31.長い話(世界の終わりまであと23日/7)
もう一度だけ
あと一度だけ信じると決めた
この世界を。仲間を。
あなたを──だから。
前回のあらすじ!
がるどららじおん番外編? 日曜アーカイブ?
──は?
(何事もなかったかのように)
いきなり始まった女戦士とのバトルは
あっさり終了!
でもその背後から予想外の魔王皇帝が!
トーヤ登場!
しかもツインテ謎少年ゆーくんの正体は
実は──(以下ネタバレ禁止。本編よろ!)
そんなこんなを引き継いでの「長い話」?
始まります!
──次に会う時は、敵同士かもね。
かもね。
わたし一応勇者側だし。
あなたは魔王で皇帝だし。
まあそういうゲームだしね。
こんなふうにのんびり話せるのはこれが最後かも。
「だったら──」
東京の下町にある、ごくありきたりのアパート。
その扉の外。二階の手すりによりかかって。
すっかり夜になって、静かになって。でも。
まだまだ暑い風に背中の三つ編みを遊ばせながら。
道の向かいの屋根の上に立つ、異形の魔人へ。
月明かりに光る漆黒の甲冑に身を包んだ魔王。
魔王皇帝トーヤへ。
丸眼鏡の奥で、わたしはにこりと微笑んで。
「だったら、じゃあもうちょっとだけ、付き合ってくれる?」
「何に?」
「わたしのちょっとした無駄話に」
トゲトゲの肩アーマーをひょいと上げて笑う魔王皇帝。
「もちろん」
☆
女──オンナ、やめようと思った。
仕事に生きたいと思った。
それは高校二年の秋。
「もしかしてそれって、派手に失恋したあの文化祭?」
黙って聞けい!
その前にさ、映画、見たじゃん? リバイバル。
あの豪華客船が出てくるやつ。
「『タイタニック』?」
うん。
で、あんな二人みたいな恋がしたいと思った。
沈みゆく船の上で、たった二日間だけの恋物語。
「泣いてたね~、盛大に」
当時は恋する乙女だったんだい!
だけど、自分で恋をして、
本気で恋をして、
思いっきり失恋して。
それで、わかった。
恋じゃ、だめだって。
恋は夢。夢見てるその人だけのもの。
それはいつかは覚めてしまう。
それはいつだって過去の思い出。
じゃあ、愛は?
愛は現実。だから自分の思い通りにはいかない。
でもそれは決して覚めるのことのない、
どこまでも続く、どこまででも行ける世界。
それは未来へ続く、未来を紡ぐ物語。
「詩人か!」
こんなん、ネットにいくらでも転がってるわい。
とはいえわたしは、そこまでこの世界に、
現実の世界に、魅力を感じてなかった。
この世界で人を愛して未来を作るとか。
全然イメージわかなくってさ。
でも無駄に死ぬ気もなかったし。
昔あなたが死にかけた時、あったやん?
「ブランコでひっくり返って頭打ったやつ?」
結果的には大したことなかったけど。
わたしはずっと、死なないで願い続けてた。
死なないで。死なないでとしや、って。
病院のベッドで起き上がったあなたを見て、
生きてて良かったと思った。
だからそのときわたしは決めたの。
絶対死なないって。
少なくとも、わたしが自分からそれを選ぶことはしない。
それだけは絶対しない、って。
けど一方で、積極的に「わたし」を生きる気になれないのも本当で。
死なないと決めた。
でも生きるのもめんどい。
だから、仕事に生きようと思った。
他のことは何も考えずにいられるような。
ムチャクチャ忙しくて、
でも一応、人のためになるような。
わたしじゃなくても、
誰かの「愛」を支えられるような。
「それで医者?」
ちょうどその頃、父さんが宝くじ当ててさ。
どうしようか、って聞かれたから、
思わず言っちゃったんだよね。
医者になりたい──って。
和菓子屋の雇われ職人と、
マンガ家崩れのイラストレーター。
ふたりはでもその人生に満足してたし。
弟は──ユキくんは、自分のクルマ一台でいいって。
だから、それ以外のお金は全部、
わたしの医大進学の学費と生活費になった。
あとはただひたすら勉強。猛勉強。
「だったなあ。ほんと、いつ行っても勉強してた」
高2の秋からの医大志願だし。
雑式の実家から通える医大ってみんな偏差値高いし。
そりゃ死に物狂いでしたさ。
いやだから死んじゃダメだめだけど。
結果的に成績は上がって、第一志望に合格できた。
おかげで友だちは誰もいなくなったけど。
「誰も?」
自分を指ささんでもわかってるって。
だからあなたと結婚したんじゃん。
他に適当なのいなかったし。
この先はそれこそ医者一筋って決めてたし。
もう新しい「大切な人」を見つける余裕なんてないと思った。
そんなわたしに最後まで付き合ってくれそうやつなんて、
わたしの人生でもう二度と現れないと思った。
そう思ったら、だめだこいつだけは手放すな! って。
「それが理由? 今言う?」
今まで何も聞かずにいたのはそっちじゃん。
わたし、あんたと結婚していい? ──って聞いたら、
「いいよ、って?」
そんだけだったじゃん。
「だったかな? あの頃はめっちゃ忙しかったから」
お互いにね。
こっちは医学生四年目の大修羅場、CBTとOSCE。
あんたは卒業とがるどあ──『ガルドアース・ウォーテイル』。
「卒業時期がちょうどリリースの二年前でさ。それまでいろいろ準備してたものが集まって、一気に形になっていくあたり」
それはそれで面白そうだけど、やっぱり大変か。
「運営サイドも、開発のこっちも初めての大作配信ゲームで気合入ってたしね。それでもやっぱりいろいろ問題が起きて、こっちも卒業前の春休みにはもう連日泊まり込んで徹夜して──」
こっちはこっちでOCEやっつけて。
でもすぐにまたOSCE相手にガチバトル演じてて。
「医師国家試験に匹敵する超難関テストってやつね」
それも二連発。
学科のCBTと実技のOSCE。
受験の時死ぬほど勉強したのに、あれ、またやってるぞ? みたいな。
「──で、それってクルマの仮免みたいなもん? とか聞いて」
そんなんと一緒にすな! ってブチ切れて。
「なつかしー」
CBTモードの医学生にはそれ禁句だって、ほんと。
「んで、試験合格と卒業が重なって」
そのどさくさで入籍してやりまたよ、はい!
「実際、その後はお互いずっと忙しくて、それどころじゃなかったしね」
とにかくそれで一生の相方を確保して。
「言い方、言い方!」
確保して──これであとは「仕事」を頑張るだけだ!
……って、そう思ったんだけどね。
でも、だめだった。
だって、あれだけ勉強して、頑張って。
そうやって身に着けたはずの知識が。努力が。
研修の現場じゃ、ほとんど役に立たなかった。
いや違う──役立てられなかった。
自分が現場に弱いって、初めて自覚した。
させられた。
「いるよね、練習じゃうまいのに、いざ本番となると実力出せないタイプ」
勉強してる時の方が、ある意味ずっと「楽」だった。
だってただ勉強してればよかっただから。
最初から用意された答えを見つけるだけでよかったから。
実際の現場は、臨床の場は、それとは全然違う。
それこそ毎回、ノーヒントでちーさんレベルのボスキャラ攻略するみたいな。
それも連戦。
体力──HPや、気力──MPは容赦なく削られるし。
CTとかMRIの武器や、薬や包帯とかのアイテムには限界や制限があるし。
もちろん診療科内のチーム──パーティーの一員としての自覚も必須で。
そんなボス連戦イベントが毎日続くんだ。
連戦連勝なんて物理的に不可能。
どうしたって力及ばず、力尽きてしまうこともある。
信じられる?
ゲームなら、それでもその気ならいくらでもやり直せる。
でも。でもね。
でもねトーヤ。
現実の世界じゃ、死んだ人は二度と戻ってこないんだよ。
たった一度のミスで、見落としで、ひとりの命が。
その人生が、目の前で終わっちゃうんだよ。
それでも、力及ばずで、なんて言い訳は通用しないんだよ。
まだ研修医ですから、新人ですから、初心者ですから。
そんな泣き言、口が裂けても言えないんだよ。
「そりゃ、逃げる。逃げたって文句いえるやつなんかいないって」
どうかな。
高校二年の秋から一年半、死ぬほど頑張って。
大学で六年間、もっと死に物狂いで勉強して。
それでどうにか研修医になって二年。
救えた命は?
あったよ。
数だけなら、救えなかった命よりも、
ずっとずっと、多かった。
でもね。命は。
命の数は、重さは、比べられるものじゃないんだ。
わたしはその重さに耐えられなかった。
そして、トーヤ。
歳矢。
最後は、あんたまでわたしの前からいなくなっちゃって。
それは、たとえ今のあなたがそこに見えているとしても。
「戻って来た、なんて、それこそ口が裂けても言える状況じゃないな」
それでもやっぱり、あなたはいる。
ここにいる。
ゲームとリアルの間に。
それは間違いなく。
「……」
だから、だから。
だったら。それなら。
もう二度と、失いたくない。
その手を、離したくない。
絶対に。
絶対に!
☆
「──正直な話、生きてる間に聞きたかったな」
「電気代忘れて死ぬ方が悪い」
「それはごめん。ほんとに」
「わたしがいたら──もし離婚までしなかったら、そしたら」
「それは禁句」
魔王皇帝のごっついガントレットが、ガツン! と音を立ててバツの字に交差する。
「どうしたって避けられないことはある。それはそれこそ研修医時代に骨身にしみてわかってるはずだろ」
どれだけ慎重に準備したつもりでも、何回も何十回も見直したはずなのに、それでもミスはある。
たった一度、たったひとつのそれが、一人の人生を左右してしまうこともある。
「どうしたって人生はクソゲーなんだ。最低の」
「あんたが言うかそれ」
「だからぼくたちは、理想の世界を求めてゲームを作ってるのかもね」
「がるどあは、今のあんたにとって理想の世界?」
「そうなるかどうかは、すべてこのゲームに──最終章に挑んでくれてるプレイヤーたち次第さ」
「その中にわたしも入ってる?」
「もちろん」
トーヤは、そこでふっと顔を上げて、
「どうやら時間だ」
「時間?」
「ユキくんが来る」
そうか、もうそんな時間か。
てかわたし、そんなに「語って」た?
うわ、なんか今になってすっごい恥ずかしくなってきたぞ。
「いいんだ。嬉しかった。話が聞けて」
トーヤが笑う。
「死んで魔王皇帝になってから、この夜が一番うれしい」
「言い過ぎ」
「本当だ。魔法皇帝に転生してよかったって、初めて思えたよ」
「そりゃごちそうさま」
トーヤは軽く頷くようにして、
「じゃあ、本当にここまでた。行くよ」
「次は、魔王城?」
「魔帝城ね──そうだな。きっと」
そこに立つわたしは、果たして彼の敵か。味方か。
それとも──
「すべては、きみ次第」
「無責任」
「これはゲームだ。ゲームはプレイヤーのもの──ユナキ・ミツヤー」
トーヤはわたしをゲーム上の名前で呼んだ。
「リアルの人生と一緒さ。これはきみの物語だ」
「わかった」
「じゃあ」
漆黒のマントを翻す。
でも顔半分ふり返って、
「そうだ、ぼくの大切な仲間を──チハヤを、よろしく」
高校と輝く月明かりの下。
今度こそ、お向かいさんの家の屋根の向こうへと消えてゆく魔王皇帝。
ごくありたきりの街並みが、その一瞬だけ、壮大なゲーム世界の一部に見えた。
まるでそれを待っていたかのように、先の角を曲がって白い車がやって来る。
伝説の名車のコードナンバーを車名として受け継いだ、最新型のスポーツカー。
──とかなんとか。まあよくわからんけど。
「おーい、ユキくーん!」
車はいったんアパートを通り越して、その先のコインパーキングへ向かう。
その瞬間、運転席のユキくんが軽く手を上げるのが見えた。
「さて──」
鼻先の丸眼鏡をかけ直し、長い三つ編みお下げをさっと揺らして。
こくん、と頷く。
わたしのゲームは。
ユナキの物語は。
ここからが本番だ!
「行くぞがるどあ! 待ってろトーヤ!」
必ず、今度こそ。絶対に。
救ってみせるから!
世界も。
あなたも。
だってわたしは、勇者なんだから。
主人公なんだから。
この物語の。
わたしの人生の。
「うおーーーーーーー!!!!!」
「……なに月に向かって吠えてんの?」
ふと見ると、もうそこにユキくんがいた。
「あ、ユキくん、これは……」
「ご近所迷惑──ほい」
突き出された小さめの紙袋を受け取る。
「何? ──あ、葬式まんじゅう?」
「ナキ姉、トシ兄のアパートにいるって言ったら、持ってけってさ。とーさんが」
「ああ……そう、そうか、ありがと」
でもユキくんは、突き出した手をそのままに、なぜか固まっている。
「ユキくん──?」
「……あ、やっぱりナキ姉なんだ?」
「だってば。──え? 誰だと思ったの?」
「いやまあ、トシ兄の部屋の前で、そんなカッコで月に向かって吠えてるゲームキャラそのままの女の子なんて、他にいたらちょっとしたホラーだけどさ」
「ホラーはないでしょ、ホラーは。こんなかわいいのに」
「見た目はね、もちろん」
「うん。──ってコラ! ああでもあんまり驚かないんだね?」
「驚いた。で、思わず声が出そうになって、でも先を越されちゃったから」
「月に向かってうおーって?」
「それ」
「いやあの場面さ、わたしがああやって叫んで終わってたら、カッコいいかなって!」
はっはー、とわたし。
あきれたように肩をすくめるユキくん。
「ナキ姉さあ……終わるって何? まだゲームやってるつもり?」
しっかりしてくれよ、と。
「そんなカッコしてるけど、ここはもう現実世界だぞ」
「そだね。そうだった!」
言って、思わず笑ってしまう。
「今度はなに笑ってんだか──けどホント、中身はナキ姉まんまなんだな」
「です! それよかここあっつい! 早く中入ろ? お腹もすいたし。そうだ、あんたちょっとそこのコンビニでお弁当とかお菓子とか、適当に買ってきてくれる? お金ならあるから! ──ミスタースコッティ! 明かりつけて! あとエアコン入れて! 温度設定そのまま! 返答無用! 即実行!」
わたしはまたまたパンパン、と手を打って、
「さあさあみんな、ゲームはこれからが本番だぞ!」
次回予告!
そんなこんなで大独白大会の巻でした!
うわはっず!
でもって次回は?
もちろん決意も新たに再びがるどあ世界へ!
……行けたらいいなあ。
(注:行きません(^^ゞ!)
あれ?
でもやっぱり乞うご期待!




