5.瞬殺……ですか?(ゲーム終了まであと25日)
──それは広い広い青空の下で。
生まれたばかりの子どもを抱くわたし。
その隣に来て、いないないばーをするあなた。
それは夢。
これは幻想。
これはゲーム。
だけど。
それでも。
ここからはじまる。
それをめざして。
さあ、今。
☆
思いきってスマホ画面のログインボタンを押した瞬間──
一瞬、頭の中が真っ白けになった。
次の瞬間。
気がついたわたしは、ひとり崩れかけた石造りの建物(聖堂?)の中に立っていた。
わけがわからない。
何が起きた?
わすかに苔むすにおいのする、ひんやりした空気。
見上げれば、半分崩れ落ちた屋根の向こう、青い空に流れる白い雲。
かすかに聞こえるあれは、鳥の声?
どこなの、ここは?
なんなの、これは。
斎場は? 柩はどこ?
ゲームは? 『ガルドアース・ウォーテイル』は?
もう始まったの?
この重たげな黒髪に丸眼鏡(+石製の大剣持ち)の「女の子」は誰?
わたし?
どうして鏡もないのにその姿が「見える」の?
てか、うわあこれが「わたし」?
大きさの割にまったく重さを感じない石の剣を手にしたまま、その場でくるりっと一回転。
羽織った真っ白なマントと一緒に、制服風のプリーツスカートがふわりと宙を舞う。
スカートからまっすぐのびる細い脚には、膝上まで覆うこっついブーツ(もったいない!)。
一方マントの下は、普通に長そでシャツと、見慣れた赤いリボン。
あと弓道で使うような胸当てをつけている。一応防具ってことか。
左右の二の腕にも、こちらは剣道部みたいな防具──籠手? をはめている。
デザイン的にはシンプル。防具としてはちょっと華奢な印象かも。
けどこの手のゲームの初期装備としては、まあこんなものか。
それよりも、丸眼鏡に三つ編みお下げなんて、まるっきり高校時代のわたしだけど。
でも違う。全然違う!
やばいこの子可愛い!
髪つっやつや!
あと若っ!
わたしめっちゃ若っ!
やっぱりあの絵師さんすごい!
ええとなんていったっけ、神? 神絵師!?
あの歳矢だって魔王皇帝になったんだし。
今は本当に神さまになってたりして──いやいや!
「ダメだ不謹慎だぞわたし!」
でもでも今どきのゲームってすごいな!
スマホにタッチしただけで、ゲーム世界に入り込めるんだ!
「……なんか違う気もするけど。ま、いっか!」
なんだろう、体が若いと心も軽くなる気がする。
……知らんうちにそんなに年取ってたのかわたし。
まだ二八歳なんだけどなあ。
でもこのくらいの子から見たら、やっぱりじゅうぶん「おばさん」か?
戸籍上はすでにバツイチだし……
うわあ……
「いやいやいや、だから今は現実は忘れろわたし!」
とにかくゲームは始まったらしい。
だったら後はもう行動あるのみ。
待ってて歳矢!
「でも……次は何をしたらいいんだろ?」
再びくるりと体を回して、周りを見渡してみる。
「──剣?」
ひびだらけの床に、剣が突き立てられている。
それも一本だけじゃない。
わたしを取り囲むように、何本も。
精緻な装飾の施された青い鞘に収まる、大きな剣。
七つの宝石が光る赤い鞘を纏った、細身の剣。
……いや、長剣だけじゃない。
宙に浮いた、刀身が波のように揺らめている短剣。
わたしの背丈ほどもありそうな大きな斧。
他にも、無数と言っていい数の大剣や長剣たちが、床のあちこちに突き立っている。
それは破れた天井から落ちる陽光に包まれるように。
崩れゆく廃墟の無数の残骸に抗うように。
けれどわたしの目を引いたのは、やはりわたしの周りにある四本の剣たち。
「ふむ?」
その中でひときわ大きくて綺麗な剣の前に立つ。
試しに、その柄を握って力を籠める。
「うーん! ──だめか」
剣は地面に刺さったまま。鞘から引き抜ける気配もない。
「何か足りないってことかな?」
ゲームなら、このあたりでチュートリアル的なイベントがあってもよさそなものだけど。
いきなり「最終章」から始めたせいか、その手のイベントが発生する気配はまったくない。
他の剣や斧も試してみたけれど、どれも反応なし。
その場から動かすこともできない。
廃墟同然の聖堂の先を見ると、大きな扉があった。
釣り鐘型の大扉は、その半分が外れかかったように開いている。
開いた部分から差し込む陽光で、後光のように輝いている。
まるで道を示すように。導くように。
「……外に出られる?」
反応のない剣たちを残して、とりあえず大扉へと向かう。
開いているすき間から外をのぞく。
見える範囲では、ただ緩やかに起伏する草原が広がっているだけ。
「危険はなさそう? かな?」
とにかくこのままじっとしていても始まらない。
「ちょっと、出てみるか」
やばそうならすぐ戻ればいい。
そう決めて、狭いすき間に体をねじ込むようにして、その向こうへ出る。
階段状の石段を下りて、石畳の道の上に立つ。
「やっぱり、何も起きないか──」
『愚か者! 死ね!』
「はい? ──あ」
何か黒いものが目の前に現れたと思ったら、そのまま世界が真っ赤に染まって。
そして──




