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36.刺客?(世界の終わりまであと23日/12)

人の命を、その思いを。

数なんかで測るな。


ただひとりのためでも上等だ。

救えるから救うのか。救えなければ放り出すのか。


ただ救いたい人がそこにいる──

手をのばすのに、それ以上の理由は必要か?



前回のあらすじ!

 というわけでとうとうやって来ましたミズカさん!

 わたしの姿を見ても驚くことなく、

 逆に知らされる予想外の真実!


 ミズカさんのところにもトーヤが?

 でもってこの世界からゲームに介入してるって?


 さらに出される最終兵器!

 夏コミの公式コスプレイヤー契約書?

 わたしがガルドアの公式コスプレイヤーに!?


 始まります!



「……公式コスプレイヤーの契約書、ですか?」


 夏の夜の狭いアパートの一室。


 数枚の書類が入ったA4ファイルを手に、わたしはその部屋の奥にあるパソコン机の前に座ったまま、周りにいる二人──がるどあ開発会社の広報さん、ミズカさんと、弟のユキくんとの間で視線を迷わせていた。


「夏コミって、あれですよね、コミックマーケット」


 それくらい、わたしでも知ってる。

 事実上世界最大級のマンガ系同人誌即売会。

 

 いや今やそれは、プロアマ問わないサブカルエンタメ一大リアルイベント。

 あの東京ビッグサイトのほとんど全館を使い、世界中から数十万の人間が集まる夢の祭典。


「そんなイベントに、わたしが? でもコスプレなんて、やったことないですよ」


 しかもリアルじゃ一応28歳の「いい大人」ですよ?


「世界中のコスプレイヤー敵にしたいのナキ姉?」


「その年代は、むしろレイヤーさんたちのど真ん中世代、一番それを楽しんでる人たちです」


 頭上から降り注ぐ二人の言葉に、思わず頭が下を向く。


「それにあなたの場合、改めてコスプレする必要はありませんし」


「そーそー。ナキ姉、今のまんまでじゅうぶんがるどあキャラだし──ていうか、ぶっちゃけ『本人』だし」


 そうだった。


 わたしは今、がるどあ──『ガルドアース・ウォーテイル』世界からそのまま抜け出て来たような、というか実際抜け出て来たプレイヤーキャラクター「ユナキ・ミツヤー」そのもので。


 見た目17歳(自称推奨)、黒髪の三つ編みロングのお下げに丸眼鏡の地味っ子キャラ。

 でもそこは神絵師の奇跡の技で、とてつもなくかわいいデザインに仕上がっている。

 

 元々は3Dアニメ調のゲームキャラだけど、リアル──現実世界に戻った「わたし」もじゅうぶん、いやそれ以上にしっかり「ゲームのキャラ」を体現している。


「そうです。むしろそんなあなたが、がるどあのブースにいなくてどうするって話です!」


「ですよね~……ああいやいや! でもいきなりそんな話されても」


「確かに守秘義務の契約もありますし、諸々の準備とか調整とか、本来なら最低一か月前に済ませておくべきものです。ですがあなたの場合は、衣装合わせもいらないし、本当にただそこにいるだけでいいので、今ならまだギリギリ間に合います」


 バッグを背負いつつ、頭を下げるミズカさん。


「返事はギリ2日営業日以内でお願いできれば。連絡いただければいつでも書類を受け取りにお伺いしますので!」


 本当に午前2時とか3時とかでも平気でやって来そうだなこの人。


 とそこで、またがるどあの戦闘曲が聞こえてきて。


「3分オーバー。本当にリミットです。」


 では! と振り向きかけて、でもその動きが止まる。


 視線が、床の一点に集中している。


 そこには、ちょっと大きめのルービックキューブ。

 それも4かけ4の、めっちゃ難しいやつ。


 きれいに揃ったそれを手に取るミズカさん。


「前に来た時はバラバラだったはず……これ、誰が揃えたんです?」


「それは、ゆーくんが」


「ゆーくん?」


 広報さんの黒縁眼鏡の全面がギラギラっと鋭い光を放つ。

 ように見えた。


「ああえっと、知り合いの子が、ちょっと」


「ちょっと?」


「ええまあ、こうくるくる~って感じで」


「くるくる……?」


 なぜかどんどん険しい顔になるミズカさん。


「あのこれ、すっごく揃えるのが難しいの、わかります?」


「そりゃ、ふつうの3列バージョンに比べれば、1列増えてますし──」


「そういうレベルじゃなくて、4かけ4以上の偶数階層モノは、もう別物lなんです。数学的に特殊なPLLやOLLパリティが出るので、素人が一発で解くのはまず不可能──って!」


 またもや、はっと気づいたように顔を戻したミズカさんは、手にしていたキューブをユキくんへ投げてよこすと、


「そんなわけですのでこのお話はいずれ改めて! あとコスプレの件、是非とも良い返事をお待ちしてます! それと今晩の配信も合わせてご覧いただければ! では失礼いたします!」


 どんな魔法か、あのアーマー付きセーフティーシューズ(要は安全靴)を一瞬で履き終え、扉を開けつつさっと一礼。


 こちらが返事をする前に、もうその姿は玄関からなくなっていた。


「消えた……」


「ほんと、どっちがゲームのキャラなんだか──]


 とそこでまた扉が開き、黒縁眼鏡をかけたぼさぼさ頭がぬっと現れるや、


「ユキナさん──いえユナキさん! くれぐれもトラックにはご注意下さい!」


「トラックって、道を走ってる、あのトラックですか?」


「いいえ! あれはトラック偽装したあなたの刺客──!」


 ガルドア戦闘曲。


「えいくっそ! とにかくいいですね! 次に会うまで、せめてコミケまでは絶対死なないで!」


 とてつもなく物騒な言葉を置き去りにして、またもや幻のように姿を消す。


「トラックねえ……ナキ姉、何か心当たりある?」


「命を狙われる心当たり? んなものあるわけないでしょ」


 自慢じゃないけど、ここまで普通の一般庶民として慎ましく生きて来たのだ。 

 刺客なんてワード自体、リアルで聞いたの初めてだよ!


 てかコミケまでもてばいいのか、わたしの命は?

 わたしとコミケ、どっちが大事なんだ!


「今はコミケでしょ。間違いなく」


 あっさりとユキくん。


「まあ冗談はそれとして、誰がこんなのほほん姉貴の命なんか欲しがるんだって」


「褒めてないぞそれ」


「わかってる」


 わかって言ってるんかい!

 それって普通に悪口じゃん!


 あの先輩にしてこの後輩あり!

 お姉ちゃんは悲しいぞ!


「トラックか……まさか? いやいや。けどもしかしたら──って、そんなことあるか?」


 けれどユキくんは、ひとり勝手にそうつぶやきながら、手の中のルービックキューブ~正確にはその形をした貯金箱~をぐるっと見回すようにして、


「そういえばこれって、本当は誰がやったの? ナキ姉……のわけないもんね」


 勝手に決めつけるな。

 確かにその通りですけども!


「ゆーくん、……て言ってたっけ?」


「あ、それは」


「それってもしかして、あ(・)の(・)ゆ(・)ー(・)く(・)ん(・)? 」

 

 文字通り一語一語強調するように、念を押すように、そう確認してくる。


「そういえばミズカ先輩来る前に話してたっけ、魔王帝トーヤとかリデラー女史とかが来たって」


「……してたね」


「で、バトルして──どうして勝てたの? おれ抜きで、しかもこっちの世界で」


「それはだから、ゆーくんが、あの空色ツインテ謎少年が、なんか呪文言って、そしたら聖剣が出て、そのなんちゃら女史の攻撃はじき返しちゃって──」


「ナニソレ?」


「知らない。体験したまんまだよ」


 何が起きたのかはともかく、目の前であったこと自体ははっきり記憶に残ってる。

 それも研修医時代の修行のたまものか。


「で、トーヤがそのリデラー女史? に言ったの。この世界じゃ絶対わたしには勝てないよ──って」


「絶対? 絶対って言った?」


「言った」


 それは間違いない。


「絶対勝てない……どういう意味だろ」


「さあ。でも実際、ゆーくんの呪文? があったにしても、確かにわたし、無傷だったし」


 あの女将軍も、何か特別な聖剣──魔剣? を持っていたはず。

 その攻撃がまったく通用しなかった。


「言葉通りの意味で、ナキ姉が、ゲーム世界の敵に対して少なくともこの現実世界でなら無敵っていうなら、さっきのミズカ先輩の言葉は?」


「あ、トラックとか刺客とか」


「コミケまでは死なないでとか──ってことは、死ぬかもしれないってことで」


「ゲームキャラには絶対殺せないナキ姉を殺せる刺客──ってことは」


 カラフルなルービック貯金箱をじっと見据えたまま、ユキくんは、


「そいつは、もしくはそいつらは、ゲーム世界のキャラじゃない? ってことは」


「まさか、この世界の人間──?」


 わたしもナニソレ? だ。


「これって現実の話? 今わたしたち、リアルの話してる? それともゲームの話?」


「気持ちはわかる」


 ユキくんは珍しく素直に頷くと、


「少なくともミズカ先輩が何か知ってるのは間違いない。だったら」


「そうだね、なんとしてもそれ、聞き出すしかない、か」


 でもどうやって?

 あの超々多忙なミズカさんを、どうやっておびき出す?


「おびき出すって……けどその方法ならあるじゃん」


「どこに?」


「ナキ姉がいま手に持ってる」


 わたしはA4サイズのファイルを顔の前にかかげるようにして、


「これ? コミケの契約書?」


「それ」


「でもそれって、コスプレ契約するってことじゃん?」


「すればいいじゃん?」


「んな他人事だと思って! そんな恥ずかしこと──」


「ひょっとしたら、本当にナキ姉の命が、ここにいる、リアルのナキ姉の命がかかってるんだぞ」


 その声はまったく真剣で。


「それにその恰好だって、すげーかわいいし。コミケ出たら絶対話題になるって」


「だからそれはそれで困るって!」


「どうせゲームキャラの体じゃん。リアルなナキ姉とは別人。なんの影響もないんだから、逆に思いっきり楽しんじゃえば?」


「んな簡単に──って、そうだよ! 元のわたしに戻ればいいんだ!」


 狙われてるのがこの「ユナキ」なら──確かにミズカさんもそう言っていた──リアルのわたし、「ユキナ」に戻れば、刺客とかに狙われる心配はない(はず)! 


「いいかも。でもどうやって元に戻る?」


「それが問題──どうしよう?」


「さあ。たまには自分で考えたら?」


「わーユキくーん! 見放さないで!」


 ユキくんは、手のルービック風超金箱を軽く投げ上げてキャッチすると、


「まあたぶんだけど、そこはなんとかなるかもしれない」


「マジ!?」


「ちょっと考えがある。それが正しけりゃ──」


「わーいユキくーん!」


 思わず抱きつく。


「さすがユキくん! 我が愛しい弟くんよ!」


「やや、やめろって離れろナキ姉! そのカッコでひっつくな!」


「いいじゃん読者サービス!」


「誰が読者だ! そんなもんどこにいる!」


「いやいるって! 絶対いる! いてほしい! いなきゃ泣いちゃう!」


「なんの話だって! いいから離れろー!」


「わー見捨てないでー!」


 ほんと、お願いだから!


次回予告!

 というわけで信じてます!

 信じてますから!

(何を( ̄▽ ̄;)?)


 さておき。

 刺客? トラック?

 それってもしかして、

 神絵師さんのそれとも何か

 関係が?


 まさか──

 次回、急展開の予感!?

(※あくまで個人の感想です)


 お楽しみに~~!

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