18.怒ったぞ!(世界の終わりまであと24日/13)
これは終わる世界で出会った仲間たちとの、
ちょっと遅まきながらの旅と冒険の物語──
前回のあらすじ!
予想外の展開で巡って来たチハヤくん打倒の大チャンス!
でも──でも、わたしにとっては「リアル」のこの世界で
彼を倒すというとは、それは「殺しちゃう」ってこと……?
迷うわたし、一転して大ピンチ!
どうする? どうなる?
「廃聖堂から来た異界の人間が、この世界を──我が主、魔王皇帝トーヤを救う、だって……?」
銀髪からのぞく狼の耳の上、七色に輝く聖剣──七星剣をかかげる魔剣士チハヤ・ルース──チハヤくん。
このゲーム世界では小柄な十代少女風のわたしと大差ない体格で、けれどその内にとてつもない力を秘めた魔狼族の少年。
だけど。
「う、っく──!」
がくっと膝が折れる。
聖剣が落ちる。
ていうか、もう少しで自分の頭を直撃するところだったんですけど。
「……大丈夫?」
「近寄るな! ──斬るぞ!」
すっかり汚れちゃった白マントの下、膝上まで覆うアーマーブーツの足を踏み出したわたしに、大きな犬歯? をむき出しにするようにして威嚇してくる。
それはまるで、見慣れない人間に吠えかかる子犬のように。
いやごめん、狼だっけ。
魔狼──人に滅ぼされた銀狼族最後の生き残り。
その彼が、もう一度立ち上がり、剣を構える。
バトル素人のわたしにもわかる殺気。
『どうやら話が通じる相手じゃなさそうだな』
学生風のシャツの襟にくっついている黒猫顔のバッジから、弟くんの声。
わたしは、元の世界に──現代世界にあるわたしのスマホでこの状況を見ている彼の顔を想像しながら、それでも口元の笑顔はそのまま、
「諦めたらそこで終わりだよ」
研修医時代、わたしが落ち込んで逃げ出そうとする度に、そう言ってくれたやつがいた。
目の前の──チハヤくんの金色の瞳をじっと見つめる。
「わたしは歳矢を──魔法皇帝トーヤを救いたい。なんとしても」
ほんと、きれいな瞳だなと思う。
たとえ狂気といえるほどの怒りに染まっていても。
「この世界の終わりと一緒に消えてしまう彼の運命を、なんとしても変えてやりたい」
この世界──このゲームのサービス終了まで、あと24日。
このゲーム世界に転生した歳矢を巻き込んで、すべての世界がリセットされる。
アンインストールされてしまう。
運営側のその決断を覆す最後のチャンス──最終章完全クリア。
それは選ばれし1500人のプレイヤーだけが挑戦できる、最難関クエスト。
ゲーム初心者のわたしは高すぎる壁。
「──ううん」
首を振る。
諦めない。諦めるもんか。
あの日に見た、誰もいないアパートの部屋。
エアコンが切れてひたすら暑かったあの部屋。
続くお葬式。
真っ黒な喪服を着て泣くわたしと。
真っ白な柩の中で静かに眠る彼の顔。
小さくなった彼の骨壺を抱えてタクシーに乗るお義母さん。
あんな思いはもうしたくない。
もうたくさんだ。
だから──だから。
今度こそ。
「変えてみせる。そして救ってみせる。絶対に」
だからその初戦で終わるわけにはいかない。
こんなところで挫けてなんかいられない。
「どうして、どうして──」
振り下ろせない聖剣を、それでもチハヤくんは頭上にかかげたまま。
「おまえが、おまえみたいなやつが、異界の人間が、どうしてそこまで我が主のことを……」
「大切な人だから──だったから」
「我が主が、おまえの……大切な人?」
オレと、同じ……?
大きな瞳が、さらに大きく見開かれる。
まるでそこに映るわたしの姿が見えそうなくらい。
この世界で唯一、魔王皇帝トーヤと同じ黒色の大きな三つ編み。
眼鏡越しに見える漆黒の瞳。
現実の世界にいる「大人」のわたしとはまったく違う。
でもなぜだろう。
この姿でいるわたしは、とても素直で。
まさに十代の頃そうありたかった「わたし」が、ここにいる。
そんな気がする。
そのわたしと、見た目同い年くらいに見える彼は。
銀狼の魔剣士チハヤ・ルースは。
チハヤくんは。
「オレ、オレは……」
ぎり、という音が聞こえそうなほど、歯を食いしばって。
「オレだって……でも、でも我が主は」
再びわたしに向けられたその瞳は、すがりつく何かを求めるように迷っていて。
「我が魔王皇帝トーヤは、どうしても、この世界を終わらせなければならないって」
──え?
「たとえその身が共に終わろうと、それでもこの世界は終わらなくてはならない──って」
「まさか、歳矢が──トーヤが、そんなことを?」
考える。
思い出せ。思い出せ。
あの日、あのアパートで。
魔王の姿で現れた「トーヤ」は、なんて言っていた?
なぜわたしをこの最終章へと招待した?
『──できたらもう一度、ここできみと会えたらいいなと思って』
そうだ。
彼は一度も「この世界を救ってほしい」とは言わなかった。
なぜかあのときの会話が、そっくりそのまま頭の中に浮かんでくる。
『別に世界を救ってくれとまでは言わないよ。できるだけ協力するから、なんとか会いに来てくれないか。ぼくのところまで』
会いに来て──
それだけ。それだけだ。
この最終章をクリアして、ゲームを存続させてほしい──この世界を救ってほしいとは、ひとことも言っていない。
じゃあ彼は、歳矢は本当に、この世界の終わりを望んでいる?
現実で死んじゃった自分が転生したこの世界を。
せっかくまた「手を取り合える存在」になれたのに。
そうなれそうなのに。
その自分ごと、その世界が消えてしまってかまわないって?
……あ。なんか怒った。
「どうした、おまえ……?」
頭上にかかげ続けている聖剣を震わせながら、それでも下ろそうとしないチハヤくんに、わたしはこくりとうなずく。
「うん。怒った」
「……はい?」
ぼくは世界と一緒に消えるけど、その前にちょっとだけ、もう一回だけ、自分が作ったこのゲーム世界で会おうよ──とか?
そんなノリで呼びつけたのか、あいつは!
「そうかそうか! だったらこっちにも考えがあるぞ!」
わたしは丸眼鏡の奥からその漆黒の瞳でチハヤくんを睨みつけるようにして、
「チハヤくん!」
「は、はい!」
敬愛する魔王皇帝と同じ色の瞳に射抜かれて、思わず素直に返事をするチハヤくん(かわいい……)。
「どうせこれから、彼のところへ戻るんでしょ? だったらわたしも一緒に連れてって!」
「え? ──ぎゃん!」
それまでどうにか聖剣を支えていた腕から力が抜けて剣が落ちる。
頭上直撃。
魔法発動。
まるで虹の中に飛びこんだかのような七色の光が目の前で爆発する。
『こいつ、最終奥義自分で喰らったぞ!』
まばゆい光で何も見えない中、黒猫バッジからユキくんの声が言った。
「え? まさか死んじゃう!?」
やっと強烈な光が収まると、でもそこにはもう彼の姿はなく。
代わりに、小さな、銀色の──
「犬? 子犬……狼?」
次回予告!
自爆して魔狼化ならぬ「ちび銀狼」化したチアキくん。
さあどうしよう──と思ったら、え?
またバグですか!?
「なにこのク〇ゲー!……むがむぐ!」
「まあまあナキ姉、そのへんでww」
といったところで乞うご期待!(byユキト)




