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63.帰還Ⅱ(世界の終わりまであと19日&夏コミまで残り2日)

オレはやるぞ!

まだやるぞ!

みんなボイコットなんて

悲しいこと言うなよ!

みんなで元気に最後まで

最終章を走るんだ!

    走り切るんだ!

各らんなー! 応答しろ!!

─がるどあらんな―(No.0091)

   ぜねぷらさんの投稿より─



前回のあらすじ!

 帝星宮の湯浴み場。

 絶対何か知ってそうな

 ナナセちゃんは気になるけれど、

 とにかくミッションコンプリート!

 魔聖剣ケリス・ルーンテイカーを

 手に、再び最終章へ飛んだわたしは、

 そのまま宿敵ドラゴンを撃破!

 

 でもってまた舞台暗転。

 気がつけば今度こそ元の世界。

 現実世界で。


 スマホもサイフもない中、

 どうしようと思ったら、何やら

 見たことのある痛い車が……?


始まります!

 やっと戻って来た現実世界──リアルの世界。


 第二章をクリアしたあと、

 そのまま最終章へ飛ばされて。


 でもそこでのわたしは、なぜかゲームキャラの「ユナキ」ではなく。

 リアル世界の「優樹南(ゆきな)」のままで。


 それでも、さっそく手に入れた対ドラゴン用の魔聖剣「ケリス・ルーンテイカー」で、そこにいたドラゴンを瞬殺!


 やったぞ! ──と思ったら、ログアウトする間もなく、またもや視界が暗転。


 三度気がつくと、やっと現実の世界へ戻っていた。

 濡れ雑巾状態の喪服姿で。

 

 スマホも何も持っていないので、電車もタクシーも使えない。


 あの後がるどあ世界がどうなったのか。

 ユキくんたちはまだ最終章にいるのか。

 

「そういえばあの短剣もない……か?」

 

 魔聖剣ケリス・ルーンテイカー。

 謎の女の子の声に従ってドラゴンの眉間に突き刺したところまでは覚えてるんだけど。

 

 その後、どうしたんだっけ?

 

 今もっていないってことは、まだ最終章のあの廃聖堂に?

 ドラゴンをやっつけたあたりに置き忘れて来たとか?


「次にログインしたとき、まだ落ちてるかなあ……」


 そんな仕様だったっけ、このゲーム?


 何もわからない状態で、とにかく歳矢のアパート目指して歩き始めるわたし。

 裸足だけど。


 いや一応ストッキングは履いてるか。

 なお悪いか。


 濡れ喪服に濡れ髪ぞろりで、どこから見ても昼幽霊状態。


 あやうく写メ(いかん年がバレる)されるところだった。


 なんてところへ突然やってきた、どこか見覚えのある車。

 全身をがるどあキャラで埋め尽くされた、いわゆる「痛車」。


「ガルドアース・ウォーテイル」の広報車。

 

 その派手派手な車体が、エンジン音も高らかに走って来て──


 でも四車線道路に面した広い歩道をとぼとぼ歩いていたわたしの目の前を、あっさり通過してゆく──と思ったら。


「あ、止まった!」


 まるで目の前に突然猫でも飛び出したかのような勢いで急ブレーキ。

 周囲の車も慌てたように赤ランプを光らせる中、急減速つつ歩道側へ寄って停止する。


 中央の車線あたりで道路工事をしている関係で、けっこう車が詰まっていて、ちょっと危なかった。


 事故でも起こしたらどうするつもりだ!

 まったく誰が運転してるのやら──!


「ナキ姉!?」


「って、──ユキくん!?」


 車道側のドアを開けて出てきたのは、間違いなく我が弟くんだった。


 駆け寄る。

 でも裸足のせいか、うまく走れない。


 まるで夢の中のように、よたよた、よれよれふらふら、

 なんだこれ。


「は、はあ、はあはあはあ!」


 それほど走ってないはずなのに、もう息が上がってる。

 歳か? 歳なのか!?


「はあああ~~~」


 広報車の前まで走ったものの、そこで限界。


 ガードレールに腕をひっかけるようにして膝をつく。

 もう人の目なんでどうでもいいわ。


 なんかめっちゃ疲れてる。

 もう動けない。動きたくない。


「ナキ姉、大丈夫!?」


「もうやだ! 疲れた! 足が痛い! 頭かゆい! 服がキモイ!」


 なんか次から次へと文句が出る。

 

 たぶんあれだ、生身でドラゴンなんかと戦ったから。

 これがゲーム(一応ゲームはゲームなんだっけ)なら、魔力も体力もギリギリ限界ってことろか。


 そりゃ立ってるのもやっとだって!


「けど口先だけは元気だよね」


 言いつつ、でも手を貸してくれるユキくん。


「そこから車道出るから、気をつけて」


「気をつけるのはどっちだ! さっきの運転あれは何!?」


「いやおれがここに戻った時、ナキ姉いなくてさ。でも戻るとしたらこのあたりだろうと思って、しばらく探したけど見つからなくて」


 ユキくんは歩道側のドアを開けながら、


「それでもしかしたらって、タクシーでトシ兄のアパートに行ったけど誰もいなくてさ──あ、ナキ姉のスマホ使ったけどいいよね? んでやっぱりここかなって戻って来たんだ」


 この道──白参(はくさん)通りは、今(・)朝(・)ドラゴンに追われて走った道だ。


 歳矢(としや)──わたしの元ダンナで、ユキくんにとっては文字通り「兄」になる彼のアパートを出た瞬間、リアル世界に出現したドラゴンに襲われた。


 で、ユキくんの車でこのへんまで逃げてきて、そのままドラゴンごと最終章へとログインしたのだった。


「どこぞの映画じゃないけどさ、あっちの世界──最終章世界に向けてログインした場所に戻って来るってのはお約束だし、それで見つけた、と思ったらブレーキ踏んでた」


 話を聞きつつ、ドアを開けてくれたユキくんの体を避けるようにして、車内へ体を入れる。


 でもガードレールが邪魔でドアが少ししか開かない。


「もう少しで事故起こすとこだったぞ──これもっとドア、開かないの?」


「ごめん──2ドアだからね。ドアが長いんだ」


 ついでに言えば車内も狭い。

 車自体はけっこう大きいのに。


 エアコンのおかげで涼しいのがせめてもの救いか。

 でもこっちはぬれねずみだから、気をつけないとカゼ引いちゃうな。


「レースチューンのでっかいエンジン積んでたり、凝ったサスペンション仕込んでたりしてるから」


 どろどろどろと、燃費の悪そうなアイドリングで揺れる車内をぐるりと見回す。


「その分、人様を乗せるスペースが削られてるとか?」


 なんか本末転倒だな。


 わたしがシートに収まったのを確認してドアを閉めたユキくんが、長いボンネット越しに反対側に回って運転席の方へ向かう。


「軽自動車よか狭いじゃんこれ」


「改造してるから、馬力は軽くその10倍近くはあるはずだけど」


 運転席側のドアを開けて乗り込みつつ、ユキくん。


「なら10倍速く走れる?」


「医学部出身の頭はその程度?」


「うっせ」


 ユキくんや歳矢の部屋にあるゲームチェアにそっくりなシート(いやあっちがこっちを真似てるのか)にすっぽりはまり込みつつ、とりあえずふうっと一息。

 

 見た目は派手だし座り心地も固いけど、どこか体にフィットして違和感はそれほどでもない。


「このシートだけで、たぶん二桁万円行くからね~」


 まるで自分の車のように自慢げな声で言う。


「相変わらず、コスパ度外視だなこいつ」


 とはいえ今は、こうやって座れるだけでありがたい。


 何度か乗ったことのあるその車の車内は、どこか懐かしい匂いが残っていた。


「歳矢のでしょ、これ?」


 やっと落ち着いて、改めて車内を見回す。


 ほとんど黒一色のコクピット。

 エアバッグのないスポーツハンドル。


 当然のようなマニュアルシフト。


 後付けのナビとスマホ用ホルダー。

 ダッシュボードにずらりと並ぶ追加のメーター。


 それは歳矢が趣味半分、仕事半分で手を入れた広報車兼用の自家用車だった。


 ニッサンじーてぃーあーる、とかなんとか。


「伝説の名車、R32GT‐R! しかもニスモバージョン! 売れば下手すりゃ一千万くらいするからこれ!」


「え? そんな高級車だったの? だいたい昭和の車でしょこれって、ホントに?」


「ギリ平成! 元はもっと安かったけど、今はどんどん価値が上がってるから!」


 ユキくんは本革に包まれたハンドルをさするように手を滑らせながら、


「とにかくさ、自分のは最終章でスクラップになってるから。まあ無断借用だけど、いいよね?」


「事後承諾ね。うん、まあいいよ。他に動かせるのはとーさんくらいだし、義母さん……ルリさんも、この車を処分するよりはユキくんに乗ってもらう方がいいだろうし」


「やった!」


「──ただし!」


 もう自分の車扱いで喜ぶユキくんへ、厳しい顔で、


「さっきみたいな運転は厳禁! いい?」


 もろもろの感情を押し込めて、とにかくそれだけ言う。


「いえすめむ!」


「ふざけない! もう一回!」


「わかりました! お姉さま!」


「……まあいいか」


 にやにや顔で浮かれてる今のユキくんには何を言っても無駄だろう。


「さて、これからどうしよう……歳矢のアパートも気になるけど」


 わたしは自分の格好を見て、


「やっぱりまずは自分のマンション行ってもらって、着替えとシャワーを……ん?」


 わたしはダッシュボード上の小さなデジタル時計を見て、ちょっと違和感を覚える。


 13:45?


「ユキくん、これ合ってる?」


「時間? 合ってるはずだよ。他のもほら」


 ナビとスマホの時間も見る。確かに同じ時間だった。


 ってことは、今は午後の2時近くってこと?


「確か今朝、歳矢のアパート出たのが6時すぎだっけ? それであれこれあって、この時間?」


「違うよ」


「何が?」


「言い忘れてたけど、『今』はあの日じゃない」


「は?」


 ユキくんは、ホルダーに固定してあるスマホ(わたしのだ!)を操作して、カレンダーを表示させる。


 それを見たわたしは、


「え? 木曜日? ……木曜日っ、て?」


 ユキくんはやっと真面目な顔になって、


「そう。あれから3日過ぎてる」


 わたしたちがドラゴンに追われて最終章にログインしたのが日曜日の朝。

 そして今は木曜の午後──3日目。


 ゲーム世界であれこれやってる間に、こっちでは3日が過ぎていた?


 ──って!


「会社!」


 忌引きは日曜まで。

 その先のまだ有休出してない!


 ホルダーからスマホを取って、通知をチェック。


「うげ……!」


 通話の着信、メール、ラインその他もろもろ。  

 どのアプリアイコンも、通知の赤丸数字がえげつない数になってる。


 うわ見たくねえ……!

 

「どうせお盆休み取るからって油断した!」


 無断欠勤3日。


 けっこう重要なプレゼンもあったはずだし、かなりヤバイかもこれ。


「とにかく電話、すっか……するしかないか……社会人として」


 でもどう言い訳したものか。


 いやあその、ゲームしてて気がついたら3日ほど過ぎてまして──失格!

 社会人失格!


 いやあドラゴンに追われてその退治にちょっと時間かかっちゃいまして、ほんの三日ほど……

 どこの勇者だ!


「って待って、もしかしてこの道路工事って──」


 わたしはフロントウィンドウ越しに、道路の真ん中で行われている工事現場を見て、


「もしかして、ドラゴンが抉った足跡を修理してる、とか?」


「その通り」


 ハンドルにもたれかかるようにして、ユキくん。


「タクシーで戻る時も見たけどさ、ちょうどおれたちがドラゴンに追われて走った道そのまま、ずっと、こんな状態」


「じゃああのドラゴン、なかったことにはなってない?」


「スマホ見てみ。今でもその手の話題がトレンド独占だから」


 確かに、いくつかのSNSや交流サイトを見たら、そのほとんどで「謎の巨獣出現!?」的な話でもちきりだった。


「この先でドラゴンがぶつかった店、覚えてる?」


「ああ、うん」


 スマホから目を離せないまま、頷く。

 あの黄色いM文字マークのお店ね。


 ドラゴンがぶつかって、派手に壊れてたような。


「今あそこ、ちょっとした聖地になってる」


「……みたいだね」


 その場所の写真や動画がいくつも上がってる。

 しぶとく営業してるらしく、横に張られたテントには人が群がっていた。すご。


 ──でも。


「これ、ドラゴンが写ってるやつがなさそうだけど」


「それなんだよ」


 ユキくんも私の手元をのぞき込みながら、


「足跡や破壊の後はしっかり残ってるのに、肝心のドラゴンはまったく話題になってない」


 確かに「だっしー」とか「はっしー」とか「ぶっしー」とか、なんかいろいろ呼ばれてるけど、基本的には「謎の巨獣」扱いで、どこにも「ドラゴン」の文字はない。


「あの牙にツノ、背中のコウモリ羽……どう見てもドラゴン、だよね?」


 ご〇らとティラノサウルスの区別すら曖昧なわたしにすらそう見えるのだ。

 あの姿を見て、誰からも「ドラゴン」の言葉が出ないのは絶対おかしい。


「たぶんだけど、見えてなかったんじゃないかな」


「見えてなかった?」


「もしくは、目には見えてても、脳がそれを認識できなかったとか」


「ああ……」


 確かに目に見えるものすべてが、そのまま人に認識できるとは限らない。

 人はモノを「目」ではなく「脳」で見ているから。


 目を通じて得た風景や画像とかの視覚情報は、最終的には脳の側でチェックされ、「それはナニソレであろう」と判定される、


 よく言われるように、同じ「赤いリンゴ」を見て、みんなが「赤いリンゴだ」といったところで、それぞれの脳内に描かれた「それ」がみんな同じ色、形をしているとは限らないのだ。


 まして相手はゲーム世界の──異世界の生き物。


 そんなものがいきなり目の前に出てきて、それをそのままこの世界の人の脳が認識/処理できるとは限らない。


「でも足跡は?」


「それはたぶん、『この世界』に刻まれた痕跡だから、おれたちにも識別できる──とか?」


 そのあたりはナキ姉の方が詳しいんじゃないの? って。


「たかが元研修医に何を期待してる。脳科学とか視覚との関係とか、そんなの、ぶっちゃけ別の世界の話だよ」


「異世界だけに?」


「全然うまくない」


 でもそっか、ドラゴン自体は見えなかったのか。


「けど、人に認識できなくても、スマホやカメラなら映るんじゃないの?」


 それが「そこ」にあるなら。

 そこにあって、ちゃんと光を反射してるなら──光を?


「光が素通りしてたとか?」


「ああ、考えられるか」


 ユキくんはハンドルを指でトントン、と叩きながら、


「この世界の太陽の光は、ゲーム世界のドラゴンの体と相互作用できない──ふむ?」


 ハンドルから体を離して、こちらを見る。


「でもゲームキャラのままこっちの世界に出て来たナキ姉はちゃんと見えたし、記憶にも残ってる」


「あ、そか……なんだろ、何が違うんだ?」


「リアル化のレベル……とか?」


 ユキくんは手をもやもやと動かしながら、


「ナキ姉サイズなら、この世界でしっかりリアル化できるけど、ドラゴンみたいな──ええと情報量の多いやつは、完全にはリアル化できず、だからこの世界とは完全な相互作用ができない……とか?」


「よくわかんないけど、でも言いたいことはなんとなくわかる気がする」


 いずれにせよ、あの姿が見られておらず、画像としても残っていないなら、ちょっとは安心できる──のか?


 ユキくんも横のウインドウから工事現場を見て、


「姿は見えなくても、ああやって足跡はしっかり残してる。このままだと『次』がとうなるか……」


「考えたくないけどね」


 向こうの世界のドラゴンが──ドラゴンを始めとした異界の魔物たちが、こぞってリアル化して「この現実世界」へ出てきたら……


「衝突しつつある二つの世界。コンフリクト。リアル化しつつある世界。ゲーム化しつつある世界……」


「何言ってるのナキ姉?」


「向こうで……第二章の世界で、ユキくんが──ユート皇子が、もう皇太子かな? ……が、言った言葉。覚えてない?」


「さあ。それ、ほんとにおれだった?」


「見た目はしっかりゲームキャラしてたけど、間違いない。ユキくんだったよ」


「ふうん……」


 どうやら本当に、ゲームの中の記憶はないようだった。


 じゃああのユキくんは、このユキくんのアバターじゃなかったってこと?

 純然たるゲームキャラ?

 

 だとしたら、なぜそれがユキくんの姿を?


「ああそれなら、何年か前に、新規のNPCのデザインが足りなくて、おれとかミズカ先輩とかを参考に作ったことがあったから」


「そんなことが──」


 それなら、ユキくんやミズカさん──がるどあ開発会社の広報さんにしてユキくんの大学の先輩──に似たキャラがいてもおかしくはないのか?


 でも性格とかもそのまんまだったし、受け答えもほんとにユキくんそのもので……


「うーん……っくしょん!」


「体冷えた? とにかくまずナキ姉の家行こう」


 エアコンのスイッチを調整しながら、ユキくん。


「うん、そだね。よろしく──ってうわ!」


 走り出したと思ったら、直後、がっくん! と急停車する。


「何なに! まさか事故──!?」


「違う──あれ!」


 フロントウィンドウを指さすユキくん。


 その先。


 青く塗られた自転車通行帯の上。


 そこに、子犬か猫のような生き物が横たわっていた。


 傍らには、きらりと光る短刀のような刃物。


 四本の足を投げ出すようにして横になった、ふわふわの銀の毛に覆われたそれは。


 あれは、もしかして──


「チハヤ、くん?!」


 それと、魔聖剣ケリス・ルーンテイカー!?


次回予告!

 はいここまででした!

 運営会社行くどころか、

 自分のマンションにも戻れません!


 たぶんまだまだ戻れません!

 だって拾ったチハヤくんの

 介抱もあるし、

 がるどあコミュニティーも

 えらいことになってるし!

 でもコミケまであと2日だし!

 会社もあるし! がるどあも

 やり残しがいっぱいあるし!


 夏休みの宿題抱えた小学生か!

 でもわあどうしよう!

 

 とにかく頑張ります!

 お楽しみに(# ゜Д゜)!

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