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48.姫ふたり(世界の終わりまであと22日/9)

『ただ信じてる。仲間を。世界を。

 彼らの見るすべての夢を。それだけさ』

         ─クロウ・カーム─



前回のあらすじ!

 あの猫耳少女マツリちゃんの意外な正体、

 それについてもっと話をすべく宿屋を

 出たユナキ一行。

 

 でもそこで「刺使徒」たちの襲撃が!


 さらにそのどさくさで

「神視点観戦モード」の「わたし」が

 飛ばされた先の「帝星宮」にいたのは、

 え? ユキくん?

 それに開発会社の広報ミズカさん? 

 

 始まります!

 「とうわけで、まああとはよろしく、『ナキ姉』!」


 どこか最終章の廃聖堂を思わせる壮麗な室内を神視点から見下ろしている「わたし」の方を向くようにして、帝国の皇子が──ユキくんが、いらずらっぽくウインク。


 瞬間。

 わたしの視界はまたもや真っ白になって──



      ☆



「はあ。はあ、はあ──!」



 白い光が消えて目の前がクリアになった「わたし」の下で、ひとりの女の子が走っていた。


 ちらちらと後ろを気にしつつ、石造りの白っぽい建物が密集する裏道を駆け抜けてゆく。


 三つ編みロングのお下げにした黒髪を揺らせて。

 鼻先に落ちかけた丸眼鏡もそのままに。


 白いマントを翻し、膝上丈のアーマーブーツで走る彼女──「ユナキ」。


 他に人影はない。


 あの赤い髪のツインテエルフ(偽)のナナセちゃんもいない。


 先に行けとユナキたちを送り出した青年剣士クロウくんも、一緒に残った老戦士グゲンさんもいない。


 街を俯瞰する「神視点」の「わたし」にも、真下を走るユナキ(わたし)以外の人影は確認できない。


 爆発のどさくさでみんなとはぐれてしまったらしい。

 この迷宮のような街の中を、ただ必死に走り続けている。


 どこまでも続く色のない建物。

 細く長くのびる、たった一本の道。


 むやみに走っても、その先にに何があるのか。

 どこへつながっているのかもわからない。


 それは神視点にいる「わたし」でさえ見通せない、

 まるで悪夢の中をさ迷っているような……


 ──と。


「はあはあはあ! ──って、あ!」


「──はにゃ~!?」


 ごっつん! 


 突然パンをくわえて横の路地から出て来た「女の子」とぶつかる。


 密集する建物の間にあんな横道あったかな──と思う間もなく、しりもちをついたまま宙を舞う丸パンを反射的にキャッチするユナキ。


 その対面で、豪快な大の字姿になって倒れている女の子。

 特徴的な空色の長いツインテ髪が、その左右にうねるように広がっている。


 大きな金色の瞳がマンガのように渦巻いてぐるぐる回っている。


「むぎゅ~~~~ん?」


 子どもっぽいAラインの白いセーラー風ワンピース。

 冗談みたいに細い脚を覆う、細かい金の模様が入ったニーハイソックス。


 改めてよく見れば、ナナセちゃん寄りの、でも健康そうな浅黒い肌。


 それは──彼女は。


 いや、「彼」は。


「……ゆー、くん?」


「にゃ~~~~? あ、おねえ、ちゃん~?」


 間違いない、それはゆーくん──ユユリ・なんとかくんだった。


「ゆゆり・ういんでいる、です~」


 大の字になって(文字通り)ぐるぐると目を回したまま、ちょこんと頭を上げて挨拶(?)する。


 そのまま頭が地面に落ちて、ゴツン、と鈍い音。


「痛いです~?」


 大丈夫か、この子──じゃなくて。


 とにかく起き上がって「彼」のところへ行くユナキ。


 パンを持ったまま、もう一方の手で引っ張り起こす。

 ふらふら~っと、それでもなんとか立ち上がるゆーくん。


「大丈夫?」


「はあ~い」


 ゆっくりした笑顔のまま、のんびりと頷く。


 ユナキは齧りかけの丸パンを渡しながら、


「ゆーくん、こんなとこで何して──って、いやそれどころじゃないか!」


 焦ったように周りを見回すユナキ。


 つられて「わたし」も街の上から周囲を見渡す。


「あ……!」


 ユナキ(わたし)が声を上げる。


 道の先に、誰かいる。


 一見して長身痩躯の青年姿。

 

 ツンツン金髪のトップに襟足を長く残したウルフカット。


 どこかクロウくんのそれに似た真っ白なアーマースーツ。

 背中に翻る真っ赤なマント。

 

 右手の側で地面に突き刺すように立てた大きな剣(抜き身)。

 その柄に軽く手をやって。


 濁りのない真っ青な瞳が、真っすぐユナキたちを見つめている。


 それはどこか彼女たちを憂いているような、憐れむような。


 まるで彼こそが、この物語の主人公であるかのような。


「悪いけど、ここから先へは行かせられない」


 クロウくんよりもちょっと年上な声で、淡々と、でもはっきりと告げる。


 立てていた大剣を両手で握り直し、構える。


「ユナキ──きみの『物語』は、ここで終わりにさせてもらう」


 つい、とその足先が前に出て──と思った直後には、もうユナキの目の前にいて、その大剣を頭上高く振り上げていた。


「真銘解放(マナ・レヴォーション)・零式(ゼルド)──真(シン・)星竜殺し(ドラグセイヴァー)・アウルース!」


 どこかで聞いたような技名と共に振り下ろされる大剣──「アウルース」。

 

 すべてを光の渦に巻き込んで、瞬殺必至の斬撃が降りかかる!


「抜刀解放式(リベレーション)・青(ブルー)! 固有剣術スキルソード『絶対(セイグリッド)領域(ギャップ)!」


 けれどゆーくんの口から放たれたその言葉が、それと共にユナキたちの前に広がった青い円陣が、いともあっさりとその絶死の魔光を跳ね返す。


 それはやはり以前見た光景──


 リアル世界で、歳矢(としや)のアパートの部屋の前で。

 歳矢──魔王皇帝トーヤの部下、女魔将リデラーの放った大技を、やはりそうして防いでいた。


 後で情報ウィンドウで調べたら、それは(ラスボス級の瞬殺技を含む)すべての攻撃を完全に無効化できる特別な奥義だった。

 

 チハヤくんの七星剣を入手したことで「ユナキ」が学習した最終奥義。


 どうやらこの世界に存在する聖剣には、それぞれ主人公だけが取得できるそうした「秘技」があるらしい。


 けれど──


 いったん後方へ下がる「彼」の顔には、驚きも悔しさもない。


 今度はその大剣をまっすくこちらへ突き付けるようにして、


「ウェイク!」


 その声に合わせて、宙に突き立てた切っ先を中心にまるで雪の結晶が広がるように出現する光の円陣。


「魔法陣──?」


「ナキお姉ちゃ~ん、逃げて~!」


「そっか!」 


 ぼーっと見てる場合じゃなかった。

 先の「絶対領域」が使えるのは一回のログインで一度だけ。


 次の攻撃は防げない!


 三つ編みを払うようにくるりと身をひるがえし、とにかくダッシュ!


「にゃ~~~~!」


 一緒に走り出すゆーくん。

 けど──


「おっそ! ええい!」


 ちょっと戻ってゆーくんの体を小脇に抱え、再ダッシュ!


「我が命に従いその身を炎で焼き尽くせ! ブレイク!」


 その言葉と同時、ユナキの背後で無名の彼が大剣で光の円陣をぶっ叩く!


 弾けるように割れ飛ぶ光の欠片の中から、真っ赤な炎に包まれたドラゴンの首が飛び出す。


 大きく開かれたその口がユナキの背中に迫る。


 それは「わたし」たちが知らないはずの魔法。

 別の世界、別のゲームで編まれた違法の技。


 異世界のルールでこの世界のドラゴンを縛り使役する掟破りの禁術。


 ゆえに「この世界(ガルドアース)」では、たとえ「絶対領域」であっても防げない禁断(バウンダリー)呪法(ブレイカー)。


 ──が。


「えっ──!?」


「何っ!?」


 禁呪を放たれた方も、放った方も同時に声を上げる。


 ユナキが思わず振り回した手が、その手の軌跡が描いた青い光のラインが、まさにその「炎の首」を両断する。


 真っ二つになった首は、そのまま溶けるように宙に消えてゆく。


「消えた……?」


 思わずその場に立ち止まるユナキ。


 一方の腕にゆーくんを抱えたまま、じっとその手を見る。


 その手、その指、その薬指にはまっているリングを──


「これが?」


 銀の幅広リング。がるどあ周年記念アイテム。

 その中心にはめ込まれた黒曜石が、残り香のように青い輝きを残していた。


 異世界の邪法には異世界のアイテムってわけか──と、神視点の「わたし」は納得する。

 

 それは同時に「ユナキ」の思考でもある。


 いずれにせよ、ここでユナキに選べるオプションはひとつしかない。


「逃げるよ!」


「いえすめむ~!」


 すたこらっさと走り出す。


 なまじユナキよりも邪法に通じてるぶん、それが通じなかった衝撃の大きさに一歩遅れを取った謎の無名戦士も、はっとして走り出す。


「来た来た、来たーーー!」


 ちらっと背後を見やったユナキが、またすぐ顔を戻してさらに足を速める。

 

 けれどいつの間にか、周りには人の姿が戻っていた。


「わ、わ、どいてどいてー! すみませーん!」


 宿屋街の朝は早い。

 すでに多くの人が外に出ている。

 

 それぞれ店を開く準備をしたり、旅支度で挨拶を交わしていたり。


 そんな中、小さいとはいえ人ひとり小脇に抱えて全力疾走するのはやはり厳しい。


 それは追っ手も同じ──と思ったら、あっちは建物の屋根の上を飛び石伝いにジャンプしながら迫ってくる。


「うわやっばー、って!」


 突然、先の角から大荷物を載せた台車が飛び出てきた。

 

 ぶつかる──と思った次の瞬間、でもユナキの体は軽やかに宙を舞っていた。


 無我夢中でジャンプしたらしい。


「けど、え? わたしもしかして飛べる!?」


 そんなことはなく、徐々に高度が落ちてゆく。


 足元の建物の屋根に着地するや、背後の追手を確認する間もなく再度ジャンプ!


「お、おー! すご!」


 体が軽い、軽い!


 飛べはしないが、子ども(ゆーくん)ひとり抱えたままでも、そうして屋根の上を飛び回るくらいは楽勝でできそうだった。


 考えてみれば、この体は最終章用スペックで、レベルも上限解放前のカンストである115。


 本編第二章あたりのプレイヤーキャラとしては規格外の「性能」を持っているのだ。


 高位のバトル用スキルこそ未収得で使えないけど、走る、跳ぶ、といった基本スペックだってしっかりアップしている。


 まだまだがるどあ初心者のわたしには、下手なスキルよりその方がずっとありがたい。


 足元を行き交う人々の頭上を、屋根から屋根へと飛び跳ねる。


 対して街の人たちが、そんなユナキたちに気づく様子はない。

 みんな目の前のことに気を取られていて、空を見上げる余裕すらないらしい。


 それはそれで都合がいいのか悪いのか。


 とにかく追手の攻撃には巻き込まないようにしないと──とその一心でひらすら逃げる。


 その追手も、ユナキの予想外の逃げ足についてくるだけで手いっぱいなのか、魔法などで攻撃してくる気配はない。


「なんかわたし、すごい?」


「すごいです~ぱちぱち~!」


 体ごと抱えられているゆーくが、拍手代わりに口で言う。


「よし、じゃあこのまま──って、あれ?」


 高い建物を越える何度目かの大ジャンプの時、街の中心方向に何か大きな建物があることに気づいた。


 放射状に広がる大通りの中心で、八方に広がる屋根を持つ多角形の建築物。

 その隣には、大きなドーム状の建物がくっついている。


 どこかリアル世界の武士道館と東都ドームシティが合体したようにも見える建物群。


「もしかして、あれが帝星宮ってやつ?」


「です~!」


 ユナキのつぶやきを、ゆーくんが肯定する。


 これも後で知ったことだけど、この帝都は、かつて空から降って来た巨大星竜が落ちて出来たクレーターの中に作られていた。


 天然の城塞ともいうべきクレーターの壁に囲まれたすり鉢状の魔導都市。


 そのせいか、壁近くにある宿屋街からは、ちょっとジャンプするだけでその中心部が一望できた。


 今はバラバラになってしまった「仲間たち」と目指していた目的地。


 まだ距離はあるけれど、このまま行けないこともなさそうだった。


 クロウくんたちがどこにいるのかはわからない。

 でもあの帝星宮へ向かっていれば、その途中で会えるかもしれない。


 スマホもネットもないこの世界では、とにかく行ってみるしかない。


 異世界の魔法なんていうトンデモ技を持つ「敵」を引き連れたまま帝都の中心部へ向かうのはどうかと一瞬迷う。


 けれど逆に、そこなら警備も厳しいだろうし、うまくすれば追い払ってもらえるかもしれない。


 その前に自分が追い払われる可能性もなくはないけど。

 とはいえそれも大丈夫だろうと「わたし」は結論する。

 

 眼下の「ユナキ」は知らないかもだけど、「わたし」の方は「一方その頃」視点で、あの帝星宮には「ユート皇子(ユキくん)」と「ミズス祭司長(ミズカさん)」がいることをすでに知っている。


 もし彼らが本当にユキくんとミズカさんなら、わたしを──「ユナキ」を無下に追い払うことはしないだろう。


 この期に及んで「いない振り」をしても始まらないだろうし。


 会えば会ったでどんな話が飛び出すか不安でもあったけど、他に行けそうな場所もないし。


「行ってみるしかない、か! ──うわっと!」


 奥義でも炎の首でもない「普通」の光弾がいくつか飛んできて、屋根の上で爆発する。

 着地の瞬間を狙われたらしい。


「あっぶなー! でもこんなもんか」


 試しに開いたウィンドウに表示されたHPゲージはほとんど減っていない。


 レベル115はだてじゃない。

 大した防具も防御用の魔法もないけど、通常攻撃くらいじゃびくともしない。


 とそこで、バトルモード表示になっているウィンドウに、「敵キャラ」の情報も表示されていることに気がついた。


 屋根の上を飛び回りつつ確認する。



 勇者レイ・ストーン/SSR(+☆4)

 LV 115(+☆2)

 属性 光+火+?

 HP 392000/392000



 レベルだけなら、今のユナキと同等って感じ?


「──って?」


 ユナキが声を上げる。

 同時に「わたし」も気がついた。


「勇者? 勇者って、──きゃっ!」


 注意がそれた瞬間を狙ったかのような、光弾の集中攻撃。


 威力こそないが、こちらの動きを妨害するにはじゅうぶん効果的な攻撃だった。


 それでも強引にジャンプして、敵──「勇者レイ・ストーン」と距離ををる。


「ちょっとヤバかったかな……でも勇者って? ねえ、ゆーくん──」


「ゆーくん? 誰じゃ、それ?」


「え?」


 小脇に抱えた空色ツインテが、まるで初対面の相手を見るような目をユナキへと向けていた。


 同じ髪型、同じ顔。同じ体──でも。


 ユナキにもわかる。


「ゆーくん、じゃない?」


 跳ぶのも忘れ、屋根の上に立ったままユナキは、


「あなた、誰?」


「我か? 我はユユリコ。ユユリコ・ウインデイル・レアルイル=アルシアハート──」


 ユナキに抱えられたまま、それでも堂々とその名を告げる。


「ウンデイル聖王国の一の姫じゃ! 頭が高い! ひかえおろー!」

 

 は、──はあ?

次回予告!

 これもどうにかタイトル回収w?

 なんとか出ましたユユリコ姫。


 けど出ただけww

 さてその活躍は?


 てかそれ以前に、わたしの敵は

 どうやら「勇者」らしいんですが!


 何がどうなる以下次回!

 (ヤバいことは全部先送りか(^^;!)


 お楽しみにーーーー!

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