64.あれ?(世界の終わりまであと19日/夏コミまで残り2日)
彼が作りたかったのは
空から落ちて来た悪魔少女の話。
でも彼女が気に入ったのは
死にかけの猫に翼を取られた天使の話。
「だったら一緒にしちゃえばいい!」
──それが最初の作品
『ガルドアース・クロニクル』
の始まりでしたとさ!
─山城涼司&詩亜鹿メイリーン─
前回のあらずじ!
どうやら一足先に現実世界に
戻っていたユキくんが車で
迎えに来てくれてやっと一息。
でもわたしが第二章や最終章で
あれこれやってたうちに、
こちらでは3日が過ぎていて!?
しかもあのドラゴンはどうやら
この世界にしっかり爪痕を残してて、
しかも──え? チハヤくんまで!?
始まります!
発進した直後、急ブレーキで止まるがるどあ広報車。
レース仕様のブレーキパットが鋭い音を上げてがくん! と止まる。
R32GT‐R──旧世界の怪物級スポーツカーだけあって、その性能は未だ衰えを知らず。
……なんて、その車を手に入れて有頂天の弟くんの受け売りしてる場合じゃない!
「チハヤくん!」
疲れ切った体で、濡れ雑巾のような喪服姿で。
それでもシートベルトを解除しつつドアを開け、外へ。
ちなみにシートベルトは普通の三点式。
レース車の四点式は後席が使えなくなるし、公道ではぶっちゃけ法律違反(知らなかった)。
それでも使うなら別に三点式もしなければならず、まったく意味がない──って、そんなことはどうでもよい!
がるどあキャラに埋め尽くされた「痛車」の前に出る。
「間違いない……」
青色の自転車通行帯に横たわる犬のような猫のような銀色のもふもふ。
ゲームでも人気の超レアキャラ、狼の魔剣士チハヤ・ルース。
チハヤくん(もしくはちーさん)──のなれの果て(は言いすぎか)。
その横には、禍々しく波打つ紺色の刀身を持つ短剣。
刺した者の命を操り、ドラゴンをも一撃で屠るこれも超激レア(らしい)魔剣。
魔聖短剣「ケリス・ルーンテイカー」。
どちらもがるどあ世界では傑出したレアキャラ&アイテムだけど。
でもそれがなぜこんなところに落っこちてる?
やっぱりわたしがログアウトした時、一緒に連れてきちゃったんだろか?
それはいつぞやの「ゆーくん」……空色ツインテ髪の謎少年のように。
「チハヤくん、チハヤくん! 聞こえる!?」
あまりの反応のなさに、一瞬本物のぬいさんか、もしくは普通にひき逃げされた子どもの狼かと思ったけれど(後者ならそれはそれで重大事か)、
「く、くううううんん……」
ため息のような、悪夢にうなされた子犬のような鳴き声が聞こえて、こちらもほっと一息。
「生きてる……」
「どう?」
ユキくんも降りてきて、わたしの頭越しに様子をうかがう。
「息はある。心臓も動いてる。でも意識はない──か」
人ならこれだけでもあれこれ診断がつくとこだけど、相手は動物(失礼!)、それも異世界、というかゲーム世界の存在。
何かあったら薬や手術よりも魔法で治す世界の生き物だ。
「どうする、ナキ姉?」
「とにかく車へ乗せよう」
わたしはどこかシベリアンハスキーの子犬みたいな「彼」を抱えて立ち上がる。
「よっと……けっこう重!」
ひと抱えほどの大きさながら、たぶん10キロ近くある。
「そっちは?」
ユキくんが、道に落ちている短剣を指さす。
「ごめん、拾ってくれる?」
「おれが?」
あからさまに嫌な顔をする。
「これ確か、がるどあでも指折りの魔剣でしょ? まだ鞘に収まってないってことは、その呪いが解けてないってことだし。触っても大丈夫?」
さすがゲーマー。わたしよりずっとよく知ってる。
「ゲームの世界じゃ、わたしそれ素手で握ってドラゴンと戦ってたんですけど」
よったよったと車へ戻りつつ、
「ナキ姉はもう半分ゲームの人じゃん。おれはまだしばらくはこっちの世界の人間でいたいんだけど」
大学もあるし、就職先も決まってるし。
「わたしはもうどうでもいいってか? えーえーどうせ無断欠勤3日目でその間ずっとゲームやってたリアル廃人ですよーだ」
だいたいあんただって、今は忘れてるみたいだけど、向こうじゃどこぞの帝国の皇太子さまなんだぞ!
たかが一臣民ごとき、こき使ってなんぼってか!?
そいやあのユキくん皇太子(ユート殿下)、何気に上から目線で態度でかかったような。
「まーた拗ねてぶつぶつ言ってるし」
「誰が! とにかくチハヤくん後席に乗せるから、シートどかして!」
「ああ助手席は固定だから、運転席側へ来て」
「早く言えー!」
こちとらドラゴンと一戦交えてHPもMPも底付き状態なんじゃ!
よったよったと助手席側から車道側の運転席へ。
2ドアなので、シートを倒しても後席に入るのは一苦労。
それも10キロのぬいさん……じゃない、リアル生き物を抱えているのだ。
「うわ、腰、腰が……」
「え、歳が?」
「ちげーわ!」
もう言葉遣いも荒くなるってもんです。
それでもなんとかチハヤくんの体をシートの上に横たえる。
体温維持用に何か上に掛けるものでもあればいいけど、ほんと何もないなこの車。
「トランクの中は?」
「ええと確か燃料タンクと消火器、あとは……」
「もういい」
わたしは後席からいったん外に出て、
「じゃあエアコン切って……いやそれはさすがに厳しいか」
ちょっと外で動いただけで、わたしの額からはだらだら汗が流れ落ちてゆく。
でも不思議と服も髪も乾かない。
湿気がすごすぎる。
直射日光が殺人すぎる。
こんな中でだから真っ黒な喪服とかストッキングとか!
もしかしてわたし本当に呪われちゃってる?
だとしたらもう手遅れか。
シートはユキくんに任せて、あの短剣を拾いに戻る。
膝をかがめて手を出して、でもやっぱり、その直前で止まってしまう。
ユキくんがあんなこと言うから……
「大丈夫、だよね?」
どこかの特務大佐が空飛ぶ石の反応を探るように、指先で、つん、とつつく。
反応なし。
ついでに言えば、謎の光とかも出してない。
改めてその柄を掴んで立ち上がる。
「ああああ~?」
いや、ちょっと立ち眩みが。
「何やってんの、車こっち!」
「はえ? あ、おおう」
回れ右して歩き出す。
ダメだ本格的にガソリン切れだ。
よったよったと車内に戻り、どさっとシートに座る。
短剣は迷った末、グローブボックスへ。
「そこ入れんの?」
「どうせ車検証くらいでしょ。剥き身で持ってるほうがヤバいわ」
詳しくは知らないけど、間違いなく銃刀法違反。
警察に見つかれば職務質問レベルじゃ収まらないだろう。
「で、次は?」
適当にナビの地図をスクロールさせつつ、ユキくんが聞く。
「動物病院……はまずいか、やっぱ」
うーん。
やっぱりこのままわたしの家か?
といって、そこへ行っても何ができる?
でもここでじっとしてても何も解決しない。
服も乾かない。
この車、アイドリングだけでもどんどんガソリン減ってく気がするし。
すぐ横を白黒のパトカーが走りすぎる。
思わず身をすくめるわたし。
今は絶対職質とかされたくない。
ずっと停まってるのは不審者っぽいし。
とにかくどこか行くしかないか。
わたしはシートベルトを締めつつ、
「とりあえず、わたしんちへ行ってくれる?」
うちは品河だけど、車でもこの時間帯ならそう時間もかからないでしょ。
「りょーかい」
「あ、待った!」
がっくん!
急ブレーキ。
「何!?」
「もう限界。お腹すいた。そこらのコンビニでなんか買って来て」
「へーへー。ご希望は?」
『チョコモナカアイス』
ハモった。
さすがわが弟くん。
「にひひ」
☆
でもって。
わたしの手にはめでたくモナカのアイスがあり。
そして今度こそ動き出す車。
風景が変わり、甘味も入って。
わたしの頭も、またちょっと回り出す。
「だいたいチハヤくん、あっちでドラゴンと戦ってた時は、ちゃんと人の姿だったんだよね」
「ああそういえば」
そのあたりは覚えているらしいユキくんも頷く。
ちなみにあっちじゃ、最初はあんたも四枚翅の黒猫妖精スタイルだったんだけどね。
まあそれもさておき。
最終章の廃聖堂前。
ドラゴンに追われてリアル世界からログインしてたどり着いた場所。
そこにはチハヤくんもいて、最初はやっぱりちび銀狼姿だったけど、そのうち人の姿に戻って。
「……で、こっちの世界でまたこの姿に戻っちゃった」
外の道路工事現場をチラ見したユキくんが、ぽつりと、
「あのドラゴンと同じじゃないかな」
わたしも、現実世界でわたしたちを追い回していたドラゴンの足跡を修理しているらしい現場を横目に、
「ドラゴンは大きすぎて完全にリアル化できなかった、ってやつ?」
だから足跡は残ったけど、その姿は誰にも目撃されず、スマホなんかにも残せなかった。
「そそ」
ユキくんは、何かボタンがいっぱいある(でもエアバッグはない)後付けハンドルを真っすぐ握ったまま、
「この世界でリアルの姿を保つには、チビ銀狼化するしかなかったんだよ、きっと」
「でも人の姿だって、ドラゴンより全然小さいと思うけど」
前にも話してたけど、ゲームキャラ姿のわたしは普通にこの世界に存在できてたし。
「だから単純にサイズの問題じゃなくて、その情報量が、ってこと」
ちーさんは魔剣士だしまだまだ謎も多い。
「元々半分この世界の人間だったナキ姉とは違い、人レベルの姿でもそれを保てないほど、キャラとしての情報量が多かったんだ」
それでもドラゴンとは違い、チビ銀狼化して総体的な情報量を減らすことで、とりあえずこの世界に顕現できたと。
「本人が自覚的にやったのかは知らないけどね」
「じゃあ気を失ってるのもそのショックのせい?」
ゲーム世界からいきなり現実世界へ。
実体化のための自身の情報量操作。
それはこの世界で消えてしまわないための。
この世界の理に合わせたレベル調整。
「要は深海魚がいきなり大気中へ放り出されたようなものかな」
「どうなるの?」
「急な減圧に耐え切れず内蔵吐き出して潰れて死ぬらしい──ってのはまあ、やっぱり半分は間違ってるらしいけど」
でも重大な損傷を受けることは間違いない、と。
「それをちーさんは自らちび銀狼化することで回避した……回避できたのかな?」
「うーん……」
疲れ切った頭を、それでもチョコモナカブーストのフル回転でぶん回す。
「でもあれでしょ、なんだかんだでチハヤくんはゲームの中の人だし、それがリアルで──死んじゃう、とかしたらどうなるわけ?」
「さあ……とりあえずナキ姉がプレイしてるシナリオではもう出てこないとか?」
がるどあはいわゆるネットゲームだけど、各プレイヤーはその中で繋がっているわけじゃない。
それぞれが自分のゲームをやっている。
ソロプレイってやつ?
だから仮にわたしがやってるゲームの中でチハヤくんがいなくなっても、他のプレイヤーさんたちの世界から彼が消えてなくなるわけじゃない。
「こうやってリアル化してるのは、たぶんナキ姉がやってるゲーム世界だけだろうし、まあそれはそれで大問題だろうし、またネットでバズりまくるかもだけど」
「それはそれでちょっとなあ……」
それでもやっぱり気になるので、ちらちらとネットの反応を拾ってみる。
「なんかさ、ドラゴン以外にもけっこう目撃例、上がってるね」
「そう?」
「あ──」
思わず声が上がる。
「何?」
「この、天使の羽を生やした悪魔風少女……って、もしかしたらフィラかも」
「フィラ? ……え、フィラがいたの!?」
「え? いなかった?」
「おれがやったシナリオには出てこなかったなあ……ちくしょー。サブイベントとか?」
「ええと、温泉回?」
「温泉回!? 何それ第二章にあったそんなの!?」
「あったよ普通に、帝星宮で」
ああでも、あれはあれでけっこうトリッキーな状態だったような気はする。
(普通のプレイヤーはトーヤに「一方その頃」魔法なんてかけられないだろうし……)
「うわ見逃した! どうやってそれ発生させたのさ! あとでまたやってみなきゃ!」
とか言われてもね。
だからわたし以外のプレイヤーさんには、ちょっと(いやかなり)ハードル高そうだけど。
もっともそれ以前に、わたし自身これまで体験してきたイベントが、メインストーリーなのかサブイベントなのかもはっきりしないし。
その発生条件(?)なんて意識したこともない。
「そもそもがるどあがどんな話かも、よくわかってないし」
「そこから!? うわっと!」
車体がぐにゃっと揺れる。
進路がずれたらしい。
お楽しみに残しておいたアイスの最後の一列がフロアマットの上に落っこちる。
「あー!」
溶けかかった中身がモナカから流れ出してマットの上に溜まってゆく。
「早く取ってそれ! あとが残るから!」
「あんな乱暴な運転する方が悪い!」
「だってナキ姉がバカなこと言うから! この期に及んでがるどあのこと知らないとか!」
「だってだって、こっちはいきなり最終章とかから始めて、それも先週の金曜か土曜あたりからで、まだ一週間もたってないし!」
そのうち3日は知らない間にすっ飛ばしていたから、ほんとにまだ2~3日ってところ。
信号で止まったタイミングでユキくんが、前を見たままポケットからミニティッシュを出してこちらに差し出しつつ、
「じゃあがるどあが、元はコミケに出てた同人ゲームだったことも知らない?」
「初耳だー」
「マジかー……」
青になって再び車を発進させながら、
「最初はこんなんじゃなくて、普通のアドベンチャーゲームっていうかノベルゲームってうか、そんなんだったけど、それがけっこう売れてさ」
ちなみに当時のタイトルは『ガルドアース・クロニクル』。
それが商業化されて、さらに売れて。
で、今のスマホゲームになった。
「その際、古今東西の名剣やら実剣やら聖剣魔剣やらからキャラが出る、例の『抜刀ガチャ』が実装されたんだけど、そのキャラも人気が出て」
デザインしたのはもちろん、あの早逝した若手神絵師。
別のデザイナーさんとか、他の作品とのコラボとかもあったけど、でも一番人気はやっぱりその人のキャラだったらしい。
それはわたしにもわかる。
好きだし、あの人のキャラ。
「さらに同人時代の、オリジナル版のキャラもけっこうフィーチャーされてて、それも最初の頃からのファンには嬉しかったし」
そんな前作の影響とキャラの魅力で、とりあえず4年目まで引っ張って来た。
「けど、さあこれから本格的にリアル世界~地球を巻き込んで、『クロニクル』で積み残した伏線やらを回収しつつ、本当の終わりへ──と思ったら、サービス終了宣言だろ?」
なんやそれ! って思うよなと。
「まあね。そりゃ怒るか」
特にコミケのゲームだった頃からおっかけてる連中は。
やっとスマホゲーの中堅どころまで成長して、人気が出て、さあこれからってところ。
この先もっと人気が出で、どんどん大きくなったら……って期待が、でも一瞬で裏切られる。
「それがあの、プレイヤーと運営側のサービス終了を賭けた最終章につながった……と」
ふむ。
まさにゲームに歴史あり、って感じだな。
「そりゃあ盛り上がるわけだ、最終章──って、あれ?」
適当にスマホ画面をスクロールさせていた手が止まる。
「どしたん?」
前を向いたまま、ユキくん。
「何、これ!?」
次々と画面を流れるコメントに、ユキくんの言葉も耳に入らない。
「最終章、ボイコットだって──!?」
次回予告!
やっと来た、やっとここまで
書けました!
次回より
「最終章ボイコット編」
突入です(するよね?)!
ってコミケまで残り2日!
ぎっりぎりじゃーん!!
収集つくのかこれ!
あー知らん(^^ゞ!
まあ(どうする気か)お楽しみに~
(ほんどどーするよ(^^;)




