3.儀式(世界の終わりまであと26日)
四日後──
「儀式」というのは、ある意味便利で。
お葬式といっても、それはもうただの儀式であって。
ありがたいことに、ただ葬儀会社の言う通り動いているだけで、なんとなく事が進んでくれる。
もっともわたしは、もう彼、あいつ──歳矢の身内でもなんでもない。
ただの友人。幼なじみ。
それでも、わたし以上に上の空なお義母さん代わって、担ぎ込まれた病院からの遺体の引き取りから葬儀社とのやりとりまで、一通りこなしていった。
当日は、とうとう40℃を超える酷暑日になった。
こんな日に真っ黒な喪服とか。どんな罰ゲームだって思う。
ひっつめにまとめた髪の下から、とめどなく汗が滴り落ちる。
丸出しの額から無防備の首筋まで、留まることなく。
まったく涙を流す暇もないほどに。
その代わりとでもいうように。
ゲーム内容の大規模改変とかで電気代を払い忘れるほど激務に追われ、部屋のエアコンがつかないことにも気づかないほど疲れて眠りこけて、そのまま熱中症で逝ってしまったあいつを象徴するような一日。
「あっちい……とと!」
運動会のような大きなテントの下、気休め程度の日陰に置かれた受付でぐったりしていたわたしは、やって来た弔問客を前にさっと立ち上がって姿勢を正す(あ、ちょっと立ち眩みが……)。
「この度は本当に突然のことで……」
「いえいえ、このくそ暑……こほん、厳しい暑さの中、よくいらして下さいました」
突然の死で、ろくに周知もしていないというのに、その日は朝から晩まで、弔問客が途絶えることはなかった。
それは文字通り老若男女、同年代の若者たちからご高齢の年配者まで。
今さらだけど、改めていろんな人から慕われていたんだなあと思う。
それは子どもの頃から。学生時代から。
大学を出てすぐ、怪しげなゲーム会社に転がり込んだあとも。
なぜか、あいつの周りには人が自然に集まって来る。
あいつが何かやらかすたびに、何か始める度に、寄ってたかって騒ぎ出す。
思えば、あの頃から「魔王資質」があったのかも。
もっとも当人は、魔王(魔王皇帝?)呼ばわりするには、あまりに「いいやつ」すぎたけど……
「お互い、好きなことを好きなだけ全力でやるのが一番さ!」
卒業の日(それはわたしたちの入籍の日でもあったけれど)、大学に残って医者を目指していたわたしに向かって、そう言って笑ってた。
「きみはじっくり勉強して、しっかり医者になってくれればいい」
その間はぼくが代わりに頑張るからさ──って。
でも結局、わたしは研修医時代にへこたれて、自らあっさりその道を断ってしまったけれど。
それから逃げるように病院を出て。
人生ぶん投げる勢いで離婚して。
そして今は、どこぞの創薬ベンチャーに転がり込んで(まったく人のことは言えない)、成功率三万分の一ともいわれる新薬開発レースに明け暮れている。
それでも彼は、あいつは、
「☆5クラスのSSRキャラを当てるほうが遥かに効率がいいよな」
と笑ってくれるようなやつだった。
「──あなた、大丈夫ですか?」
「はい。ちょっと汗が目に染みて……」
くそう、くそう。
ちっくしょう。ああ。ああ!
後から後からあふれ出るそれでぐちゃぐちゃの顔を、喪服の袖でぐいぐい拭う。
今回はちゃんと替えのコンタクトを持ってきてるから、いくら泣いても大丈夫だけど。
いや大丈夫じゃないけど。
全然、ぜんっぜん、大丈夫じゃないけど……
うわあああんん。




