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42.走れ!(世界の終わりまであと22日/3)

それはただあなたに会うために。

そのためだけに。


もう一度その手を取って、

その笑顔を見るために。


世界を救う理由なんて、それでじゅうぶん。



前回のあらすじ!

 最終章へのログイン前に、

 一度自分のマンションに戻ることに。


 車で送ってくれるユキくんと一緒に

 車の前まで来てみたら、そこには──

 え? ネコミミの女の子? 


 さらに向かいの屋根の上から顔を出す

 巨大なドラゴン!

 

 え? え? わたしまだログインしてませんけど!?


始まります!

「どどドラゴン!? どらどらドラゴン!!」


 なんとか車が二台行き交えるくらいの道を挟んだあちら側。


「ゆゆゆユキくん、あれあれあれって! どらどらど──!」


 わたしたちが出て来たアパートのお向かいさん。


「ちょっと落ち着けナキ姉! わかってる。こっちにも見えてる!」


 その屋根の上から、にゅっと長い首を突き出す巨大生物。


「──いやこっちにまで見えてたら、逆にヤバイのか!」


「え? あ、そうか!」


 これがゲーム世界の──がるどあ世界のドラゴンだとして、それがリアル世界のユキくんにまで『見えてる』ということは……


 ユキくんも顔を上げたまま、


「こいつ、黒の王竜──神獣星竜(レアルース)バイスグラムは、こ(・)こ(・)に、こ(・)の(・)世(・)界(・)に(・)実(・)在(・)し(・)て(・)る(・)っ(・)て(・)こ(・)と(・)!」


 縦に鋭く割れた真っ赤な瞳。

 巨大な二本の角。

 黒光りする鱗にびっしり覆われた首。

 

 大きく開けた口には、無数の牙(歯並び悪!)

 

 同時に轟く大音声。雄たけび。


 ぐおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーんんんん!!!!!!


 冗談抜きでびりびりびり~! っと空気が震える。

 見上げた先、ゆるくたわんだ電線もゆらゆら揺れてる。


 それはどこぞの怪獣映画で見た光景そのもので。


 でもこれは映画じゃない。

 もちろんゲームでもない(まだログインすらしていない!)。


 目の前で、わたしの頭上で起こっている「現実(リアル)」だ。


 実際、近所の家々から次々と人が出てくる。

 あの雄たけびが聞こえたらしい。


「こいつ最終章前の隠しダンジョンでレア聖剣守ってた星竜王(レアルース)の一柱で──!」


 耳をふさぎつつ怒鳴り声で解説してくれるユキくん。


 ありがたいけど、でも今はそれどころじゃ──って!


 大きなごっつい頭が、ぐるん、と回って下を向く。


 あ、今、目が合ったような。

 合っちゃったような──


「……見つかった?」


 でもわたし、今は普通にこっち側の人間の姿なんですけど!


「関係ない! 逃げるぞ!」


 後ろ手に車のドアを開けたユキくんへ、


「待って、待って! あの子は!?」


「あの子──? 誰!」


「猫、ネコミミの女の子が──!」


 ユキくんはぐっと体を落として、車体の下を見る。


「猫なんかいないぞ!」


「本物じゃなくて、ネコミミの──!」


 いや、ユキくんには見えてなかったのか?


 ドラゴンは見えてるのに?


 そのまま運転席に乗り込んだユキくんがエンジンをかける。


「乗って!」


「でも近所の人たち、ほっといていいの!?」


「あれの狙いがおれたちなら──ナキ姉なら、たぶんそうだろうけど! だったら、おれたちが動けばあつも追ってくる!」


「わかった!」


 ネコミミの子も気になるけど、今はユキくんのいう通り逃げるのが先決か!


 助手席の長いドアを開けて、低くて狭い車内へ潜り込む。


 黒一色の車内から改めて外を見回す。

 前方以外は極端に悪い視界。

 その向こうで逃げ惑うご近所の人たち。


 わたしに声をかけてきたあのネコミミの女の子は、やはりどこにもいない。


「行くぞ!」


 タイヤを横滑りさせつつ、ノンステップ式のコインパーキングから飛び出る。


「あー料金踏み倒し!?」


「じゃない! もう払った!」


 前を向いたまま、シフトチェンジの合間にレバー前のポケットにあるスマホをさっと指さす。


「さっすが──うわお!」


 車体が急旋回、体がユキくんの方へ持って行かれる。


「邪魔! シートベルト! グリップ握って!」


 狭い道をおっそろしい勢いで突っ走る。


「こわいこわいこわいこわいーって!」


「わかってるわかってるわかってるってー! ──っそ!」


 道の左側の家から飛び出してきた人の前で急ブレーキ!

 前のめりにぐぐっとつんのめる車体。

 ががががーっと揺れるコクピット。


 思いっきりハンドルを切って、すぐ戻すユキくん。


 車体が左右に大きく揺れる。

 ばきっと何かが壊れる音。


「くっそ電柱! ミラー折れた!」


 右のドアミラーが吹っ飛んだらしい。


「大丈夫!?」


「さあね! ──ドラゴンは!?」


 シート越しに後ろを見る。見えない。


 サイドウィンドウを開けて顔を出す。


 ばさつく髪の向こう──いた!


「来てる、追って来てる!」


 巨大な翼を広げて屋根を越え、道に降り立ったドラゴンが、そのままどたどたと走ってくる。


 背中の翼にからまった電線がぶちぶち切れてスパーク。

 でもちゃんと(?)道の真ん中を走ってくるので、それ以外に被害はなさげ。


「飛ばない──飛べないのか?」


 四つ角でまた急ブレーキ。車体をずるっと滑らせて左の道へ。


 片手でハンドルを保持しつつ、もう片方の手首だけでくいっとギアを入れ替え、急加速。


 その手の動きに目を奪われていたわたしは、はっとして、


「飛べない?」


 遅れて四つ角まで来たドラゴンが、足の爪を道に食い込ませつつ急停止。

 こちらを向いて、また走り出す。


 長い尻尾の先が電柱に当たって、上半分がバキッと折れた。

 左右の電線で宙づりなった電柱を背に、どんどん迫る。


 飛べなくても関係ない。速い! 


 道端に駐車してた軽トラがふっ飛ばされて一回転。横倒しになる。


 やっぱり飛べるなら飛んだほうが、障害物とか少なそう──だけど。


「なんだかんだでこっちはリアル世界──飛ぶには魔力が足りないとか、限界はあるんだよ!」


 いかにゲーム世界最強クラスのドラゴンとはいえ、リアル世界に出現した以上は、この世界なりのルールに従うしかないってことか。


 確かにあの巨体で空を飛ぶのは、魔法でも使わない限り難しそう。


 とはいえ、走る方だって結構早い。


 鋭い爪をスパイク代わりにして、アスファルトの表面を削り飛ばしながら追って来る。


 狭い道が終わり、表通りへ出る。


 日曜の朝なので、車の通りが少ないのを幸い、一時停止なしでそのまま飛び出す。


「どこ行くの!?」


「白参(はくさん)通り! 広い道!」

 

 白参通りは片道4車線。

 巨大なドラゴンが走っても道を穿つ以外の被害は出ない。


 走ってる車は──まあそっちは自力で避けてもらうしかないけれど。


「で? それから? その先は!?」


「知るか! ナキ姉も考えて!」


 いや考えてとか言われても──!


 ただ走っていても、どんどんどん! と一定のリズムで車体が揺れるのが分かる。


 追って来るドラゴンの足音。その振動。


 ぐおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーんんんんん!


 また雄たけび。


 でも逆に歯を食いしばって運転するユキくんの口元には、笑みが浮かぶ。


「やっぱりね!」


「何が!?」


「ここがダンジョンなら、もう二回や三回はブレス吐いてる! でもやつはまだ走ってるだけ!」


 言われてみれば確かに飛び道具的な攻撃は来ない。


 とはいえ、こうしていつまでも追いかけっこしてるわけにもいかない。


「ナキ姉、こっちの世界じゃ無敵なんだろ! なんとかできない!?」


 そんな話もありましたっけ!

 でも!


「だからそれは、あっちの──ゲームキャラんときの話でしょ!」


 今のわたしは──うん?


「どしたの!?」


「指輪──リング、光ってる?」


 いつのまにか右手の薬指にはまっていたごついシルバーリング。

 がるどあ幻の4周年記念アイテム。

 150本限定税込み44万円の──


「そんなことどうでもいいから! それで!?」


「いやわかんないけど──って、信号!」


 片道二車線の本濠(ほんごう)通りとの交差点が迫る。

 前を走る車はないが、信号は赤!

 右折用の矢印が出てるけど、白参通りは真っすぐ先。


「この先ちょちょこ信号あるんだよな!」


 ちらっとバックミラーに視線を走らせるユキくん。


「いくらリアル世界だからって、やっぱ信号は守ってくれないか!」


 まあドラゴンだしね。


 減速なしで交差点へ突っ込んでいく車。


「歩行者なし自転車なしパトカーなし! 間に合えー!」


 車が横断歩道にかかる直前、前方の信号が青になる。


「よっしゃ!」


 シフトレバーの上でこぶしを握り小さくガッツポーズ。


 その先の信号も、今のところは青!


「このまま行くぞ!」


 シフトチェンジ。

 一段と加速する車。


 すぐ先にいくつかの道が交わる交差点を青のまま通過。


 見慣れた黄色いMマークの看板前を右に見て左折。

 店内のお客さんたちがめっちゃこっち見てる。


 そのまま坂道を下る。


「うわうわうわ~!」


 普段とは違って、まるでジェットコースターに乗ってる気分。


 もちろんドラゴンもしっかり追って来る。


 勢い余って先のお店に体ぶっつけて、でもすぐ体勢を立て直して一声吠える。


 でもやっぱりドラゴン系定番のブレス攻撃は来ない──と。


「サイレン?」


 開け放しのサイドウィンドウから聞こえてくる。


「パトカー? どこ!?」


「わかんない──って、いた!」


 シート越しにあちこち首を巡らせていると、ドラゴンの背後にちらっと赤い光が見えたような。


「ドラゴンの後ろ! 一台、いや二台いる!」


 ドラゴンの足の爪でボコボコになった道を避けるように、大きく対向車線にはみ出すようにして走ってる。


「そっちはほっといていい! それよりリングは? まだ光ってる!?」


「う、うん!」


 正確には、光ってるのはリングじゃなく、真ん中にはまってる黒い石だけど。


「じゃあそれ、ちょっと押してみるとか!」


「それでどうなるって!?」


「なんでもいいからやってみるしかないでしょ!」


「それもそうか──って!」


 坂の下、また信号。今度は赤!


「しゃーない、突っ切るぞ!」


「パトカーいるのに!?」


「歩行者なし自転車なし!交番あった! 反則金はナキ姉(社会人)持ちで!」


「なんだと!」


 どさくさまぎれにこいつは!

 いやそれよりも!


 一気に道が広くなる。

 白参通りに出た。


「よし! 後はもう信号次第! ナキ姉次第!」


 怒鳴るユキくん。

 光り続けるリング。

 その点滅が心なしか早くなっているような。


 わたしを急かしてる?


 とにかくやってみるか。


「よし、ポチっと──わ!」


 目の前に突然、ゲーム世界で見たあの半透明の青いウィンドウが開いた。


「出たよアイテム欄!」


 ちらりとこちらを見たユキくんも、


「インベントリが開いた? ──何か武器、武器は!?」


「ええと待って──あ」


「あった!?」


「あった! 葬式まんじゅう!」


 持ち物欄の中に、「葬式饅頭✕1」の文字。


「いきなり消えたと思ったら、こんなとこに!」


「なんでそんなとこに入って、しかも1個? 2個じゃなくて? ──いや、待てよ?」


 不意に言葉を切ったユキくんをよそに、わたしはウィンドウ内をたぐって武器を探す。


「あった!」


 ひとつはわたしの初期装備「生玉(イクタマノ・)神剣《アークブレイド》」。


 もうひとつはチハヤくん──魔剣士チハヤ・ルースの「七星剣(セブンスセイヴァー)」。


「武器の威力なら、やっぱりレア度の高い七星剣か──?」


 手をのばす。でも弾かれる。


 よく見ると、そちらは薄い灰色になってる。

 たぶん選択不可ってサイン。


「じゃあこっちは!?」


 生玉神剣の方もやはり灰色。反応なし。


「だめじゃん!」


 右手に追ってくるドラゴンよりも大きな建物が見えてくる。

 バブル時代の置き土産。文教市民センター。


 その先にはこちらは本物のジェットコースター。

 さらには白いドーム屋根。


 それにつれて人も車もどんどん増えてくる。

 

 これ以上ドラゴンを引っぱり続けるのも限界だ。 


 今もドラゴンを避けた車同士がぶつかって、横滑りに歩道のガードに突っ込んだりしている。


 あの程度なら人死には出ないだろうけど、怪我くらいはしてるかもしれない。


 大怪我じゃないといいけど。


 しかも──


「くっそ!」


 声を上げるユキくんにつられて前を見る。


 先の方、電車のガードの向こうに、赤い光点が集まってる。


「警察のバリケードだ!」


 ちなみにそこまでの信号はぜんぶ黄色い点滅になってる。


 どうやらこの先の交差点はすべて通行止めになってるらしい。


 わたしはもう一度、目の前のウィンドウに手をやる。

 でも先と同様反応はない。


「やっぱりこの体じゃだめなのかも」


 あっちの、ゲームキャラの姿じゃないと、この件は扱えないのかもしれない。


「それだ(ユーリカ)!」


 叫ぶユキくん。


「え? ユユリくん?」


「ナキ姉、スマホ持ってる!?」


「え? あ、うん!」

 

 ハンドルをぐっと握ったまま、よし! とユキくん。


「ログインだ!」


「ログイン? って、がるどあ最終章に? このまま? ここで!?」


「葬式饅頭! あれ消えたの、朝のリセットタイムだった!」


 ゲームとしてのがるどあは、朝の5時にリセットされる。


「ナキ姉の姿がそれでリセットされた瞬間、きっとそのどさくさでゲーム世界iに飛ばされたんだ!」


「だからそれが何!?」


 交差点を過ぎる。パトカーだらけのバリケードが迫る。


 ユキくんはもう一度、バックミラー越しに背後のドラゴンを見て、


「最終章にログインしたら、ナキ姉の体はこの世界から消えてゲーム世界に行く。だったら──」


 そか!


「一緒にあのドラゴンもゲーム世界に引き込めるかもしれないって!?」


 頷くユキくん。


「葬式饅頭だって持って行けるんだ! 元々あっちの世界のドラゴンなら──」


「──よし、わかった!」


 どのみちもう考えてる余裕はない。


 わたしはスマホを出して、がるどあのアイコンをタッチ。

 画面に出たログイン用のボタンに指を近づける。


「でもユキくんはいいの?」


「こっちのことはいいから! 早く!」


 もうパトカーの前で赤く光る棒を必死の形相で振ってる警察官たちの姿もはっきり見える。


「じゃあ行くよ! ログイン!」


 ボタンを押す。


 一瞬の光。


 直後激しい振動が全身を襲う。

 

「え? あれ? ええ?」


 わたしはまだそのまま車に乗っていた。


 ただし外の様子は一変していた。

 見渡す限りの大草原。


「わわ、うわ!」


 一見なだらかな草原の起伏で、車体が大きくバウンドする。


 鼻先のメガネが落ちそうになり、前のめりになった頭の後ろで大きく三つ編みにしたお下げが揺れる。


「ゆゆゆ、ユキくんこれ、これどうなって──!」


 ゲームキャラの姿に戻った自分を確かめる余裕もなく、舌を噛みそうな勢いで運転席にいるはずのユキくんに声をかける──が。


 いない。ユキくんがいない!


 代わり運転席にしがみついていたのは黒猫だった。


 背中に虫のような半透明の四枚翅をもつ、猫型妖精。


 わたしのスマホを通じて外の世界にいるユキくんの声を中継してくれる存在。


 でも車がここにあるってことは……


「まさか、本当にユキくん!?」


「それより車だ!」


 怒鳴る黒猫妖精。


 草原は緩やかな下りになっていて、走り続ける車の勢いが止まらない。


「何かの拍子でギアがニュートラルに入った! このままじゃどこかにぶつかるまで止まらないぞ!」


 悪いことに、車の進む先にはあの廃聖堂があった。


 最終章にログインする時、最初に出る場所。


 でも今回は、もうその外にいる。

 しかもユキくんの車ごと、最終章のがるどあ世界を突っ走ってる。


 何が起こった?

 ドラゴンは?


 いやそれより!

 このままだとユキくんの言う通り、廃聖堂に激突してしまう。


「ユキくん聖堂が、廃聖堂が!」


「だから早く車を!」


「車の運転なんて知らないよ!」


「サイドブレーキ!」


「なにそれ!?」


「それシート横のこれ! そのレバーを思いっきり引いて!」


「引く? 引くって──」


 そんなことをしている間にも、廃聖堂の石造りの壁が迫ってくる。


「だめ、ぶつかる!」

 

 わたしは運転席の黒猫に覆いかぶさるように身を投げ出す。


 直後、大きな音がして。


 そして──

次回予告!

(⚠注 変更の可能性があります!)

 どさくさ&イレギュラー続きのログイン!

 再びやって来ました最終章!


 でもって振り返れば

 そこにはあのドラゴンが!


 って、え? チハヤくん!?

 あーそれわたしの葬式まんじゅう!


 お楽しみに!

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