21.甘い!(世界の終わりまであと24日/16)
すべてはこの星のこの世界の小さな塵にすぎないけれど……
前回のあらすじ!
ユキくんからのログアウト要請に
困惑するわたし。
30日がかりの最終章なのに、
ここでまた1日分無駄にしろっての?
加えてなぜか周りを「見えない壁」に囲まれて
しまい……このピンチから脱出できるかわたし!
始まります!
「──どうなってんの、これ?」
胸元にちび銀狼化したチハヤくんを抱え、空いた手で「見えない壁」を探っているわたし。
目の前には広大な草原が広がっている。
でもそこから先へは一歩も進めない。
『たぶん、反対側も同じだと思うよ』
襟元の黒猫バッジから弟くんの声。
「わたし囲まれてるってこと?」
なんで? どうして?
『簡単に言えば、ナキ姉はまだバトル中なんだ』
「バトル? って、チハヤくんと?」
わたしは腕の中で丸くなっているちび銀狼を見た。
「いやいや、もう終わったじゃん」
わたしひとりじゃ絶対勝てなかった戦い。
でもユキくんとの「二人羽織り作戦」や、偶然入手できちゃったレア聖剣──「七星剣」? のおかげで、どうにか敵──チハヤくんこと銀狼の魔剣士チハヤ・ルースをやっつけることができた。
まあやっつけたというか、チハヤくんか自分で聖剣の奥義を食らってちび銀狼化しちゃったんだけど。
でもとにかく、それで戦いは終わったと思ってた。
なのにまだバトルは続いてるって?
『だから、ゲーム的にはまだ終わってないってこと』
ナキ姉か今実感してる「リアル」と、現実世界のスマホの中で進行してる「ゲーム」をごっちゃにするなよ──とユキくん。
『ていうか、それがごっちゃになってるから問題なんだけど』
実際の話、ゲーム世界の中にいるわたしには聞こえないけれど、現実世界にあるわたしのスマホでは、今もずっと戦闘中のBGMが流れ続けているらしい。
襟元でユキくんの声を中継してくれている黒猫バッジも、本来は四枚翅の黒猫妖精だ。
でもってバトルの間だけはそんなバッジ姿になる。
わたしは襟元のバッジをちょんちょんと突きながら、
「そっか、ずっとバッジのままだから、もうすっかり忘れてたけど」
『たぶんバグも出てる。けど一番の問題は、バトルイベントが未達で解除フラグが立ってないってこと』
ユキくんは、説明口調のとき特有の早口で、
『つまりゲーム的にはまだバトルが続いてるんだ。そのせいでバトルエリアのコリジョンが解除されないから、フィールドに出られないんだよ』
ユキくんがまたムズカシイことを言い出したぞ。こりじょん?
凝り性のジョンがどうした? ジョンで誰だ。
『そんなやついないから。それよりこれからが本題だけど』
こちらの理解を待つことなく先を続ける。
賢明だな。まあ聞くだけ聞こう。
『先に廃聖堂でのガチャ──抜刀解放儀もすっとばしてきちゃってるから、二重の意味で、まだナキ姉はフィールドに出られる状況じゃないんだ』
「りべ……抜刀解放とかってのは、バトル前にユキくんがすっとばせって言ったやつじゃん」
『うん。前回はそれでちーさんの瞬殺をリセットできたから』
ユキくん(というか大半の「がるどら」ゲーマー)は、チハヤくん──魔剣士チハヤ・ルースのことをそう呼んでいる。
『でもとりあえず瞬殺される心配はなくなったから、改めてそっちもフォローしないといけない』
ログインして最初に出た場所が廃聖堂だった。
そこには幾振りもの剣や刀が床に突き刺さっていた。
それを選んで「抜刀解放儀」を行うことで、新しい仲間やアイテムを入手する──っていうのが、いわゆる「抜刀ガチャ」というやつらしい。
けれどわたしは、チハヤくんとの「瞬殺バトル」対策でその抜刀ガチャをスルーしていた。
「廃聖堂に戻って抜刀ガチャを引けと?」
『だから順番。まずこのバトル状況を終わらせないと。そうしないとログアウトも抜刀解放儀もできない』
「バトル状態のままログアウトできなかったらどうなるの?」
『明日の4時59分59秒で強制終了』
ゲーム的にはそこで「一日」がリセットされ、新しい一日が始まるという。
それまでに自主的にログアウトしてないプレイヤーは、この時間になると、嫌でもゲームの外に放り出されてしまう。
『もちろんそのときは、終わらせていないイベントなんかは全部なかったことになる』
たとえあと少しでクリアできそうだって頑張っていても、この時間を過ぎたらおしまい。
次のログイン時に、またそのイベントの最初から始めることになる。
「じゃあわたしの場合は?」
『たぶん、このバトル自体がなかったことになる』
「また最初からやり直しってこと?」
わたしは現実世界にいるユキくんとの「二人羽織り作戦」を思い出す。
あの戦いを、また最初から繰り返すのかー……
それは辛い。
「けどまあ、一度はあれで勝てたんだし、また戦ってもなんとかなるんじゃない?」
『甘い』
ひとことで瞬殺された。
『今回勝てたのは、ゲームのバグのおかげだよ』
わたしがゲームの仕様にないこと──バトル中に敵の武器(それもレア聖剣)を奪って、その奥義を発動させてしまったことで、そのバグは起きたらしい。
確かにあのバグがなったら、戦いはどうなっていたやら。
『前にも言ったけど、バグってのは、要するにゲームシステムの不具合だ』
ゲームとして正常な反応じゃない。
つまり前と同じことをしたからといって、必ずしも同じ反応が起きるとは限らない。
状況次第では、故意に同じバグを再発させることも不可能じゃないらしいけど。
でもそのためには、ガチゲーマ―レベルのシビアな操作が必要になる。
「つまり、また戦うことになったら、そのとき勝てるとは限らない?」
『今回勝てたのは奇跡みたいなもんだ。その奇跡をまた起こせって?』
「……無理ですね、はい」
じゃあどうするか。
『だから勝つしかない。ゲーム的に、きちんと』
つまり、敵を倒すしかない。
「倒す──チハヤくんを?」
ちび銀狼を抱く腕に力がこもる。
『そう』
あっさりとユキくんの声が告げる。
でも、だけど──それは。
それって。
このゲーム世界のリアルにいるわたしにとって、「完全に敵を倒す」ということは。
「それってつまり、殺せってこと? チハヤくんを?」
後書き/次回予告!
ゲーム続行か。
チハヤくんの命か。
……そんな理不尽な選択を突きつけられた
わたしが出した答え。
「ゲームの中のリアル」にいる
わたしだからこそできること──とは?
待て次回!




