていた。


 だが、その幸福な時間は唐突に、ジークの体が強張ったことで中断された。


「……っ」


 ジークが鋭い動きで、回廊を支える巨大な円柱の影へと滑り込む。

 私の口を、彼の大きな手がそっと塞いだ。


(ジーク……?)


 視線で問いかける私に対し、ジークの黄金の瞳は剣聖のそれへと一変していた。

 彼は無言で、前方の曲がり角の先を指差す。


 そこから、数人の気配が影からすべり落ちるように現れた。


 深く覆われたローブが石床を擦り、忍びやかで不吉な足音が夜闇に溶ける。

 柱の陰から覗き見れば、そこには深々と漆黒のローブを被った男たちが、月明かりを避けるように集まっていた。


「……聞いたか。第二皇子、ルーク様が戻られたという噂を」


「ああ、限られた者しか知らされていないが。十年前に行方不明となったはずの『病弱なひきこもり』が戻ってきたと」


「……もしそれが真実ならば、我らにとっては好機だ。あの『計画』をいよいよ実行に移す時が来た」


「明後日の建国祭、『白の間』で祈る瞬間……暗殺はそのときが良いだろう」


 男たちは互いに頷き合うと、影に溶けるようにしてその場を去っていった。

 後に残されたのは、凍りついたような沈黙と、夜の静寂だけだった。


 男たちの気配が完全に消えるのを待って、ジークは私の口元からゆっくりと手を離した。

 彼の顔には、もはや柔らかな光は欠片も残っていない。


「ジーク……今の……!」


「……さすがに、これは見過ごすわけにはいかないな。エル、疲れているところ悪いけど、一緒に来てくれないか?」


 ジークは短く息を吐き、城の中心部がある本宮の方角を見据えた。


「あいつらの計画、勢力の全貌をつかむ必要がある。……俺が勝手に判断して、あいつらに何かすれば兄上達の立場を悪くしかねない。……まずは情報収集だな」


「ええ、行きましょう。……あの人達が何を考えているのか、つきとめなきゃ」


「ああ。危険があるかもしれないが……必ず、エルは俺が守る」


 ジークは私の手の甲に、誓いのようなキスを落とした。


 銀樹の庭での甘い夜は終わり、ここから、龍帝国の存亡を賭けた、兄弟たちの共闘が幕を開けようとしていた。

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※カクヨムにも掲載
【代表作】→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
◆累計ページビュー63,000pv超え感謝◆

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あらすじ→「全員生き残るか、一人残らず死ぬか」その二択しかない極限の乙女ゲーム。
前世の記憶を取り戻したルナリアは、自分が"全滅エンド"を招く悪役令嬢だと知る。
導き出した答えは、誰とも関わらず、孤独に生きること。
そう誓った矢先に出会ってしまったのは、攻略対象——公爵令息のグレン。
父の虐待を見抜き、どんなに突き放しても離れない彼に、距離を取ろうとするほど執着されていく。
やがて暴かれる、最初から大切な人を"殺す力"を宿していたという残酷な真実。
それでも彼は、皆の前で誓った。
「生涯をかけて君を幸せにする」と。
虐げられた令嬢×公爵令息。
作品ページはこちら→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
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