49.勇者?(世界の終わりまであと22日/10)
夢は見ない。
見たこともない。
「夢見るヒト」に聞きたい。
どうやったら夢を見られるの?
─ナナセ・リーン─
前回のあらすじ!
みんなとはぐれて一人街中を走るわたしと
ごっつんこしたのは、パンを口にくわえた
空色ツインテ髪の謎少年──ゆーくんだった!
さらに迫る追手のステータスを確認すると、
え? 勇者? 勇者って!
じゃあわたし、悪者ですか!?
って、ゆーくん? ゆーくん? あれ?
あ、あなたは──!
始まります!
石灰で塗り固めたような真っ白な建物の屋上。
「ゆーくん、じゃない?」
逃げるのも忘れて、屋根の上に立ったままユナキは、
「あなた……誰?」
「我か? 我はユユリコ。ユユリコ・ウインデイル・レアルイル=アルシアハート──」
その場に立ち尽くすユナキの小脇に抱えられたまま。
それでも堂々とその名を告げる空色ツインテ髪の「謎少女」。
「ウンデイル聖王国の一の姫じゃ! 頭が高い! ひかえおろー!」
「は、──はあ?」
困惑するユナキをその頭上から見下ろすように眺めている神視点側の「わたし」も、どこにあるのかわからない頭をひねる。
空色髪のツインテ頭に金色の瞳。
セーラー風の襟のついたAラインワンピ。
その見た目は間違いなく、先にわたしが最終初からログアウトした際、一緒に現実世界の歳矢の部屋に現われた謎少年「ゆーくん」で。
あの時は、わたしの重大なネタバレ発言の後、リアル世界に出張って来たトーヤ──このがるどあ世界の魔王皇帝に転生した歳矢に連れ戻されて行った。
でもついさっき、この帝都でパンをくわえて路地から出て来た彼とぶつかって。
それからここまで一緒に逃げてきて。
それがいつのまにか、姿形はそのままに、中身だけが女の子に──「お姫さま」に変わっていた。
もう何がどうなってるんだか。
これはがるどあの──スマホゲームとしての「ガルドアース・ウォーテイル」に元からあるシナリオ?
本編第二章の物語?
それとも、リアルタイムで「わたし」が書き換えてしまっているまったく別のシナリオ?
この物語、このまま続けていいの?
「トーヤ、ユキくん……わたし、どうしたら──きゃっ!?」
あれこれ考えすぎて完全に足が止まったユナキの周りで、追ってきた「勇者レイ」の放った魔法攻撃が炸裂する。
次々飛んでくる光弾から逃れるように跳び上がるユナキ。
音を立て、白濁した煙を上げて崩壊してゆく建物の屋根を蹴って、別の建物へ。
でもユナキが着地するかしないかというタイミングで光弾が襲いかかってきて、その建物も崩れ始める。
降り注ぐ瓦礫から逃れようとする人々で周囲は大混乱。
少なからぬけが人も出ているらしい。
明らかに光弾の威力が増している。
「このままじゃ、街が……」
元研修医だったユナキとしては、とても見過ごせない光景。
けれど今は何もできない。
たかがゲーム。
これはゲームだ。
逃げ惑う人々も、瓦礫の下で埋まって苦しんでる彼らも。
すべてはただのNPC。
ただの演出でしかない──
「──ああもう!」
降り立った建物の上で、くるりを振り返る。
抱えていた「ユユリコ姫」を地面に降ろし、
「ごめん、ひとりで逃げて」
「何をゆーておる? そなた──」
「ユナキ。ユナキ・ミツヤー!」
ウィンドウを開き、インベントリから自分の武器──「生玉神剣」を選択。
のばした手の先に光が集まり、石で出来た大剣が出現する。
「そなた、その剣は──!」
「いいから逃げて! 早く!」
できたら下で要救助者の手当てをお願いしたいところだけど、見た目10歳くらいのお姫さまには荷が勝ちすぎる。
むしろこの騒動から遠ざけるのが第一だろう。
鞘に納めたまま両手持ちした剣を、体を横にして構える。
そのまま迫る光弾に狙いを定め──
「っらあああーーー!」
思い切り振り抜く!
かきーん! と鋭い音がして、打ち返された光弾が青空に向かって飛んでゆく。
「これでも小学生の頃は7番サードだったんだから!」
野球好きの父さんが監督をしていた万年団員不足の少年野球チームの助っ人として、試合の時はたいてい呼び出されていた。
「七番……微妙なポジションだな」
飛んでくる光弾を次々打ち返すわたしの横で、まるで監督のように腕組みして仁王立ちしているユユリコ姫がゆっくりと首を振る。
「まだいたんですか! って野球知ってる!?」
ユナキに向かって顔を上げたユユリコ姫がニヤリと笑う。
「知らん! なんとなく言ってみただけだ!」
むしろ堂々と胸を張って告げる。
「ほれ、王族の姫だって、大事にされるのはせいぜい二の姫くらいまで。七姫ともなればその扱いはかなり雑になろう?」
「なるほど……じゃなくて、ほんと危ないからここ!」
「そうか? でも敵の攻撃は全部そなたが防いでおるではないか」
「そりゃ! まあ! そうですけど! うらあ!」
かきーん、かきーん、かきーん!
確かにユナキは、さっきから飛んで来るすべての光弾を打ち返してる。
彼女たちのいる建物にはまだ一発も命中していない。
なぜか今のユナキには、飛んで来る光弾の「球筋」がはっきり見えていた。
手元ではむしろ止まって見えるほど。
そんな球を打ち返すだけなら楽勝だ。
「イクタマブレード」は腕の一部みたいに扱いやすいし、体もよく動く。
これもレベル115の恩恵か。
「下手に逃げるより、そなたの横が一番安全! であろ?」
「そりゃまあ、そうですが! ──が!」
「てかそなた、一応魔法士なのであろ? なら防護魔法のひとつも使えんのか?」
「あーそういうのあったような! 気が!」
光弾を打ち返しつつ、思い出す。
うん。確かにあった。
あの魔剣士チハヤ・ルース──チハヤくんとの一戦で使ったような気がする。
「けどそういのはユキくんに任せてたから──!」
「ゆきくん?」
「ええと彼は──ああもうキリないなこれ! ならこいつで! どうだ!」
しつこく光弾を放ってくる「勇者」に狙いを定め打ち返す。
できるかどうかわからなかったが、打ち返された光弾はまっすぐ彼の方へ飛んで行く。
これにはさすがに驚いたのか、一瞬光弾の攻撃が止まった。
その機を逃さず、ユナキが声を上げる。
「あなた! レイさんだっけ!? 仮にも勇者なら、もうこんなこと止めて!」
もうほとんど怒鳴り声で、
「これ以上街の人たちを巻き込まないで!」
そして剣をインベントリへ戻す。
「そなた何を──!」
さすがに驚くユユリコ姫。
ユナキはそれでも、数棟離れた建物の上に立つ青年剣士へ向かって、
「わたしはこれから、治療士として下の人たちを助けに行く! だから邪魔しないで!」
返事はない。
でも光弾も来ない。
ユナキはまたユユリコ姫を小脇に抱えると、そのまま建物から飛び降りた。
「うひょ~ん!」
着地と同時、思わずゆーくんのような声を上げたユユリコ姫を地面に降ろすと、そのまま瓦礫となった建物の方へ走ってゆく。
「治療士です! けが人は!?」
それなりに人が集まっているが、ほとんどの人は、ただ茫然と瓦礫を眺めているだけだった。
そんな人々をかき分けて、瓦礫のすぐそばまで行くユナキ。
「はいそこのあなたとあなた! ちょっと手を貸してこの人を瓦礫から引きずり出すから! そこのあなた水をありったけ用意して! できればお酒も一緒に! あなたは毛布か何か、地面に敷くものを! そっちのあなたとあなたも添え木や包帯代わりになるものを探してきて! あとできるだけ清潔な布もありったけ持ってくる! さあほら早く! 動け動け!」
人はこんな時、たいてい自分からは動かない。動けない。
そんな彼らを動かすには漠然と声をかけてもダメだ。
しっかり相手を決めて、きっぱり指示を出す。
それで人はやっと動き出す。
『人に助けを求める時は、ただ漠然と怒鳴ってもダメ。あなたは119番通報を、あなたはAEDを持ってきて──のように、誰に何をしてほしいかをはっきり指示する。いいですね?』
授業の一環で参加した、一般向け救急救命講習会での一幕が頭をよぎる。
それはユナキにとっては、医師の心得以前──常識レベルの基礎知識でしかない。
でもパニック寸前の現場では、何よりその基礎が大事なのだ。
「この人はもう大丈夫、そっちの広場へ。あーそこの人はまだ動かさない! そっか『キュア』だけじゃ傷口はふさがらないのか──ああその人もこっちに! 魔法は順番にかけますから!」
手を動かす治療と魔法、それに手当の順番を決めるトリアージまで同時に行う。
なにせまともに動ける医療関係者はユナキしかいない。
土曜の夜の救急外来なみに忙しい現場。
ふと見ると、ユユリコ姫が負傷者の傷に手を当てて、何かつぶやいていた。
「姫──?」
「これでも一応、基礎魔法の心得はある!」
小さな手に宿った光を、血の滲む患部へ注ぎ込むようにあてがいながら、
「そなたのようにはいかぬが、痛みを和らげるくらいならできる──邪魔か?」
そのあまりにも真剣な顔に、逆にユナキの表情がふっと緩む。
「……いいえ」
周りに飛ばす怒声半分の指示とはまったく違う、優しい声で、
「でも無理はダメです。あとほんのちょっとでも迷ったら必ずわたしを呼んで。いいですね?」
「わかった! こちらはまかせるがよい!」
こちらも笑顔になって、再び魔法に集中する。
ユナキもまた、治療と魔法を再開する。
そんな彼女には見えていないけど、彼女を囲むように集まっている群衆から少し離れた場所に、あの「勇者レイ」がいた。
神視点の「わたし」の下で、すでに剣を鞘に納め、しかし彼女を手伝うようなことはなく、ただじっとその様子を見つめていたが、やがて意を決したようにふり返ると、そのまま歩き出す。
「このあたりにいるって話だったけど──ユナキ、おおいユナキ!」
「あ、いたいた、ほらあそこにいる!」
「おお人助けか! 感心感心!」
「他人事か! そのバカ力で瓦礫の一つでも片づけたら!?」
「今やるわい! きさまこそ治療魔法の一つくらい使えんのか!」
「これからやるとこ!」
「まあまあ二人とも、くれぐれもユナキの邪魔はするなよ!」
わいわい声をかけ合いながら、先に合流できたらしい剣士クロウくん、戦士グゲンさん、それにデミエルフの魔法使いナナセちゃんがやってくる。
彼らが横をすれ違う「勇者レイ」に気づく様子はない。
勇者の方も彼らの方を見ることなく、そのまま歩いてゆく。
やがて人が少なくなってきたあたりで、横道からすっと白装束の小柄な影が出てきた。
一瞬またあの「刺使徒」かと緊張する「わたし」をよそに、先を行く勇者の横に並ぶ。
頭をすっぽり覆うフードの左右にちょっと出っ張りがある。
もしかしたら耳かツノがあるのかも。
目深にかぶったそのフード越しに、長身の勇者を見上げるようにして顔を向ける。
ちらりと見えた口元には、まだじゅうぶん幼さが残っていた。
「よろしいのですか? レイさま?」
少年とも少女とつかない声でささやきかける。
ちょっと早口なのは、彼の行動に動揺しているせい?
その態度や小さな声は、一応周囲の人たちに気づかれない配慮か。
残念ながら「神視点」の「わたし」には丸聞こえだったけど。
「『ユユリ』には逃げられてしまったしな。これ以上は無駄だよ」
ユユリって──じゃあ彼らの目的は「ゆーくん」だったの?
でも彼は途中で「ユユリコ姫」に変わってしまった。
この連中はなぜゆーくんを狙ったのか、なぜユユリコ姫じゃだめなのか。
……まあこんなところで考えてもわかるわけないか。
改めてわたしは二人の話に集中する。
「ですが、カインさまには、なんと──」
おっとまた知らない名前が。
カイン、カイン……心のメモ帳にしっかり記入する。
「見たまま、そのままを伝えればいい。それがおまえの役目だろう、ミルル?」
それから、と言葉を続ける。
「おれもあいつも、さま呼ばわりなんかしなくていい」
「は、はい──ですが」
ちらと人だかりの方へ顔を向ける。
「あのリアルたち! こっちがNPCだって知ってるはずなのに、なんであんなこと!」
「少なくとも『ユユリコ姫』は『こちら』側の登場人物だ。他の仲間たちもな。人間なのは彼女、ユナキだけだよ」
「だとしても、そのプレイヤーさまがNPCを救う真似事なんて!」
その声には、言葉には、とてもゲームの「キャラ」とは思えない本気の怒りがあった。
「この世界ごと全部終わらせようとしてるくせに! 何を今さら──!」
「そのくらいにしておけ」
ふと立ち止まり、ぽん、とフード越しの頭に手を置く勇者レイ。
「どうせ今は連中が言うところの第二章──どの道、彼女には手が出せない。出しても無駄さ」
打って変わって優し気な口調で、諭すように、
「倒しても倒しても、何度でも平気な顔でまた蘇ってくる」
「わかっています……」
「だが最終章なら、そんなやつらでも一度で排除できる。一度倒してしまえば、もう二度とこの世界には戻れない」
「本当でしょうか、その話?」
「他でもない、連中自身がそう定めて作ったのが最終章だ。もしルールを破れば、その報いを受けるのはおれたちじゃない、彼ら自身さ──それに」
フードから手を離して、また歩き出す勇者。
「おれたちがすべきことは、その最終章に向かって、可能な限りこの『本編』をこちらの都合のいいように書き換えることだ」
横を歩く「ミルル」に向かって、ふっと笑う。
「他ならぬあのユナキの『力』を使ってな!」
「はい!」
子どもらしい元気な声で返事をするミルル。
「それにおれたちだって、リアルに好き放題されてばかりじゃない」
そんなミルルに、勇者もこくんと頷く。
「もうすぐだ。もうすぐリアルへの門が開く──リアルもゲームの別もない、すべての世界が肯定され、その存在が許される特別な場所へと至る門が」
彼の言葉にも、徐々に熱がこもってゆく。
「コミケ──コミックマーケット! そこがユナキとの真の戦いの場だ!」
例によってどこにあるかわからない「わたし」の目がしぱしぱと瞬きを繰り返す。
今、今あんたなんて言った?
コミケ?
コミケですとーーーーー!!!??
次回予告!
……って! って!
はあ? コミケ?
どうしてここでコミケ!?
てか帝星宮での立太子の式典は?
人を喰らうドラゴンの話は?
ええ? 食われるのはチハヤくんの
お母さん──?
そこまで書けるか書けるのか(^^ゞ
とりあえず乞うご期待!
お楽しみに~~~!




