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37.現実? 真実?(世界の終わりまであと23日/13)

 それは世界を、星を終わらせるもの。

 この世界そのもの。

 がるどあが求めるもの。

 求めている世界。

 この世界。

 この星。アーニーストーン。


 それは──



前回のあらすじ!

 やばいやばい、前書きで最強最悪の

 ネタバレするとこだった!


 もとい。閑話休題。

 やっとお帰りのがるどあ広報ミズカさん。

 でも最後に爆弾発言。


「トラックに、刺客に気をつけて」


 でもわたし、このリアル世界じゃ

 無敵のはずでは? はて?


 がるどあゲームの世界で

 現実──リアルの世界で

 いったい何が起きてるの?


 始まりです!

「──刺客っていえばさ、がるどあ最初のメインクエスト『アルシアの王女編』にもいたんだけど。知ってる?」


 部屋の真ん中に出したちゃぶ台でレンチンしたコンビニ弁当(唐揚げ弁当)を掻っ込んでいたユキくんが、やっとその手を止めて言った。


 昔っから大好物を食べてると無言になるんだよなこの子。


「知らない。てか『それ』って、わたしが今やってる最終章のずっと前のお話でしょ?」


 同じコンビニ弁当を前にしたわたしの箸は、逆にほとんどきれいなまま。


 ゲームキャラの姿になったからって、別にお箸の使い方を忘れたとか、この体じゃリアル世界の食べ物は口にできないとか、そんなことではなく(さっきチョコモナカアイス食べて実証済み。うま)。


 ただ時間はもう午後10時を軽く回っていて。


 こんな時間にこんなくっそ重たいコンビニ弁当食べるとか、ちょっとね。

(リアル28歳女子としては)やっぱり抵抗が。


 アイスも食べちゃったし。

 チョコモナカって何気にカロリー高いし。

 ゲーム始める前にもポテひと袋とか、なんかどさくさで食べまくってた気がするし。


 まあいい。これはこれで後でユキくんに美味しく頂いてもらおう。

 今夜はもうここに泊まるらしいし。ちょうどいい。


 手つかずのそれに再び透明な蓋をかぶせようとして。

 でもふとその手が止まる。


 でも待てよ──もしこの体が、元のそれとは完全に別物なら?


 ころんとした唐揚げをじっと見つめる。


 だとしたら、ここでいくらダイエットしたり運動したりしても無駄。

 わたしの本体(?)にはなんの効果もない──とか?


 逆にあっちは、ポテチとか食いまくったまま放置されてるとか?

 それってなんかヤバくないか?


 そんなわたしの逡巡する乙女心なぞ知ったことかと、ごはんの最後の一粒まで食べ終えたユキくんは、満足そうにペットボトルのウーロン茶を飲みほしながら、


「ふい~。そうそれ。普通にがるどあ始めたら最初にある序章シナリオ」


 ユキくんの話など右から左。

 とにかく蓋をしつつ、ぼうっと机の上の二画面モニターを見る。


 本来なら、もうとっくにがるどあ広報のミズカさんが担当している「ほとんど毎日最終章レポート」だかの配信番組が始まってる時間。


 けどモニター上に開いているウィンドウのどれにもその動画はない。

 がるどあの公式SNSとかに、今夜の配信は23時──午後11からになるって通知があるだけ。


「その刺客、とある組織に操られて姫の命を狙う使い捨ての鉄砲玉──『刺使徒(エクスバレット)』っていうんだけど、誰だと思う?」


 最終章を走ってる「がるどあランナー」たちの実況画像。

 そのリアルタイム解説や、攻略サイトのチャット欄などなど。


 それらの中から、ひとつのサイトをピックアップする。


「さあ……え?」


 がるどあ──アプリ配信ゲーム「ガルドアース・ウォーテイル」の公式サイト。

 その画面いっぱいに「黒髪の三つ編みメガネ少女」のどアップが!


「うおっ──わたし!?」


「お、正解。そう、プレイヤー自身が──え?」


「あーびっくりした! ねーユキくん、ちょっとこれ見てこれ──ん?」


 椅子ごと振り返ると、ちゃぶ台に立てたひじの上にあごを乗せたユキくんが、ふてくさたように眉を寄せてこちらを睨みつけていた。


「人の話、ちゃんと聞いてる?」


「あーごめんごめんご、聞いてなかった……かも?」


 逃げるように横目でモニター画面をチラ見する。


 そこではゲームキャラ姿のわたしに続いて、「魔王皇帝トーヤ」も登場。


 また、ここから? ──どこかで聞いたような声で、「わたし」。

 また、ここから! ──若々しく、でもちゃんと重みのある声で、「トーヤ」。


 続く「さあ始めよう、ぼくらの世界を取り戻す戦いを!」の謳い文句。

 盛り上がるBGM。


 最後に大きくゲームタイトル『GardEarth WarTale』の飾り文字。

 その下には「最終章アーニーストーン編、絶賛展開中!」のキャプション。


「……そのPV、新作? ──すげ、もうナキ姉のビジュアル使ってる!」


 怒るのも忘れたように、ふら~っと立ち上がって寄ってくる。

 ユキくんホイホイ。


「ね、びっくりっしょ」


「ナキ姉のゲーム実況から、まだどれくらい? ──いつ作ったんだよって、これ」


 あ、そっちか。


 でもそうか。よく知らないけど、ほんの数十秒とはいえ、これだけのPVを作るのにはそれなりの時間がかかるのは間違いない。


「最終章フォローしながら、レポート配信準備しながら、おまけにここまで資料を取りに来たりしながら、さらにこんだけのPVを上げるとか──?」


 繰り返される映像に、ごくっと喉を鳴らすユキくん。


「それもほんの数時間足らずで? ──ナニソレむしろ怖いんですけど」


「……これ、トーヤ──歳矢(としや)が作ってたりして」


 ぽつり、とわたし。


「え?」


「ううん、なんとなく思っただけ」


「ミズカ先輩の話? この部屋で魔王姿のトシ兄が、ゲームにナキ姉用のビジュアルやらシナリオやらを追加で実装させてたかもってやつ?」


「そ。それ」


「けど、ここにはずっとナキ姉いたじゃん」


「だから、この部屋じゃなくて、魔王城──魔帝城とか、そっちで」


「ゲームの中でゲーム作ってるって?」 


 真っ暗な空に走る稲光。

 その刹那の光に浮かぶ漆黒の魔城。


 雨粒に濡れる古びたステンドグラスから透けて見える大部屋。


 天井の高い部屋の中で無数に並ぶ机。

 そして様々な異形の魔物たち、魔人たち。


 豪奢なステンドグラスの下。

 みんな忙しそうに動き回っていて。


 その中心で指示を出すこの城の主。

 魔王皇帝トーヤ。


 目の前に浮かび上がるPV映像を見て、にやりと笑い──


「──みたいな?」


「またそんな見て来たみたいに……まさか」


 言葉が切れる。


「何? ユキくん?」


「このゲームって、ナキ姉が──『ユナキ』がそこでやったこと、やろうとしたことは、だいたい実現しちゃうみたいだからさ」


「相手の聖剣使っちゃったバトルとか?」


「仲間にできない敵を仲間にしちゃったりとか──ね」


 すっとこちらを見たユキくんと視線が合う。


「だとしたら、今ナキ姉が語ったそのイメージも、ほんとに実現されてたりして」


「まさか──」


「でもさ、ナキ姉の動きに合わせて、トシ兄が──魔王皇帝トーヤが、リアルタイムでゲームを書き換えているとしたら、それはそれでつじつまが合う気、しない?」


 わたしが魔帝城へ行くまで会えないってのも、そのせい?

 わたしに合わせて、裏でゲーム作ってるせい?


「だったら最終章とか、もっと簡単にクリアできるように作ってくれればいいのに」


 わたしは繰り返されるPVを眺めながら、


「それこそ一気に魔帝城まで行けちゃうとか、いやいっそ、最終章自体、好きに書き換えて──」


「できないんだよ」


「できない?」


「ナキ姉の仮説──トシ兄がリアルタイムでがるどあに手を加えられるとして、それでもやっぱり限界があるんだと思う」


 ユキくんはちょっと考えるようにしてから、


「たとえばそれは、このゲームの中で実際にナキ姉がやったこと、しちゃったことを、後から『ほんとにあったこと』にできるだけで、そのこと自体を先回りで仕込むことはできない──とか」


「わたしがリアル化したゲーム世界の中で勝手にやったことを、改めてゲーム化してるってこと? トーヤが? 魔帝城で?」


 なんだそれ?


「どこでやってるかは知らない。でもやってるとしたら、そう、魔帝城が一番ありだろな」


 ユキくんは机の上の唐揚げ弁当をちらっと見て、


「だからナキ姉に、魔帝城まで来いって言ってるのかも──食べないの?」


「わたしがそこへ行けば、わたしを通じて直接ゲームを好きに書き換えられるから? ──食べていいよ」


 あのゲーム世界では、トーヤはわたしのしたことを「本当のこと」にできる?


 でも逆に言えば、それはトーヤがいくら望んでも、わたしが「それ」をしない限り、それを実現させることは──新しいシステム、世界の理としてゲームの世界に「実装」することは、できないってことで。


 つまりトーヤは、ゲーム世界──がるどあ世界を自分が望む世界へと書き換えるため、わたしをゲーム内へと取り込んだ(もしくは取り込もうとしている)──と?


「夜食ゲット! ──さあ。でもトシ兄が呼び込んだ可能性はあるかも」


 どこかほくほく顔で、ユキくん。

 ほんと好きだね唐揚げ。


 とはいえよく同じものを連続で食べられるな。

 てか夜食でコンビニ弁当とか。

 勇者か。


「そもそも最終章への参加資格どころか、ゲーム登録すらしていなかったナキ姉に招待状送ったの、トシ兄だったんでしょ?」


「でもトーヤは、あの世界を終わらせたがってる」


「そうだっけ?」


「チハヤくん──トーヤの仲間だった彼も確かそう言ってたし」


「チハヤ。ちーさん──銀狼の魔剣士チハヤ・ルースか。仲間にしたまま、放りっぱなしの」


「言うな。気にしてるんだから」


 バトルの後、ちび魔狼になったチハヤくん。

 その後ユキくんに強制ログアウトさせられてしまったせいで、今の彼がどうなってるかはまったくわからない。


 心配だけど、最終章独自の一日一度のログイン制限のせいで、次のリセット時間まで──明日の5時まではログインできない。


「がるどあ──ガルドアース・ウォーテイル……」


 PVで流れ続けるそのタイトルを改めて口にする。


「なんか、最初に思ってたのとぜんぜん違う感じになってきた気がする」


「うん。それは思う」


 ユキくんは、うーんと背伸びするように手を上げながら、


「けどやっぱり、ここから──『外』から見てるだけじゃ、何もわからないのは一緒」


「そだね──早く戻らなきゃ。あっちの世界に」


「戻る、か」


「何?」


「いや──確かに今のナキ姉にとって、ゲームキャラとしての『ユナキ』にとっては、がるどあ世界の方が元々の居場所なんだろなって」


「それは──」


 言いかけて、でも先が続かない。


「あっちにはトシ先輩──魔王皇帝トーヤに転生した元ダンナさんもいるし。いっそこのまま、向こうの世界の人になっちゃうとか?」


「何バカいってんだか。そんなことできるわけないじゃん」


「普通の人間にはね」


「わたしが普通じゃないって?」


「自分の今のカッコ見て、まだそれが言える?」


 わたしは興奮でずり落ちた鼻先の丸眼鏡をくいっと戻して、


「……だね」


 すん。


「まあまあ。でもそれができたとしても、このままだとがるどあ世界自体はあと三週間ちょっとの運命だけど」


「わたしはその世界を救いたくて──その世界ごと、トーヤが消えてなくなるのを阻止したくて、このゲームに、最終章に挑戦してる」


 丸眼鏡越しに流れ続けるPV。


 語り続ける「ユナキ」と「トーヤ」。


 わたしと歳矢。


 世界を救いたいわたし──新米冒険者(ソードウォーカー)ユナキ。

 終わらせたい歳矢──がるどあ世界に君臨する魔王皇帝トーヤ。


 その立場も、目的も、見事に正反対。


 それでも彼は、トーヤは、わたしを必要としている。


 それは世界を書き換えるため。

 わたしを通じて、望む世界へと。


 何気なく見ていたサイトの項目で「キャラクター」というが目に留まった。

 クリック。


 最初に出てきたのは、いかにも主人公といった風の、少年少女のキャラクター。

 プレイヤーが最初に選べる二人。


 どちらもいかにもファンタジー世界の冒険者らしい、それはそれで魅力的なデザインで。


 だけどそこに黒髪の三つ編みロングお下げな「わたし」の姿はない。

 今のとこそれは、今後ガチャに追加予定の新スキンとして告知されているだけ。


 なのに公式サイトの一番目立つPVのまさに主役として、その姿が描かれている。


 トーヤ、これはあなたがやったの?

 もしかしたら、これを見るわたしのために?


「だとしたら、ゲームの私物化もここに極まれりって感じ」


「そりゃ魔王皇帝だし。もうやりたい放題でしょ」


「ならさっさと世界、終わらせちゃえばいいのに」


 そうしたいのなら。

 本当にそれが望みなら。

 

「だからできないんだって、それは。魔王皇帝自身には」


「そのためにはわたしが必要って?」


 でもわたしが望むのは世界の存続。

 

「そんなわたしを魔帝城に向かわせて、どうする気?」


「さあ。でも行ってみればわかるでしょ。いやでもね」


 いやでも、か。


 ふん。


「やな感じ」


「じゃ、辞める?」


「え?」


「別に義務でもないし。放っておけばいい」


 突き放すように肩をすくめるユキくん。


「最終章走ってるがるどあランナーは他にも1000以上いるんだし。後は、ゲーム世界を救うのは連中に任せて、この現実世界で、ユナキ・ミツヤーじゃなく、光谷優樹南として、がるどあのことなんて忘れて、普通に生きていけばいい」


 それがナキ姉の望みなら──って。


「なんか非難されてるみたい」


「それはナキ姉がそう思ってるからでしょ」


 ……そうなのかな?


「あ、時間だ」


「え?」


「11時。23時。始まるよライブレポート」


「あ、あの人の」


 がるどあ広報部ミズカさんの配信番組。


 背後からユキくんの手がマウスへとのびて、画像をクリック。


 がるどあのメインビジュアルに重なって、『ほとんど毎日配信! がるどあ最終章ライブレポート Vol.8』のタイトル。

 その下で「配信開始まで、もうしばらくお待ちください」──の案内が流れている。


「はてさて、何を語ってくれるやら──お、あじま、違った始まるぞ!」


 画面が切り替わり、いかにも会社内に仮設した配信スタジオといったノリのブースが映し出される。

 その真ん中に、やっぱりぼさぼさ髪に黒縁眼鏡の彼女──ミズカさん。


『ども、毎度毎度髪ぼっさぼさですみませーん! がるどあ広報チーム真岡水華っすー!』


 うわ、かっるいノリ!


 ダークブルーのパンツスーツから一転、がるどあのイベントTシャツ姿のミズカさん、ぺこりと一礼。


 そして顔を上げると、言った。



『わたしたちは今、ゲーム世界から、がるどあ世界から、その世界自身から、侵略を受けています』


  

      ☆



『Mr. Scotty, beam her up!』

『Aye, Captain.』……


次回予告!

 ……って。あ。

 い、言っちゃった(◎_◎;))!


 どーする、どーする?

 今ならまだ冗談ですむぞミズカさん!

(済むのか?)


 更に最後の意味深な英語セリフの意味は? 

(後付けでたった今追加しました( ̄▽ ̄;)!)


 刮目して待て次回!

(ほんとにいいの? 知らないぞー(^^;?)

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