29・リアル世界の歩き方2(世界の終わりまであと23日/5)
これは終わる世界で出会った仲間たちとの、
ちょっと遅まきながらの旅と冒険の物語──
前回のあらすじ!
ゲーム世界からくっついて来ちゃったらしい
物語の重要キャラ(に間違いない)謎少年ゆーくん。
とにかく弟のゲームアドバイザー、ユキくん(なんか似てるな)
のところへ行こうとしたら、ちょうど彼の方から連絡が。
どうやら車で迎えに来てくれるらしい。
よし、じゃあこちらはこちらでやることやりますか!
……て、え? 観光?
始まります!
「さて、じゃあまずは……と?」
弟のユキくんが車で迎えに来るまで、ざっと一時間半ってとこ。
京特線(京浜特急線)雑式駅沿線にある実家から、この歳矢のアパートがある
千馬木までは、歳矢の車で何度か行き来したことがある。
土曜の夜だし、もう少しかかるかもしれない。
けど、まあそんなもんだろう。
「ちょっと時間、空いたかな」
今ここでできること、といっても。
スマホもパソコンも使えない状況で、他に何ができるだろう。
先にDiscordの音声通信ができたから、パソコンなら使えるかなと思ったけど、違った。
やっぱり最初にPINを入力しないとロックが解除できない。
どうなってるんだか。
といってAIスピーカーには聞きたくないし。
うーん。
「はいはい~、いいですか~?」
空色ツインテ頭のがるどあ系謎少年、ユユリ・ウインデイル──ゆーくんが、珍しく自分から手を上げてアピールする。
「はいゆーくん、どうぞ!」
「ぼく、この世界ちょっと見てみたいです~!」
「あ~そっか」
だよねー。
うん。気持ちはわかる。
わたしにとっては見慣れた世界だけど、ゲーム世界から来たゆーくんには、まったくの異世界。
そりゃ興味あるに決まってる。
でもなー。
「このカッコで出歩くのはちょっと問題あるし、このあたり一応観光地っぽいノリもあるけど、基本下町だから、そんな派手な見どころがあるわけでもないし……」
通称「矢根千」と呼ばれてるこの界隈は、昼も夜も関係なくわいわい騒ぐより、じっくり散歩しながら味わう通好みの場所ともいえる。
少なくとも、ゆーくんみたいな子ども(だよね……?)が単純に楽しめるような場所はちょっと思いつかない。
時間的な問題もあるし。
「ちょっと遅いけど、行くとしたら矢中銀座商店街とか、そのくらいかなあ」
昔は本当に普通の商店街だったらしいけど、今では立派な観光名所。
鎌倉の小町通りほどじゃないけれど、そのぶん下町らしさも残っていて、けっこう気に入っている。
「しょーてんがい! 行ってみたいです~!」
おや食いついた?
ちょろ。
「まあ時間はなくもないし、お金もあるっちゃあるし……ミスタースコッティ、時間は?」
「現在時刻は午後7時32分です、かんちょ──」
「黙れ!」
まあ、あと一時間くらいは大丈夫か。
矢中銀座なら、もう結構お店も閉まって人出も減ってるだろうし。
そもそもゲームに詳しい人間がふらふら歩いてる可能性も低そうだし。
逆に静かすぎてつまらないかもだけど。
でもゆーくんにとっては初めての異世界。
ただ歩くだけでも色々見るものはあるだろう。
海外の人にはあの電柱だって珍しいらしいし。
異世界人ならなおさらかも。
「よし、行くか!」
「はい~!」
☆
14000円分の500円玉が入ったデイパックを肩にかける。
色は無難なブルーグレー。
そこらにあったものを、中身(といっても折りたたみ傘くらいだったけど)をぶちまけて使ってる。
こういうバッグにも中身を入れっぱなしにしないやつなのだ。
やつだったのだ。
この部屋の主は。
彼は。──歳矢は。
ほんと、几帳面というか。
このデイパックだって、学生時代から持ってたはず。
でもそれほどくたびれた感じもなく、汚れもない。
そんな性格のやつが、ゲーム世界の魔王だか皇帝だかなんて勤まるんだろうか?
「ま、今は他人の心配してるヒマなんてないけど」
さっさと行かないと、弟くんが来ちゃう。
そう急ぐ必要もないかもだけど、待ってる間にのんびり観光とか、ちょっと気が引けるし。
「バッグのストラップ、ちょッと長いかな?」
お金は一応、左右のサイドポケットにそれぞれ14枚、7000円ずつに分けてある。
「お、結構重!」
ちょっと揺すると、じゃらじゃら音がする。
でも今はその重さや音が頼もしい。
「ゆーくんも、準備いい?」
「はいです~!」
長く正座してた割には、しびれた様子もなくすくっと立ち上がる。
これが若さか……(これもあいつのユキくんに対する口ぐせだったっけ)
ううん、うらややましくなんかないぞ!
立ち上がった拍子にふわっと揺れる空色髪のツインテも、ちっさかわいい容姿も、セーラー風の襟がついた膝上丈の真っ白なワンピースだって!
こっちはぶっとくて真っ黒な三つ編みおさげに丸眼鏡、スクールシャツにチェックのプリーツスカート風衣装──でもだけど、どちらも同じ神絵師デザインのキャラクター!
かわいくないわけがない!
ゲーム世界からやって来た(連れてきちゃった?)見た目も12、3歳くらいのゆーくんに対して、こちらも自称17歳!
ふたりとも色こそ違え、同じデザインのニーハイソックスを履いてて、これも似合ってる。
ふっふーん! 負けてない! 負けてないぞ!
わーい!
異世界の「オトコノコ」相手に本気で喜ぶ28歳バツイチ。
悪いか! わっはっは!
「──なんてうかれてる場合じゃないんだって! だから!」
玄関前に下がってる鏡を見る。
外へ出る前の身だしなみチェック用。
わたしが買って、さらに勝手にぶら下げたやつ。
ぱっちり黒目に大きめの丸眼鏡。
「ちょっと角度が悪いかなっと」
この部屋の主だったやつに比べたらもちろん、このキャラになってさらに縮んだからなあ。背丈。
鏡を手に持って、首から下もチェックする。
アパートの部屋を漁って見つけたシマシマネクタイ。
結び目がちょっとあやしいけど、まあこんなもんか。
そういえばいっさいメイクなしのすっぴんで外へ出るなんて、いつ以来だっけ?
でも全然問題ない。
「大丈夫、かわいいかわいい!」
「……ユナキさん? そろそろ行きます~?」
「ああごめん、ごめん!」
どーしてか家を出る間際になってあれこれやり出すんだよね。
わたしあるある。
わたしは時間のかかる軽アーマー付きロングブーツ(他にないから仕方ない)に急いで足を突っ込みながら(ちなみに白マントとガントレットはお留守番)、
「わたしのことはユナキ、でいいよ」
見た目は別論、わたしたちは対等の「仲間」だ。
ゲーム世界で見つけた、出会った、二人目の。
最も一人目は、まだあっちの世界に置き去りだけど。
いやそうほいほいこっちに来られても困るけど。
「はいわかりました~! ユナキ~!」
おお、なんかくすぐったい!
でも呼び捨てが嬉しい。
わたしの中では、もうゆーくんは立派な仲間。
それは確定。
ちょっと怖いから、まだ本人には直接聞いたりしないけど。
玄関の靴箱に隠しておいた予備の鍵を持って、いざ扉の外へ。
「ほんと、いきなりぱっと消えちゃったりしないだろな~」
もしくはあのゲーム内の廃聖堂のように、扉を出た直後、いきなり敵キャラが出てきて瞬殺されるとか。
「はっは~、まさかゲームじゃあるまいし」
ここはわたしの世界──現実世界ですぜ?
「大丈夫、大丈夫!」
ドアノブに手をかけて、ロックを解除。
開きかけた扉からむわっと吹き込む熱風。
そうだった。
わたしは扉をそのままに、不本意ながら振り返って、
「ミスタースコッティ、3分後にエアコン止めて! あと一緒に電気も消して──返事は無用! 黙って実行!」
ふいー。
「これでよし。あとは──」
改めて扉を開く。
歳矢の部屋はアパートの二階にあって、一応車が通れる程度の道を挟んで向かいにもアパートや戸建ての住宅が立ち並んでいる。
「──ん?」
その向かいのアパートの屋根の上。
……なんかいる。
仁王立ちしてる。
ちょうど電柱の明かりの向こうでシルエット姿になってる。
細身の体ながら胸を強調するようなごつい甲冑姿。
背中で揺れる大きなマント。
長い髪からのぞく二本の──ツノ?
「トーヤ……じゃない?」
シルエットだけでも女性とわかる。
ていうか、むしろ「女性キャラ」を強調するデザイン。
「──まさか?」
風が流れ、雲が晴れて月の光が降り注ぐ。
シルエットに色がついて、その姿が明確になる。
「待ちわびたぞ? ──ユナキ・ミツヤー!」
真っ赤なルージュをひいた口元がにやりと歪む。
トゲトゲのガントレットに包まれた手が、腰の大剣にかかる。
それは。
どう見ても間違いなく。
「──敵?」
ですか──!!!!
次回予告!
敵! 敵が出た!
なんとか前回予告クリアww!
……って喜んでる場合じゃない!
ここ現実世界ですよ!?
ほんとにバトルするの!?
待て次回!




