43.再会(世界の終わりまであと22日/4)
きっと世界はひとつじゃない。
それはリアルだろうと、
人の作りし幻だろうと。
どれもが等しく「ここ」にある。
そのすべてで、人は世界と共にある。
それは世界の夢として。世界の心として。
世界が人を作り、その人が世界を支えてる。
だから──
前回のあらすじ!
突然出現したダンジョン守護のドラゴンと
始まる追いかけっこ!
ユキくん運転の車に乗ったまま
がるどあ世界にログインした
わたしたちの前にはあの廃聖堂が!
暴走する車。
黒猫化するゆきくん。
え? さいどぶれーき?
何それ──って間に合わない!
始まります!
☆
桜も散り果て、春四月……と愛でるにはちょっと遅めの日曜日。
都内某所にある三次救急対応・地域医療拠点病院──唱和大学医学部付属病院。
外来受付を始め各種診療科、医局、手術室に検査室、薬剤部などを備えた堂々たる本棟……の隣。
こちらも地上一四階地下三階の威容を誇る入院棟。
その七階(内科病棟)にあるナースステーションで迎える「二度目」の朝……朝?
隅に置かれた移動寝台の上で、むくりと半身を起こす。
視界が鈍い。
「メガネ……メガネ……」
「ほら」
「あ、どーも……、って、チハヤくん?」
のばされた線の細い手から、指紋だらけの丸眼鏡を受け取る。
寝台横の長椅子に座っていた白衣の青年が、のばした手をスマホに戻しつつ、
「いい加減コンタクトにしたら?」
わたしは小さな鼻先にメガネをのせるようにひっかけると、
「チハヤくんこそ、ゲームいい加減にしたら?」
顔見知りの看護師から借りっぱのナースパンツの足を寝台から下ろし、ぶらぶら。
あーむくんだ足が重い。
背中の三つ編みお下げもほどきたい。
「今週から周年記念なんだよ。2周年」
わたしと同じほぼ二昼夜完徹は思えない鋭い目つき。
「で、毎日のログインボーナスとか、レア聖剣確定の抜刀ガチャとか」
横目に画面をのぞく。
細身の剣士が白いマントの女の子と戦ってる。
三つ編みロングのお下げがかわいいい。
「ちょっとわたしに似てる?」
「偶然だろ」
秒で即答。一刀両断。にべもない。
「そいや今何時?」
「5時半くらい? さっきリセットあったから」
「リセット?」
わからん。
「にしても好きだねそれ、がるどら? だっけ」
「がるどあ。ガルドアース・ウォーテイル」
面倒そうに訂正するチハヤくん。
「自分のパートナーが作ってるゲームだろ。名前くらいちゃんと憶えろよ」
「トーヤ? いいんだよお互い相手の仕事には口を出さない主義だから」
「ふーん」
自分から話を振っておきながら、画面から一瞬も目を離さないチハヤくん。
といって熱中する風でもなく、ただ淡々と指を動かし続ける。
せわしなく動く指先に合わせてカラフルに色を変える画面。
イヤホンこそしていないが、意識の半分、いや九割はそっちへ持って行かれてる。
「勤務中の研修医がそれでいいのか!」
「本来なら昨日の夜で終わってるシフトだろお互い」
デシタネー。
「そっちこそ高いびきで寝てたくせに」
「え、いびきしてた?」
「──誰が?」
素で聞き返してくる。うわ聞いてねえ。
「今度こそ出そうなんだ、七星剣」
それがどうした。
「あんたそれ、いくら課金すれば気がすむ──」
「──あ、いたいた! ユナキさん!」
「え? ああナナちゃん? どしたん?」
部屋に飛び込んで来たツインテ髪の看護師に、わたしはぶらつかせてた足をのばして、
「あーごめん、これちゃんと洗って返すから──」
「じゃなくて! 今弟さんが救急外来に!」
「ユキくんが!?」
「朝早くて、センセの手が足りないの!」
寝台から飛び降りる。
まるで白マントのようにひるがえる白衣。
「交通外傷。電柱激突の自損事故。意識レベル300、頭部と胸部で出血。GCS──!」
みなまで聞かず、走り出す。
そういえばあの子、やっと免許取って、約束の車を買ってもらったって──
『朝さ、起きられたら迎えに行くよ。色? 白。白のスポーツカーで……』
昨日の夜のあれが最後の会話になるなんて……いやいやいや!
「──チハヤくん?」
エレベーターの銀色のドア。
わたしの隣に彼の姿も映ってる。
「ゲームは?」
「七星剣、一本貸しだぞ」
「──わかった!」
お互い前を向いたまま、強く頷く。
エレベーターが来る。乗り込んでボタンを押す。
わたしたちの「戦場」へ向かって動き出すエレベーター。
「ユキくん、ユキくん死なないで──ユキくん!」
☆☆
「──なないで、死なないで……ゆ」
はっとして、身を起こす。
「ユキくん! ──へ? あれ?」
青い空。涼やかな風。薫る花々。
そして──
「だめだって、それはナキ姉の!」
「オレがこうなったのは、そいつのせいだ!」
廃聖堂の壁にぶつかって前が潰れた白い車。
その横で、翅の生えた黒猫と銀色のちび狼が、お互い牙をむくようにしていがみ合っている。
二匹(?)の間には、引きちぎられた紙袋。
中からのぞく、白い箱。
「葬式まんじゅう?」
一歩前に出たちび銀狼が、その鼻をひくひくさせながら、
「オレにはわかる! そいつを食えば、この体を再び人の姿に戻せるんだ!」
「違うただの和菓子だってこれ!」
「ワガシ?」
ふらふらする頭を支えつつ、とにかく立ち上がる。
「ふたりともやめ、やめー!」
「あ、ナキ姉! 気がついた!?」
黒猫がこちらを見る。
その隙に白い箱へ飛びつくちび銀狼。
箱が潰れ、中から白と茶色のまんじゅうが転がり出る。
「あ、こらだめだってば!」
斜面を転がるまんじゅうを追う二匹の小動物。
ちび銀狼がジャンプ、白まんじゅうに食らいつく。
黒猫の方も、とにかく目の前の茶色のまんじゅうを口にくわえて確保──と。
それぞれのまんじゅうが光り出す。
「何、なんなのこれ?」
目の前で起きていることがまったく理解できない。
ひとつ確かなのは、とっておきの父さんのまんじゅう、わたしはもう食べられそうにないな──ってことだけ。
それぞれのまんじゅうから出た光が、銀と黒の小さな体を包み込み──
それがだんだん大きくなって、「人の姿」へと変わってゆく。
やがて光が薄まるにつれ、「二人」の姿がはっきりしてくる。
銀のケモミミに金の瞳を持つ魔剣士、チハヤ・ルース──チハヤくん。
そして──
「……ユキくん?」
顔つきはやっぱりゲームキャラ風にアレンジされてるし、脱色したような洗いざらしの金髪だけど。
でも間違いない。
「ナキ姉? え。おれ?」
ちょっと不思議なグレーの瞳で自分の体を見回すユキくん。
「ユキくん……ユキくんユキくん!」
思わず抱き着く。
「ちょ、ナキ姉、どしたの?」
「だって、だって! もう死んだかもって──!」
徹夜明けの病院。
スマホでがるどあやってるチハヤくん。
そこへユキくんが救急搬送されてきて──
フラッシュバックする幻影。
あれは──あれは現実?
それとも──?
「ええとまず落ち着こうか」
わたしの肩に手をやって、ゆっくりと体を離すユキくん。
でもそこでふと何かに気づいたように、
「これ、リング? ……ナキ姉と同じ?」
ユキくんの広げた手をわたしも見た。
確かにその右手には、わたしと同じがるどあ周年記念のリングがはまっていた。
けれどそこで、こちらも「人」としての意識を取り戻したらしいチハヤくんが声を上げる。
「貴様だったのか! ユート!」
「ゆーと? 誰?」
「帝国宰相、仮面皇帝ユート! この裏切り者め!」
振り返るわたしの前で、身構えつつ腰に手をやるチハヤくん。
が、そこには何もなくて。
「オレの剣──そうか!」
ぎろり、と睨まれる。
「おまえに取られたんだったな──ユナキ!」
返せ、とばかりに突き出される手。
その指で一瞬、何かがきらりと光る。
「チハヤくん、それ──」
「──うん? あ!」
そこにはやっぱり、わたしやユキくんのそれと同じ銀のリングが。
「なんだこれ! いつの間に!」
ほんといつの間に?
わたしの頭に、ついさっきの光景が蘇る。
黒猫とちび銀狼の前にころがり出る葬式まんじゅう。
それぞれ口にした瞬間、その体が光に包まれて──
「もしかしてあのおまんじゅう、食べちゃったから?」
いやでもあれは、父さんが作ったただの葬式まんじゅうで……
「ううん、きっとそのせいだよ」
リングを見ていたユキくんが、確信したように頷く。
「おれたちだけじゃない、ナキ姉のリングもきっと、あの饅頭を材料に作られたんだ」
思わず自分の指のリングを見る。
「わたしのこれも?」
「思い出して。葬式饅頭は最初二箱あった。でもナキ姉のリングが出現した後は、それがひと箱になってた」
「そうだったかな?」
かもしれないけど、よくそんな細かいこと覚えてるなユキくん。
「父さんから二人分だって言ってもらってきたからね。でも知らない間にひと箱になってて、おかしいとは思ってたんだ」
けど和菓子から「仲間」用のリングを作るって。
どこぞのきび団子じゃあるまいし。
いったいどんな材料使ってまんじゅうを作ったんだ父さん?
あんたは魔法の菓子職人か!
「かもね──とにかく、このがるどあには、それに近いことができるスキルがあるんだ」
ユキくんが手をのばす。
リングの黒い石が光って、そこにあの半透明のウィンドウが開く。
「あ、やっぱりこれで開くのか」
「ユキくん順応性高すぎ!」
「そう?」
ユキくんは、そのままウィンドウに表示された自分のインベントリをチェックしながら、
「ええと第2章だったかな、壊れた聖剣を直すイベントクエストがあってさ、それをクリアするとゲットできるんだけど──ああやっぱり持ってないか」
残念そうに笑う。
「『これ』はナキ姉のアカウントだからね。自分でやってるキャラなら持ってるんだけど」
「そのスキルがあると、どうなるの?」
ユキくんはちらりと壊れた車を見て、
「そしたら、こいつも直せるかもしれないってさ」
「この車を?」
見た目けっこう派手に壊れてますけど。
「だってゲーム世界だし。この車だってある意味、唯一無二の超レアアイテムじゃん。それって聖剣みたいなもんだろ?」
車のそばに行って、その白い屋根をぽん、と叩くユキくん。
「そうだ、おれのキャラ助っ人としてこっちに呼べないかな。そしたら──いやあれはバトル限定だっけか」
「何をする気だ、ユート皇帝!」
素手のまま身構えるチハヤくん。
「しようと思ったけど、ダメだった」
笑うユキくん。
「あと、おれは皇帝じゃないから」
「ユキくん、皇帝って? 何か知ってるの?」
「たぶん。でも話せば長くなる。最終章じゃなく、本編から続く話だから」
「ああ、そっちの話か」
昨日(でいいんだよね?)の夜、いきなり飛ばされた「過去」のがるどあ世界。
普通にゲーム登録して始めると最初に出てくるチュートリアル『刺使徒編』。
いきなり最終章から始めたわたしには未体験だった「本編」シナリオ。
わたしはそこで、改めて「序章」イベントをクリア(したのか?)。
勇者/エルフ/戦士の「仲間」三人を得たのだった(だよね?)。
なんかもう全部疑問符付きだけど、仕方ない。
ちゃんと確かめる前に現実世界へ「強制転送」されちゃったし(転送て?)。
そういえばあのとき、エルフの子だったかな、「帝国」について何か話していたような。
「さっきからおまえたち、何を話してる!」
ひとり「蚊帳の外」だったチハヤくんが割り込んでくる。
「えっと……」
ずん!
「だから……?」
ずん! ずん! ──ずん!
「何、この音? 地面も揺れてるし?」
「あ、忘れてた」
崩れかけた廃聖堂を見上げながら、むしろのんびりした声で、ユキくん。
まるでその声に合わせるかのように、聖堂の上からにゅっとのびる長い首。
無数の鱗に覆われた大きな二本の角。
鋭く裂けた真っ赤な瞳。
大きく開かれた口には、これも無数の鋭い牙が。
「どどどドラゴン!?」
リアル世界でわたしたちを追って来た、なんとかダンジョンの守護星竜。
ぎゃおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーんんん!
その声だけで、聖堂の壁がボロボロと崩れ落ちる。
さらに開いた口のあたりがゆらゆら~っとゆらめき始め──
「ヤバい……みんな逃げて! 逃げろ!」
ユキくんがわたしの背をどん! と押して走り出す。
「ブレス来るぞ!」
直後、青白い光がわたしたち全員を包み込み──そして。
──瞬殺。
⭐︎⭐︎⭐︎
『Mr. Scotty, beam them up! ──急いで!』
『Aye, Captain.』
次回予告!
え? また瞬殺ですか!?
そして舞台は再び現実世界
──じゃない?
ここはまだガルドア世界?
「もしかしたらチャンスかも!」
ってユキくん?
あなた一体何をする気?
ドラゴンとの再戦は?
どうなる最終章!?
ご期待あれ!




