39.決断!(世界の終わりまであと23日/15)
これは終わる世界で出会った仲間たちとの、
ちょっと遅まきながらの旅と冒険の物語──
前回のあらすじ!
気がつけば突然なぜか暗殺者になっていたわたし!
狙いはユユリ──ユユリコ姫?
でもそこにどこかで見たような青年が助けに!
……って、配信は?
がるどあ世界からの侵略は?
え? 冗談?
冗談て!
もう何がなんだか!
でも始まります!
『──というのは、まあ冗談ですが!』
椅子に座ったわたしと横に立つユキくん、仲良く一緒にのけぞったまま固まってしまう。
『大事なことなので二回言いました! もう一回言っておきますか──はい、冗談です!』
ごめんなさい!
配信画面の中でボサボサ頭がぺこり。
その間にも復活するBGM。
ゲームがるどあのホーム画面で流れる、いつもの曲。
ボサボサ頭は──ゲームがるどあ広報チームのミズカさんは、顔を上げると、
『はっはー! でも驚いた? 驚きました? ガチで本当だと思いました?』
破顔一笑。してやったり。
まさにそんな表情で。
「……今日、エイプリルフール、だっけ?」
わたしは机の三角柱型卓上カレンダーを見た。
びっしり書き込みのあるそれは、7月のまま止まっている。
それはこの部屋の主、歳矢の──がるどあの開発チームのメインプログラマーだった彼の、予定表。
めくられていない八月分をちらっと見る。
そちらもびっしり書き込みがあった。
「……」
ちなみに次の土日にはしっかり「夏コミ!」の文字(赤丸付き)。
「こんなクソ暑い日が4月なら、とっくに世界終わってるって!」
いろいろ複雑な気分のわたしの横で、珍しく投げやりな口調でユキくんが言った。
もちろんそれは、画面の中のミズカさん(ユキくんにとっては大学の先輩)には聞こえているはずもなく。
『いえ今日の最終章観戦ではほんと、わたし自身がびっくりすることだらけだったので。その気分をちょっとでもみなさんにも味わっていただこうかなっていう、ほんのかっるい広報ジョークでございます!』
そんなミズカさんの言葉に、コメント欄が読み切れない勢いで流れてゆく。
「おーすげー。ほんと、いつものコメ欄じゃないな。どこのVチューバーだよって!」
『いやだって、見た人は見たと思いますけど、あちこちですでに盛り上がってますけど! とあるがるどあらんなーさんの実況! 先の公式らじおんでもお話ししましたが、いえもう何度でも語りますが! 何あれ! わたしのちーさんになんてことしてくれたんだあのくろみつ! 黒三つ編み彼女! 見てますかーユナキさん、あなたですよ~!!』
「わーミズカさん今、わたしの名前呼ばなかった!?」
「何を今さら」
「何が?」
横に立っているユキくんがマウスを操作。
通常運転にもどったらしいミズカさんの配信を脇へのけて、別の画面を表に出す。
『#最終章雑談(ネタバレOK!)』
れああーすかさん:こんなスキンあった?
マスきゃっと:三つ編みは正義! ほしい!
そうめん食いたい:もしかしてガチャ期間限定?
トーヤノヨメ:ちょっと#ガチャ見てくる!
あらネコみじんぎり:最終章限定? 初めて見たんですけど!
なか休み:つーか最終章から始めたこの人? おれ落ちたんだが!
「──ナニコレ?」
「まだまだあるぞ」
ユキくんがまた別のサイトのチャット欄を表示させる。
>ちーさん瞬殺で仲間とか何? 何が起こったΣ( ̄□ ̄|||)!!!
>こんなイベ、てか仕様あったの?
>あの聖域出てすぐ? そんなんぜたい無理ゲーww!
>てか抜刀解放してないん? 単騎? 仲間は?
>もういからユナキ部屋作れww
「これって、まさか全部わたしの──?」
「そ。ナキ姉の実況上げた瞬間から、もうこの騒ぎ」
まじすか?
「あちこちでバズリまくってる。ヤバイくらい」
「これ大丈夫? ほっといて?」
「ほっとくしかないでしょ。下手に本人名乗っても冗談にしかならないし。逆にもし本当に本人だとわかったら火に油どころじゃない」
だいたいこの手のチャットサイト、いくつあると思う? って。
「Discordだけでも、がるどあ級なら100とか200のサーバーはあるだろね。さらに各サーバー内にそれぞれ最終章ガチ系からガチャにシナリオ、雑談エトセトラ、10以上のチャンネルがあって──」
「ちょっと待って、ええと、ひのふの……」
指折り数え始めたわたしをユキくんは完全に無視。
「とにかく全体でどれくらいあるかなんて、公式だって把握してない。全部フォローするなんて不可能だよ」
「他人事だと思って」
「思ってるよ。半分は」
「半分?」
「残り半分は、弟としてちゃんと協力してるじゃん? こうしてさ」
「そりゃ……まあ」
でも後の半分は他人事かい。
「だって端から見ててこんなに面白いイベントもないっしょ!」
「あんたね……協力するって言ったんだから、もう少し当事者の身もになってよ」
「だから大学四年の夏休み、ちゃんとこれに捧げてるじゃん」
「おのれらの夏休み、がるどあの最終章が終わっても、その先まだ一か月もあるだろが!」
がるどあ最終章は30日の期間限定。
その結果いかんにかかわらず、八月末で決着する。
「こっちは忌引きとお盆休み強引につなげても一週間確保するのがやっとなんだぞ!」
とりあえず来週の夏コミまではそれでどうにかなる。
でもその後は?
最終章はまだまだ続く。
ゲームキャラになったわたしの体だって、この後どうなるかわからない。
問題山積。
「じゃあどうする? いっそ会社辞めちゃう?」
「簡単に言うな。就職チート世代め」
「そんな楽でもないんだけどね、こっちも当事者として言わせてもらえれば」
「ふん」
わかってるって。
「ナキ姉だって、別に氷河期世代ってわけでもないだろ。6コしか違わないし」
「小学一年と中学一年の差はでかいぞ。あと一般大学と医学部も」
「そか、医学部の四年って修羅の世界だったっけ」
「思い出させんな。あんな魔界地獄」
とにかく、最終章だけでも大変なのに、いきなり過去? のがるどあ世界に放り出されて、そっちもやれとか?
ぜったいそれ無理ゲーだってば。
とはいえ、だ。
「それでもここで諦めたら、もう二度と歳矢とは──魔王皇帝トーヤとは、会えないかもしれない……」
彼ごと、がるどあ世界が消えてなくなるかもしれない。
それまで、その日まで、あと23日──
「だからさ、ちゃんと協力するって。泣くなよ」
いや泣いてねーし!
「そうだ、がるどあ世界といえば」
聞いちゃいねーし!
「さっきの話。序章イベントで『刺使徒』になったとき、本当にユユリコ姫の部屋までは行ってないんだ?」
ユユリコ姫──空色ツインテのお姫さま。
もしくは実は最終章最大最凶アイテム「アーニーストーン」でもあるらしい謎少年、ゆーくん。
(絶対禁句のネタバレらしい)
なぜがログアウトしたわたしにくっついてこの現実世界にやって来て、あのトーヤが慌てて(でもないか)連れ帰って行った。
「うん。その前に、わたしを操ってた男を彼が──クロウくん? がやっつけてくれて」
わたしは公式サイトにあった、青く長い髪をなびかせた白い甲冑姿の青年を思い出す。
もちろんわたしが出会ったその「彼」は、イラストに描かれただけの単なるゲームキャラではなく、ちゃんとそこに存在して、自分の意思で行動してる(ように見える)「人」だったけれど。
人懐っこい、安心感のある笑顔が印象的だった。
その草色の瞳も含めて、しっかり覚えている。
「だとしたら、ずいぶん端折ってるなそれ」
わたしのそんな感慨を一刀両断するように、ユキくんが。
「ほとんどダイジェストじゃん」
「ダイジェスト? ですと?」
「わー言うと思ったー」
棒読み口調のユキくんに、わたしはちょっと顔を赤くして、
「いいから先続けて!」
「はいはい──だから本来なら、リコ姫の部屋まで行って、というかおびき寄せられて、殺す前に捕まるはずが、別の勢力の陰謀で本当に殺しかけちゃって、でもそこにクロウが……って」
「……全然違う」
てかクロウくんは呼び捨てなの?
「でしょ? で、リコ姫連れて逃げようとして、その謎の勢力とバトルがあって、結局リコ姫は城に残して二人で脱出、一時的に王都に身を隠すんだ」
「ふうん」
「そこでまたいろいろあって、城下町の食堂でデミエルフのナナセと老戦士グゲンが口論してるとこに出くわしたり……」
「へー面白そうじゃん」
まあ二人の口論はこっちでもやってたけど。
ユキくんは腕組みしながら、
「もしかしたら、ホントに最終章前のメインシナリオ、同時にやっちゃうつもりかな?」
「いやいや、勝手に突然そんなことされても、わたしだって困るし!」
最終章だけだって大変なのに。
その上、がるどあの正規のエピソードもおさらいしろとか。
それも一応ログイン前提の最終章とは違って、いきなりゲーム世界に放り込まれるとか!
いくらこの身が自称17歳(しつこい?)の女の子でも、体が──いや心がもたんわ!
そっちはリアルに28歳のまんまなんだし!
何よりこっちにはこっちの生活がある。
会社とか。……会社とか(あれ、他にない?)
あとこの部屋の遺品整理とか。
ユキくんが机の上のミニカレンダーをめくりながら、
「それにコミケとか?」
「だからそれは次の土日でしょ」
「じゃなくて、公式コスプレの話」
あ、それもあったか!
見た目がるどあキャラそのまんまの姿をミズカさんに見られて、その場でスカウトされたんだった。
「週明けには返事しないといけないんじゃなかった?」
わたしは椅子を回して、部屋の真ん中にあるちゃぶ台を見た。
その上に、A4サイズのファイルケースが置いてある。
中身は契約書。
夏コミの企業ブースに出展するがるどあの開発会社、アズールウィングとの。
「コスプレなんてしたことないのに、いきなり公式とか? それもコミケ? 何十万人も来る人たちの前で?」
「いやいや全員が全員、ナキ姉身に来るわけないしょ! 自信過剰すぎ!」
お腹抱えそな勢いで笑うユキくん。
「こっちは真剣なんだぞ!」
「わかってるし、心配ないって」
ユキくんはそれでもまだ笑いながら、
「だってナキ姉、今のままでじゅうぶん、最上級のガルドアコスプレイヤーだし──てか本物だし?」
「それとこれとは別問題でしょが」
本人だろうがコスプレだろうが、恥ずかしいものは恥ずかしいんだい!
「じゃ、やめる?」
「やめたい」
「けど、どのみちコミケには行った方がいいような気もするけど」
思わせぶりに言葉を切るユキくん。
「なんでよ?」
「だってさ、ナキ姉と同じように、コスプレイヤーの中に『本物』が混ざってるかもよ?」
「がるどあの? まさか──」
「でも、もう何人も来てるんでしょ、『こっち』にさ?」
「そりゃ」
魔王皇帝トーヤを始め、女将軍リデラーさんとか、謎のツインテ少年ゆーくんとか。
「そして三つ編み丸眼鏡のナキ姉とか」
「わたしも?」
「でしょ」
まあとにかく。
確かにそう考えれば、けっこうこっちの世界に来てるな。
「コミケなら、ゲーム世界まんまで歩いてても誰も気にしないし」
「でもさ、わざわざコミケに来て何するの? 同人誌買うとか?」
「がるどあの? なら一日目か?」
知らんて。
だいたい本当に来るのか?
「逆にナキ姉が出ることで、あっちも出てくるかもしれない」
「そっか」
それはありそな気もする。
「もしかしたら、魔帝城へ行く前に、またトシ先輩と──魔王皇帝トーヤと会えるかも」
「トーヤと……」
「直接文句言うチャンスじゃん? 勝手にゲーム世界に引き込むなー! ってさ」
「かもね」
うーん。
うーん。
もう一度、ちゃぶ台の上の契約書を見る。
「……出て、みっか?」
次回予告!
物語は夜になって朝になり。
そこで最終章がリセットされれば
いよいよ残り22日!
再ログインしていざゲーム世界へ!
──ほんとかww?
こうご期待!




