41.朝。そして……(世界の終わりまであと22日/2)
世界を守る──それは選ぶこと。
守る世界を──守る人を。
そしてもちろん、わたしの選択は……
前回のあらすじ!
とにかく朝になって、
5時のリセットタイムを待っていたわたし。
でもその指に見覚えのないリングが。
え? がるどあの周年記念リング?
お値段44万えん(税込み)!?
マジすか──なんて間に朝の5時。
そしてわたしは……え?
え? 元の姿に戻ってる!!??
始まります!
閉じたカーテン越しに届く光は、もうすっかり「朝」のそれになっている。
スマホを見る。午前5時40分。
「なんにもしないまま、40分も無駄にしちゃった……」
一晩中つけっぱのエアコンのせいで、ちょっと寒いくらいの部屋。
28歳の男が一人で暮らしていたとは思えないほど、きれいに片付いた部屋。
それでも机の上の二画面モニターとか。
その隣でうなっている黒い箱型パソコン(自作ゲーミングPC)とか。
さらに壁際の書棚に並ぶ本~コンピュータ関係の専門書からゲーム・アニメの設定資料、ちょっと古い漫画の単行本とか。
そしてとどめのアクスタたち(もちろん基本はがるどあ~スマホゲーム『ガルドアース・ウォーテイル』のキャラクター)などなど──
それらを見れば、この部屋の主の心中はもう丸見えだ。
まあ死んでさらす恥、というほどでもないけど。
いやその手のやつはまた別のどこかに隠してあるのか?
遺品管理人としては避けては通れぬ道か。
どうしよう、歳矢がとても特殊でヤバイ性癖の持ち主で、その手のコレクションが段ボール一杯に見つかっちゃたりしたら……
「ナキ姉? ちゃんと起きてる?」
ちゃぶ台の前にあぐらをかいていた青年が──姉のわたしから見ればまだまだ少年みたいなものだけど──ユキくんが、うーんとのびをする。
「そろそろ今日は何するか、ちゃんと決めないとね」
ヒゲも剃ってない徹夜明けのくせに、とぅるんとぅるんの顔しやがって。
「わかってるわかってるって。けどその前に、ちょっと顔、洗ってくるから」
妄想終了。
仕方なく椅子から立ち上がる。
「よっこい……」
っと危ないあぶない!
なんか声出るところだった。
あとどこかでごきっと何かかが鳴ったような?
いやいや気のせい。
気のせいですよ。まだ17……もとい28歳の乙女ですよ?
ていうかついさっきまで、それこそ17歳なゲームキャラだったんですよ?
「う、重……」
ダメだやっぱり体が重い。
いや気のせいだ。
黒いワンピースの袖をめくりつつ、黒ストッキングの足でユキくんの横を抜けつつユニットバスへ。
ストッキングは脱いでもよかったけど、一応ユキくんいるし、エアコンで冷えてるし、また外に出るかもだから、とりあえずそのままにしておく。
「……そか、ここ洗顔フォーム一本、なかったんだっけ」
ユニットバスの洗面スペースには石鹸しかない。
洗顔した後で顔がつっぱる未来が軽く幻視できたので、お湯で湿らせたタオルで拭くだけにする。
ここには体一つで飛ばされてきたので、いつもの武器ポーチはもちろん、替えのコンタクトすら持っていない。
幸い、この体に戻ったのはついさっきだし、その前もそれほど長くコンタクトしていたわけでもないので、まだ交換する必要はないけれど。
洗面台の鏡越しに、あと何か忘れてないか確認する。
ノーメイクのむすっとした顔の女が鏡の向こうから見返してる。
ちろっと舌を出して、あっかんべー。
あー現実リアル、めんど。
「さて……日曜か」
怒涛の──本当の意味で怒涛の土曜日がやっと終わった。
歳矢の葬儀。ユキくんとの再会。
ゲーム「がるどあ」最終章へのログイン。
ゲームキャラに「変身」してしまう体。
リアルなゲーム世界での初バトル。
敵は銀狼の魔剣士チハヤ・ルース。
──チハヤくん。
わたしは彼を、ちゃんと「仲間」にできたんだろうか?
それを確かめる間もなくバグ絡みの強制ログアウト。
実家のユキくんの部屋に戻るかと思いきや、ゲームキャラ「ユナキ・ミツヤー」姿のまま、この元相方の部屋に飛ばされて。
さらに空色ツインテ髪の謎「少年」、ユユリ──ゆーくんがリアル世界について来ちゃったり、彼を連れ帰るために、がるどあ世界の魔王皇帝トーヤに転生した歳矢とその部下がやってきてまたバトルになったり。
とどめにガルドア開発会社広報のミズカさんによる、夜の配信番組での「爆弾発言」──
「はてさて、今日はいったい、何があるやら!」
ユキくんをまねて、うーんとのびをする。
のばした手の先。右手の薬指がきらっと光る。
銀色のごついリング。
幻のがるどあ4周年記念アイテム。
150個限定、税込み44万円(ただし現在は販売不可)。
もちろん買った覚えなどない。
どころか、自分ではめた覚えもない。
きがついたら、それはもうそこにあったのだ。
「それも、ログインしたらわかるかも」
「もうログインするの?」
わたしは机の前まで行って、そこにあるスマホを手に取った。
ホーム画面に並ぶ見慣れたアイコンたち。
その中に、黒髪の三つ編み丸眼鏡少女のキャラが描かれたアイコンが当然のように並んでいる。
「わたしじゃん」
正確には、がるどあ世界でのわたしの姿。
1000人を超える「最終章」挑戦者──「がるどあらんなー」たちの中で、今のところわたしだけしか使っていない(使えない)特別なキャラクター。
「ユキくん、がるどあのアイコン、絵柄変わってない?」
前はふつうに空色ツインテの謎少年だった気がする。
ユキくんも自分のスマホを見て、
「5時のリセットに合わせてアップデートもあったから、そのせいじゃない?」
「ふうん」
とか言ってる間に、もう6時になる。
なんだ、昨日は全然時間が進まなかったのに。
てか、せっかくの日曜だってのに、朝6時から喪服でうろつくとか、どういう状況なんだか。
「でもどうしよう。いったん自分ち帰って、これ着替えてくるか」
ついでに、またこの部屋に飛ばされた時用に、替えの服とか靴とか、コスメ一式とか、そのあたりのものを持ってくるとか。
「ナキ姉、まだ品河だっけ?」
「そ」
このアパートの最寄り駅、千夜田線千馬木駅からJR品河駅まで、ざっくり40分。
そこからわたしのマンションまで、歩いて10分ちょい。
「向こうであれこれ準備して、まあ9時前には戻ってこれるよ」
「じゃあログインはここで?」
ちゃぶ台前に座ったままのユキくんが、わたしの方を向いたまま天井を指さす。
「それでいいんじゃない?」
ゲームへのログインはどこででもできそうだけど、戻るときはゲームキャラ姿のまま+この部屋限定っぽいし。
「だったらやっぱり、必要な荷物とか、持ってきておきたいし」
「遺品整理なのに、逆に増やしてどうすんだって話」
「だからいっそ住んじゃえって、ユキくんが」
「ナキ姉が住めばいいじゃん」
「わたしが?」
それは考えてなかったな。
「うーん。家賃は激安だけど、それだけっちゃそれだけだからなあ」
古っちいし、狭いし。ユニットバスあるだけましだけど。
「わたしが引越したら、あっという間に床がなくなるよ」
「そうだね」
二年振りの再会からまだ24時間も過ぎてないのに、なんかもうずっと一緒に住んでたような顔で頷かれる。
もういいや、さっさと逃げるか。
「とにかくこんな顔だし、喪服だし。人がいないうちにさっさと行ってくるよ」
「今の時間なら道もすいてるだろうし、車で行った方が早いかもよ?」
そかその手もあったか。
「ユキくん行ってくれる?」
「ご命令とあらば」
「じゃあお願い」
朝とはいえ、やっぱりすっぴん喪服で電車乗るのは厳しすぎるし。
自分の靴もないから、歳矢のを適当に借りていくつもりだったし。
話が決まればあとは行動あるのみ。
がるどあ最終章は基本、30日がかりでクリアする超長期イベント。
メインはもちろん、デイリーで追加されるミッションのボリュームも半端ない。
とにかく時間がかかる(らしい)。
そんな最終章は、開始からすでに9日目。
残りは22日しかない。
最終日は特別で、その前日までにすべてのミッション・クエストをクリアしないとログインできない。
つまり実質21日で、30日分のミッションをこなさないといけないのだ。
わたしはその間、まだ昨日1日しかログインしてないし。
それだって、出発点のすぐ前で、チハヤくんと一度バトルしただけだ。
もちろんプレイヤーサイドでもゲームの解析や研究は進んでるらしいから、ここまでに追加されたミッションについては、かなりの時間短縮が期待できる。
とはいえ、そもそもプレイヤーたるわたし自身、この手のゲームのまったくの初心者。
スマホを通じてユキくんが文字通り手取り足取りフォローしてくれるとはいえ、時間的な余裕はまったくない。
ログインするなら早くするに越したことはない。
「問題は会社か……」
忌引きは今日まで。
明日からは一応、一週間の夏休みを取るつもりだけど、実は申請はこれからだったりする。
会社はいわゆる創薬ベンチャーで、けっこう重要なプレゼンも控えてる。
(お盆だってのに……)
もし休みが取れなかったら、さてどうするか。
がるどあのサービス終了を目指す運営側は実際、「このゲームは、あなたの人生を賭けるだけの値打ちがあるか?」といった問いかけの意味も含めて、その存続を望むプレイヤーサイドに対して、こんなとんでもない最終章をぶつけてきた。
まさに今、わたし自身がそれを試されている。
「たかがゲーム」のために、会社とやりあってまで休みを取る気概があるのか。
下手をしたら退職を迫られるかもしれない(理由が理由だし……)。
とはいえもちろん、わたしに選択の余地はない。
わたしにとってがるどあは──「ガルドアース・ウォーテイル」は、「たかがゲーム」じゃない。
そこには、その「世界」には、このリアル世界から転生した歳矢がいる。
魔王皇帝トーヤとして、かの世界で「生きて」いるのだ。
このゲームの終了は、そんな彼が存在している世界が終わってしまうことを意味している。
世界がなくなる。消えてしまう。
彼ごと──魔王皇帝トーヤごと。
歳矢ごと。
そんなことはさせない。
絶対に。
「うん!」
小さく頷く。
決意も新たに玄関に向かい、作り付けの靴箱から無難なつかっけを出す。
ちょうとベルトの部分が黒いやつがあった。
サイズは大きいけど、どうせ車と家の間だけだし。問題ない。
ユキくんも出てきたところで、エアコンを切り忘れていたことに気がついた。
……しゃーない。
「ミスタースコッティ! エアコン止めて! 明かりも消して! 返事は無用、即実行!」
そしてすく扉を閉め、鍵をする。
「別にそこまでしなくても」
背中でユキくんがあきれてる。
「なんかもう意地というか、やつとの勝負というか」
やつに艦長と呼ばれてたらそこで負け、みたいな?
「それもう別のゲームだから」
笑われる。
ふん。
「ほらほら、時間がもったいない! さっさと行くぞ!」
「はいはいご主人さま」
外廊下のむき出しの階段を降りて、隣のコインパーキングへ。
ユキくんの白いスポーツカー以外に車はない。
「一日置きっぱで1100円とか……安いんだか高いんだか──ん?」
車の横に、誰かいる。
小柄な女の子?
ふわふわの髪が、まるでネコミミのように立っていて──って。
「まさか、本物の猫耳?」
「ユナキ!」
猫耳少女が声を上げる。
声──名前。
それはわたしの、ゲーム世界での──
「ユナキ! 逃げて──!」
直後。
お向かいさんの屋根越しに、にゅっと顔を出す、巨大な──
「──ドラゴン?」
ええーーーーーーーーー!!!!!?
次回予告!
は、はああああ????
どら、どら、どらごんですか!!!?
いいのかそんなもんここに出して!
ちゃんと回収できるのかこのフリ!
てかログインは? チハヤくんは?
どうなる次回!
どうする次回! どうしよう次回!
お──お楽しみに( ̄▽ ̄;)!




