20.現実へ(世界の終わりまであと24日/15)
すべてはこの星のこの世界の小さな塵にすぎないけれど……
前回のあらすじ!
自分で自分の聖剣奥義を喰らって
チビ銀狼化しちゃったチハヤくん。
さらにまたバグに見舞われて動けなくなるわたし。
現実世界にいるユキくんが助けてくれたものの、
そのままログアウトしろですと!?
まだゲームは始まったばかりだってのに!
こんなんでクリアできるの最終章!?
ではどうぞ!
地面にぺたんと座り込み、意識のないちび銀狼を膝上に乗せたわたし。
丸眼鏡越しに、現実世界と何一つ変わらないように見える青空を見上げるようにして、
「ログアウトしろって、本気なの?」
『今はゲーム側をちょっと混乱させて、その隙にどうにか動けてるだけだから。戻れるうちに戻ったほうがいい』
「でもわたし、まだログインしてからほとんど何もしてないじゃん」
『最初の難敵を撃破したろ』
わたしは、目の前で丸くなってるちび銀狼化したチハヤくんを見た。
「それだけじゃん」
30日分ある大量のクエストは、まだ何も手を付けていない。
わたしのとっての最終章は、事実上まだ始まってもいない。
最終章──『アーニーストーン』。
それは、そこそこ人気作だったソシャゲ『ガルドアース・ウォーテイル』のサービス終了を賭けた、運営側と選ばれしプレイヤーたちとのガチバトル。
リアル時間で30日間続く長丁場。
1500人限定で参加資格を得たプレイヤーたちには、原則一日一回のログインとログアウトが義務付けられ、さらにそれを30日間連続して行うことが要求されている。
30日間続く最終章の、何日目から挑戦するかはプレイヤーの自由。
ただし一度始めたら、それ以降は毎日のログイン&ログアウトが必須。
1日でもそれを忘れたら、その場で即敗退。
最終章への挑戦権を失ってしまう。
だったらできるだけ最終日近くから始めればいいと思うかもしれない。
ルール上は最終日の当日から始めたってかまわないのだし。
けれどそうは問屋が卸さない(ごめんね28歳ワードで)。
全部で30日あるクエストは、たとえ何日目から始めようとすべてクリアしなくてはならない。
しかもそのひとつひとつが、また半端なく過酷だったりする。
やたら時間がかかる(実時間で数時間単位の)お使いイベントだったり。
次の目的地までひたすら歩かされるだけの耐久戦だったりする。
挑戦が一日遅れれば、それだけ後がきつくなる。
最終日のたった一日でクリアするのは物量的にも時間的にも不可能。
30日連続ログイン、実時間で10時間以上かかるデイリークエスト。
それ自体がプレイヤーを「試す」試練。ふるい。
運営からの「それでもこのゲームを続けたい?」という問いかけ。挑戦。
だからこそ、そこには安易な妥協も中途半端な救済措置もない。
基本は歩き。
自分の足で。
ただひたすら、てくてくと。
もちろんファストトラベルなんてない。
ゲームに詳しいユキくんによれば、「ボットとかを使った自動化チート対策も万全」らしい。
とにかく自分でキャラを操作して「歩く」しかない。
スタート地点の廃聖堂から学園都市へ。
そこから王都、そして魔王城へと。
それはこのゲームのプレイヤーたちが4年かけてたどった道でもある。
最初の周年記念で追加された「学園都市アルシア編」。
二周年記念の「聖王都レア=ルイール奪還戦争編」。
三周年で「魔帝城エスケンデル死闘編」。
そして最終章の最後で訪れることになる「アーニーストーン星宮殿」……
旅の中では、プレイヤーたちがイベントやシナリオで出会った人々との「再会」もある。
寄り道が多かったプレイヤーほど、実は思い出多い充実した「旅」になる。
──そうなのだ。
ただ過酷で理不尽なだけじゃない。
この最終章には「ここまでプレイしてくれた人々」に対するリスペクトもちゃんと入ってる。
もちろんプレイヤーごとに出会った人々、仲間にしたキャラクターは違う。
敵として倒したキャラが、他のプレイヤーにとってはかけがえのない仲間になっていたりする。
そのあたりも可能な限りフォローしているという。
膨大な新規イベント。追加シナリオ。
こんな最終章イベントに挑戦する方もする方だけど、作る方だって半端ない。
ちょっとでもゲーム制作の現場を知っている人ならわかるらしいけれど、たったの四か月で作れる規模じゃない。
そりゃあ頑張りすぎて電気代も払い忘れるか、はっは。ねえ歳矢──って。
「けどそれで死んじゃったらなんにもなんないでしょが!」
目を閉じたままのちび銀狼が、わたしの膝の上でぴくっと身震いする。
「あーごめん。チハヤくんは休んでていいから」
そのふわふわの毛並みをなでなでしながら、改めて思う。
文字通り「最終章」から始めたわたしには、もちろんそういった「思い出のイベント」がない。
長い長い旅の途中で、再会を喜び合う仲間もいない。
現状のわたしには、その旅はただただ厳しく、一方でただひたすら退屈なものになるだろう。
ゲーム初心者のわたしが、そんな過酷な最終章に挑んでいる理由はただひとつ。
このゲーム世界の魔王(正確には魔王皇帝)へと転生した元ダンナで幼なじみの彼──歳矢が、ゲームのサービス終了(=現実世界からのアンインストール)と共に、再びわたしの目の前から消えてしまうのを阻止すること。
ただそのために、わたしはここにいるのだ。
──なのに。
「今でさえ他のプレイヤーさんたちより何日も出遅れてるのに、ここでログアウトして、さらにまた1日無駄にしろっての?」
『実はまだ問題があるんだ』
「何? またバグ?」
『いいから、ちょっと歩いてみて』
「歩く? 歩くだけ?」
『それだけ。できるならね』
いちいちひっかかる言い方だな。
こっちをゲーム素人と思って。
いやその通りですけども!
わかりましたよ、いいですよ。
歩けばいいんでしょ歩けば。
「歩くくらい別に問題な……? あれ?」
ちび銀狼を抱え直しつつ立って歩き始めて、ほんの数歩。
「何これ? 壁?」
見た目にはどこまでも続く草原の道。
でもなぜかその先へ進めない。
銀狼くんを抱えたまま、空いた手をのばす。
目には見えないけれど、確かに何かある。
その「見えない壁」に触れた手は離さず、横に動いてみる。
少し先でまた別の「壁」にぶつかった。
二つの「壁」は直角に繋がっていて、抜け出せそうなすき間はない。
どうなってるの、これ?
後書き! ……じゃない次回予告!
最終章の過酷な旅路に思いをはせつつ、
とにかく目の前の「壁」をなんとかしないとって
焦るわたし。
その方法は──え、まさか!?
だめだって!
そんなことできるわけないよ!
どうしよう次回!




