62.帰還(世界の終わりまであと……?)
これは世界を救う物語……
違う。
わたしたちはただ、
わたしたちの大切な人を
人たちを守りたいだけ──
でもそのついでに世界まで
救うはめになった彼らの、
ちょっと遠回りな冒険譚……
前(々)回のあらすじ!
帝星宮の湯浴み場に
やって来るヤン──実は彼は
ミラメル国の宰相閣下で!?
ゲームキャラでもシアでもない、
素の自分で彼と対面したわたし。
「シアの中にいたのはお前か!」
全てはあの魔聖剣ケリス・ルーンテイカーを
手に入れるための「トーヤ」の陰謀だと
決めつけるヤン。
「こんな汚い真似をよくも!」
「違うの、これは──!」
ヤンの怒りとトーヤの真意。
その間で身動き取れなくなったわたし。
とそこに来たのは──リデラーさん?
ユユリコ姫? それにナナセちゃんまで?
「さあ温泉回第二部だ! 行くぞ!」
いいのかそれで!?
始まります!
更衣室でよってたかってひん剥かれ、そのまま湯殿へ運ばれて、湯船の中へ放り込まれた。
こんなの小中高の修学旅行でもなかったぞ!
それはまあ、わたしが地味な存在すぎたせいかもだけど。
けどまさか、こんな年(28ですが何か?)になってそれを経験するはめになるとは。
「っぷは!」
お湯の中から顔を上げて、周りを見る。
ところどころ極端にお湯の少ない湯船が、ここで起きた「激闘」を物語っている。
でもそれ以外は大した被害はなさげで、とりあえず一安心。
ナナセちゃんも元気になったようだし。
で、その後は──まあいろいろあって。
よく覚えてないけど(そういうことにしておくけれどw)。
そんなこんなで、ほどよく楽しい時間はあっという間に過ぎてゆき。
そろそろヤンが──謎の男改めミラメル国宰相(だった!)が指定した時間が迫りつつあった。
「……じゃあ、わたしはこれで」
比較的湯量の多い湯船の中。
顔を合わせるように車座になってお湯に浸かっているみんなに、ぺこりと頭を下げる。
「次に会う時は敵同士だぞ──ってか?」
大きな胸を豪快に揺らせて笑うリデラーさん。
「ユナキによろしくの~! あと『ゆーくん』とやらにもな!」
思わせぶりな笑顔で、ユユリコ姫。
「それでここから出られるの?」
わたしの目の前にある半透明の青いウィンドウ越しに、長い耳をぴくぴくさせるナナセちゃん。
「まあね、そういう魔法だとでも思ってもらえれば」
事情が事情なので、仕方なくこの場で開いたウィンドウ越しに苦笑い。
正直それ以上の説明はしようがない。
と、ざざざ~っとお湯をかき分けるようにして寄ってくるナナセちゃん。
ウインドウを避けるようにしてわたしの横へ来ると、耳元に口を寄せるようにして、
「それでここから出て、どこへ行くの? ──リアル世界へ戻るの?」
「──え?」
「知ってるよ」
ひそめた声に、でもありったけの思いを込めて。
「お願い。あたしも連れてって」
「ナナセ、ちゃん?」
「あたしをこの世界から、連れ出して」
ピコンと音がして、ウィンドウの通知ベルに赤いマークがつく。
反射的に指でタッチすると、別の小さなウィンドウが開いて、
『ナナセ・リーンのドラマティックエピソードが解放されました! ▷読む/後で』
思わず横のナナセちゃんを見る。
「これって……?」
「何?」
ウィンドウをのぞき込むナナセちゃん。
でもさすがに表示されてる文字までは読めないらしい。
もしかして、これで「読む」を選択すれば、ナナセちゃんのサブストーリーが始まるってこと?
うわ読みたいかも!
でも時間が!
ウィンドウとナナセちゃんの顔を交互に見やりつつどたばたしていると、
「冗談!」
ちょこんと舌を出すナナセちゃん。
体を離す。
「ちょっと言ってみただけ」
でもはっきり言った。「リアル世界」って。
「ナナセちゃん、知ってるの?」
「何を~?」
ざぶざぶと離れて行くナナセちゃんの背中へ向けて、口を開いて言いかけて、でもやめる。
「……ううん、いいの」
「そう」
元の場所へ戻ったナナセちゃんは、何事もなかったかのように、
「じゃあ早く行っちゃって──ああそうそう、これ」
言って、あの魔聖剣ケリス・ルーンテイカーを持った手ごと体をのばす。
「この世界を救うのに必要なもの──なんでしょ」
そしてまたしらっと笑って、
「いや、もうひとつの方の世界かな?」
「さっきから何を言っておるのだ、ナナセ?」
半目でナナセちゃんを睨むユユリコ姫。
「それはあっちに聞いて」
わたしの方へ手を向けるナナセちゃん。
「まあその、話せる時が来たら話せると思う」
「なんだそりゃ?」
あきれたように肩をゆするリデラーさん。
とそこで、どこからとなくあの「時告げ鳥」の声がした。
「昼三つ時、かも~、昼三つ時、かも~? ──時間、かも~? 時間、かも~!?」
「うわ、なんだこれ!?」
驚くリデラーさんに、わたしは、
「たぶんアラーム……時間切れだって教えてくれてるんだと思う」
ヤンがセットしてくれたんだろう。
あの人はきっと根は優しい人なのだろう。
そんな人を怒らせてしまったことが、この第二章最大の心残り──と言ったら、トーヤ、どう思うだろう……
軽く頭を振って、余計な考えを振り払う。
でも軽くため息。
それを横目でチラ見しつつ、でも知ら振りで、うーんと腕をのばすリデラーさん。
「じゃあ、あたしらもそろそろ出るか!」
「連中が来る前に、服くらいは着ておきたいしの」
「だね──じゃあ、ユナ……じゃない、ユキナ」
「うん。ナナセちゃんも──またね」
それが正しいかどうかは別として。
でもここで「さよなら」は言いたくなかった。
さよならしたくはなかった。
ナナセちゃんも、ふっと笑って、
「うん。またね! ──待ってる、ここで」
この世界で。
「必ず戻る、戻ってくる──じゃ!」
ナナセちゃんの手から、短剣を──魔聖剣ケリス・ルーンテイカーを受け取る。
瞬間、世界がぼうっとかすれるように薄まってゆく。
まだログアウトのボタン押してないだけど。
そか、第二章の必須イベントクリアしたから、勝手にログアウトするのか。
最後にナナセちゃんがまた口を開いて、何か言っている。
でももう聞こえない。
どんどん薄まって、消えてゆく、世界。
すべてが光になって広がってゆく。
一転してそれが中心へと集まっていって。
そのまま小さなひとつの点となって。
ぷつん、と消えた。
☆
「──ええと第二章だったかな、壊れた聖剣を直すイベントがあってさ、それをクリアするとゲットできるんだけど……」
声がした。
「ああやっぱり持ってないか──」
視界がはっきりしてくる。
目の前に、わたしより頭ひとつ背の高い男の子。
「『これ』はナキ姉のアカウントだからね。自分でやってるキャラなら──って、ナキ姉?」
「……ユキ、くん?」
そこにいたのはゲーム仕様の、ゲームキャラになったユキくんだった。
ぐんと背が高くなって、容赦なく美化されたアニメ風の顔をこちらに向けている。
なぜが呆然といった風でこちらを見つめている。
そんな彼の背後は見渡す限りの草原。
振り返れば、そこにはぽつんと廃聖堂。
白いスポーツカーが、その壁に突っ込んで止まっていた。
前面が潰れて、タイヤが明後日の方を向いてる。
──これって。
「じゃあここって、最終章?」
第二章へ飛ばされる寸前のそこへ、また戻って来た?
「ねえ、ユキくん──」
「ナキ姉! その恰好!」
「ここは──え?」
言われてやっと自分の姿を見た。
「え? 裸足!?」
黒のシンプルなワンピースに薄手のストッキング。
裸──じゃなかった。さすがに。
湯浴み場の湯船から直接ログアウト(?)を思い出して一瞬、ヒヤッとした。
でもまた喪服。
それもなんかぐっしょり濡れてる。
そういえば髪も濡れて額に張り付いてる。
──じゃなくって!
「どうしてこのカッコ?」
ここは「最終章」じゃないの?
なのにあの三つ編み黒丸眼鏡のゲームキャラではなく、第二章の最後から続いて、リアルの自分の姿のままだった。
といって例の「神視点」でもないし、だからここはもう第二章じゃない。
だったらやっぱり最終章のはずで。
だとしたら──と。
「さっきから何を話してる、おまえたち!」
こちらはちょと小柄な、黒装束の貴公子風魔剣士チハヤ・ルース──チハヤくんもやって来る。
「ん? ──誰だ貴様は!?」
「あーええっと、いやそれは後! あと! 逃げてチハヤくん!」
手を振って彼を止める。
さらに振り返りざま、
「ユキくんも! みんな逃げて!」
そうだ、確かこの先は──!
「ここにいたらヤバイ、ヤバいから、早く逃げ──!」
ずん!
地面が揺れる。
ずん! ──ずん!
「あ、そっか。忘れてた!」
崩れかけた廃聖堂を見上げながら、でもやっぱりちょとのんびりした声で、ユキくん。
まるでその声に合わせるかのように、聖堂の上からにゅっとのびる長い首。
無数の鱗に覆われた大きな二本の角。
鋭く裂けた真っ赤な瞳。
大きく開かれた口には、これも無数の鋭い牙が。
「やっぱり!?」
それはリアル世界でわたしたちを追って来た、なんとかダンジョンの守護星竜。
ぎゃおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーんんん!
その声だけで、聖堂の壁がボロボロと崩れ落ちる。
さらに開いた口のあたりがゆらゆら~っとゆらめき始め──
『飛んで!』
声が聞こえた。
女の子の。
誰? と思う間もなくその場でジャンプ!
元の体のままで大丈夫かと思ったけど、一度の跳躍で廃聖堂の崩れた屋根の上まで跳び上がる。
手にはいつの間にかあの短剣──魔聖剣ケリス・ルーンテイカーを握っていた。
「これ持ってるせい……かな?」
「──ナキ姉え!?」
あのクールなユキくんにしては珍しく素で驚いた声を上げる。
そりゃそうか。リアル姿の姉が目の前でゲームキャラばりの大ジャンプしてみせたんだから。
「逃げてユキくん!」
屋根の上、聖堂の向こうにいるドラゴンを見上げながら怒鳴る。
「でもナキ姉は!?」
ちらっと下のユキくんへ顔を向けて、笑って見せる。
「ごめん、聖剣修復のスキル、取り損ねた!」
ドラゴンに向き直る。
手にした短剣を、改めて両手で持つ。
正直、そんなイベント自体忘れてました!
かすりもしませんでした!
「でも代わりに、もっといいモノ、手に入れたから!」
破魔の聖剣、そのものを!
『気を付けて! その体で死んだら、本当に死んじゃうから!』
その短剣が言った。
まあそんなとこだろね。
「わかった!」
『剣を突き刺して!』
もろもろの疑問は全て後回し!
ストッキングも破れよとばかり、天井の残った梁の上を走り抜ける!
かっ! と大きく開かれたドラゴンの口の中に光が集まってゆく。
『今っ!』
崩れ落ちた梁の先端でジャンプ!
横っ飛び!
途中で折れて半分になった鐘楼の壁を蹴っ飛ばしてさらに方向転換。
視界一杯に迫るドラゴンの眉間へその短剣を突き立てる。
「うりゃああああああああーーーーー!!!!!」
硬い感触。
でも短剣はそのままぐさりと突き刺さり。
それを中心に爆発的に広がる巨大な金色の魔法陣。
『帰りなさい! あなたの場所へ! あなたの世界へ──Break!!』
宙に刻まれた焼き印のようなそれに、ぴしっと亀裂が入る。
同時に、ドラゴンの全身にも同様の亀裂が入って。
それがどんどん広がって、直後、一気にそのすべてが砕け散る。
ドラゴンと共に。
「消えた……って、うわわわわ~~~~!」
短剣を突き刺していたドラゴンが消えて、そのまま落っこちる。
「にゃ~~~!」
迫る廃聖堂。
「ナキね──!」
ユキくんの声。
でもその声が、途中でぶつっと途切れて。
再び、暗転。
☆☆
ぱぱーん!
鋭いクラクションの音がして、思わず身を引いた。
「ここ……っくしょん! ごほん!」
埃っぽい空気に思わずむせる。
その横を走り去ってゆく、黒いタクシー。
顔を上げる。
どんよりした曇り空。
「ここは……って、わわわ!」
また車が目の前を結構な速度で走り抜けていった。
「ここ、道の真ん中!?」
正面には電車の高架鉄橋。
その右手に背の高い建物。
上層階が突き出した独特のシルエットを持つ、文教市民センター。
さらにその先には、あの帝星宮のような大きなドーム屋根。
振り返ると、すぐ後ろに巨大な電光案内板があった。
『注意! 道路修復中』といった表示が右から左へ流れてゆく。
その先も道路の半分を囲うようにトラジマの横棒が続き、中で大型のショベルカーが道路のアスファルトをひっぺ返したりしている。
第二章でも、最終章でもない。
どうやらホントに、今度こそ、現実世界に戻って来た──らしい。
気がつけば周りはけっこうな騒音がしていた。
その音の中から、赤い誘導棒(?)を持った警備員さんが走ってくる。
「ちょっとあんた何やってんの! そこ危ないから!」
「あ? あー、わたし!?」
「ダメだってここにいちゃ!」
すぐ先の横断歩道の信号が赤になって、周りから車がいなくなる。
「ほら今!」
赤い棒を振り回しながら走り出す警備員さん。
わたしもとにかく走り出す。
やっぱり裸足のままで。
黒の濡れた喪服ワンピで。
濡れた髪を額に張り付かせたまま。
今が真夜中なら間違いなく都市伝説級の幽霊状態だ。
恐怖、裸足で走る喪服女!
でもわたし走るの下手くそで100メートル20秒かかるんだよな……おっそ!
「早く!」
そうでした!
走る!
二車線分の道路を全速で走り抜ける。
そのまま歩道のガードにぶつかるようにして止まる。
「は、はあ、はあ!」
歩道のガードに手をやって体を支えつつ、大きく深呼吸。
廃聖堂の天井まで飛び上がった脚力はどこへやら。
ダメだ運動不足だ。
「はあはあ、ど、どうも、ありが──」
顔を上げて警備員さんの方を見ると、
「ひ、ひい!」
一声上げて、横断歩道の方へすっ飛んで行ってしまった。
「──とうございまし、た……って、失礼な?」
顔の半分を覆っていた濡れ髪を払う。
周りを見る。
歩道を行く人々がわたしの視線を避けるように足早にさってゆく。
「わたしのせいか……あ!」
立ち止まってスマホを向けてくる高校生風の男子発見!
「コラ写真撮るな呪うぞてめーーーーー!」
逃げた。
ふう。
危ない危ない(主にわたし自身が)。
歩道に上がり、何食わぬ顔ですたすた歩く。
裸足だけど。
濡れ髪に濡れ喪服ですけど。
奇跡的にストッキングが無事でよかった。
これでストッキングが破れてたら、ほんとに昼間の幽霊だ。
てか完全にヤバい人だ。
「どうしよ……」
ここが本当にリアル世界なら、この通りを逆にたどれば歳矢のアパートがある。
ちょっと遠いけど、歩けない距離じゃない。
わたしの足でも、一時間ちょっとってところか。
ただそれはちゃんと靴を履いていればの話で。
「素足って、こんなに歩きにくかったっけ?」
部屋の中と違って、道路の上を素足で歩くのは、どうも勝手が違う気がする。
「タクシーは……だめか」
当然ながらスマホもサイフも持ってない。
金目のものと言えば、首から下げたフェイクパールのネックレスくらいか。
でも売っても大した値段にはならいだろし。
そもそも身分証もないから、売りたくても売れないか。
「歩くしかない、か」
途中で警察に通報されたり、職務質問とかされたら面倒だけど。
すいません、今ちょっと弟が立太子の式典やってる帝国の湯浴み場に寄って、ついでにドラゴン倒してきたところで──
「はっはー、なんだそりゃ!」
改めて思い返してみると、ほんと、笑うしかない。
「どんなゲームだ! ──って『がるどあ』か!」
はっはっはー。
はあ。
でも笑って、ちょっと気持ちが軽くなった。
「がーるがるがる、がるどららら~」
なんて、めっちゃ適当な鼻歌混じりに歩き出す。
「がるるんがるるん、がるるるる~ん……うん?」
上り坂になってる道の向こうから、何やら怪しげな車が走って来る。
わたしの鼻歌をBGM代わりに、やって来る。
いかにも平成風味なごつい車体に、まるで刺青のように派手なマーキング。
どこかで見たような空色髪の女の子と、黒い三つ編みに丸眼鏡のキャラクターが描かれたボンネット。
左右に一枚づつしかないドアには、流れるような書体で「GardEarth WarTale」の飾り文字。
それは──
「がるどあの広報車……?」
次回予告!
とにかく戻ってきました現実世界!
でも、ええ!?
3日後? 3日後って!?
会社は? コミケは?
コスプレ契約は?
そうして向かったがるどあの
運営会社にいたのは──?
例によってどこまで当たるか
(書けるか)全く白紙、
余談無用、大博打の
次回やいかに(;^_^A!?
お楽しみに~!




