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【完結】悪女と呼ばれた令嬢、望まぬ婚約寸前で剣聖皇子に奪い去られる【10月下旬に三章更新予定】  作者: しのギドラ
2章

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11話(アルドリック・オーウェン視点)皇帝と第一皇子の心中

 窓の外に広がる帝都の夜景を背に、皇帝アルドリックは深く椅子に身を預け、ただ一点を見つめていた。

 その傍らで、第一皇子オーウェンは、押し黙ったまま複雑な表情で弟が去った扉を見つめている。


「父上……。本当に、これで良かったのですか?」


 沈黙を破ったのは、オーウェンの惑いを含んだ声だった。

 その問いには、単なる兄弟愛だけではない、帝国を背負う者としての重苦しい懸念が混じっていた。


「そなたこそ、良いのか。……オーウェン。そなたが次期皇帝として、この十年間どれほどの血を吐くような努力を続けてきたか。それを一番近くで見てきたのは、他ならぬこの我だ」


 オーウェンは一瞬だけ、蒼の瞳を揺らした。

 彼が最強格の青龍の契約者として、己の感情を殺し、帝国の盾であり剣であることを自らに強いてきた。

 

 突然現れた弟が、伝説の白龍を連れて現れたことで、彼が積み上げてきた「次期皇帝」としての正当性は、根底から覆されようとしている。


「私は、龍帝国の安寧を一番に考えています」


 オーウェンは姿勢を正し、清廉な空気をまとって言い切った。


「我が帝国は代々、もっとも強き龍を従えし者が皇帝に即位することで、その繁栄と秩序を守ってきました。龍こそが絶対の法。なればこそ……『白龍』の契約者であるルークが皇帝の座に就くべきです」


 青空のように澄んだ瞳で、オーウェンは迷いなく言葉を紡ぐ。

 青龍の契約者らしい、実直な気持ちだった。


 アルドリックはふっと口元を緩めたが、その瞳の奥には依然として明晰な光が宿っている。


「だがな、オーウェン。そなたも知っての通り、白龍という存在はあまりに不可解だ」


 皇帝の言葉に、オーウェンの眉がぴくりと動く。


 龍帝国の始祖が使役したとされる伝説。

 しかし、その記録は不可解なほどに残っていない。


 他の色を冠する龍たちには、それぞれの司る権能や性質が詳細に記された書物が存在する。

 

 しかし、白龍に関してだけは、その能力について一切の記録が残っていない。


 まるで、意図的に削除されたように。


「龍の知識に関しては、我も帝国一を自負しておるが……白龍の底力だけは、未だに見当もつかぬ。それは単なる力ではなく、世界の理そのものを書き換えるような、異質なものを感じる」


「……ルーク自身も、その能力を隠したがっているように見えました」


「左様。もし不用意にその本質を暴こうとすれば。あるいは強制的に玉座へ座らせようとすれば、その逆鱗に触れ、災厄を招く可能性もある」


 アルドリックは、机の上に置かれた古文書に触れる。

 龍を愛し、龍と共に生きてきた皇帝にとって、伝説の白龍をその目で、その真の姿を拝みたいという欲求は、抗いがたい誘惑だった。

 しかし、彼は皇帝としての責務でそれを抑え込んだ。


「ルークが十年の放浪を経て、あのアストルシアの令嬢を連れて戻ってきたこと。それ自体が白龍の導きなのかもしれぬ。あの娘は、ルークという猛獣を繋ぎ止める、唯一の鎖だ」


「……では、やはり当面は白龍の件、隠し通すと?」


「ああ。少なくとも、他の兄弟たちが嗅ぎつけるまではな。……だが『赤龍』……末弟はルーク以上に好戦的だ。ルークの存在を知れば、力比べを挑もうとするだろう。それが白龍を刺激せねばいいがな」


 父の言葉に、オーウェンは再びため息を吐いた。

 弟が戻った喜びよりも、これから起こるであろう騒動の火種を数える方が、彼にとっては現実的な問題だった。


「ルークの望み通り、今は自由にしてやろう。城に閉じ込めておくのは不本意だろうが、奴が自らの居場所として龍帝国を認めるまでは、刺激してはならぬ」


「父上は……あやつを信じておられるのですか?」


 その問いに、皇帝は窓の外を見つめた。

 夜の闇に浮かぶ離宮。

 そこには、理解を超えた強大な力を持ちながらも、ただ一人の女を愛することを望む、彼の息子の気配があった。


「信じているわけではない。ただ、見てみたいのだ。白龍の契約者が……ルークが我らに何を見せてくれるのか」


「……父上……。分かりました、私もできる限りの善処はいたします。……白龍のためならば、『この身』を捧げることも厭いません」


「オーウェン。明日の朝には、ルークの帰還を最小限の範囲で公表する。そなたの手腕に期待しているぞ」


「御意。……今夜は、眠れそうにありません」


 オーウェンは深々と一礼し、書斎を後にした。

 残された皇帝は、ただ静かに、夜の静寂に身を委ねながら、息子がもたらした波乱の行方に思いを馳せるのだった。

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※カクヨムにも掲載
【代表作】→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
◆累計ページビュー63,000pv超え感謝◆

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あらすじ→「全員生き残るか、一人残らず死ぬか」その二択しかない極限の乙女ゲーム。
前世の記憶を取り戻したルナリアは、自分が"全滅エンド"を招く悪役令嬢だと知る。
導き出した答えは、誰とも関わらず、孤独に生きること。
そう誓った矢先に出会ってしまったのは、攻略対象——公爵令息のグレン。
父の虐待を見抜き、どんなに突き放しても離れない彼に、距離を取ろうとするほど執着されていく。
やがて暴かれる、最初から大切な人を"殺す力"を宿していたという残酷な真実。
それでも彼は、皆の前で誓った。
「生涯をかけて君を幸せにする」と。
虐げられた令嬢×公爵令息。
作品ページはこちら→「悪役令嬢は全員生存エンドを目指す」
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