1.始まり(世界の終わりまであと30日)
「ああううおおううええ?」
思いきってスマホ画面のログインボタンを押した瞬間──
一瞬、頭の中が真っ白けになった。
次の瞬間。
わたしは、ひとり崩れかけた石造りの建物(聖堂?)の中に立っていた。
わけがわからない。
何が起きた?
なんなの、これは。
どこなの、ここは?
☆☆☆☆
『ガルドアース・ウォーテイル』というアプリゲームがある。
当年とって二十八歳──家庭用ゲームは別論、この手のスマホゲー(基本無料で課金がどーたら的なやつ)とは無縁で生きてきたわたしには、よくわからないけれど。
でも逆に、子どもの頃に「親落ちスマホ」を手にして以来、ずっとこの種のゲームばかりやってる──というか、そのままこのゲームの制作メンバーに加わってしまった歳矢に言わせれば、
「廃課金するほどでもないけど、ちゃんとファンに愛されてるいいゲームだと思うよ」
らしい(……はいかきん?)。
そしてこの日。
わたしにとって、あらゆる意味で運命の日となったこの日に。
その見ず知らずのゲームから──正確には、そのゲームを作った会社(運営とかいうらしい)から、わたし宛に一通のメールが届いた。
それは汗まみれで駆けつけた、あいつのアパートの玄関で。
呆然とその場に立ち尽くしたままで。
肩で息をしたままで。
そんなわたしが、ただひとつ持ってきた、それだけ手に握りしめていたスマホへと届いた、謎メール。
仕事柄、基本的にこの手のメールは全て無視することにしていた。
まして一度も遊んだことのない、名前しか知らないゲーム絡み。
いつもなら、考えるまでもなく問答無用で消去していた。
今回も、さっさと消去しようとして。
でもなぜかできなかった。
一応セキュリティセクション謹製のウィルスチェックを通っていることを確認してから、スマホの画面をタッチ。
怪しげなそのメールを開封する。
「招待状……いや、挑戦状?」
その日も、外は午前中から35℃を超える猛暑日で。
「世界の終わりを賭けた最終決戦──?」
だというのに、この部屋のエアコンはずっと止まったまで。
「選ばれし勇者のみが挑める最難関クエスト?」
着っ放しだった白衣のポケットへ、ねじ込むようにスマホを突っ込む。
仕事用にポニテにまとめた髪で払うように頭を振って、
「知らんわ……」
そして再び、アパートの室内へと目を戻す。
カーテンが引かれ、うす暗いその部屋は。
エアコン切れでくっそ暑いことを除けば、どこも変な様子はなかった。
ごみが散らかっているわけでも、洗濯物が散乱しているわけでもない。
ほんと、わたしの部屋とは大違い。
どこもかしこも綺麗に片付いていて──
とても昨日、人が死んだ場所だとは思えなかった。
人が、彼が──歳矢が死んだとは、思えなかった。
「……とし、や」
声にならないつぶやきが、震える口元からぽろっとこぼれて。
目頭が熱くなって。
汗とは違う、もっと熱い何かが頬を伝い始めて。
「やば、コンタクトが曇る……ああもう!」
『──ぼくよりも、コンタクトのほうが心配?』
「そうよ、違うわよ!」
『はは、どっちだよ』
「だってコンタクト曇ったら仕事できないし! あんたは死んじゃったし! ──え?」
……え?
「と……トシヤ?」
『はいな』
あ、やば──
『やばくない、やばくない。大丈夫。幻聴じゃない。きみは正常だ』
「うそ、うそつけ! だってトシヤ、あんたもう、もう死んで──!」
『じゃあ前を見て』
「見てるって! あんたの部屋! いつも通りで、きちんときれいで、けどクッソ暑くて──!」
『もっとちゃんと見て──』
「だからちゃんと見て──見て、み……み、み、」
見えたーーーーーーーーーーーーー!!!!
「ぎゃーーーー! ゆ、ゆーれーーー!!!!」
見えた! 見えちゃった!
ほんとにいた! いやがった!
「うわもう化けて出てきた!」
うす暗い部屋の中にいたのは、その顔は、紛れもなく「彼」だった。
でもそれ以外は別物で。
大きなツノ? が生えたヘルメット。
赤い刺繍に彩られた漆黒のマント。
鈍く輝く青黒のぶ厚い甲冑。
それは、それはまるで……
「──魔王?」
『半分正解』
日常感あふれるアパートの室内で、「そいつ」が笑う。
そして、誇るように胸を張って宣言する。
『正しくは、魔王皇帝』
禍々しいオーラ全開の巨大な大剣(魔剣?)を床に突き立てるように持ち。
見えない風に重いマントをなびかせて。
『魔導世界ガルドアースを支配する魔王皇帝、トーヤ=メレゲ・マギナスさ!』
声高らかにその名を告げる。
「…………」
死んだ彼が魔王になって現れた!
どうする?
・戦う!
・話す
▷・仕事に戻る




