38.ひっくり! びっくり!?(世界の終わりまであと23日/14)
終わる世界。
残る世界。
戦う世界。
足掻きもがく世界。
それはまるで、世界自身が
生きているかのような──
前回のあらすじ!
……っても、もう最後のミズカさんの
爆弾発言で全部持ってかれましたから!
トーヤがゲーム世界の中でもゲーム作ってるかもとか、
もうそんなことどーでも(ごめんトーヤ!)
続きです! 始まります!
「──いいか、あのお城だ」
背後の男が、「少女」の耳元に顔を寄せてささやいている。
眼下に広がるのは城塞都市か。
夜の世界に眩く輝く、魔法の都。聖なる王都。
その中央に屹立する白皙の巨人を思わせる尖塔群。
お城というより、それは前にテレビのニュースで見た異国の大聖堂のようで──
てれび? にゅーす?
「わかってるな。お姫さまは今、あそこにいる」
男のささやきが続いてる。
少女は頭の雑音を打ち払うように顔を上げて、目の前の光景に集中する。
小高い丘の上。
石造りの廃墟。
城塞都市の外周監視塔址。
かつての大戦の──「偉大なる魔王戦争」の名残らしい。
でも今の彼女にとって、そんなことはどうでもよくて。
夜──月はない。
穏やかに吹き渡る風。
ふわりと香るそれは、サーシアリーズ。
初夏に咲く花。その咲き始めの匂い。
彼女の足元で、その小さな黄色い花が風に揺れている。
合わせて、その背中で揺れる三つ編みにした長いお下げ。
鼻先には、ちょっと曇った安物の丸眼鏡。
生成りのリネンシャツ。
草木染のシンプルなスカート(もちろん膝下丈)。
それだけは新品らしい、真っ白な胸当て付きエプロン。
けれどやはり少女は、そのどれにも関心を示す様子はなく。
ただまっすぐ、眼下の世界を見下ろしている。
まるで初めて見るかのように。
まるでこれが見納めのように。
「お前を城内へ送り込む手はずは整ってる」
男は辛抱強く、そして容赦なく、ささやき続ける。
「お前はただそのまま、まっすぐあの城まで歩いて行けばいい──そして」
少女の手に、何かを握らせる。
それは短剣だった。
「案内された部屋にいる相手をこいつで一突き。それで終わりだ」
鞘はない。
抜き身の短剣──魔剣。
魔聖短剣「ケリス・ルーンテイカー」。
光らないよう艶消しの黒に塗られた、のたうつように波打つ刀身。
「使い捨てのお前たち──刺使徒にはもったいない逸品だが」
男のささやきに、初めて感情が乗る。
「まあ、あの姫──ユユリコ姫の魔導結界を一撃で破るには、これくらいの魔剣じゃあねえと役に立たねえし。とはいえ……」
パンや卵の入ったバスケットにその魔剣を突っ込んで、少女に手渡す。
「まったく、失敗するのは目に見えてるってのに、ほんと、もったいねえよなあ」
男の手が、彼女のお下げに触れる。
その手を払おうとする──でも動かない体。
「無駄無駄。その体はもうお前のもんじゃねえ。使い捨ての道具さ。諦めな」
男が笑う。
「この髪、最初から真っ黒なんて初めて見たぜ……目立たなく染める手間が省けて助かったがな」
ちょっとだけ戸惑いの表情。
でもすぐにそれも消えて。
「まあ好き好んでこんな色に染める娘なんていねえから、そういう意味じゃ逆に目を引いちまうかもだが……それも手の内か」
髪から乱暴に手を離し、まるで汚れを払うように振る。
「この黒髪ひとつで、魔帝国の反逆者──トーヤ一味がやったことにできるんなら、ルースルーグ様も万々歳ってとこか」
……トーヤ? 一味? 反逆者?
トーヤ。トーヤ、って。
え? まさか──?
けれど少女にも、そしてどこかから彼女の様子を見ているらしい「わたし」にも、それ以考える余裕は与えられなかった。
男のその手がわたしの背中をどん、と突く。
「安心しな、使い捨てのおめえにそこまで期待はしてねえから──よし行け! どうせ失敗しても、帝国からはしっかり金は出る。その魔剣だって、鞘はこっちにあるんだ。その気ならいつでも回収できる」
使い捨ての人間相手にしては、よくしゃべる人だった。
まるで、彼女の周りで何か起きているのか教えてくれているような……
あれこれ考えている「わたし」とは別に、少女の体が勝手に歩き出す。
それだけは頑丈な皮の編み上げ靴が踏み込むたび、かすかに土と草の匂い。
「回収できねえのは、使い捨てなのは、お前自身だけさ! はっはー!」
丘を降りる少女の上で笑い続ける男の声が、次の瞬間、ふっと途切れる。
まるでその声が彼女の耳に届く前に、剣か何かで断ち切られたような。
それと同時に、その体がずん、と重くなったように傾いて。
体が戻った──と思う間もなく、その場で倒れそうになる。
「おっとっと!」
その体を誰かが支えてくれた。
ずり落ちたメガネの先で笑う、琥珀色の瞳。
当の少女と大して変わらない、細く小柄な体。
風に揺れる長いお下げ──いや、ツインテール。
「大丈夫か、ナナセ?」
丘の上から、若い男の声。
「うん! この子見た目よりずっと華奢だし!」
ナナセと呼ばれた女の子は、少女をゆっくり地面に座らせると、
「こんなんで、よくユユリコ姫暗殺役に選ばれたもんね」
「……そいつはただの使い捨て。エクスブレットだ」
その重々しい声にふさわしい、ぶ厚い甲冑に巨大な両刃斧を背負った老戦士が、少女に向けて革袋を放ってよこす。
「飲め」
飲んだ。
「う──うげ! うえっぷ!」
うわ、まずそ!
「吐き出すな。ちゃんと飲め。気つけを兼ねた暗示解呪の妙薬だ」
「ただの古酒ともいうけどね!」
「ナナセー?」
あの青年がまた言った。
さっきよりずいぶん近い。
座ったまま顔を上げると、ぐったりした男を肩に抱えた青年が立っていた。
青年は、よっこいしょと男を下ろす。
「生きてるの?」
ナナセと呼ばれた女の子が聞く。
特徴的に尖った耳が、まるで猫のようにくるっと動く。
「もちろん。それが警護団どの約束だからね」
「帝国へ突き出しやるため? 今回の陰謀の証拠として」
「こんな雑魚、いくら喰らわせても帝国にゃへの役にも立たんわ」
老戦士は、少女の横にあったバスケットを拾い上げた。
「ましてや、その裏で尾をひいてる魔王皇帝ルースルーグに届くわけもない」
そう言うと、バスケットから固パンの塊を掴むやそれを丸ごと口の中へ放り込む。
「──まず」
それを見ていたツインテ少女が、ふん、と鼻を鳴らす。
「まったくね。大喰らいの誰かさんとおんなじ! 遠慮もなく節操もなく何でも喰らう──」
「食わず嫌いのデミエルフが俺に食を語るか?」
「言ったなこの永遠の逃亡者ジジイ──!」
「俺はこう見えても、てめえより100は若いがな。いや200か」
笑う。
「そのおれがジジイなら、てめえの方こそ──」
「がーーーーそれ以上言ったらコロす! 軽くコローす! 奥歯ガタガタいわせて一週間は何も食えなくしてやる!」
「面白い。前回の続きと行くか!」
「望むところ──!」
「ほらほら二人とも、やめないかって!」
青年が、腰の大剣に手をかけて言った。
ちゃかっと、少しだけその刀身を鞘からのぞかせて見せる。
「頼むからぼくにこれを抜かせないでくれ──ほら、この子だってびっくりしてる」
「ひっくり!」
「酔ってるだけじゃん──ってあなた、これ全部飲んじゃったの!?」
すっかりしぼんだ革袋をひっくり返すツインテ少女。
少女はふらふらぐるぐるする頭をなんとか彼女へ向けて、
「らって、だって、あんじゅかいじゅのみょーやくとか、その人が……」
「まいったな。彼女にはこのまま城に行って、手引きしてる仲間をおびき出してもらいたかったのに」
困ったような、でもやっぱり笑っているような声。
「けど素直に協力してくれるの、その子?」
青年は背中のマントをさっと払うと、片膝をついてわたしに顔を寄せる。
「不思議な髪の色だね。瞳も同じか……きみはどう? ぼくらに協力してくれるかい?」
風が吹いた。
彼の長く青い髪が、まるで尾を引く流れ星のように目の前を通り過ぎてゆく。
少女はその、透き通る草原のような草色の瞳をじっと見つめる。
「ひっく!」
「それ頷いたの? それともしゃっくりしただけ?」
「だからナナセってば──ああ、彼女はナナセ。ナナセ・リーン。エルフ族の女の子」
「これはこれはご丁寧に。デミエルフのナナセ・リーンよ。別にナナセでいいから!」
言って、でもふん、とそっぽを向くツインテ少女──ナナセ。
「で、こっちの大男はグゲン。グゲン・ジンギ。歴戦の騎竜士だ」
「……どら、ぐーる?」
「違う──と、待て! 娘さん、おまえさん、リデラーを知ってるんか!?]
「大竜魔将リデラー・ルルクオン!? この子が、まさか!」
声を上げるグゲンさん。
はっ! と鼻で笑うナナセちゃん。
「ただの言い間違いでしょ」
「もういいだろナナセ──ああそうだ、ぼくはクロウ」
白い細身の甲冑を身に着けた青年が、片膝をついたままその手をのばす。
「クロウ・カーム。一応今回、この捕縛チームのリーダーをしてる」
のばした手をそのままに、また笑いかけてくる。
「それで、きみは?」
にこやかな顔。安心する笑顔。
月明かりもない夜なのに、それははっきりと見えて。
それはまるで、心を許した仲間に向かってするような──
応える少女と「わたし」の声が重なる。
「わたし……? わたし、わたしは──ナ、」
☆
『Mission complete……We’ve got her back, Captain.』
『Thank you, Mr. Scotty.』
☆☆
「──姉! ナキ姉! うわ!」
はっと顔を上げると、隣で大学生の弟くんが万歳のポーズでのけぞっていた。
「何やってんの、ユキくん?」
「そりゃこっちのセリフ!」
なんか興奮してる。
「ミズカさんの配信見てて、固まったと思ったら、突然その体が消えちゃって──!」
「消えた? ……わたしが?」
背もたれの高い「スポーツチェア」に座ったまま、ぐるりと一回り。
つられて揺れる、長い三つ編みお下げ。
ずり落ちそうになる丸眼鏡。
高校生風の白シャツにプリーツスカート。
これだけはちょっと独特な、細かい金の意匠を凝らした黒いニーハイソックス。
「別になんともないじゃん?」
わたしはもちろん、この部屋──東京下町にある安アパートの中の様子も、何も変わっていない。
「だから戻って来たんだって! 今まで消えてたんだよナキ姉! どこいってたのさ!」
「どこって……うん?」
あれ?
フラッシュバック。
波打つ刀身を持った短剣。
パンの詰まったバスケット。
サクラダファミリアのような(そうだそんな名前だった──え?)白亜のお城。
そして──仲間?
仲間たち?
「──あれ?」
「何? 何か思い出した?」
「……刺使徒? ──エクスバレット?」
「え? ああ、うん、前に話したやつね。それが何?」
そう──前にユキ君が話してくれた。
がるどあ──「ガルドアース・ウォーテイル」のチュートリアル。序章。
その物語。
謎の組織に操られた使い捨ての刺客──「刺使徒」。
「……なんかわたし、それになってたみたい」
いや、なってたというか、見てたというか……?
目の前で演じられてるリアルなお芝居をその場で体験していたような……
あと、なぜかAIスピーカー「ミスタースコッティ」の声も聞こえたような?
わたしは、机の横に立つその銀色のロケット型ボディに言いかけて、でもやめる。
「もしかして、がるどあに──ゲーム世界に行ってたの? ログインもしないで?」
「わかんない。でも……あ、待って」
わたしはパソコンモニターにあるがるどあ公式サイトを選択。
その「キャラクター」の項目を選んで表示させる。
「ええと──あ、いた!」
たぶん一番最初に仲間になる、初期メンバーたち。
青い髪の青年、クロウ・カーム。
両刃斧の老戦士、グゲン・ジンギ。
そして、枯れ葉色のツインテ髪エルフ、ナナセ・リーン。
「この三人? ……三人いた?」
「うん、間違いない」
「三人か……」
「どしたの?」
「ガルドア序盤のそのイベントで仲間になるのは、この彼、クロウだけだよ」
「そなの? ──そうだ、あと、何かまた聖剣だか魔剣だかみたいの出てきたけど」
「マジ?」
「ええと、なんていったっけ。なんか短剣なんだけど、刀身が妙にぐにゃぐにゃしてて──」
「魔短剣ケリス・ルーンテイカー!」
「ああ、それそれ。だったかな? ──よく知ってるねユキくん」
「ナキ姉こそ! その短剣も檄レアで、こんな序盤に出てくるようなものじゃ──!」
「そうなんだ」
「第二章イベントで行く学園都市に封印されてるキーアイテムだよ! だいたい最終章走ってるはずのナキ姉が、どうして今さら序盤も序盤なそのイベントやってんの!?」
「わたしだって何がなんだか──まあ裏で何かしてるとしたら、心当たりは一人いるけど」
てか一人しか思いつかないけど。
「トシ先輩──魔王皇帝、トーヤ?」
頷くわたし。
「最終章と並行して、がるどあの本編シナリオもさくっと体験させようとしてる──とか?」
「なんのために?」
「ええと、たとえばわたしに、最終章のクリア──トーヤのいる魔帝城へ行くのに欠かせないものを手に入れさせるためとか?」
「──仲間か!」
何か気づいたよに、ぽんと手を打つユキくん。
「本来なら最終章の前に出会うはずの仲間たちとナキ姉を出会わせようとしてる──?」
だとしたら──と、先を続けようとするユキくんの口に手をやってストップさせる。
「あー待って! 配信! 配信は!?」
「──え? あ、ああ! そっか、そっちもだった!」
ユキくんが、わたしが開いていた公式サイトを最小化させた。
背後に隠れていた画像が出てくる。
23時から始まっていた、がるどあ広報チーム真岡水華さんが出演している公式配信番組。
『ほとんど毎日配信! がるどあ最終章ライブレポート』。
「どうなったのこれ?」
配信が始まった途端の爆弾発言から、どれくらい時間が過ぎたのか。
わたしが(ログインもしてないのに)なぜかがるどあ世界に飛ばされていた間、何を語ったのか。
画面内のミズカさんは、あの発言──
『わたしたちは、ゲーム世界から、がるどあ世界から、その世界自身から、侵略を受けています』
──というところで止まっている。
「ナキ姉が消えた瞬間、とりあえず一時停止してた──じゃ、再開するよ」
「うん……」
二人して、再開された画像に注目する。
再開後もしばしの間、画像は変わらなかった。
じっと黙って正面を見続けているミズカさん。
エアコンで冷え切った部屋の中。
パソコンのモニタ画面が映し続けるその画像とにらめっこを続けるわたし。
「──というのは、まあ冗談ですが」
という軽口を期待して、じっと待つ。
同様に、横にいるユキくんにも言葉はない。
画面横に配置されたコメント欄も微動だにしない。
誰も何も書き込まない。書き込めない。
誰も何も言わず。BGMもなく。
ただひたすら、彼女の──がるどあ広報チーム真岡水華の、その次の言葉を待つ。
やがて、やっと、その口がふわっと開いて。
『──というのは、まあ冗談ですが!』
ためにためた後で。
ふくらますだけ膨らませた後で。
その風船にさくっと針を刺すような。
いやいっそ、両側からぎゅっと挟んでぱん! と破裂させるような。
破裂させられたような。
「え?」
「──ええ?」
次回予告!
……あれ?
なんか作者側にも(また)予想外の展開がww
こんなとこでこの話をしちゃうんだ?
大丈夫かこの先どうなるかちゃんとわかってる?
わかってます──たぶん( ̄▽ ̄;)
というわけで次回は……
すみませんこれから書きます(;^_^A!
ではお楽しみに!




