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46.帝都にてⅢ(世界の終わりまであと22日/7)

『叶う夢なんていらない。

 だってそれは本当の「夢」じゃないから』

        ーマツリ・ミャラメルー



前回のあらすじ!

 リーダー剣士、クロウくん。

 歴戦の老戦士、グゲンさん。

 そしてツンデレ(まだデレてないけど)エルフ

 (エルフじゃないけど)、ナナセちゃん。


 なんとなくパーティーらしくなってきた中、

 見せられたギルドからの依頼書にはさらに

 意外な名前が。


 加えてそこへ出てきたのはあのリング──

 わたしと同じ、がるどあ周年記念のリングで……


 始まります!

「それって、がるどあの周年記念リング!?」


 座っていた椅子から跳び上がらんばかりの勢いで、ユナキ(わたし)は声を上げた。


 実際、天井のあたりから三人称視点=神視点でこの場面を見下ろしている「わたし」には、「ユナキ」の三つ編みロングお下げが左右にぴょんと跳ね上がるのが見えた。


 マンガが!

 いやゲームだっけか。


 ゲームであり、かつリアルでもある不思議な世界。

 がるどあ──ガルドアース・ウォーテイル。


 現在進行中の本編シナリオの舞台であるレアルアーシア魔導帝国。

 その帝都ガルデンにある宿屋の食堂。


 板張りのフロアに並ぶいくつもの円卓と、それを囲む人々。


 そのひとつを囲んでいる、いかにも冒険者(ソードウォーカー)──剣士/戦士/エルフ/魔法士(白)といった風の四人組。


 彼ら(約一名除く)は朝食の焼きたてパンそっちのけで、円卓の真ん中に置かれた書面の上に転がる3つのリングを見つめている。


 天井のあたりから「神視点」で眼下の様子を見ている「わたし」の下で、 黒髪の三つ編みお下げ(ゲームキャラ)姿のユナキ(わたし)が、はっとして自分の指のそれと見比べる。


 彼女の前にあるのは、間違いなく、その右手薬指にはまっているものと同じリングだった。


「やっぱり知ってるんだ、これ」


 持っていた小袋から当のリングを出した青髪の青年剣士──クロウくんが、半分ほっとしたように表情を緩ませる。


「そりゃそうでしょ、同じリングしてるんだから」


 ユナキの隣で、(見た目は)赤髪ツインテのエルフ耳少女──ナナセちゃんが言った。


 でもすぐに両手持ちしたままのパンから滴り落ちる超激辛ペーストに気づき、形のいい唇からちろっと出した舌先で掬うようになめとっている(見てるだけでこっちの舌が死にそう)。


 彼女には目下、目の前のリングよりもそちらの方が重要らしい。

(食いしん坊のエルフって……いや、真正の「エルフ」じゃないんだっけ)。


「おれの指にはまるのか、それ?」


 こちらもこちらで、まだまだ山盛りの(注文しなくてもどんどん追加される)パン籠をしっかり囲い、ひとりむさぼり食べている巨躯の老戦士、グゲンさん。


「大丈夫だよ。どれも同じように見えるけど、これも立派な魔法アイテムだからね」


「そうなんですか?」


 ユナキ的にはただの記念リングでしかないそれを、でもクロウくんは指先でつん、とつつきながら、


「間違いないと思うよ。この黒曜石だけでも、かなり強力な魔力を感じるし──感じない?」


 ユナキは自分のリングをじっと見つめて、でも降参! といった風に顔を上げる。


「わかんないです」


 ペーストで真っ赤になったパンを皿に戻して、代わりに銀のマグカップを手にしたナナセちゃんが、


「──あんた魔法士じゃないの?」


「一応治療師(アリア)……のはずだけど」


 円卓の下でこっそり開いたゲームのウィンドウ画面で確認する。


「そうそう。レベルはまだ3だけど」


「──れべる?」


「ああえっと、つまりまだまだ新米って感じ?」


 ふうん? とナナセちゃん。

 まだ何か疑問の様子だけど、とりあえず自分の食事に戻ってくれる。


「魔力もだけど、とにかくこいつは──」


 リングのひとつをつまみ上げたクロウくんが、ユナキの言葉を引き継ぐように、


「ちょっと見せただけですぐ帝国領内に入れたし、この帝都でもそれは同様でさ」


 本来なら聖王都から来た冒険者パーティーなんて、時間をかけてじっくり調べられるのが当然の存在。


 なのに今回は、このリングを見せただけで、国境も、市街城門も事実上フリーパスだったと。


「信じられるかい? 連中、ギルド発行の通行証も、この依頼書も確認しなかったんだぞ」


 円卓に広げた依頼書──帝都にいるユナキと合流して、その指示に従え的なことが書かれている(らしい)、それだけじゃなんのことやらさっぱりの代物──を、指先でつんつん突っつくクロウさん。


「むしろしっかり調べられたほうがよかったような言い回しに聞こえるけど?」


「だいたいこんな感じで進むときは、裏に何かある──そこで誰かが手を引いてるって証拠さ!」


 なるほどねー。


「たぶんだけど、これは魔王帝国(レアルガルド)絡みの品じゃないかな」


 そう言いながらリングをためつすがめつするクロウくんに、ナナセちゃんが、


「だから簡単に入国できたって?」


 さらにナナセちゃんはユナキの方を見て、


「どうせ何も知らないみたいだから教えてあげるけど、魔族主導の魔王手国と、人の帝国たるこのレアルアーシアは、先の星竜大戦(グレートレアルウォー)以来、ずっと軍事同盟を結んでるの」


 ──といった感じで、こっちの知らないことをちゃんと説明してくれる。

 このあたりはまあ、いかにもゲームっぽいというか、シナリオ通りなのかもしれないけど。


 もっとも説明されたところで、今の段階では「だから何?」って感想しか出てこないけど。


 食卓の下でこっそり出してるゲームのウィンドウには、確か「用語解説」的な項目もあったはず。

 あとで確認してみるか。


「今日はよくしゃべるじゃねーか、レ(・)ア(・)エルフのお姫さま?」


「あたしはデミエルフだって言ってんじゃん! ジジイ次それ言ったらガチでコロすから。念入りに。さすがのあんたでも三年は土の下から出られないから」


「おーこええええ」


 ちょっと目を離した瞬間、いきなり物騒な会話を始める二人。


 なんだろ、ファンタジー系でよくある「種族的に相容れない」的なやつ?


「まあまあ二人とも、仲間なんだから、もっと仲良く──」


「誰が仲間だって?」


 その灰色の瞳を眇めるようにして、きっ! とクロウくんを睨みつけるナナセちゃん。


「おれたちはたまたま、一緒に帝都まで来て同じ宿に泊まって同じ卓で同じバスケットのメシを喰らってるだけだ」


 そのバスケットをさっきからずっと独り占めしてるグゲンさん(どの口で言う?)。

 ていうか、そこまで同じならもう仲間でしょ。


「とにかく、いつまでもこうやって食べてるわけにもいかないし。そろそろ具体的に何をするか考えないとね」


「ですね」


 そんなクロウくんにユナキもうなずく。


 とりあえず他の二人は放っておいて、こちらはこちらで話を進めよう。


「鍵はやっぱり、このリングだと思うんだけど」


「これって、他に何ができるんです?」


「それこっちが聞きたいくらいさ──でもまあ、どうやらこれさえあれば、帝都の大抵の場所には入れるようだね」


「たとえば?」


 クロウくんはリングのひとつをじっと見つめるようにして、


「そうだね、帝都にある重要な場所と言えば──」


「──帝星宮(ラグナレク)」


 横からぽそり、とナナセちゃん。


「ラグナ──?」


「帝星宮(ラグナレク)って言ったの──帝都の真ん中にある、文字通りこの帝国の中枢。お城。現皇帝ヒサートがいる皇宮」


「いいねえ、帝星宮!」


 予想外のところから同意の声が上がった。


「あっちもちょうど朝メシ時だろうし。きっといい飯喰らってんだろうなあ!」


「あんた他に考えることないの?」


「メシ食ってる時にメシ以外のことは考えるな──ってのが、我が師の教えでな!」


「考えるな感じるんだ。四の五の言ってないで、ただ喰らうのだ……みたいな?」


「おお、それそれ! 嬢ちゃん、その年でもう我が奥義を極めたか!」


 ユナキの口からぽろっと出た言葉に、がはは! と機嫌よく笑うグゲンさん。


 もっともそのフレーズを知ってること自体、「その年で」呼ばわりされるような歳じゃないのがバレバレな気もするけど。


 さておき──あれ?


「ナナセちゃん、現皇帝の名前、もう一度いいですか?」


「ん? ええとヒサート。コダイヒサート・メアガルデ=レアルアーシア……だったかな?」 


「古代……? ああいや、皇帝って、ユートじゃないんですか?」


 それは最終章サイドでドラゴンのブレス攻撃で瞬殺される前、ちび銀狼から人の姿に戻った(もっとも彼には銀狼の方が本来の姿らしいけど)チハヤくんこと魔剣士チハヤ・ルースが、ユナキ(わたし)の弟、ユキくんの姿を見て言った名前。


 もっともユキ君は即座に否定してたけど。


「ユート? 第二皇子の?」


「ううん違う。ユートは確か、少し前に第一皇子を差し置いて、正式に皇太子に指名されたんじゃなかったっけ?」


「よく知ってるねナナセちゃん。密かに皇室ウォッチャーしてるとか?」


「別に。ただ興味あるだけ。王族とか皇室とか、お姫さまとか……あれ?」


 中途半端に言葉を切るナナセちゃん。


 でもユナキはそれどこじゃないといった感じで、


「じゃあやっぱり、ユキく──ユートも、ここに、この帝都にいるんですか?」


「どう、ナナセちゃん?」


「……え? ああ、いるんじゃない? もうすぐ立太子の式典があるはずだから」


「それは、その式典はあの帝星宮で?」


「でしょ」


 チハヤくんに皇帝呼ばわりされたとき、ユキくんは確かに「自分は皇帝じゃない」と言っていた。


 でも「皇子じゃない」とは言っていない。

 もちろん「皇太子じゃない」とも。


 まさか──?


 いやでも……


「帝星宮……皇太子? ユキくんが──?」


 でも彼がそのままゲーム世界にいるはずがない。

 ましてや皇帝とか、皇太子とか、そんな重要な役回りで。


 たぶん、似たような顔のキャラクターなんだろう……けど。


 姉のユナキの元相方歳矢(としや)(現魔王皇帝トーヤ)も、ユキくんの大学時代のミズカ先輩も、このゲーム──「ガルドアースウォーテイル」の開発会社のメンバーだし。

 その関係で、彼の顔に似せてあの神絵師がデザインしたとか?


 鼻先にすり落ちた丸眼鏡もそのままに、ユナキがそうしてうんうんうなっていると、


「ここにも皇室ウォッチャーがいたか。好きだね女の子は」


 そんなクロウくんに、ナナセちゃんはちょっと眉をひそめて、


「関係ないでしょそれ──けどユナキ、何かその名前に心当たりでもあるの?」


「たぶん……でも実際に会ってみないと、話してみないと分からないから──」


「なら、会って話を聞きに行こうか?」


「クロウ、くん? ──ってまさか? 帝星宮に?」


 彼は持っていたリングを、ユナキにならうように自分の右手の薬指にはめた。


「お、やっぱりぴったりだ──こいつの力がどこまで通用するか、試すにはいい機会だよ」


「逆に、もしこれであの帝星宮にすんなり入れたら、それが正解ってことね」


 同じくリングをはめるナナセちゃん。

 ちょっと大きすぎがと思ったけれど、こちらもやはりピタリとはまっている。


「間近で立太子の式典が見られるかも! すご!」


「観光じゃねえ、仕事だぞ」


 言って、その大きな手で最後のリングをつまむグゲンさん。

 ちょっと迷ったように指先に当てると、でもそれはするっと指を通って、すんなりとはまってしまう。


「すげーな、これで帝星宮に入り放題か……」


 なんだかんだで、これでこの場の全員がそのリングをはめたことになる。

 

 それはつまり、彼らがこの依頼を受けた証であり。


 そしてユナキにとっては、とりあえず「仲間」と呼べる存在を得た証でもあった。


「決まったな。じゃあ行こうか──帝星宮へ!」


 ばしん! と手を打って立ち上がるグゲンさん。


「ちょうど腹も減ったし! 河岸を変えて食い直しだ!」


 もう誰も突っ込まない。


 ナナセちゃんも、いつの間に食べたのか空になったお皿を残して席を立つと、

 

「ユナキ、あんたひょっとして、実は皇族の血を引くお姫さまだったりして? ……姫?」


「ないない、それ絶対ないから! うちは両親とも和菓子職人と元マンガ家で──ナナセちゃん?」


 彼女、さっきからなぜか「姫」というワードを気にしてる。


「なんかひっかかってるの。食事中に出た名前かな、依頼書の……」


 席を立ってその依頼書を折りたたんでいたクロウがその手を止めて、また広げて見せる。


「これ?」


「それ。それの依頼人? ええと」


「マツリ──マツリ・ミャラメル?」


 クロウくんは、むしろユナキに向かって、確認するようにその名前を告げる。


 ナナセちゃんの隣に並ぶようにし、こくりと頷くユナキ。


 それは現実(リアル)世界で、ドラゴンの襲撃を警告していたネコミミ少女。


 がるどららじおん配信部で、まさにこの「ナナセちゃん」──もちろんここにいる本物(?)の彼女とは別人だけど(そのはずだけど)──とコンビを組んでる元気キャラ。


 ユナキにとっては、ある意味いま目の前にいるメンバーよりも顔なじみといっていい存在(キャラクター)。


 一方、リアルでは「らじおん」の相方キャラでもあるナナセちゃんは、


「ミラメル小王国、正式にはミラメル湖畔小王国っていうんだけど、そこにいた姫の名前……てか通称が、確かそんなだったような」


「ちなみに、そのお姫さまの正式名称は?」


 尋ねるクロウくんに、ナナセちゃんはちょっと思い出すようにしながら、


「ええと、ミア……ミア・フォウ・マツリハ=シリルミラメル──だったかな?」


「なるほど、いかにも王族っぽい名前だね。ミア・フォウ……第四王妃って感じ?」


 感心するクロウくん。


「マツリハ・ミラメル……マツリ・ミラメル……」


 呪文のように繰り返すナナセちゃん。


「マツリ・ミャラメル──似てるね、確かに」


 最後にユナキが言って、みんなが頷く。


「でもそれって、つまりミラメル小王国のお姫さまが依頼人ってこと?」


 クロウくんが、改めてギルドの依頼書を眺めながら、


「帝星宮にも入れるかもしれない謎のリング、それを用意したのが帝国五列強の一角、帝国最小にして最強の軍事国家、そのお姫さま──だって?」


 グゲンさんも、ふんふんと鼻を鳴らして、


「いきなりキナ臭くなってきやがったな!」


「どころじゃない」


 きつい口調とは裏腹に、ぐんと声を潜めるナナセちゃん。

 さらに手招きして、全員の顔を自分の方へ向けさせると、


「今現在、ミラメルのマツリハ姫って行方不明中なの」


「本当かい?」


 こちらも自然とひそひそ越えになるクロウくん。


「噂だけどね。もちろん──でも立太子の式典があるなら、もうこの帝都に来ててもおかしくないはず」


「でも第四王女なら、他の姫とか王子が来てるかも」


「ううん。ミラメルの次の女王は彼女だから──彼女がその力を継いだから」


「力?」


 尋ねるユナキに、ナナセはちょっと周りに視線をやってから、


「この世界のドラゴンたち──竜族たちを支配する力、星竜使い(アズル・アーシア)の力を」


「え、ドラゴン!?」

 

 それ、それって、まさか──!?


次回予告!

(え、短剣? 何のこと(;^_^A)

 閑話休題。


 どうにか話は帝星宮へ──!

 次はいよいよユキくん……

「ユート皇太子」との対面か?

 

 でもその場に一緒にいた人物は──

 え、なんであなたがここに!?


 ……そこまで書けるか(^^ゞ?

 待て次回!

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