24.説得Ⅱ(世界の終わりまであと24日/19)
これは終わる世界で出会った仲間たちとの、
ちょっと遅まきながらの旅と冒険の物語──
(です!)
前回のあらすじ!
チハヤくん仲間になった!
わーい!
……と思ったら。
「なんの冗談だ?」
鼻で笑われました!
えー!?
というわけで、始まります!
膝上まで覆うバトルブーツの足元。
不敵に笑うちび銀狼。
チハヤくん。
「オレがいつおまえの仲間になった?」
わたしも負けじと大きく胸を張るようにして、
「たった今!」
「……今?」
わたしは手にしていた聖剣──七星剣を、光が戻った青い空へ、再びぐっとかかげるようにして、
「だからこうやって、抜刀ガチャ引いて、見事チハヤくんを引き当てて仲間に──」
「ばっとうがちゃ?」
しまったそっちはゲーム用語か。
「ああ違う、抜刀解放儀! りべれーしょん!」
「抜刀解放式? またその剣の奥義を使う気か!」
ぴょんと後ろへ飛び退き、牙(といっても小さいけど)をむく。
「くっ! ヒト族のソードウォーカー風情が! 仲間呼ばわりして油断させようとしたって無駄だぞ!」
あれ? なんか間違った?
ていうか、だめだめ!
「やめてチハヤくん、あなたHPが12しかないの! 一撃瞬殺だよ!」
「ふ、ふん! やれるものならやってみろ!」
相変わらず強気な声。
でも丸見えの尻尾がしっかりと後足の間に挟まってるぞ!
「いやいやだから、戦う気ないから!」
わたしは聖剣を下ろして鞘に納める。
さっきまで羽のように軽かったそれが、なんか重く感じる。
そっか……これは「本物」なんだよね。
今さらながら思う。
ゲーム的にはただのアイテム(とはいえ超々レアものだけど)。
でも「ゲーム世界のリアル側」にいるわたしには、間違いなく本物の剣。
本当に目の前の敵を──チハヤくんを、その命を奪ってしまう武器。
「ど、どうした! 再戦なら受けて立つと言っている!」
わたしは鞘に納めた聖剣を膝上に乗せるようにして、チハヤくんの前にしゃがみ込む。
「だから、再戦なんてもうしないと言っている」
ちょっと口真似。
それから自分の黒髪の三つ編みおさげと、丸眼鏡越しの漆黒の瞳を強調するようにぐっと顔を近づけて、
「そして、あなたを仲間にしたいと言っている」
黒い髪と漆黒の瞳──それは、この世界の魔王に転生したわたしの元ダンナで幼なじみの歳矢と同じ色。
このゲーム世界──『ガルドアース・ウォーテイル』では、わたしたちしか持っていない、特別な色。
「仲間になろう。そして一緒に行こう。彼のところへ──魔王皇帝トーヤのところへ」
「おまえ、そんなに我が主に会いたいのか?」
「まあね。約束だから」
ふっと笑う。
「約束と──あとはちょっと文句、言ってやりたくて」
わたしとこの世界で会いたいと言っておきながら、その世界を滅ぼす──終わらせると公言しているあいつに。
「それからわたしはユキ──ユナキ。ユナキ・ミツヤー」
「ユナキ……」
「ね、どうかな? 仲間になって、くれないかな?」
わたしはしゃがんだまま、広がる草原を見渡すように顔を巡らせる。
長い三つ編みお下げが、それでも軽々と風に乗って宙に舞う。
現実ではあり得ない光景。
でも気持ちいい。
「わたし、早くこの世界に踏み出したい」
顔を上げる。
青い空。
「一人旅も悪くないけど、でもできれば、気心の知れた仲間たちと一緒に」
「旅? すべてが終わろうとしてるこの世界で?」
あきれたように声が言う。
チハヤくんと同じ、でもちょっと幼い感じの声。
細かい演技。
声優さんは誰だろう?
──いや。
空へ向けたままの頭を横に振る。
今しゃべってるのは間違いなく、チハヤくん自身だ。
「終わらないよ」
顔を戻して、自分の言葉にこくりと頷く。
「終わらせない。終わらせてなんかやるもんか」
世界の終わりを告げる石。
この世界最大最凶の秘石。
アーニーストーン。
もちろん、それはわたしひとりじゃ絶対手には入れられない。
だからこそ。
「仲間が欲しいの」
それは一緒にこの世界を旅して、
そしてこの世界を救う、
かけがえのない存在。
「……だめかな?」
「……」
もう一押し?
ちょっと小首をかしげてみせる。
「だめ?」
「……」
なかなかしぶとい。
さすがの神絵師キャラの笑顔も、同じ出自の魔狼少年には通用しないか。
ならば正攻法で行くしかない。
「あなたが仲間になってくれないと、ぶちゃけこのバトル、終わらないんだよね」
ぶっちゃけてみた。
「もちろん戦いは終わってない。まだオレは負けてない」
わたしの前で、ふわふわの前足を突っ張るようにして、つんと胸を張る。
まだ言うかこの子は。
……かわいい。
「何がおかしい!」
「だって、このまま戦ったら、わたし勝っちゃうよ?」
膝上の七星剣をキラリ。
「ひ、卑怯だぞ!」
「これはゲームだけど、でもただのゲームじゃないから。そうしたらチハヤくん、今度こそホントに死んじゃうかも」
たぶん彼の耳には支離滅裂に聞こえてるだろう。
でも逆に、だからこそわたしが本当に言いたいことは伝わる気がする。
だってその言葉にウソはないから。
その言葉の先にある、わたしの本当の思い。
伝われ。
「……」
「わたし、あなたに死んでほしくない。死なせたくないの」
「……オレは敵だぞ。おまえたち人間の」
「わたしには関係ない」
ゆるやかな光と風の中で、さっと頭を振る。
黒い三つ編みおさげが円を描くように宙を舞う。
「どうやらわたしは、他の人たちとは違うみたいだし」
「それは……」
人の姿だったときのチハヤくんと同じ、金色の瞳がじっとわたしの顔を──その漆黒の瞳を見つめている。
わたしもその瞳で改めて彼を見る。
「それに、あなたも知りたくない? 歳矢の──魔王皇帝トーヤの真意を」
「真意?」
「どうしてあいつは、この世界を終わらせようとしてるのか。だってそうなったら、自分だって消えちゃうのに」
「それは……」
言葉の先が出てこないチハヤくん。
「ね?」
『何が、ね、なんだか』
チハヤくんには聞こえない程度の小さな声で、ユキくんが言った。
黙れいいとこなんだから!
さあもう一押し!
「わたしなら、きっとあいつからその真意を聞き出せる──ううん、聞き出してみせる!」
強くうなずくわたし。
「だから行こう。あいつのところへ。一緒に!」
「──ふん、好きに」
つん、と鼻先を明後日の方向へ向けてチハヤくん。
言いかけて、でもその姿のまま、動かなくなってしまう。
続く言葉も出てこない。
口を開いたまま、金色の瞳を空へ向けたまま。
──これは。
「ユキくん、これって……」
立ち上がろうとして、でもわたしの体も動かない。
『バグ──また発火……』
黒猫バッジの声もとぎれとぎれになる。
まずい、やばい。
ここで、こんなとこで!
『待った……もうバトル……終わって……アウトするぞ!』
「何、ユキくん聞こえない! バトルがどうしたって!?」
『今……チャンス……こっちで……!』
フリーズしたちび銀狼の上に半透明のウィンドウが開く。
バトルコマンドの画面とはまた違う、フィールド用の操作画面。
インベントリ、ステータス、設定……といった項目の中に混ざって、「ログアウト」もある。
わたしの腕が勝手に上がって、その文字へとのばされてゆく。
「ちょっとこれ、ユキくんがやってるの?」
現実世界から、わたしのスマホで、わたしのゲームアバターを直接操作してるらしい。
「待って、ちょっと待って、このままログアウトしちゃって大丈夫なの?」
黒猫バッジからの返事はない。
でものばした指先が、じわじわと「ログアウト」へ近づいてゆく。
「チハヤくんはちゃんと仲間になったの? まだ目の前にいるんだけど──」
返事はない。
代わりに世界がちらつき始めた。
青空に時折、半透明の亀裂のようなものが走る。
背景の青い山々が、ずれたようにがくっと動く。
「チハヤくん、チハヤくん、聞こえる!?」
だめか。
──と。
ふと背中の白マントと三つ編みがふわりと流れる気がした。
ログアウトへ向かう手に必死に抗いつつ、なんとか顔を向ける。
背後にある廃聖堂。
その外れかかった大扉の半分が開いていた。
「……おんな、のこ?」
聖堂の中にたゆっていた光が静かにもれ出てゆく中、その光に青い髪を遊ばせている。
長い長い髪は尖った両耳の後ろで二つ結びにされ、さらにそれぞれ先端近くで半透明のリングでくくられていた。
濃い青のセーラー風の大きな襟のついた、Aラインシルエットの膝上丈ワンピース。
わたしと同じ、軽武装のロングブーツ。
何よりも印象的な、チハヤくんと同じ金色の大きな瞳。
謎の少女──
それはもう一見して、ゲームの超重要人物。
「ユキくん、ユキくん見えてる!? 女の子が──!」
でもその瞬間、わたしの指がログアウトのボタンに触れてしまい──
「だめ、だめ待って、ユキく──!」
次の瞬間。
光が満ちて。
──「世界」が、消えた。
次回予告!
やっと仲間ができそうで。
ログアウトできそうで。
でもそのタイミングでまたバグが!
さらに謎の少女が!
様々な謎を残しつつ、
舞台はやっと現実世界へ──
って待って!
わたしちょっと、大変なことに──!
お楽しみに~じゃない!(# ゜Д゜)




