56.帝星宮(世界の終わりから2年8か月前/6)
これは世界を守る物語。
自分の世界を
その世界の大切な誰かを
守ると決めた人々の物語。
前回のあらすじ!
っても、全編使ってほとんど
のろけてるだけだったような……?
いやいやいやいやいやいや違うから!
別別べつにのろけてなんかいなですので!
あーもうこんなんで一編書いちゃうとか!
電撃応募作なら絶対没ってるぞ!
わたしが編集者さんなら──むぎゅん!
始まります、かも?(むぐぐ~~~!)
☆
町を見下ろしていた。
小さな町。
その中心にある教会聖堂。
少し古びているけれど、しっかりと手入れが行き届いている。
修道院が併設されていることもあって、この町にはちょっと大きめか。
その「どこかで見たような」聖堂の隣。
修道院宿舎に隣接する形で建っている円筒形の小屋。
この教会の見習いシスターたちの間で「煙突部屋」と呼ばれている、外来者用宿泊施設。
中途半端に天井の高い部屋の中は、その名のとおり真っ暗だった。
いや、真っ暗なのは「わたし」が目を閉じているせいだ。
目を開く。
ぱちぱち。
やっぱり暗い。
その中でぼんやり見える円筒形の壁。
どうやらあの「煙突部屋」の中らしい。
それまで天井のあたりから見下ろしていたはずの「神視点」から、いつの間にか「彼女」の目線になっていた。
体を起こす。
うすっぺらいわりに固くてごわつく枕で寝ていたせいか、ちょっと首が痛い。
「ふわああああ~~~」
大きなあくびが出た。
昨晩はあまりよく眠れなかったらしい。
枕元にあるはずの眼鏡に手をのばしかけて、でもこの自分は眼鏡なんてしてなかったと思い出す。
寝台の真上にある小さな天窓を見上げる。
そのぴったり真ん中で、「祈りの星」が輝いていた。
空が暗い。まだ夜明け前らしい。
たぶん二時間も眠っていない。
でももう寝ていられない。
だって今日は──
今日は「わたし」の結婚式なんだから──!
☆☆
「おい、もう着くぞ」
「……ん?」
肩を軽く揺すられて、目を開ける。
ぱちぱち。
リズミカルに揺れる体。
どこか優しい甘い木の香り。
「う~~ん? て、あれ? ここはどこ? わたしは──ええと?」
「ほんのちょっとうたた寝してただけで、よくそこまで寝ぼけられるな」
隣から聞こえたそのあきれ声の方を見る。
「ん~~~~?」
頑張って目の焦点を合わせる。
見えてきたのは、洗いざらしのシャツ。
そのまま、ちょっと目線を上げる。
うっすら無精ひげのある顔が見えてきた。
ぼさぼさつんつん、おまけにくるくるのコゲ茶髪。
同じ色の瞳が、ちょっと眇めたようにこちらを睨んでる。
「長らくのご乗車ありがとうございました。次は帝国星竜宮殿前、終点、帝国星竜宮殿前でございます。どなたさまもお忘れ物のないように──」
かたんことん、どこか懐かしい音がする。かたんことん。
そこは魔導軌道車の車内で。
年若い車掌くんが、停車場の案内を告げていた。
「夢……見てた?」
「ほんのちょっと目を閉じてただけで? 器用だな」
「ほんのちょっと?」
「ああ。で、どんな夢、見てたんだ?」
わたしはもう一度彼──宿屋で出会った出自不明、職業不詳のタバコ野郎(あとなんだっけ?)、「ヤン」の顔を見て、それから車窓に目を移した。
遠くに見えていたあの大きなドームと八方屋根の建物が、すぐ目の前にあった。
帝国星竜宮殿──通称「帝星宮」。
「……覚えてない」
「つまんねーな」
「つまんなくない──だって、結婚式だったし」
「覚えてるじゃねーか──結婚式?」
車両が速度を落とす。
停留所の看板を素通りして、そのまま帝星宮の敷地内へ入ってゆく。
「ええっと……なんか大きな聖堂ある小さな町で、煙突みたいな部屋の中で、わたし、天窓の星を眺めながら朝を待ってて──」
がし、っと両肩を掴まれる。
「おい、おいそれって──!?」
「──え? え?」
ききーっと音がして、車体がひと揺れして止まる。
それではっとして、手を離す彼──ヤン。
「あっと、ごめん!」
「ううん、いいけど──どしたの?」
「いや……」
何か迷うように口ごもりつつ、でも瞳だけはまっすぐこちらを見つめている。
「──すみません、終点、なんですけど?」
恐る恐る、といった風に車掌くんが声をかけてくる。
「ん? ああ悪かった。今降りるよ」
ヤンが足元のカバンを手に立ち上がる。
窓際のわたしも席を立つ。
車両の真ん中にある扉から出ると、そこはもう建物の──帝星宮の中だった。
といってもたぶん裏口。
見上げると、かぶさるように広がる上層のフロアや、それらを繋ぐ渡り廊下が見えた。
ちょっと東京ビッグサイトのバス停留所を思い出す。
あちこちから差し込む陽光でけっこう明るい。
なんかいい匂いまでする。
さすが帝星宮──と思っていると、隣でヤンも、くんくんと鼻を鳴らしていた。
ただし、こちらはちょっと顔をしかめてる。
「香水とか、嫌い?」
「あ? いやそうじゃくて、この匂いは……さすがに知らないか」
ニヤリとされる。
なんだそれ?
まさか先のだじゃれ合戦の仕返しのつもりか?
「ええ知りませんけど、何か?」
むしろ堂々と言ってみた。
「そうか知らないか。ふんふーん」
笑われた。鼻で。
実はこの人──こいつ、けっこう粘着質か?
「こいつはな、警告さ」
「警告?」
「対魔法結界。その匂いだよ」
ここで下手に魔法を使うと、それが全部自分に返ってくるらしい。
火を使えば自分が燃える。
水を出せば自分が濡れる。
「じゃあ魔法の銃弾は?」
彼はジーンズのポケットのあたりをぽんと叩いて、
「それは使える」
「ザルじゃん!」
「そっちはそっちで、また別の対応がある──ほら来た」
言ってるそばから、赤と金のアーマーをまとった兵士? たちが近づいてきて、
「失礼する──」
先頭のひとりが手を上げて、何か早口でつぶやく。
と、ヤンのジーンズのポケットがぼうっと光った。
「な?」
ヤンが手を突っ込んであの紺色の小さな拳銃を引っ張り出す。
金色兵士が広げた手に、それをぽとんと落とす。
そこでわたしも、自分の腰の「包み」に手をやって、
「あの、これも──」
でもすっとのびてきたヤンの手が、わたしの手をさっと抑えつつ、
「それ、大事な形見なんだ、後でちゃんと返してくれよ」
「もちろんです。ただし中の銃弾は破棄させてもらいますので」
「弁償してくれるのか?」
「禁制品に対する補償はありません」
ぱちんと銃身を折るように開き、中にある4発の銃弾を確認する。
「実戦用の魔導実包4発──記録して」
背後の別の兵士に告げる。
そして銃弾を取り出しつつ、
「持ち込み禁止の品については、告知がされているはずです。この銃弾は破棄。拳銃の方はお帰りの際にお返しいたします。よろしいか?」
「よろしいとも。もちろん! 代わりにあんたらが守ってくれるんだしな」
「もちろんです。では!」
握ったこぶしを胸に当てて軽く頭を下げる。
くるりと振り返り、後ろの兵士と一緒に去ってゆく。
「……よかったの?」
「何が?」
「これ」
わたしは改めて、腰のベルトに差し込んである帆布の包みに手をやって、
「だってこれ、むしろこっちの方が、あの銃よりもヤバそうだし……」
包みの中身は、剥き身の魔剣──魔聖短剣『ケリス・ルーンテイカー』。
人の心と力を奪い、それを操る禁呪の魔剣。
「それ絶対開くなよ──もし見つかれば、二度と帝星宮から出れなくなる」
「……そんなヤバイもの、わたしに持たせてたの?」
「そいつに対する説明はしたし、それでも渡さなかったのはそっちだろ」
自己責任だよ、と。
「しっかり隠し持っていてくれ。頼んだぞ?」
ぽん、と肩を叩かれる。
なんか嵌められた気がする。
「あのね、言っておきますけどわたしは──」
「──ああ、いたいた!」
そこでまた別の兵士──剣士? がやって来た。
「え、クロウくん──?」
真っ白なアーマーに真っ赤なマントの青年。
腰にはそれなりに凝った意匠の鞘に収まった長剣を下げている。
でもよく見ると髪は金のウルフカットで。
だいたい彼ひとりで、他の仲間はいないようだし──って!
この人は、この顔は──
「レイか? どうした?」
わたしの驚きをよそに、ヤンがさっと手を上げて挨拶する。
「え、知り合い?」
「え? シア? なんで?」
そのわたしと白アーマーの彼が、思わず顔を見合わせる。
さらに一緒にヤンの方を見る。
「ええ? オレ?」
後ずさりするヤン。
「どうしてこの人がここにいるの!?」
「どうしてシアがここにいるんだ!?」
わたしたちの間で、ヤンも声を上げる。
「同時にしゃべるな! 説明は後あと! そうでなくたってもうかなり遅れてるんだ!」
言って、さっさと歩き出す。
「ああそうだった!」
白アーマーの彼──「レイ」もその後を追いながら、
「ていうか完全に遅刻ですよ! これから湯浴みして着替えてたら、それだけで立太子の儀式にはもう──」
「オレはいい。それより彼女を頼む!」
ヤンはちらりとわたしの方を見て、
「彼女は正式な招待客じゃない。それより時間をかけてしっかり湯浴みさせてやってくれ。髪と服は誰でもいい、宮廷理容師を捕まえて見てもらえ。──フィラは? いないのか?」
「あいつが聖域化した宮殿内に入れないのは知ってるでしょ」
「『天使化』は? しなかったのか?」
「『もう二度とやるもんか、バカバーカ!』だそうです」
ふうう、とため息。
「てなわけで悪い。ユキ──シア。レイは自由に使っていいから、後は自分でなんとかしてくれ。支度ができたら、落ち合う場所はレイが知ってるから──なんだ?」
「彼、レイ……さんは、勇者なの?」
「は? 勇者? 誰が?」
ヤンよりも先に、彼の方が自分を指さして、
「おれが? まさか!」
「こいつが勇者だって? どこからそんな話、仕入れて来た?」
それはゲームの情報ウィンドウから──とはもちろん言わない。
「あ!」
「なんだ!?」
そうだよ、ヤンに向かってウィンドウを開けば、彼の情報も見れたかも。
って、もう遅いけど。
「ううん、何でも」
わたしはぱたぱたと手を振って、
「それより、わたしはシア……詩亜鹿。いいのね、それで?」
ヤンは一瞬考えるようにしてから、
「もちろん!」
「だからさっきから何言ってるんです? 二人して?」
「説明は後だって言ったろ! 時間がない! 質問がないなら次は行動! さあ行くぞ!」
いざ敵の巣窟へ──!
「おおー……って、え? 敵?」
敵ですか!?
☆☆☆
湯浴み場には誰もいなかった。
まあね、外じゃもう「立太子の儀」が始まっちゃってるみたいだし。
こんな時間に湯浴みする人なんていないか。
おかげで、ちょっとした温泉リゾートみたいな広い湯浴み場を独り占め。
「ふぃ~~~~~~~~~」
考えてみれば、このがるどあ──「ガルドアース・ウォーテイル」のゲーム世界に来てから、これが初めてのお風呂……じゃない、湯浴みかもしれない。
現実世界に戻った時も、シャワーひとつ浴びれなかったし。
この二年あれこれ忙しくて、温泉旅行とかにも行けてなかったし。
そう考えると、これはこれで悪くない「イベント」かもしれない。
温泉シーンはこの手のゲームのお約束だしね。
入ってるのはユナキ──じゃない「わたし」ひとりだけど。
おまけにこの体も、どこの誰かも知らない、謎の人だし。
ダメじゃん! 全然サービスになってないじゃん!
「こらサービスも終了するわけだ……するか!」
するか──るか──るか……
広い湯浴み場にわたしの声がこだまする。
その声を聴きながら、ずるずると湯の中へ体を沈めてゆく。
「ああ~~極楽、ごくらくじゃああああ……」
ふわわわ~~~~ッと大あくびひとつ。
そして──
☆☆☆☆
「ふぁあわわわ~~~~、……ん?」
一瞬、体がふわっと揺れたような気がした。
寝台の上で、「わたし」はきょろきょろと周りを見回す。
円筒形の壁に囲まれたうす暗い部屋。
かすかに漂う、パンの焼ける匂い。
このがるどあ世界共通の、朝の匂い──
朝! 結婚式!
「そうだ早く起きて、湯浴みして、髪を整えないと……あれ?」
それはもうやっていたような?
あれ? ──と。
──ずん。
今度は寝台ごと、その上に座っている体が揺れた。
同時に、まるで自分に向かって巨大な岩がすっとんでくるような強烈な悪寒を感じて、思わず寝台から降りて立ち上がる。
さらに鈍い雷鳴のような重苦しい音がして。
体だけじゃなく、部屋全体がぶるっと大きく震えた。
何だろう……とんでもなく嫌な予感がする。
とにかく離れの小部屋を出て、聖堂に隣接する本宿舎に向かって走る。
パンの匂いでいっぱいの食堂から厨房に入る。
「すみません、通ります!」
「あらシアちゃん! 結婚おめでとう! ──けどその当日の朝だってのにまたつまみ食い? まだ髪ぼっさぼじゃない! 湯浴みはいいの?」
「ありがとうございます! 湯浴みは後で! ちょっと外見てきます! てかしてませんつまみ食いとか!」
食事担当の白衣姿のシスターさんたちが、顔を見合わつつも忙しく動き回る中を小走りに走り抜け、通用口から裏通りへ出る。
「――きゃっ!」
外へ出たとたん、鼻先をかすめるようにして、何かが飛んでいった。
猫ほどの体に、この世界で最強の存在であるドラゴンの翼を持つ魔法生物、デミドラゴン──通称「チビドラ」たち。
それも一匹や二匹じゃない。
裏の通りを埋め尽くすような勢いで次から次へと飛んでくる。
とてもありえない光景だった。
このミラメル湖畔小王国にしかいない「チビドラ」は、とんでもなく臆病な生きものだ。
自ら人間の町へ飛び込んでくるなんてことはまず考えられない。
頭のどこかで「そんな知識いつ仕入れたっけ?」という疑問が浮かぶ。
でもそんなこと気にしてる場合じゃない。
ところかまわず飛び回るチビドラたちを避けるようにして聖堂へ取って返す。
鐘楼内の石段を駆け上がって屋上へ出る。
町をぐるりと囲む対ドラゴン用の魔導防壁の一部で火の手が上がっていた。
目をこらすと、ゆらめく炎の中に人影のようなものが見えた。
もちろん「人」なんかじゃない。
周囲の家々と比較するまでもなく、その大きさはアーマーを着けた戦士の軽く一〇倍はありそうだった。
現実には存在しないはずの魔動の巨人――けれど「わたし」はその正体を知っていた。
亜神──
それは神話の時代の物語。
自ら破壊してしまった世界の代わりに、この世界を我がものにせんとする異界の魔神。
神殺しの勇者「ラグナリリティア」を始めとする六人の仲間たちによって倒された──殺された悪神。
六人の人間に、六つに分断されて封じられたはずの、創成にして破滅の巨神。
そんな神話級の怪物が、なぜここに?
まるでその心の声が聞こえたかのように、ゆっくりと〈それ〉の手が上がる。
そして町の中心にあるこの聖フィセラ教会聖堂を──「わたし」を、指差した。
はっきりと。
そのの指先に宿った光が渦を巻き、やがて赤く輝く魔法陣が出現する。
《***********!!!!!!!!!!!!!!!!!!!》
咆哮。
次の瞬間、砕け散る巨大な魔法陣。
その中から飛び出す炎を纏ったドラゴンの首。
町中の空気をどん! と震わせて放たれた光弾。
手で顔を覆うよりも早く、それが足元の教会聖堂を直撃した──
次回予告!
……って毎度のことながら
もう何が何やら。
ホント好き放題だなこの作者!
いや「わたし」か(^^ゞ!
わたしが元凶か!?
なんか寝こける度に派手に
世界が変わって
ゆくような……?
というわけで、自分にもまったく
先が読めません!
てかせっかくの温泉回? これで
いいのか!?
いいのか?
いいのか本当に(;^_^A!?
(いやなんかそれどころじゃ
ないっぽいけども!)
待たれよ次回!




