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47.帝星宮へ(世界の終わりまであと22日/8)

『ええと、ええと、

 ここ恋は夢! 愛は現実!……みたいな?』

          ーユナキ・ミツヤーー



前回のあらすじ!

 集った四人みんなが

 あのがるどあ記念リングをはめて、

 これで一応「仲間」になった!

 ……のかな?


 とりあえずの目的地も、この帝都の

 中心、「帝星宮」に決まり、さあ出発!

 ……というところで。


 え? あの猫耳ちゃん、お姫さまだったの!?

 しかもドラゴンを操れるって──!


 始まります!


「え、ドラゴン!?──むぎゅ!」


「ユナキ! 声大きい!」


 隣の「偽(デミ)エルフ」の女の子──ナナセちゃんが、真っ赤な髪のツインテを翻しつつ「ユナキ」の口に手を当てる。


 食堂の天井のあたりからその様子を見下ろすようにして眺めている「わたし」──がるどあ本編世界(最終章から見れば過去の世界)では、こうしてその世界の外から眺めている「わたし」と、その場にいる「ユナキ」とに分かれてしまうらしい──も、思わず口に手をやりそうになる(っても実体なんてないんだけれど)。


「ご、ごめん……」


「そうだな。ここはその手の話をするにはちょっと不向きかも」


 長く青い髪を頭の後ろでまとめた、いかにも青年剣士といった風のクロウくんも、朝の食事時でごった返す宿屋の食堂をぐるっと見回して、


「とにかく宿(ここ)を出よう。細かい話はそれからだ」


「部屋の中じゃだめなの?」


 ナナセちゃんから解放されたユナキが、天井の方を指さす。

 一瞬ぎくりとする「わたし」。


 そか、宿の部屋は二階から上にあったんだっけ。


「安宿だからねえ」


 目を閉じて左右に首を振るクロウくんに、その横の巨漢の老戦士グゲンさんも、


「帝都くんだりまで来てこんな安宿に泊まるような連中は、たいてい何か腹に抱えてるもんだ。宿屋の主人にとっちゃおいしい情報源だわな」


「わたしたち盗み聞きされてる!?」


 思わず周りを見回すユナキ。


「だとしたらもう手遅れだって──大丈夫。ここはそこまでひどくはなさそうだし」


「そうなの?」


 ヤバイ宿とそれよりはマシな宿の区別なんてつかないユナキには、それでもとりあえず頷くしかない。


「さてと、じゃあもう少し話がしやすい場所へ行こうか!」


 各々自分なりの手荷物を持って、ぞろぞろと食堂から出てゆく。

 

 とはいえ身に着けているのは短剣や小袋、革製品らしい小物入れくらい。

 他に荷物といえば、せいぜい背負い式のリュックひとつ。

 

 とてもその中にバトル用のアーマーやら武具の類などが入ってるとは思えない。


 それらはどこにあるんだろう?


 ちなみにユナキのそれは全部、指でつつくと出てくる半透明のウィンドウ内にあるインベントリの中に入れてある。

 

 なので彼女自身ほとんど手ぶら。

 いつもの三つ編みロングのお下げに白マント。

 足には(他にないので)軽装アーマーブーツ。


 クロウくんたちのような腰の短剣も持っていないし、旅行鞄ひとつ下げていない。


 それでも誰も気にしない。


 まあいくらリアル寄りとはいえ、そのあたりを含めてやっぱりここは「ゲーム世界」ということか。

 

 前をゆく三人に続いて宿屋を出る。


「うわあ……ってほどでもないか?」


 帝都というからには、それこそゲーム世界のような、中世から近代までがごっちゃ混ぜになった壮麗な街並みを期待していたんだけど。


 せめてヴェニスとかヴェネツィアとか(同じか)。


 目の前にあるのは、石造りの建物がみっしりと並ぶ、イタリアあたりのちょっと古い裏路地街といった感じ(大学時代に一度だけ金持ちの女友達と行ったことがある)。


 鼻に落ちた丸眼鏡を戻しつつ、知ってるような知らないような街並みの中を、クロウくんを先頭にさくさく歩いてゆくユナキ。


 建物の屋根で羽を休めてる鳥の視点からそんなユナキの背中を追いつつ、「わたし」はひとり頷く。


 ──繋がった。


 いやまだまだぜんぜん謎だけど。

 

 でもあのリアル世界に出現した(さらに最終章でも「ユナキ(わたし)」たちを瞬殺してくれた)ドラゴンは、きっと彼女──猫耳姫マツリちゃんの「ドラゴンを操る力」が関わってることに間違いない。


 帝国で一番小さな王国でありながら、「帝国最強」と呼ばれるミラメル湖畔国の王族だけが使えるという、「星竜使い(アズル・アーシア)」の力が。


 だとしても、なぜゲーム世界のドラゴンが現実の世界に出現したのか。


 一緒にあの場に現われたマツリちゃん(だったとして)──ドラゴンを操れるはずの猫耳姫が、なぜあんなに慌ててわたしたちに逃げろと警告してきたのか。


 ひとつに答えが出たような気がしても、それがさらなる謎を呼び込んでしまう。

 やっぱりひとりで考えるには限界がありすぎる。


 ほんと、「たかがゲーム」のくせに、いろいろ細かすぎませんかこのがるどあ──「ガルドアース・ウォーテイル」は。


 いやむしろ「雑」なのか?

 面倒な設定は全部後回しにして最後はサービス終了ってことでうやむやにする気だったり?

 

 加えて「わたし」のゲーム改変能力(?)のせいでさらに混乱してるとか?


 だからこんなに入り組んでてわかりにくいとか?


 じゃあ半分はわたしのせい?

 なんかそっちの方がありそうで怖い。


 それともわたしが知らないだけで、今どきのスマホゲームってみんなこんな感じなのか?


 神視点で勝手に宙をついてゆくわたしの下でも、気がつくとクロウくんたちが話をしていた。


 わたしも改めて「ユナキ」の声に集中する。


「──なら式典に来るとしたらやっぱり、その四の姫(マツリちゃん)ってことになるのかな?」


「さあ」


 赤いツインテを左右に揺らしつつ、わたしのすぐ前をゆくナナセちゃんが、背を向けたままひょいっと手を上げる。


「正式発表みたいなものはないの?」


「あるわよ」


「じゃあそれを見ればわかるんじゃ」


「ううん」


 ユナキの質問に、すべてワンフレーズで答えるナナセちゃん。

 宿の部屋で二人だけのときは、もっと普通に説明とかしてくれたのに。


「立太子の式典があるぞとか、それに合わせて執り行われる葬送竜の儀とか、そのこと自体は布告されるけど、具体的にどこのお姫さまが来て何をするとか、そこまでは知らされないのが普通かな」


 先頭で笑いながら、ナナセちゃんのフォローをするクロウくん。


 確かにリアル世界の現代とは違って、このゲーム世界の時代だと、いわゆる王侯貴族と一般庶民との間には、もっと大きな隔絶、断絶があるのかも……って。


「そうそうりゅう……の儀式?」


「とはいえ新しい皇太子が立つってことで、やっぱり街でもそれなりにお祭り騒ぎにはなるし、表通りはもっと飾りつけもされてて──何、ユナキちゃん?」


「いえあの、立太子の式典以外にも、何かドラゴン絡みのイベントがあるんですか?」


「だから葬送竜の儀でしょ」


「だからその内容が知りたいって──あ、ナナセちゃんも知らないんだ?」


「知ってるわよ! お上りさんのあんたじゃあるまいし!」


 へっへー食いついたぞ。

 やっとユナキの方を向いて話し出すナナセちゃん。

 

「いい? 葬送竜の儀ってのはね、要は王さまとかその一族とか、ぶっちゃけ高貴な人が死んだとき、その亡骸をドラゴンに食べさせて弔う儀式のことよ」


 一気に饒舌になるナナセちゃん。

 話せば語れる人なんだよね。


 さすが、がるどららじおんの人気パーソナリティー。

 ──って、それどころじゃない!


「ドラゴンに人を食べさせるの!?」


「話ちゃんと聞いてる? 別に生きた人間を食わせるわけじゃなくて、亡くなった人をそうして弔うの!」


「もっとも当のドラゴンさまは選り好みが激しくてな、誰でも喰らってくれるわけじゃねえ」


「食」の話題になったとたん、話に加わってくるグゲンさん。

 でも普通の食事とその儀式を一緒にしていいのか?


「ドラゴンを神聖視する帝国領だと、竜に食われて星竜の都に召されるってのは最も名誉なことなんだ」


 例によってクロウくんのフォローが入る。


「それを立太子の儀式と一緒にやるんですか?」


「別に珍しいことでもない。てか次代の皇太子殿下にとっても栄誉だよ。なんたって、皇太子になって最初に執り行う儀式が、葬送竜の儀っていう、帝国最上級の一大イベントなんだから──」


 言葉が途切れる──でもすぐにまた声を張る。


「全員抜刀! 来るぞ!」


 ほとんど一本道の狭い路地。

 左右はみっちり建物が並んでいて、横道にそれることもできない。


 気がつけば道の前後、見える範囲にユキナたち以外の人影もなく。


「人払いの結界──罠!?」


 素早く周囲に視線を走らせるナナセちゃんの手に光が集まる。

 宙に緩やかな曲線を描くような光が消えると、その手には一本の漆黒の弓。

 

 でも弓道の弓なんかとは明らかに違う。

 あれこれ付属品がついていたり、張られている弦も何本もあったりして、かなりごつい。

 いかにも戦闘用って感じ。


 彼女の肩や胸のあたりにも光が集まって、それっぽいアーマーが出現する。


 なんだ、しっかりゲームしてるじゃん……なんて余裕は、もちろん「ユナキ」にはなく。


「ナナセ! ユナキを守れ!」


「わかってる!」


「街中でそんな大弓出してどうすんだ!」


 こちらはトレードマークの大斧ではなく、普通の長剣を手にしたグゲンさんが怒鳴る。


「今はこれしか持ってないの!」


「──『敵』に集中しろ! 来るぞ!」


 いつの間にそこにいたのか、石灰色の建物の屋上から、白装束の人影が次々と飛び降りてゆく。


 神視点の「わたし」にはそのすべてが見えているけど、当然ながら「下」にいるユナキたちにはわかるはずもなく。

 

 それでもナナセちゃんは、まだ連中の体が宙にある間に弓を引き、矢を命中させている。


「刺使徒(エクスブレット)!?」


 倒した後で、その正体に気がつくナナセちゃん。

 人違いだったら大変だけど、この状況ではそんなことも言っていられない。

 

 刺使徒(エクスブレット)──それはどこぞの組織に操られた「使い捨て」の人間たち。


 かつてユナキも──「わたし」もその刺使徒にされ、聖王都のお姫さま、空色ツインテ髪のユユリコ姫の暗殺に使われようとしていたことがあった。


 そんなわたしを救ってくれたのが、このクロウくんを始めとした「仲間」たちだった。


 そして今もまた、何もできないわたし──「ユナキ」を守って、襲ってくる刺使徒たちかららその身を守ってくれている。


 襲ってくる数は多いものの、クロウくんたちは確実に敵をやっつけてゆく。

 

 やはり素人同然の刺客たちは、相応の技を身に着けているらしいクロウくんたちには敵わない。


 とはいえ──ひとり神視点という「外」からこの様子を眺めているわたしには、むしろその一方的な状況に心が痛む。


 ゲームとはいえ命がかかってるし、勝手だとは思うけど。


 それでも「敵」はただ操られてるだけの人たちで、もしかしたら、その中にはかつてのわたしのような人も混ざっているかもしれない。


 あの道に倒れている(ゲームのように消えたりしない)白装束たちの中に、このわたしもいたかもしれない──そう思うと、「もうやめて」と叫びそうになる。


「キリがないな!」


 さすがにちょっと疲れた声で、クロウくん。


「ナナセ、連中を引き付けておくから、ユナキちゃん連れて先に行け!」


「わかった!」


「とにかく結界の外に出るんだ! そうすれば──!」


 言葉が切れる。

 

 それと同時、周りに倒れていた刺使徒たちが光り始める。


「やば──!」


 ユナキの方へ手をのばすナナセちゃん。


「急いで! これ爆裂の魔法が──!」


 直後、路地に神視点の「わたし」にすら見えなくなるほどの光があふれ、一瞬遅れて何かが破裂するような音が立て続けに聞こえてくる。


 爆発。爆発──そして爆発!


 声にならない声で、クロウくんたちの名を叫ぶ。

「下」にいる彼らには決して届かない声。


 小説や物語なら、すべてを描写する立場にいるはずなのに、何もわからない、何も見えない。


 それはまるで、「神視点」のわたしから隠すかのように。

 最初からそれを狙ったかのように。



      ☆



「爆発──だって?」


 誰かの声が言った。


「西区の旧市街。城壁近くの宿屋が多く集まってるところ」


 別の声が答える。

 こちらは女性の声。


「朝っぱらから堂々と刺使徒(エクスブレット)を出して来るとか、連中、何を考えてるのやら」


「嫌がらせだよ。やつらに首を縦に振らないおれたちへの。ただの嫌がらせ」


 どちらもどこかで聞いた声。

 聞き覚えのある声で。


 てか、ここは──?


「それで、『ナキ姉』たちの状況は?」


 ナキ姉──?

 その一言で、霧が晴れるように視界がクリアになる。


「仲間たちも含めて不明。だけどまあ、ログアウトした様子はないから、まだ生きてるでしょ」


 神視点が戻ってくる。


 眼下に見えるのは、どこかあの最終章の廃聖堂を思わせる建物の中。


 でも当然ながら廃墟という雰囲気はない。


「また前回みたいな、緊急転送! なんて事態にならなきゃいいけど」


「あれもまさに間一髪だったな。あのリングが間に合ってよかったよ」


「でなきゃ今頃、瞬殺あーんど強制ログアウトで、またトシ先輩の部屋からやり直しさせられるとこでしたけど」


「最終章は主人公(プレイヤー)が死んだらそこで敗退決定だもんね」


「言っておくけど、今回だってゲーム的にはギリギリアウト──」


「他のプレイヤーはリアルでドラゴンに追いかけられたりしない。そのへんのところも考慮してほしいな」


「そりゃ……」


 廃墟というよりも、むしろ逆。

 決して派手ではないものの、荘厳かつ静謐な室内は、どこかのお城の謁見室のような。

 

 そこで交わされている、若い男女のゲームキャラクター(?)同士の会話。


 これはあれか、物語で言う「一方その頃」ってやつ?

 先のユナキたちとは違う、また別の場面。みたいな?


 そこで展開されている物語を、「わたし」は見聞きしているらしい。


「とはいえ最終章にリアルの車で突っ込んだりとか! 結局今回の件はみんなあなたのヘマでしょ。どうして一緒に来ちゃったの? 最終章サイドからも、辻褄合わせる身にもなれってクレームがガンガン来てるけど?」 


「ごめんトシ兄──って、けど仕方なかったんだ。まさかこの時点でリアルにドラゴンを送り込めるほど、連中の──カラミティの力が強くなってるとは思わなかった」


 そしてその広い部屋にたった二人、朝日にきらめくステンドグラスから降り注ぐ七色の光を独占して立っているのは──って今「トシ兄」って言った? え、二回目? あれ?


「それをヘマだと言ってるのわたしは。連中については、去年のあのトラックの一件以降ずっと警告してたでしょ、ねえユ(・)ー(・)ト(・)皇子殿下──いえ皇太子殿下でしたっけ」


 ユート殿下って──


 えええ、ユキ……くん?


 シックな黒装束に身を包んだそれなりに長身痩躯の姿も含めて、間違いなく彼はユキくんで。


「立太子の儀式はまだこれからだし、そっちだって葬送龍の儀が控えてるでしょ、ミズス祭司長どの?」


 白と赤の前掛け付きの緩やかなローブをまとった彼女は、こちらもあのがるどあ広報、ミズキさんで。


 ──と。


 その黒装束の青年が、不意打ちのように顔を上げると、まっすぐ「こちら」を見るようにして、


「とうわけで、まああとはよろしく、『ナキ姉』!」


 ……は?

 はああああああああああああ?


次回予告!

 ふっふ、どうにか予告回収!

 ぎりぎりだったけど出ました

 帝星宮&例の二人!


 でもこんなとこでぶった切って

 この後どうする?

 どうなるわたし?

 

 え? どうしてここにゆーくんが?

 違う? ユユリコ姫? え?


 以下次回ww!

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