57.温泉回?(世界の終わりから2年8か月前/7)
生きるのは苦痛。
でも死ぬのは嫌。
だからわたしは悪魔になった。
それだけよ。
─デレス・マノレス・フィラ=ラディカカッサ─
前回のあらすじ!
謎の女性「シア」の身で
謎の男「ヤン」と共に
帝星宮へ向かうわたし。
途中で妙な夢(?)を
見ながらも到着してみれば、
そこにいたのは先に わたし(ユナキ)を
襲った「勇者レイ」で──
その後とりあえず湯浴みすることになった
わたしは、そのあまりの気持ちよさに
うたた寝してしまい、そしてまた夢の中へ……
始まります!
「ここはルーブルかサクラダファミリアか……」
──声がした。
「何それ?」
「あとベルサイユとかカリオストロ? ──知らないか、やっぱり」
声……「わたし」の、声?
「さあさ、ナナセもユナキも、時間ないんだから!」
ナナセと、ユナキ──? え?
「ほらユナキってば! そんな見惚れてないで! 早く!」
そのクロウさんの声で、一気に視界が開ける。
それはまるでオペラか何かの宮廷演劇を真横から──その外から、客席から眺めているような。
そこはどこぞの贅を尽くした異国の宮殿か。
百年以上に渡って作り続けられている大聖堂か。
はたまた世界最高レベルの巨大美術館か。
これでもかと飾り立てられた舞台上──豪華絢爛な部屋というか通路というか.
とにかくそんな人類の飽くなき妄想的美空間を行く、四人、いや五人の人影。
青髪に白アーマーの剣士クロウくん。
赤髪ツインテのデミエルフ、ナナセちゃん。
空色ツインテの謎少年ならぬ謎少女、ユユリコ姫。
見た目だけなら豪傑無双の巨漢戦士グゲンさん。
そして少し遅れて──
黒の三つ編みロングお下げに丸眼鏡の「わたし」──ユナキ。
真っ白なクリスマツリ―を逆さづりにしたようなシャンデリアが並ぶその下を。
クロウくんを先頭に、ほぼ縦一列になって歩いてゆく。
彼らに合わせて、わたしの視点も平行移動。
これは舞台というより映画かも。
とにかく、どうやら本当に元の「神視点」に戻ったらしい。
途中で落とし穴があったりとか、歩きながら着替えるとか、そんなイベントもなく。
全員無事(?)、白地に金の縁取りがされた大扉の前にたどり着く。
「立太子の儀式前にわざわざ時間を取ってくれたんだ、みんな、失礼のないように!」
扉の前で、まるで引率の先生のように一同を見回すクロウくん。
すっかりリーダーポジションが板についている。
もっともこのメンバーでリーダーといえば、やっぱり彼しかいないけど。
──って。
待って。
立太子の儀式?
それってもしかして、ユート皇子──「ユキくん」のこと?
ユキくん──ユキト。もしくは優樹也。
それはわたしの弟くんで。
リアル世界では二年前に死んだはずの、ごく平凡な大学生で。
このゲーム──「ガルドアース・ウォーテイル」の世界がリアル化するにつれて、わたしたちの現実世界と衝突しかかっている中で、そのどさくさにまぎれて、なんとか生きているらしい(でもやっぱり死んでいる?)、とても危うい存在……らしい。
それは先にこの「神視点」から落っこちた時、当の彼から聞いた話(だよね?)。
正直、だから何? って感じで、まだまだ疑問だらけだけど。
その後で、彼と一緒にいたトーヤ──リアル世界で死んで、この世界の魔王皇帝(いやこの「第二章」時点ではまだそうじゃないのか)に転生したわたしの元相方によって、神視点ならではの「一方その頃」的場面転換で追い出されちゃったけど。
ところがその先でもまたこれが……などと脳内オモイデ語りしている間にも、衛兵さんたちの手で大扉が開かれて、一行が中へ入ってゆく。
それにつれてわたしの視点も一瞬で変わる。
舞台を眺める客席から、天井付近から眺めるいつもの「神視点」に。
どこかゲーム最終章のスタート地点にある廃聖堂を思わせる室内は、やはり見覚えがある。
中心に立つのは、仕立てのよさそうな黒装束に身を包んだ茶髪の青年。
その横には、儀礼用らしい漆黒のアーマーを纏った長い黒髪の男。
どちらも「わたし」には一度見た姿で。
ということは、あれ? ちょっと時間が戻ってる?
「一方その頃」で飛ばされた先では、もう儀式は始まっていたような?
それでむしろ、ゆっくり湯浴みを──
そんなわたしの混乱をよそに、彼らの前に並ぶ一行。
ユユリコ姫をのぞく四人が、そろって膝をついて臣下の礼を──いや。
「……え? ユキくん!?」
ひとり棒立ちのユキナ。
気持ちはわかる。
ところがさらにそこへ、奥の扉からひとりの男性が顔を出して、
「おい、そろそろ時間だぞ──あ?」
「え? と、とーさん?」
いかにも「皇帝」といった風の重ったるいマントを引きずっていたその人は、その顔は、間違いなく。
「父さん! 父さんまで! ここで何やってんの!?」
ユナキのその叫びは、まさに「わたし」の叫びでもあった。
これは先の場面ではなかったことで。
「あ、ヤバ──!」
さっと隠れる。
「待って、まってとーさ──ぐげ!」
思わず走り出そうとするわたしのマントをぐっと掴むナナセちゃん。
がくん、と首がヤバイ方向に曲がって、じたばたと手を振っている。
「もういい、離してやれナナセ!」
「はいはい、ほら!」
リリース。
勢い余って数歩、進み出るユナキ。
前に出て、その体を支えるユキくん──ユート次期皇太子殿下。
「大丈夫、ナキ姉?」
「あー言った! 今ナキ姉言った! ユキくん、やっぱりあなたユキくんでしょ!?」
ユキくんに抱きかかえられたまま、さらに周りを見回して、
「まさか母さんまでどこかにいるんじゃないでしょね!?」
「さすがにいないでしょ」
ユナキの耳元で、彼女にしか聞こえない声で、ユキくん。
ユート殿下。
半分 (てかほとんど)パニック状態のユナキに対して、あくまで微笑を絶やさない。
でもこれはどういう状況?
何がどうなっているのやら。
なんにせよ、今回はもう言い逃れできないぞ!
神視点の「わたし」と違って「ユナキ」はこの場にいる。
例の「一方その頃」で別場面に飛ばすことはできない。
「ユキくん、ねえユキくん、これはいったいどうなって──!?」
さあさあどうする?
この場をどう説明する!?
彼はユナキからそっと離れると、あごに手をやって、
「ユキくん? はて?」
わざとらしく首をかしげてみせる。
その微笑が最高に悪戯っぽい笑みに変わる。
「きみはさっきから、何を言っているんだい?」
「は? はあああーーーーーーー!!!!????」
すっす、すっとぼけたですとおおお!!??
☆☆
体育館ほどの空間全体に、ほわほわ~っと漂う白い湯煙。
大小様々なプールのような湯面から立ち昇る、どこかほのかな硫黄質の香り。
一見して先客など皆無。
なのにどこからともなく聞こえる「かぽーん」というプラスチック桶の音。
そこは──ここは。
「……温泉?」
「おんせん? だから湯浴み場でしょ?」
ピンクの膝上ワンピース風の湯浴み着を着たナナセちゃんが、ユナキの隣に並ぶ。
お団子にした頭がけっこう似合ってる。
ユナキもその髪をまとめて結い上げて、頭の上に乗せていた。
ゲーム世界とはいえ、あの量の髪を濡らしたら結構重そうだし、仕方ない。
「ふーん? でも聖王殿の湯浴み場の方が広いかな?」
こちらはお団子にしつつも、あえてツインテ風に髪を残しているユユリコ姫もやってくる。
「一応帝星宮とはいえ、ここは外来者用だからな」
その後ろから「トーヤ四天王」のひとり、女将軍リデラー・ルルクオン。
この人とは、前にリアル世界で一戦交えて以来の再会。
「姫殿下が湯浴みされるような場所と比べる方が間違っている」
あの時も、アーマー越しとはいえ見事なナイスバディっぷりだったけれど。
今の体にぴったりの湯浴み着越しではさらにそれが強調されて、もはや直視に耐えない感じ?
でもどうしてここにこの人が?
トーヤの護衛はしなくていいの?
「それはなあ──!」
声がした。
それも、「神視点」のわたしよりもさらに「上」から。
「これが『温泉回』だからだーだーだー……!」
そんな声と一に、黒と赤の「何か」がすぐ目の前を通過していった。
瞬間、その真っ赤な瞳と目が合った。
にやりと笑われた気がした。
でもそれは一瞬のことで。
ざぶーん!
勢いよく落ちていったそれは、真っすぐ下の湯殿に頭から突っ込んで。
そのまま底に突き刺さったように逆立ちしたまま、Vの字になった足を湯船から突き出している。
「……」
誰も動かない。
動けない。
逆立ち状態の「それ」も、ぴくりともしない。
……そりゃね、飛び込みプールあるまいし。
湯浴み場の底は浅いんだから、あんな高さから飛び込んだら、そうなるわな。
遅ればせながら天井を見上げると、しっかり穴が開いていた。
すご……
「──って、ちょっと大丈夫!?」
ようやくユナキが反応して一歩飛び出す。
いくら「ゲーム」とはいえ、さすがに洒落にならない感じの落ち方だったし。
先の建物崩落現場じゃないけれど、ほとんどリアル化しつつあるこの世界では、「人」は本当に怪我をするし、放っておけば死んでしまう。
──が。
「ぎゃーーー! いっっってええええええええーーー!!」
ユナキがざぶんと湯船に入ると同時、相手も湯の中から勢いよく立ち上がった。
素っ裸で。
ユユリコ姫やナナセちゃんよりもなお暗い肌の色。
お湯の中に突っ込んだのに、まだあちこちつんつんはねてる真っ赤なロング。
小柄ながら、リデルさんにも負けないナイスなバディ(語彙が……)。
縦に鋭く切ったような、猫のような大きな瞳。
そして──
「ぎゃーーー! 折れたあああーーー!」
頭の両サイドで、くるっと曲がった大きなツノ──その片方が根本付近で折れてなくなっていた。
どちらかといと古典的な絵画に描かれた「美女」といった風の、でもまだ10代にも見える不思議な彼女は、でも次の瞬間、折れた方のツノにやっていた手をパッと放して、
「なーーーーんちゃって! ねー!?」
ちろっと舌を出して、ちょこんと小首をかしげてみせる。
「これは最初っからさ! ジョーク! フィラちゃんジョーク!」
けど誰も反応できない。
──って、待って?
今言った名前、フィラ──って、どこかで?
彼女は無反応──というか、とにかくびっくりして呆然と突っ立っているわたしたちを見回して、
「あれ? シアは?」
さらにくるりと背を向けて、湯浴み場全体を見渡すようにして、
「おーい、シア? シアちゃーん!? しあっち~!?」
その背中で、手のひら大になった蝙蝠のような羽がぱたぱたと羽ばたいていた。
「いねーじゃん! っかしーなあ? レイっちがここにいるって言ってたのに──」
よく見ると、それはボロボロの折り畳み傘のように千切れかかっていて、その間からまた別の、白い羽のようなものが見えている。
「なんか生き返ったとか面白いことになってそーだから、わざわざ見に来てやったのに──シアこらあ! 生きてるなら返事しろー! 死んでるなら化けて出ろー!」
──って?
シア?
突然落ちてきた乱入者のあまりのインパクトに半ば止まっていた頭がまた回り出す。
シア──シアって。
シアジカ──詩亜鹿?
それはわたしが「一方その頃」で飛ばされた先にいた女性。
わたしはなぜかその女性の体に入ってしまい、そして彼女と関係あるらしい謎の男「ヤン」と一緒に、この帝星宮までやって来た。
そこで彼とわたしを出迎えたのが、先に「ユナキ」を襲った「勇者レイ」で。
ああそうか。「フィラ」って名前はそこで聞いた気がする。
聖域には入れないとか、天使化がどうとか。
まあいいや。とにかくその後わたしはこの湯浴み場まで来て、そして──
そして?
ええと? あれ?
「……おい?」
気がつくと、湯船の中で某立ちしているユナキの前に彼女──フィラが立っていた。
「あんたがあのユナキ──ちゃん?」
ばしゃばしゃとユナキの周りを歩く。
「ふうん? なるほどなるほどね~? 確かにあいつの──『リサ』の趣味全開のキャラだよなあ」
「……りさ?」
ぐるっと回って、また正面に戻って来た彼女は、
「知らない? だってあんた『りある』のプレイヤーじゃなかったの? リアルから来たくせに?」
ばっと手を広げる(だから素っ裸なんですが……)。
「このゲーム最大の売り! 本当に生きてるキャラを創造できる最高のキャラデザイナー! 若くしてトラック事故で死んだことになってる稀代の神絵師! ──栫囲莉紗! その名を──!」
待った!
待った待った!
あーだめだ声が出ない!
神視点モードでじたばたするわたし。
あなたこそなんでそんなこと知ってる!
リアル世界のこと、ユナキが「ゲームプレイヤー」であること、それに──神絵師さんのことも!
「あ、あなたは──!」
やっとユナキも口を開く。
いいぞ、言ってやれ!
──ところが。
「だいたいなんだそのカッコ! せっかくの温泉回だぞ! もっとサービスサービス!」
言って、ばっとユナキの前で立てた人差し指を振り下ろす。
直後、ばらっと左右に分かれて脱げる湯浴み着。
「きゃ、きゃああああーーーーーーー!!!!!」
慌てて胸に手をやる。
まあ一応、下には水着を着てますが(お約束)。
でもね、やっぱりね。
「やめんかこらー! ここは帝星宮だぞ! 立太子の儀の真っ最中だぞ!」
さすがに怒ったらしいリデラーさんが飛び出す。
「その最中に揃って湯浴みしてるのはどこの誰だってさーーー! うりゃーーー!」
だが、いともあっさり放り投げられ(投げた? 見えなかった)、しかも空中で湯浴み着が四散するおまけつき。
「おらおらおらーーー! 他の連中も黙って見てない見てない! もっと盛り上がって──うお!?」
振りあげた手をばし! と掴んだのは。
「お? おお?」
「いい加減にして」
ナナセちゃん?
「おおお? いたのかこんなとこに? リーンの生き残りが?」
「それを、言うなあああーーー!」
つかんだ手をひねりざま、体ごと放り出す。
「ほっほー? やる気?」
こちらもどこか嬉しそうに立ち上がるフィラ。
「やって……やろうじゃない!」
応じるナナセちゃん。
髪がほどけて、フィラにも負けない真っ赤なそれがうねうねと揺らめき出す。
ちょっと待って! ホントにここでバトルするんですか二人とも!?
温泉回じゃなかったのこれ!?
次回予告!
温泉回! 温泉回!
……なんて浮かれる場合じゃない!
いきなり始まる因縁(?)のバトル!
これもシナリオ通りのイベントなの?
それとも──?
さらにどこかへ消えてしまった
「シア」はどうなる?
「トーヤ! 汚い手を使いやがって!」
……って、ヤン?
いやいやそこまで書けるのか(^^;?
はてさてお楽しみに( ̄▽ ̄;)!




