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9.あれ?(世界の終わりまであと24日/4)


 おい!


「だから冗談──」


 背後で視線ビーム全開のわたしに横目で笑うユキくん。


「……でもないけど」


「おい!」


「わかってるって。ただ本当に厳しい状況なのは間違いないから」


 そして再び、攻略サイトをあれこ選んで見せてくれる。


「最終章開始から5日。いやもう6日めか──イベント初期部分の解析はかなり進んでるみたいだけど……」


 最終章に挑戦できるプレイヤーは1500人限定。

 けれど、その外で助言する人たちに事実上制限はない。


 公式が用意した「観戦モード」~この最終章に参加できない他のプレイヤーたちに向けたサービス~だけでもゲーム状況は把握できるし、最終章の参加者たちが立ち上げたゲームコミュでも情報のやりとりはできる。


 そこにこの手のゲーム解析を得意にしている連中も加わって、ほぼ24時間体制で、ゲームシステムや攻略法を調べているらしい。


 当然AIもフル活用。

 プレイヤー側は自分たちの行動ログや運営側のパターン解析などに。

 逆に運営側は情報の暗号化やパターンのランダム化でそれに対抗。

 

 どっちもどっちだけど、まだ序盤だけあって、AI勝負は基本的に運営側が有利な状況らしい。


「……なんかもう、ゲームを遊ぶってレベルじゃないねこれ」


「ゲーム内とはいえ、ちゃんと存在してるひとつの世界を救おうっていうんだ。当然だろ?」


「おお、言うねえ。真面目か」


「大真面目さ。悪(わり)いか」


 ユキくんは、椅子ごと回ってまっすぐわたしと正対する。


「目の前で死にかけてる人がいたらどうするよ? 何とかして助けようとするだろ? 違う?」


「これは人じゃなくてゲームだけどね」


「ゲームだよ。でもゲームとして、ちゃんとこの世界に実(・)在(・)してる──違う?」


「違わない」


「だったら救えよ、助けろよ! それでも元医者かよ! ──あ」


 言いすぎたと思ったのか固まるユキくんに、けれどわたしは逆にこらえきれずに笑ってしまう。


「ふふ……あっは」


「な、何がおかしいのさ!」


「たかがゲーム──」


「な──!」


 思わず椅子から立ち上がりかけた弟くんへ、わたしはぴん、と人差し指を立てて押し戻す。


「──されど、ゲーム」


 わたしはそのまま手をのばして、その指先でパソコンの画面を指し示す。

 

「わたしも同じだよ。ユキくんと」


 リアルもゲームもない。


 現実に目の前で消えかけてる命だって。

 ゲームの中の滅びかけた世界だって。


 それをなんとしても救いたいって思いに、なんの違いもない。


「そして事情はどうあれ、わたしは今、その『世界』を救える立場にいる」


 そこでは「初心者だから」とか、「レベルが低いから」なんて泣き言は通用しない。


 それはたとえば研修医だったときも。


 いま苦しんでいる人には、自分が熟練の医師だろうと、ひよっこの研修医だろうと関係ない。


 目の前の命に対して、ひとりの「医師(プレイヤー)」として。

 今の自分ができる最大限のことをやるしかない。


「……わかってるよ。嫌ってほど」


 ばつの悪そうな弟くんに、さらに笑いかける。


「うん、わかってる。そのつもりだった──でも改めて思い知らされた」


 このゲームを、最終章を始めたことで。


 一度は失った夢。

 目の前で失ってしまった命。


 でもまだわたしには。

 わたしの前には。


 救える命がある。

 救える世界がある。


 何度でも言う。言ってやる。


 たとえそれが現実の世界でなくても。

 たかがゲームの世界であっても。


 それが助けを求めているのなら。

 こんなわたしにさえ、その手をのばしてくるのなら。


「今度こそ、その手を掴む。掴んで握って、二度と離さない。離すもんか!」


「──ナキ姉」


「と、いうわけだから。最初の敵の攻略法、さっさと見つけて」


 ただでさえ6日も遅れてるんだ。

 これ以上、出発地点で足止めされてるわけにはいかない。


「あ、ああ──わかった」


 きょとんとした顔でうなずくと、ユキくんも椅子を回して再びパソコン画面に向き合う。


「ええ──ええと、じゃあ、とにかくまずはこれ見て」


 なんか妙にメカニカルなマウスをささっと動かして、最初の動画を再生する。


 見た目にも重装備のプレイヤーが、他に二人の仲間を従えて、あの大扉へと向かってゆく。


「へえ、普通のゲーム画面だと、こんな感じなんだ……」


「え、何? ──いや、いいからちゃんと見てて!」


 大扉を出た瞬間、シームレスで戦闘に突入。


 すでに敵の魔剣士──チハヤ・ルースがいて、いきなり大技(?)を放ってくる。


 彼を中心に地面を剝ぎ取るような光円が急拡大してプレイヤーたちに迫る。


「抜刀解放参式・固有剣術(スキルソード)『神薙ぎ』──ナキ姉はこれで瞬殺された」


 実況画像のプレイヤーは、でもそれを待っていたかのようにジャンプして回避。

 その体が空中にある間に仲間キャラが次々と攻撃を放つ。

 

 一方のチハヤくん(なぜか「くん」付け)も、そのすべてをあっさり回避して──


 あとはもう目が追いつかない。


 ユキくんがところどころ解説してくれるけれど、目が耳が頭が(つまり全部が)追いつかない。

 

「最初のジャンプのタイミングも重要だから……ちーさんのスキル発動直後3フレームで……簡単に言えばスキル使ったらすぐキャラチェンして硬直飛ばしたらクールタイムの無敵が1秒あるから……スマホなら逆にワンタップチェンジ使えばラグなしで交代……」


「ああああ」


「わかった? じゃ次は、わざわざ単騎で挑んだ場合のスキル回しを──聞いてる?」


「うううう……聞いてない?」


 素直に言った。


「聞けよ!」


 怒られた。

 

「いやわたしだって頑張って……ん?」


「じゃあもっと気合入れて──! 何?」


「ごめん、この動画だけど。もう一度、ええと、大扉から出るところから再生してくれない?」


「いいけど……」


 動画が始まる。

 目を凝らす。耳を澄ます。


 最初の動画と違い、プレイヤーひとりが大扉に向かい、その外へ出る。


 直後画面がぐるんと回って聖堂が背後に移り、ほとんど同時に「チハヤくん」の放った光円が──

 

 あれ?


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