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30.バトル!(世界の終わりまであと23日/6)

それはすべてこの星の

 この世界の小さな塵にすぎないけれど……


前回のあらすじ!

 車で迎えに来てくれるという弟くんを待つ間、

 ゲーム世界からやってきた謎少年ゆーくんと

 現実世界のプチ観光へ出かけようとしたわたし。


 でも部屋の扉を開けた先には、

 どう見ても「敵」としか思えない新たなキャラが!


 瞬殺上等! のバトル編開幕です! 

 東京・千馬木(せんばぎ)にある歳矢(としや)のアパート。

 その扉を開けた先。


 道路を挟んだ向かいの建物の屋根に立っている異形の魔人──

 流れる真っ赤な髪から突き出る二本の角がきらりと光る。


「待ちわびたぞ──ユナキ・ミツヤー!」


 真っ赤な唇から放たれるそれは紛うことなき歓喜の声で。


 月明かりを弾き返す如く禍々しく輝く魔光の甲冑。

 重厚ながらも女性キャラを強調する絶妙のシルエット。


 こんな状況なのに、思わず見とれでしまう。


「さあ存分に唄うがいい! 喰らうがいい!」


 艶めいた声を張り、腰の刀剣を抜き放つ。


「抜刀!」


 奇跡のようにこの世界に顕現する真っ白な刀身。

 抵抗するかのようにキーン、と軋み上がる大気。


 交錯し、ぶつかり合う現実(リアル)と幻影(ミラージ)。


 思わず耳に手をやってしまう。

 でも目はその姿を見つめたまま。

 

「その聖域を出たのがおまえの運の尽き! 滅せよ愚か者!」


 怒鳴るように、でも嬉し気な声音で。

 まるで歌うかのように。


『真銘解放(マナ・レヴォーション)・肆式(フォルド)──真(シン)・天音羽斬(アマネノハバキリ)!』


 振り上げられた刀身が月光を吸い上げるように輝き出し。


「これで、終わりだーーーー!!!!!」


 振り下ろされる魔晄の刃。

 解き放たれる白刃の光輝。


 それがまっすぐわたしに向かって──

 だめだ、このままじゃまた瞬殺され──


「抜刀解放式(リベレーション)・青(ブルー)! 固有剣術(スキルソード)『絶対(セイグリッド)領域(・ギャップ)』!」


 声。

 誰? ゆーくん──?


 一瞬、わたしのまえに見覚えのある聖剣──七星剣(セヴンスセイヴァー)が浮かび出て。


 直後、わたしのまさにその場所から広がる青い光円。


 真っ白な光と眩い青がぶつかって、世界から色という色を消し飛ばす。


 何色でもない、ただ眩いばかりの光。


 それはでも、次の瞬間には幻のように消え去って。


「──その技は、まさか!?」


 隣の屋根の上、剣を振り下ろした姿のまま驚愕の表情でこちらを見つめる魔装の麗人。


 それ以上に驚いた顔をしているに違ない、わたし。


「何が、起きた、の?」


「えっへっへ~、間に合いましたね~!」


 鼻先に落ちた丸眼鏡もそのままに振り返る。


 わたしの背後、玄関の小さなたたきに立つ空色髪のツインテ少女──少年、ユユカ・ウインデイルくんが、「ゆーくん」が、ニコッと笑う。


「ゆーくん、これ?」


「魔剣士チハヤから授かった、あなたの新しい力です~」


「チハヤ? ──くんから?」


 魔剣士チハヤ・ルース。

 通称ちーさん(個人的にはチハヤくん)。

 それは先のゲーム世界で戦い、でも仲間になれたかもしれない魔狼族の剣士。


 一度はわたしを瞬殺してくれた、UR級の超超々レアキャラクター。

 一瞬見えた気がした聖剣──「七星剣」に封ぜられし存在。


「新しい仲間ができると、そのキャラと剣に応じた新技が解放されるんだ」


 また別の声がして、顔を上げる。

 いつの間にか、屋根上の人影が二つになっていた。


 まだ剣を構えたまま固まっている女性魔戦士の背後から、そのごっつい甲冑の肩をぽんと叩いて。


「さあもういいだろう、リデラー?」


 彼女よりもシンプルな漆黒の甲冑に身を包んだ、その魔将は。

 頭にかぶっていた禍々しいヘルメットを脱ぐ。

 その顔は。


「トーヤ、さま?」


 リデラーと呼ばれた敵が彼の方を向く。

 ようやく体を起こし、白刃の剣を鞘に納める。


「トーヤ? って、まさか──」


「やあ、ユキナ……じゃない」


 彼はわたしの姿を確認するようにひとつ頷くと、


「今はユナキちゃん、だっけ。よく似合ってるよ、それ」


 見た目のことなんかどうでもいい。


「トーヤ、……歳矢? なの?」


 くっきり晴れた月夜の光に黝のマントを翻し、静かに笑う彼。

 歳矢──魔王皇帝トーヤ……


「……トーヤ・めれんげ、だっけ?」

 

 いや、秋茄子だったか。


 がくっとずっこける魔王皇帝。


「トーヤ=メレゲ・マギナス!」


 これでも頑張って考えたんだぞ、と。


「トーヤさま! いったいこれは!?」


 わたしが言い返すより先、リデラーさん(やっぱりさん付け。大人だもの)が声を上げる。


「何者なのです、この娘は!」


「だからぼくと同じ、現実世界の人間だよ」


 さらりと答えるトーヤ。


「わかっただろう? この世界ではきみは絶対、彼女には勝てない」


「それは──ですが、」


「きみの放った不意打ち同然の魔剣奥義を、でもあの子はあっさりはじき返したんだぞ?」


「くっ──!」


 いかにも悔しげな顔で、眼下のわたしを睨みつける。


「今回はぼくもちょっと試してみたかったから、きみの帯同(わがまま)を許した。けれどもういだろう」


 それはむしろ優しく言い聞かせるように。


「さあ戻るんだ。あとはぼくに任せてくれ」


 現代世界のごく普通の家の屋根の上。

 そこで一度トーヤの顔を見てから片膝をつき、臣下の礼をとるリデラーさん。


 とてつもなく場違いな場所で、けれどその所作は完ぺきにはまっていて。

 わたしはつい見とれてしまう。


「では御前を失礼いたします魔王皇帝! ──コマンド展開!」


 立ち上がった彼女の目の前に、どこかで見たような青白いウィドウが出現する。


 最後にもう一度だけ、わたしの方をぐいっと睨んで。


「ユナキ! 次に会った時がおまえの最後だ! 楽しみにしていろ!」

 

 まるっきり悪役魔将そのものの捨て台詞を残して。


「我、リデラー・ルルクオンが命ずる! ログアウトせよ!」


 その言葉の直後。

 背中の真っ赤なマントがふわりと揺れたかと思うと、もうそこに彼女の姿はなかった。


「……ええと?」


 なんかもうほんと。

 何が何やら。


 わたしどうなった?

 バトル? 勝ったの?


 絶対領域? なんの冗談?


 ゆーくん、わたしに何をした?


 疑問は果てしなくあるけれど。

 まず問うべきは。正すべき相手は。


「てか歳矢──じゃない、トーヤ! また出たな!」


 それもあっさりと。

 なんか前回は、次はもうゲーム世界の終わりまで会えない的な別れだった気がしたのに。


「あっちの世界ではね。その通り」


「じゃあ、こっちの世界──現実世界なら、いつでも会えるってこと?」


「それも違うかな」

 

 ヘルメットを被り直したトーヤは、ちょっと苦笑い。


「今回は特別。どうしても緊急に対処しなきゃならない非常事態でね。相応の危険も承知の上で、それでもこちらの世界へ来る必要があったんだ」


 それから笑顔のまま、でも正に「目が笑ってない」状態で、


「ね、ユユリ?」


「えへへ~」


 それはまさしく悪戯が見つかった子どものような顔で。


 その顔を見て、ふとわたしは、思わず、


「ひょっとして、もしかして、この子がアーニーストーン?」


 気がつくと、そう口走っていた。


 直後のトーヤの顔は見物だった。


「──マジ?」


 やっとひとこと、それだけ返すのがせいっぱいといった体で。


 アーニーストーン──


 それはサービス終了予定の配信ゲーム『ガルドアース・ウォーテイル』の存続を賭けた、運営側と選ばれしプレイヤーサイドとのガチンコ対決──最終章「アーニーストーン」の最重要キーアイテム。


 ゲーム世界を完全に終わらせる最後の秘石。

 

「え、もしかして、ほんとに当たっちゃった?」


 むしろわたし自身、自分で言ったことに驚いて、続く言葉が出てこない。


「やめてくれ、頼むから」


 めっちゃくちゃ大きなため息をつく魔王皇帝。


「……それ、このゲーム史上最悪最凶のネタバレだから」


「うあ」


「これだから怖いんだよな、素人は」


 なんかもう立ち直れないっす、みたいな顔(どんな顔?)で、


「お願いだから、それ絶対実況配信では言うなよ? ポロリとか厳禁!」


「でもじゃあ、ほんとにほんとなの? ほんとに?」


 わたしは背後を振り返る。

 そこに立つ、空色ツインテの謎初年が私を見返すよにして、また笑う。


「ほんとにこの子が──ゆーくんが、アーニーストーン?」


「今のシナリオではね」


 観念したように頷くトーヤ。


「でもどうしてそう思った?」


「どうしてだろ?」


「おーい! 頼むって!」


 幸い人通りのない道を挟んだ屋根の上。

 そこに立つ異世界の魔王が、いや魔王皇帝が、とてつもなく情けない声を上げて天を仰ぐ。


 仕方がないので、ちょっと考えてみる。


 トーヤが「特別だ」と言ったから?


 ゆーくんも、他の記憶はないようなのにトーヤのことを知っていたから?


 何より、どこからどう見ても物語の謎を握る少女──少年であること。


 そんなこんな?

 それやこれや?


「まあ合わせていわゆる女の直感? ってやつ?」


 いやこの際性別は関係ないと思うけど。


「全然理由になってない」


 ダメ出しキター!


「まあ確かに、ネットでもそうじゃないかって話はあるけどさ」


「あるんじゃん!」


「でもそれは総当たりの出まかせに近い。出てくるキャラやアイテムを全部疑えば、どれかは正解になる。そんなレベル」


 けど「ユナキちゃん」は一発で言い当てただろ、と。


「なぜ?」


「さあ」


 堂々巡り。でも仕方ない。

 ほんとうにただの直観、でまかせなんだから。


「まあいい──いや全然よくないけど、とにかく」


 悪いけど、この子はこのままぼくが連れて帰るよ、と。


「ユユリも、いいね?」


「はーい」


 素直に返事をするゆーくん。

 それからわたしをちょこんと見上げて。

 そのままわたしの横をすり抜けて、二階の手すりに手をかけて。


「ユナキ、またね~!」


 一瞬だけこちらを振り返って。

 直後ふわりと浮いた小さな体が、そのまま手すりを飛び越える。


 あっと思う間もなく、空中で小さな青い光になって、真っすぐトーヤのところへ飛んでゆく。 


 手をのばしたトーヤがそれをキャッチ。

 大事そうに懐へしまい込む。


 ひとり残されたわたしは、トーヤの部屋の扉の前で腰に手を当てて、


「この世界、わたしたちの町を見せてあげるって約束したんだけど」


「それはまた次の機会に──かな」


「次、なんてあるの?」


「ないことを願ってる」


 そうだね。

 だけど。


 ゆーくんの顔を思い出す。


「がっかりするかな、ゆーくん」


「かもね。でも仕方ない。ぼくらはゲーム世界の人間(キャラ)なんだ」


 本来なら絶対、こっちの世界に出てきちゃいけない存在なんだよ──って。


「でも出てきちゃってるじゃない」


 それもひのふの──今のわたしを入れれば、四人も。


「そうだね。それが問題なんだよ」


 そしていっそ、さらりとした声で、


「だから、ぼくは世界を終わらせないといけないんだ」


 わたしはふと、


「それは、どっちの世界を?」


 わたしの言葉を聞いたトーヤは、緩い笑顔のまま、


「……それって、また直観?」


「ていうか、演技? わたしが物語のヒロインなら、ここはそう言うところかなって」


「きみが『この物語』のヒロインでないことを願ってるよ」


「え、わたしヒロインじゃなかったの?」


 冗談半分、本気半分で聞く。


「それはこれからのきみ次第──物語のシナリオ次第かな」


「じゃあ頑張って、ヒロインルート見つけないと」


「たとえそれが、最後にはぼくと戦うルートでも?」


「戦う? わたしとトーヤが? 世界の存亡をかけて?」


 わたしの問いかけにも、トーヤの表情は変わらない。

 

「じゃあ次にこうして顔を合わせる時は、敵同士かもしれないんだ、わたしたち」


「そうだね」


「こんなふうにのんびり話せるのは、これが最後かもしれないんだ」


「……かもね」


 わたしはふと横を向いて、半開きの扉の向こうへ声を張る。


「ミスタースコッティ! 今何時!?」


「現在時刻は、午後7時49分です、かん──」


「艦長禁止! さて」


 車でこちらに向かってる弟(ユキ)くんが来るまで、まだ時間はある。


 わたしは改めて、お向かいの屋根の上に立つ異世界の魔人へと笑いかける。


「じゃあもうちょっとだけ、付き合ってくれる?」


「何に?」


「わたしのちょっとした無駄話に」


次回予告!

 バトル編とかいいつつ、

 あっさり終わった魔将戦。


 でもその後に続く

「ネタバレ爆弾発言」に

 言った本人もびっくりでw


 次回、仮タイトルだけは決まってる

「長い話」──お楽しみに~! 

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