55.観光?(世界の終わりから2年8か月前/5)
それは世界の物語。
世界を夢見た、世界の物語。
本物の神さまになりたかった
亜神の物語──
「──だめだ!
あたしこーゆーのは向いてないからw」
─ラグナ・リリティア─
前回のあらすじ!
トーヤの指パッチンで飛ばされた
「一方その頃」の宿屋にいた謎の男
「ヤン」。
どうやらその彼の「大切な人」の
姿になってるらしいわたし。
宿屋の焼き立てパンを食べながら
お互い正体の探り合い。
そしてとうとう、その核心に触れる
発言が──
「どうしてあなたがNPCなんて言葉を
知ってるの?」
「君こそなぜその言葉に気がついた?」
「どういう意味?」
「茶番は終わりってこと」
始まります!
宿屋を出る。
街をゆく。
一度ならず見た街。
見て、歩いた道。
帝都外周区。
雑多な建物が立ち並ぶ狭い道。
前回は「仲間」と四人で歩いた道を、今は二人で。
三つ編み丸眼鏡のゲームキャラではなく、
ずっと大人の、でもやっぱり現実感のない女性として。
紐でポニテにくくっただけの赤茶色の髪。
飾り気のないロングドレス。
腰に巻いた大きなバックル付きの男性用ベルト。
それでも。
名前しか知らない、でもたぶん「彼」の大事な……大事だった、人。
──ひと? それとも?
隣を歩く男を見る。見上げる。
寝ぐせまみれでくるくるでもっさもさの頭に無精ひげ。
口にはひん曲がった紙タバコ(まだ火はついてない)。
よれよれのシャツにくたくたのジーンズ。
そのポケットにはドラゴンすら相手取れる小さな拳銃。
肩には「遅刻、です? です?」なんて声が聞こえるカバンをひっかけて。
どこもかしこもでたらめで、適当で。
でもやっぱりカッコ良くて(ゲームキャラ的に!)。
「黙れバード、ヤキトリになってシアの墓にお供えされてーか!」
「──え?」
「あ、いやなんでも」
黙る。そしてまた歩く。
「……タバコ」
ふと、言ってみた。
「ん?」
「タバコ、吸わないの?」
「ああ──」
彼はそれをくわえたまま、
「またいつ襲われっかわからないからな」
ポケットに手を突っ込む。
「そんときは相手もガチで来るだろうし。火つけてたら、やっぱり捨てるしかないだろ」
ポケットから出した手には、あの小さな紺色の拳銃。
それはどこか、わたしが腰のベルトに差している魔聖剣の波打つ刀身の色に似ていて。
「そんなもったいないことはできねーし」
天頂近くから降り注ぐ陽光に、まるで宝石のようにきらきら輝く小さな拳銃。
「こいつも今は、4発とも対人用の強化魔導実包だしな」
拳銃を戻しつつ、だから吸いたくてもタバコに付ける火がないのさ、と。
「マッチは?」
「あれが最後の一本」
けっこうめんどくさいんだな。タバコって。
「じゃあなんでくわえてるの?」
「なんか口さみしくて」
「赤ちゃんのおしゃぶりじゃあるまいし」
いや。と彼。
「似たようなもんさ……それに」
やっとこちらを向く。
「これくわえてりゃ、口を閉じてる口実になるかな、ってさ」
少しだけ笑う。
タバコに手をやって、シャツの胸ポケットへ落とす(そこ?)。
「けど、もういらないか」
「別に、話したくないならそれでいいじゃん」
「いや気まずいだろ、ただ黙って歩くとか」
「もしかして、気を使ってる?」
わたしに──「わたし」が入り込んでる、この女性に。
「こうやって並んで歩くのは、あー、いつ以来だったっけか」
頭をがしがしひっかく。
「だから、なんていうか」
「間が持たない?」
「……まーな」
あんたは初デート中の高校男子か!
──とは、まあさすがに言わないけど。
「食堂でのあの思わせぶりな不敵さはどこ行ったの?」
わたしは眉間にしわを寄せるようにして、
「『茶番は終わりだ』──」
声を低めて言う。
彼がぷっと噴き出す。
「もしかして、オレ? ──っと、ちょっと待って」
「うん?」
いつの間にか大きな通りに出ていた。
今朝は通らなかった道。
一応歩道と車道に分かれていて、たまに魔導台車──魔法で動く馬車(?)というか屋根付き荷車というか、そんなものが走ってる。
どこか日曜の、車の通りが少ない幹線道路みたいな雰囲気。
道路に沿って等間隔で建てられた支柱には、紺の地に金で「神殺しの魔剣」を象徴する帝国紋章が染め抜かれた垂れ旗が下がっている。
今日執り行われる立太子の式典に合わせた飾りらしい。
とはいえ、らしいのはそれくらいで、街全体は別段浮かれた様子はない。
帝星宮の近くまで行けば、また別かもしれないけど。
彼の案内で、バス停のような立て看板の前に行く。
その前の道には、並行して走る二本のレール。
どうやらそこは、わたしたちの世界でいうところの路面電車の停留所らしい。
「そうだ、これ、しておいて」
肩から降ろしたカバンのまた別のポケットから、小さな何かを取り出す。
「これって……!」
どこかで見たような、精緻な紋様の施された銀色のリング。
それは──
このゲームの、「ガルドアース・ウォーテイル」の四周年記念リング!?
「別に結婚指輪とか、そんなもんじゃないから」
わたしの驚きをどう誤解したのか、はにかむような顔の前でぶんぶんと手を振る。
「この先で、ちょっとそれが必要になるからさ」
カバンを置いて、自分も同じリングをはめる。
左手の薬指。
「やっぱり結婚指輪じゃん」
「ん? ああ──! ああいや、これはついクセで」
外そうとする彼の手に、思わず自分の手を重ねる。
「いいよそのままで」
そして自分も、左手の薬指にそれをはめる。
「いいのか?」
「一緒にいるのに、違う指にしてたらかえって変でしょ」
「あ、ああ。そうだな、うん」
なぜか空を見上げるようにして言葉を濁すヤン。
でもその口元には、はっきりと嬉し気な笑みがあって。
つられるように、わたしの口元も小さく緩んで。
ま、いいよね。これくらい。
この体は「わたし」じゃないし──ね、歳矢?
……ってなんで言い訳してるんだか。
たかがおもちゃ(とはいえ予価44万円税込み)の指輪に。
それだって、わたしが先にリアルのリングを見てたからびっくりしたけど、要は普通に第二章で出てくるアイテムで、それを周年記念のリングに仕立てだけだろうし。……って?
あれ?
改めて見ると、リングに埋め込まれている石の色が違う。
確かわたしが──「ユナキ」がしていたのは、黒い石だった。
でもこれは、透き通るような青い──瑠璃色の石で。
「大丈夫──よく似合ってる」
まぶしそうにリングのはまったわたしの──彼女の手を見て、彼──ヤン。
「あ、ありがと……」
うわなんかこっちまで顔が熱くなって……
ぶんぶん! と頭を振る。
「どうした?」
「なんでも! なんでもないから!」
「……そうか?」
「うん、うん!」
そうだ誤解するなわたし!
彼のあの笑顔はわたしじゃなく、この「彼女」に向けられたもの。
彼と彼女の思い出に向けられたもの。
よし!
うん!
大丈夫。わたしには歳矢──トーヤがいる。
魔王皇帝トーヤ──このゲーム最強最後のラスボス的存在。
これも要するに、このがるどあ世界じゃ一番エライ存在ってことで。
そんなすごいやつが相方なんだぞ!
おっきなツノのついたヘルメットとか!
漆黒のごっついアーマーとか!
体を覆うでっかいマントとか!
見た目だって……!
見た目は……まあ、
まあその、どこぞのコスプレみたいだけども!
ちらりと彼──ヤンの方を盗み見る。
よれよれというか、こっちはこっちで普通というか。
ただの洗いざらしのシャツにカットオフジーンズ。
それだけっちゃそれだけ。
でもそうだな、普通のオトナなら、やっぱりこれくらいの方が──
にゃーーーー!
違う、違うから!
わっはっは!
「何?」
「ううん、ううん! 別に! べっつにい!」
とにかく全否定。思い切り全否定しておく。
うわー、なんだこれー。
もしかして、この体に引っ張られてる?
リングのはまった左手を見る。
ホントに自然に、そこにしていた。
まるで当たり前のように。
いやむしろそれを願うように。
心の底から渇望するように。
待ち望んでいたかのように。
「……ちょっと、きついとか?」
じっとリングを見ているわたしに、少し心配そうなヤンの声。
「リング? ううん、全然! だって魔法の指輪でしょこれ! だから指に合わせて勝手にサイズも──」
「……やっぱりわかるんだ」
彼の声から、さっきまでの浮ついた色が消える。
「──うん」
その顔から逃げるように頷く。
「そっか、わかっちゃうのか」
「ごめん」
「なんで謝る?」
「だって」
「だったらこっちこそごめん、だ」
「なんで?」
「きみを──きみに彼女を、シアを重ねてた。勝手に」
言って、自分の左手からリングを外し、改めて右の人差し指にはめる。
「きみも無理して合わせなくていい」
「でも」
「いるんだろ、きみにも。大切な人」
「どうして?」
「なんとなく。でもオレのこのカンはよく当たるんだ」
「……わかったよ」
左手薬指のリングを抜く。
ちくっと、心が鳴った。
まる心の中で誰かが小さく声を上げたような。
心の中の小さな女の子が、いやいやと首を振っているような。
でも──外す。
外して、ちょっと迷って。
結局右手の薬指にそれをはめる。
「おっと、来たか」
キンキーン、と鋭いベルの音がして、1両だけの路面電車が──ここでは「魔導軌道車」というらしい──がやって来た。
「そういえばどこ行くの、わたしたち?」
ヤンが上げかけた左手を降ろして、あらためて右手を上げる。
その指にはめたリングが、一瞬きらりと輝く。
まるでそれを見届けたかのように減速する車両。
「知ってるんじゃないのか?」
車両の方を見たまま、ヤン。
「……帝星宮?」
とそこで、わたしたちしかない停留所に車両が停まる。
赤い車両の、その蛇腹式の扉が開く。
一段高い車両内にいる制服姿の青年が、わたしたちの姿を見下ろすようにして一瞬眉を顰める。
でもすぐに仕事と割り切った声で、
「本日はすべての車両が帝星宮行きの特別便です。乗車するには正式な招待状か、御身分を確認するための徽章の提示が必要になりますが──」
「これで」
ヤンがリングを見せる。
彼に目線で促されて、わたしも右手のそれを見せる。
「あ、はい。ありがとうございます! 段差にお気をつけて!」
その若い車掌さんは、身を引いてヤンに道を譲る。
彼が乗り込むと、また少し身を乗り出すようにして、
「どうぞ」
「あ、どうも」
差し出された白手袋の手をとって、わたしもステップを上がる。
全面木張りの車内は、ちょっと濃い目の甘い香りがした。
背もたれのある二人掛けの椅子が、左右に一列ずつ並んでいる。
今はすべて空席で、誰も乗っていなかった。
先に入ったヤンはさっさと最後尾まで行って、そこにある座席の真ん中にどさっと座る。
いたよなクラス旅行でも。
真っ先に最後列の座席に陣取る男子連中とか。
小さく笑うと、わたしは最前列の、外が良く見える座席に腰を下ろす。
「あ、あの、いいんですか?」
どこか困ったように、わたしと後席のヤンを見比べるように頭を振る青年車掌さん。
「はい」
前を向いたまま、わたし。
「ええと──発車よろし、どうぞ!」
「発車しまーす!」
車掌さんの合図に運転士さんが応える。
またあのキンキーン! というベルの音が鳴り、車両が動き出す。
わたしは改めて手元のリングを見た。
そか、これがあれば、クロウくんたちとも一緒にこの特別便に乗れたかも。
もっともわたしを含めて全員が帝都初体験だし、帝星宮行きもその場で決めた話だから、こんなものがあるなんて知りようもなかったけど。
複数のルートを用意するのはゲームのお約束だから、歩きとこの特別便のどちらを選ぶかで、物語が分岐して別のクエストが始まることになってるとか。
たとえば歩けば賊(刺使徒)に襲われるけど、これに乗ればそれを回避できるとか。
つまりわたしは、ひとりで(というか「わたし」と「ユナキ」で)一度に二つのルートを攻略してることになる?
効率的っちゃ効率的……なのかな?
てかこれ、ちゃんと第二章のシナリオ通りなんだろか?
知らないうちに変なアドリブかましたりしてない?
あの謎の彼との恋愛フラグとか……ぎゃー。
どうにか悲鳴をこらえる。
「次はレアルセア大学第二門前。レアルセア魔導大学第二門前です──」
わたしのそんな心の自爆発言など聞こえないかのように(聞こえてたまるか)、車掌くんが次の停車場を告げる。
その声を聴き流しつつ、心を落ち着けるように、改めて車窓を流れる街並みへと目を向ける。
見知らぬ街。
見知らぬ看板。その文字。
例によって何が書いてあるのかさっぱりだけど。
でもたまに掲げられている絵記号入りの看板──ベッドとか、交差する剣とか、丸底フラスコとか──で、なんの店かはだいたいわかる。
いくらこの世界がリアル寄りとはいえ、やっぱりそこはゲーム、というところか。
やがて歩道に並んでいたお店がなくなって、ずっと壁が続くようになった。
どうやらなんとか大学のあたりに来たらしい。
大学、か。
もし受験するとしたら、やっぱり文字を知らないとだめだろうなあ。
じゃないと試験問題すら読めないし。
どんな問題が出るんだろう。
てかあの大学ってどれくらいのレベル?
いやそもそも──魔法の大学って、
「魔法の大学って、どんな勉強してるんだろ……」
「あそこでは魔法は教えてないですよ」
思わず声に出ていたそれが聞こえちゃったらしい。
ふと見ると、横にあの青年車掌が立っていた。
「あ、お邪魔でしたか?」
「いいえ──ていうか、魔法を教えてないんですか?」
「はい。よく誤解されるんですけど、レアルセアが扱うのは『奇跡』の力──『星竜の贈り物』ですから!」
それはちょっと誇らしげに。
「実は自分、あの大学の卒業生で、といっても奇跡考古学なんて、おまけみたいな学部で……」
「おっほん、ほん!」
「あ──失礼しました!」
運転手さんの咳払いで、そそくさと車両中央部の扉前に戻る。
そこが定位置らしい。
「奇跡、か」
それもドラゴンの──星竜からの贈り物って。
ああいや、「あずるーす」だったっけ?
その奇跡の力──って?
新しい魔法か何か?
あーなんかもうごっちゃごちゃだな。
ここで例のウィンドウ開いて用語解説とか読むのもアレだし。
ああスマホがあれば一発で調べられるのに。
そういえばずいぶん長く自分のスマホ触ってない気がする。
そいや今月の支払いは……そっかまだ月初めだったっけか。
でもなんか会社とかからヤバイ知らせとか来てないだろな?
うわこっわ!
なんかもうこっわ!
こんな都電もどきに乗って、のんびり風景見てる場合ではないのでは?
そもそもリアルじゃ今、何時なんだろ?
いや、この第二章時点のリアル世界は、わたしのいた時間線(?)からしたら、だいたい2年前の過去らしいから……ああああ。
だめだ。ひとりで考えててもだめだ!
混乱するだけだ!
誰でもいい、相談したい!
横目に、最後列の方を見る。
……ちらり。
「……」
ちらちらり。
「…………」
ちらちら、ちら──
「ああ──ったく!」
最後列の席からヤンが立ち上がる。
揺れる車内をものもとせず、ずんずん歩いてくる。
「あ、お降りになります──か?」
扉前の車掌くんを素通りして、わたしの席の横に来る。
「えー、レアルセア大学前、通過でーす……次は──」
無言のまま、わたしの隣にどすん、と腰を下ろすヤン。
前を向いたまま、ぐっと腕組み。
「えっ、と……?」
「帝星宮は、次の次だ」
まだまだ前を向いたまま、
「もうあんまり時間がない。聞きたいことがあるなら、さっさと言ってくれ!」
「あー……」
言いかけて、でもわたしも前を向く。
「もう、いいや」
「はああああーーーー!!???」
「ちょっと、うるさいよ?」
「誰のせいだ! おいシアおまえな──!」
「いいの、ほんとに」
それは事実。
なんか彼が隣に座ったとたん、
ヤンが隣に座ってくれたとたん、
心にじわじわ広がっていた不安がきれいさっぱり払われてしまった。
まるでそれが気のせいだったかのように。
「隣にいてくれるだけで、いい」
「え……そっか?」
ちょっと戸惑った声で、けど相変わらずむすっとした顔で、
「なら早く言えよ!」
「さっさと『番長席』へ直行したのはどこの誰でしったっけね」
「ばんちょーせき?」
アドリブで思いついたその言葉に、自分で笑ってしまう。
だってそこでふんぞり返っていた彼にぴったりのネーミングだったから。
「何勝手に笑ってんだ」
「別に一緒に笑えばいいじゃん」
「おかしくもないのに笑えるか」
「ふとんがふっとんだ!」
「──は?」
「おかしくない? ギャグ。だじゃれ。ふとんがふっとんだ! いぬがいぬ! ねこがニャー!」
「最後はだじゃれでもなんでもないだろ!」
「だね。はいじゃあ次はそっちの番」
「え? あ? なんだそれ!?」
「何かないの? あれー何も思いつかないんだ?」
「んだと! い、いきなりだから! 待てちょっと待て、あー、」
わたしはこらえきれず、ぷーっと噴き出す。
「あーまた勝手に笑う! こっちはまだ何も言ってないだろ!」
「じゃあ早く言って。待ってるから──っぷ」
「待ってねーだろが! 笑った笑ったろ今!」
そんな二人を乗せて、帝都の街を一両だけの列車は走ってゆくのでした。
──なんてね?
次回予告!
お互いのことはさておき、
二人そろって遅刻寸前で立太子の式典へ!
そこで始まる古の儀式──って、
え、これってお芝居?
しかも役者はみんな、わたしの
知り合いや仲間だち?
──はい? またデジャブだって?
はっはーお客さん、冗談は困りますよ!
って──あ? ああ!!??
なぜだ、前回からほとんど
何も進んでないぞ!?
「ラグナ・リリティア編」はどこだ!?
おーいラグナさん、
リリティアさん、お呼びですよー!
ってだからそれ誰!?( ̄▽ ̄;))
お楽しみにwwww~




