32.繋がる電話(世界の終わりまであと23日/8)
わたしにできること。
あなたにしてあげられること
それはまだわからないけれど──
前回のあらすじ!
長い長い話。
わたしの話。
つまらない話。
でも尽きない話。
それをただじっと聞いた後で、
彼は去っていた。
彼の世界へ。
次に会う時、わたしたちは──
始まります!
夏の夜のまだまだ暑い空気の中。
東京下町のアパートの二階の外廊下で。
わたしはじっと手の中のスマホを見ている。
さっき車で到着した弟くんから返してもらったもの。
現実世界での想定外の女魔将とのバトル。
その後に続く魔王皇帝トーヤとの「長いお話」。
そんなこんなの余韻をずるずる引きずりつつ。
「うーん」
早くしないと、コンビニへ買い出しに行かせたユキくんが戻ってきちゃう。
別にそれでもかまわないとは思うけど、やっぱりね。
スマホの画面には、とある人物の──ぶっちゃけ母親の名前。
ここに表示させるのは何年振り? ってほどでもないけど。
でも実際に電話のアイコンを押すところまで行くのは、本当にひさびさ。
「しゃーない! うりゃ!」
タッチ。
「…………あ、かあさー、うん、わたし」
息を、息をしろ!
大きく! ゆっくり落ち着いて!
「うん……ううん、こっちこそ、今日はごめん、葬儀の後はそっち泊まるって言ったのにね。え? 声?」
あ、あー! ごっほん!
「あー大丈夫。ちょっと泣いちゃたからなあ。はっはー」
『笑ってんじゃん!』
「声、そっちこそ声、おっき! ──そう、ちょっとね。今トーヤ、歳矢のアパート」
夜空に光る月へ向かって顔を上げる。
「いや大丈夫。ただちょっと、ここに来たくなって。そうだね、呼ばれたのかもね、あいつに」
『えーほんと、ほんとそれ!? すっごい!』
元マンガ家の母はこの手の話が大好物。
がっつり食いついてきた。
助かる。
けどちょっとやりすぎ?
あとだから声大きい。
「確かにちょっとね、いやいや、ほんとにちょっとだけど、あいつの、ね。彼の姿が見えた、というか、まあそんな気が──うわ!」
だからスマホの向こうで思いっきり叫ばんといてって!
『それすごいじゃない! いる、ぜったいるってそこ! そだ写メ、写メ撮って送って! なるはや!』
「だから声、声大きいってかあさん!」
てか写メって……ギリ昭和世代が。
なるはや?
まったく普段どんな会話してんだか。
でも変わらんなこの人は。
「とにかく、今日はほんとにごめんだった。また改めてちゃんと行くから」
言いつつ、ゲーム世界から飛び出してきたような──というか、実際その通りなんだけど──腰まで届く長くてぶっとい三つ編みに丸眼鏡の10代ヒロイン姿の今の自分を再確認。
実家へ行く行かない以前に、まず「これ」をなんとかしないと。
「うん、ユキくんはもう来たから。じゃあとうさんにもよろしく。やだよいいよ。今は話さなくても。あとでちゃんと話す。約束する──お菓子ありがとうって。うん? そだね葬式まんじゅうだけどね」
はっは。
「うん、うん。大丈夫だから。大丈夫。ちゃんとやってる。やれるよ──それじゃ」
ポチとな。──通話終了。
ふい~~~~~~~~~~~~~~~~~。
「実家連絡乙」
「ぎゃ~~~~!」
「ナキ姉、声でかいって。ご近所迷惑」
見ると、レジ袋を手にしたTシャツ姿のユキくんがいた。
見る、というか見上げるというか。
「ユキくん、背のびたね?」
「ナキ姉が縮んだんだ」
「あ、そか」
ゲームキャラの「ユナキ」はけっこう小柄。
リアルのわたしに比べても一回り小さい。
もっとも、あっちもあっちでこちらを見下ろすようにしながら、
「けどほんと、ゲームキャラのカッコそのままじゃん。すご」
「じろじろ見んなって」
そんな興味津々な目で見られるとさすがに恥ずい。
しかも弟だし。
「だって改めて見るとほんと、よくできてるし。すっごいリアルだし」
「リアルなのは当たり前でしょが、ここ現実だし」
こうなった原因はわからないけど、一応二次元キャラと三次元キャラの区別はついてるらしい。
玄関に下げた鏡を見るまでもなく、あの神絵師さんデザインのゲームキャラが、しっかりリアルな三次元の「人」になりつつ、でもちゃんとがるどあ世界のあのキャラだとわかる姿をしている。
ほんと、感動もの。
しかもそれが自分自身なんだから、もういっそこのままでも──
「いやいや!」
ぶんぶん! と首を振る。
「わ、ナキ姉! 髪、髪が!」
長い三つ編みが、アパートの狭い外廊下で行き場を失ったユキくんをバシバシ叩く。
「あ、ごめん」
「いやいや、今ネットで話題独占の謎プレイヤーさん直々の三つ編みシバキとか、なんかすげー貴重な体験できましたって」
なんだそれ──話題独占?
「そういえば、さっきの通信でもそんなこと言ってたねユキくん」
「それそれ──って、そろそろ中、入らない? 暑いし。アイスとかあるし」
「なんでアイス? チョコモナカある?」
「もちろん。だからナキ姉が絶対欲しがると思って」
「よく覚えてたね、好み」
なんだかんだでこうして直接話をするのは、実は二年振りくらいだったりするのだが。
ユキくんは、わたしがあのアーマー付きロングブーツを脱ぐのを待ちつつ、
「そういえば、ちゃんと話せてたみたいじゃん?」
「これ、ここがほんと面倒でこれ……何?」
「電話。実家、かーさん」
「あ」
そういえば。
「──そうだね。心配して損した」
こんな簡単に話せるなら、もっと早く……というのは、今だから言えることなのはわかってるけど。
やっとブーツを脱いで部屋に上がる。
先にAIスピーカーの「ミスタースコッティ」に言ってエアコンを入れさせていたので、中はしっかり冷えていた。
「あー涼し!」
そこでくるりと振り返り、
「ユキくんとだって、こうして話すのはやっぱり二年振り? くらいじゃん?」
「そっか」
「葬儀場で声かけた時は、誰こいつ? みたいな顔されたけど」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
それはまだ今日のお昼過ぎくらいのことだったのに、もうずいぶん前のことのような気がする。
「でもそれからは、なんかもうふつーに話せてさ」
ユキくんは大きなレジ袋をわたしへ突き出しながら、
「だとしたら、それのおかげかもね」
「重! 何こんなに買ってきて──これ?」
わたしは自分の姿を見下ろすようにしながら、
「これの、ゲームの?」
「そ。ガルドアース・ウォーテイル」
それはこの部屋の主だった歳矢──現ガルドアース世界の魔王皇帝トーヤ──が制作/開発に関わっていたゲーム。
「だとしたら、彼が助けてくれたのかも」
頷くユキくん。
「このゲームがあったから、二年のブランクぶっとばして話せたんだ」
「だね」
頷き返すわたし。
「たかがゲーム。されど──」
「──されどゲーム」
それはいつのまにか、わたしたちの間で大切な言葉になっていた。
わたしは背中に背負ったままだった(すっかり忘れてた!)デイパックを下ろしつつ、
「さてと、じゃユキくん、まず──」
「──失礼します艦長、地球艦隊司令部、マオカ・ミズカ、少佐から、ハイパーDiscordウェーブで緊急通信が入っています、お繋ぎしますか?」
は? はいぱーうぇーぶ?
地球艦隊? 少佐?
「何なに、なんだって? 何言ってるのミスタースコッティ?」
部屋の奥、歳矢の机の横にあるサイドテーブルの上。
銀色のロケット状AIスピーカーが、返事を促すようにぼんやり点滅を繰り返している。
「だからこのSF電脳もどきは! 宇宙戦争ならひとりでやってろ!」
「違う、それ会社からの連絡だよ」
まったく冷静に、いつもの調子で、ユキくん。
「会社? って、まさか?」
「そ。トシ兄の──株式会社アズールウィング。がるどあの開発会社」
な、なんですと!?
次回予告!
突然入った地球艦隊司令部からの
緊急通信!
地球が危ない!
航宙艦「エンタービーグル」号抜錨!
進路地球! ワープドライブ全開!
次回「がるどあ艦隊、全艦発進せよ!」
お楽しみに~(100%冗談です!)




