40.朝(世界の終わりまであと22日)
「運命なんてクソくらえ!
過去も現在も、そして未来も!
全部まとめて救ってやるさ!」
前回のあらすじ!
「がるどあ世界の現実世界侵略」は
ミズカさんの大ブラフだった!
(ってそれでいいのかホントに(^^;)
一方わたしはわたしで、
「ユナキ」の実況がネットでバズって
こちらもびっくり。
その上コミケの「出演」宣言?
どうしたわたし!
どうするわたし!?
始まります!
「……じゃあナキ姉、次にログインした時の手順はいい?」
テンキー付きのキーボードをうっちゃって机に突っ伏すわたしに、それでもしつこくユキくんが声をかけてくる。
「わかってるって~」
まったくこの弟くんは。
昔からこういうところ(ゲームのレアイベント回収とか)は手を抜かないんだよなあ。
「……ええと、まずちび銀狼化したチハヤくんを見つけて確保する。同時に七星剣がインベントリにあること、その最終奥義が解放されていることもチェック。あとは、もしチハヤくんが自力で元の魔剣士に戻れない場合、その方法を探さなきゃいけないから──」
ひのふのみー、と指折り数えつつ復唱する。
ちなみに時間は朝の4時半。日曜日。
日が明けて、朝5時のリセットタイムまで、あと30分。
その時間を過ぎれば、また再びがるどあ世界へログインできるようになる。
それは最終章だけの特別ルール。
ゲームにログインできるのは、一日に一度だけ。
一回ログアウトしたら、朝5時にリセットされるまで戻れない。
ゲームのサービス続行を賭けた運営側との30日限定ガチ勝負──最終章。
その最終章が始まってから、本日で9日め。
がるどあ──スマホゲーム「ガルドアース・ウォーテイル」最終章の終了まで残り22日。
ただし最終日──「31日目」に行けるのは、先の30日間を走り抜き、「アーニーストーン」を手に入れたプレイヤー(がるどあらんなー)たちだけだ。
ゲームの存続──がるどあ世界の存亡は、すべてその彼らの決断と行動にかかっている。
「世界が終わるまで、あと22日──か」
「─なんだって?」
台所にいるユキくんが、耳聡く聞きつけて声をかけてくる。
おかあさんか。
「別にい──はあ……ふあああわわわあわあああ~」
ため息混じりの大あくび。
ちょっとのびをして、ついでに部屋の中を軽く見回す。
東京下町、千馬木の古びたアパート。
その二階の一室。
決してどこぞのゲーム世界などではない。
今のところ。
大丈夫。
大丈夫だ。
たぶん。
玄関の扉を開けても、その外に壮大な王都なんか広がっていない。
ボスクラスの女魔将とかが、お向かいの屋根の上でマントを翻してたりなんかしてない。
きっと。
「何ぶつぶつ言ってんの? 大丈夫? ──ほい」
一晩中点けっぱなしのエアコンの冷風が、ユキくんの差し出した熱々コーヒーの湯気をさっと払う。
「おお、こーひーじゃあ……」
直接冷気を浴び続けて冷え切った体には、むしろありがたい。
あー贅沢。
「……シュガーは?」
「二本、いや三本か。多かった?」
「んにゃ。あと二本は行ける」
え? ──というユキくんの声は聞こえない。
半身起こして口をつける。ふぉわ~。
でも。
「やっぱちょっと寝かせて……」
たっぷり残ったコーヒーマグをユキくんに突き返しつつ、また机に頭が落ちる。
ゲームがるどあ開発会社広報担当ミズカさんの、いろんな意味で衝撃的だった配信の後。
そこで彼女が語った言葉の真意も含めて、あれこれ話し合ったり、ネットの攻略サイトを巡回したり。
その合間に、朝5時でリセットされるがるどあ──「ガルドアー・ウォーテイル」最終章の対策を考えたり。
結局ほとんど眠れなかった。
「ぐー……」
ゲームキャラそのままの体でも、ちゃんと眠くなるんだ。
お腹も減るし、トイレも行ったぞ。
「そうだ、あと次の最終章ミッションで向かうことになる町のことだけど──ナキ姉!」
「うお!」
「ちゃんと聞いてる?」
「う? あ? ああ、聞いてる聞いてる! だからあっちの世界でも、お腹すいたり、トイレ行きたくなったりするのかな~って? 公衆トイレとかある?」
「……」
「あ、またちょっとお腹減った、かも? ……そだ、とーさんの葬式まんじゅう、まだ食べてなかったよね」
お年頃の女子(推定17歳ちくしょー)は燃費が悪い。
こんなことなら唐揚げ弁当、ユキくんにあげないで食べとけばよかった。
「朝っぱらからまんじゅうとか? あんだけ極甘コーヒー飲んどいて?」
「そんな飲んでないし、研修医時代とか、夜勤明けの誕生日にそのままケーキ屋さん行ってバースデーケーキ買ってワンホール一気食いしたことある」
「サイズは?」
「えっと、5号、だったかな?」
「……マジ?」
「だってどうせ残したって、次はいつ食べられるかわかんないし。お腹すいてたし。まあ自分へのご褒美ってことで」
思えばほんと、めちゃくちゃな時代だった……わたしも若かった(ほんの二年前だけど)。
だけどあんなことやこんなこともあって、本当に──って?
「あ、これ走馬燈?」
「ナキ姉、もう死んでるヒマないぞ。リアルでも現実でも」
それでもあきらめたように、部屋の真ん中に置いたちゃぶ台の横にあった紙袋を持ってくる。
「──ほい」
葬式饅頭の入った紙の手下げを突き出しながら、ユキくん。
「おおあんがと……これ二箱入ってるけど?」
「ひとつはおれの。でもいいよ、ナキ姉が食べれば」
「おお……」
「それしか感想ないのか。ちゃんと頭回ってる?」
「あんたこそ、ほとんど徹夜だったくせに元気だね」
「別に、後で寝るし」
「いやいや、ちゃんと見ててよこれで」
わたしは、突っ伏していた歳矢の──先日この部屋で死んで、今はがるどあゲーム世界で魔王皇帝なぞやってる男の──机に置いてある自分のスマホを指さす。
わたしがゲーム世界へログインした後も、ユキくんはそれを通じて、ゲーム世界にいるわたしにアドバイスをしたり、バトルのアシストをしたりできるのだ!
スマホってすごい! ……違うか。
「大丈夫だって。どうせ今回のミッションイベントは、基本次の町までずっと歩いてるだけで……ん?」
「何?」
「ナキ姉、そんなのしてた?」
「ほい? ──ん?」
ユキくんに指摘されて、自分の手を見る。
右手の薬指に、ごついリングがはまっていた。
見た目は男性向けのファッションリングって感じ。
ちなみに元の体のわたしの手には、今はなんのリングもはまっていない。
そういえば歳矢は、けっこうしつこく左手薬指のリング、つけてたっけ。
さすがに葬儀で火葬するときに外して、そのままお義母さんに預けてあるけれど。
「いつのまにこんなもの……?」
とにかくわたしには、そのリングをはめた記憶はない。
てか今までそんなものつけてなかったはず。
いくら徹夜で疲れていても、こんなでっかいリングしてれば絶対に気づいてる。
リング自体は総じて銀色。
幅広の「腕」を含めて、全体にけっこう細かい意匠が彫り込まれている。
中央の石座には楕円形の青黒い石。
「これ……もしかして」
例によって、わたしが座っている背もたれの高いスポーツチェアの横からのぞきこんでいたユキくんが、机のマウスに手をかけた。
二画面あるパソコンモニターのひとつに、がるどあの公式サイトが表示される。
ユキくん操作のマウスカーソルが、すっすとそれを辿って行く。
「っと……ほら、これこれ!」
Webショップの「がるどあ4周年記念アイテム」コーナー。
ちなみに「周年記念祭延期のため現在販売しておりません」──の注釈付き。
「延期って、もしかしてまだやる気なの?」
「サービス続行なら、ワンチャンあるんじゃない? こうやってページだって残してるし──それより、これ見て」
「あ」
そのページのトップに、わたしのそれと同じリングがあった。
150個限定で、値段は──
「ゼロが多い──ひのふの、え? 40、まんえん?」
税込み44万円……うひゃ~!
「うそ、マジ?」
わたしの結婚指輪とほとんどタメじゃん!
もっともこっちは歳矢と二人分だったけど!
「ナキ姉、こんなものいつのまに手に入れたわけ?」
「知らんしらん! 今ユキくんに言われるまで、自分でも知らなかったって!」
「だよね──だってこれ、実際には一個も販売されなかったし」
「そう、なんだ?」
そのリングが表示されているページを見つめるわたしに、ユキくんはささっと首を振って、
「ミズカ先輩も言ってた。4周年記念がぶっとんて、せっかく用意した記念アイテムが全部お蔵入りになっちゃったって」
がるどあ広報のミズカさんは、ユキくんにとっては大学の同じサークルの先輩さんにあたる。
ちなみに、さらにその二年上には歳矢がいる(いた)。
「それがなんで、ここにあるの?」
「こっちが聞きたい……でも、なんとなく出所はわかる気がする」
「さすがユキくん! それでそれで?」
「昨日、ミズカ先輩のネット配信番組が始まった直後、ナキ姉消えたじゃん」
「らしいね」
わたし自身はその瞬間は覚えていない。
でもユキくんによれば、昨晩の23時から始まったがるどあ広報チーム配信番組『ほとんど毎日配信! がるどあ最終章ライブレポート』の中で、当のミズカさんが衝撃発言(結局撤回したけど)した瞬間、わたしの姿が消えたらしい。
気がついたわたしは、ログインもしてないのにまたもやがるどあ世界にいて。
そこでまあいろいろあって、最後はまた突然こちらの世界へと戻された──らしい。
「つまりその時、向こうの世界へ──がるどあの『本編世界』へ行って戻ってくる間に、これを持たされたってわけ?」
わたしが体験したその「がるどあ世界」は、今現在リアルタイムで展開されている「最終章」のがるどあではなく、通常版の──普通にゲームにアカウント登録すると始まる序章のイベントだったらしい。
つまりわたしは、いわばその瞬間「過去のがるどあ世界」に飛ばされて、最終章から始めたわたしには体験していない序章イベント(シナリオ)を追体験させられたことになる。
どうやってわたしを「過去の世界」へ送り込んだのかはもちろん、誰がなぜそこんなことをしたのか、今のところはまったく不明。
ユキくんに言わせれば、魔王皇帝トーヤとなった歳矢が、最終章のクリアに必要な仲間や情報をわたしにゲットさせるため──らしいけど、確証はない。
まあ確かに、そこで三人の仲間(?)とは出会えたけど。
さておき。
「……でもちょっと思い出しても、こんなリング、あの世界にいた時は出てこなかったような」
ちなみにわたしは、それなりの時間向こうの世界にいたはずなのに、こちらへ戻った時にはせいぜい3分くらいしか経っていなかった。
それから一晩、ほとんど徹夜でユキくんと一緒にパソコンモニターとにらめっこしていた。
「こんな高いリングしてたら、もっと早く気がついてもよかったのに」
「値段は関係ないじゃん──でもうそうだよな。いつはまったんだろ、これ?」
「突然出現した謎のリング──ファンタジーのマジックアイテムとしちゃ王道だけど、実際自分の指にそれがはまってると思うと、ちょっとアレだな、気持ち悪い?」
「気持ち悪いって……がるどあ周年記念の幻のリングだぞ?」
ミズカ先輩が泣くぞ、と。
「そうだった! オークションに出せばいくらになるかな」
「ナキ姉、そればっか」
「だって……」
「絶対出すなよ?」
ユキくん、マジで顔、怖いんですけど。
「出さないよ。冗談だよ──あれ?」
「どしたの?」
「これ、外れない?」
にやつくユキくん。
「まあそれもファンタジーじゃお約束だよね。絶対外れない呪われたリング──」
「わーやめろー!」
何気にホラーダメだから! 使われていない夜の霊安室とか逆に怖!
「葬儀の時は、夜じゅう一人でずっとトシ兄の死体の横にいたじゃん」
「死体言うな! 柩の横とか、せめてご遺体とか!」
「愛? やっぱ愛のなせるわざってやつ?」
「うっせいわ!」
てかそんな話してる時じゃないって!
「そうだね、突然現れたリングの謎、か……」
「……ダメだ頭回らん。糖分、糖分摂取しないと!」
言って、葬式饅頭の入った袋を取り上げた──瞬間。
それは、パっと。
「消えた──?」
え?
手にしていたはずの袋が、目の前で一瞬で消えた?
「わー! な、ナキ姉!!!」
さらにユキくんが声を上げる。
「え、何なに!?」
「体! 体戻ってる!」
「え? ──ああ!」
思わず立ち上がる。
ミニのプリーツスカートも、黒と金のニーハイソックスもない。
視界にあるのは黒いストッキングと、膝下丈の黒いワンピースの裾。
それは喪服だった。
昨日まで歳矢のお葬式で着ていたもの。
髪に手をやる。
三つ編みお下げがない。
手に触れたのは、一つ結びのポニーテールだった。
顔に手を当てる。
鼻先にはやはり何もなかった。
「メガネ、メガネ……」
机の上や床の周りを見る。
もちろんない。どこにもない。
「まさか、わたしほんとに、戻って……?」
その声も、もはや「少女」ではなく、しっかり大人の声そのもので。
いったいわたしに何が起こった?
「ナキ姉、スマホ!」
机の上のスマホが、ぶーんぶーんと震えている。
「アラーム?」
確か、朝のリセットタイムに合わせて5時にセットしたはず──
「5時! リセット!」
叫ぶユキくん。
「それだ!」
次回予告
──え、どれだ!?
って、いきなり戻ったわたしの体。
リングの謎も含みつつ、
それでも舞台は再びがるどあ
最終章へ!
そこで待っていた意外な人物たちとは!
チハヤくんとの再会は果たせるのか!
以下次号!(どこの連載マンガだ!)
お楽しみに!




