8.ちーさん?(世界の終わりまであと24日/その3)
ユキくんはずりずりと椅子に座り直すと、
「結論から言えば、今のままログインして再開しても、結果は大して変わらない」
話しながら、いくつかの攻略サイトをピックアップして見せる。
「聖域の外にいるのは、チハヤ・ルースっていう魔王皇帝直属の魔導剣士」
「なんか強そう」
「強いんだよ、だから!」
初登場は第二章終盤。
ただし出現条件はかなりシビアで、戦う機会はほどんどない。
戦うにしても、その時点で可能な限りのキャラ強化をしてやっと挑めるレベルの強敵。
いわゆる隠しボス。
無理に見つけて戦わなくても物語の進行には関係ない。
でもだからこそ、その強さは半端ない。
「見た目が少年だからって、侮ってるとあっさりやられるぞ」
それ以前に、わたしにはその姿なんてほとんど見えなかったけど。
ネットに上がっている画像でやっと初対面を果たす。
「ほらほら、これよ、これ! やっぱりビジュアルいいよねー」
このキャラのデザインも、あの神さま絵師の担当だった。
さらりとした銀髪に黄金の瞳。
気の強そうな顔でこちらを睨みつけている。
いかにも勝気な少年風で、人気出そうな感じ満々。
このデザインのキャラたちとゲームを完走したいというプレイヤーたちの気持ちが、今さらながらよくわかる気がする。
もちろん物語も大切だし、ゲームシステムだって重要だ。
でもわたしのようなゲーム素人には、やっぱり、その世界で活躍するキャラクターたちの姿こそが一番魅力的に映る。
つくづくこんなキャラたちを生み出した絵師さんはすごいと思う。
そしてだからこそ、そんな人を失ったゲーム会社やプレイヤーたちの気持ちも、痛いほどよくわかる。
製作スタッフとして一緒に頑張っていた歳矢もきっと、辛かったろうな……
──もし。
もしそのとき一緒にいたら、いられたら。
わたしは彼を支えてあげられただろうか。
でも現実は。
現実のわたしは、たぶん彼が一番大切なときに、一緒にいてあげられなかった。
たとえ医師の道がダメになっても──自分から逃げ出したとしても、
だからといって彼からも逃げ出すことはなかった……のかも。
もしずっと一緒にいたら。いることができていたら。
このときだけじゃない。
今回だって。
あいつが死んだ、その日だって。
もしわたしが一緒だったら。
別れる前の家で一緒に住んでいたら。
もしかしたら、彼はまだ、この世界に生きて……
「感動する気持ちはわかるけど、そろそろ現実に戻ってきて──ナキ姉?」
わたしは、ひとつ大きく頭を振ると、
「ううん、うん。大丈夫」
「ほんとに?」
ユキくんの顔に、何かを察したような本気の心配が見えた。
わたしは顔を上げてもう一度大きく息を吸ってから、そんな弟くんへ向き直る。
こくり、とうなずく。
「大丈夫」
「……うん。わかった」
ユキくんもうなずいて、モニター画面へと向き直る。
「じゃあいい? ちーさんは確かに人気キャラだけど、実際にゲーム内で会える可能性はかなり低い」
出現させるだけでも大変だし。バトルするとなればさらに苦行が待っている。
「……ちーさん?」
「何?」
「う、ううん、いいの続けて」
ユキくんは、ちょっと肩をすくめてから、
「とにかく。このキャラも、もしバトルで勝てれば、それ以降のガチャ──抜刀解放式で引ける対象になるけど」
ただしそのレア度は最上級(最低SSR☆5~最高UR☆1の間で変動)。
そもそもが魔王皇帝の腹心だし。
どちらにせよ、そう簡単にお迎えできる(仲間にできる)キャラじゃない。
これまでの周年記念祭でもガチャ確定キャラになったことはない。
まさに幻のキャラ。
「ゲーム開始早々、そんな強敵をぶつけてくるなんて、ひどすぎない?」
「だからそれがこの最終章なんだよ」
「そんなのが待ってたら、わたしあの場所から永遠に出られないじゃん」
「さっきからそう言ってるでしょ。話聞いてる?」
詰んだ。もう詰んだ。
最初の瞬殺はシステムのバグとかでどうにかなったようだけど。
でもどのみち、この敵が倒せないのなら、その先へは進めない。
まったくの初心者である上に、あの最初の場所から出られないとなれば、外で他の敵と戦ったりして経験値をためてレベルアップしたり、武器を強化したりするここともでなない。
もっともこの最終章では、そんなことやってるヒマなんてまったくないけれど。
いずれにせよ最弱の初期装備のまま、最強の敵と戦わなくてはならない。
いきなり超難題。
椅子の上で腕組みしていたユキくんが、はあっと息をつく。
(もう何度目やら)
「……だめかな、こりゃ」
「え?」
おい!




