17.だめだよ!(世界の終わりまであと24日/12)
これは終わる世界で出会った仲間たちとの、
ちょっと遅まきながらの旅と冒険の物語──
前回までのあらすじ
バトルボイスの罠を切り抜けたものの、
「説得バトル」は予想外の展開に!
大いなる力を秘めた聖剣「七星剣」を
手にするのは果たしてどっち?
緊迫のクライマックス、続いてます!
白いマントを下敷きにして尻もちをついたまま、どうにか手をのばすわたし。
それはまるで、悪夢の中で目を覚まそうともがくかのように。
どうやらゲームのバグらしく、体が思うように動かない。
外の世界でスマホ越しに「わたし」を操っているはずの弟くんもお手上げ。
わたしが自分でやるしかない。
わたし自身の力で、戦うしかない。
彼と──わたしの向かいに立って、やはり苦しそうな顔で手をのばしている「敵」と。
チハヤくん──銀狼の魔剣士チハヤ・ルースと。
銀狼の耳が突き出た銀髪の下、鋭く輝く金の瞳が、やっと立ち上がったわたしを睨みつける。
わたしたちの間で浮いている細身の剣。
七色に輝く、その聖剣に向けて。
小柄なその体をさらに押し出すようにして手をのばす。
「これは、この剣は、我が主から託された……大切な……ボクの──」
けれど。
「掴んだ──!」『──掴んだ!』
わたしの声と、襟元の黒猫バッジ越しの弟くんのそれが重なる。
彼よりも一瞬早く。
わたしの手には、七色に輝く細身の聖剣。
七星剣──セブンスセイヴァー。
愕然とするチハヤくんの前に立ち。
その七色に輝く剣先を向ける。
『やれ、ナキ姉!』
両手で掴み、頭上へかかげる。
呆然とした様子で、ただそれを見ているチハヤくん。
「どうして……どうして……」
『どうしたナキ姉! 振り下ろせ!』
ユキくんの声。
『どうした、なんで動かない! ──くそ反応しない!』
現実世界でユキくんが持つわたしのスマホ上では、依然ゲームはフリーズしているらしい。
『そっか……こいつはバグじゃない!』
そもそもバトル中に敵の武器は奪えない。
それはもちろん、ゲームの仕様として。
でも「リアル」なら、そんなゲームの「仕様」は関係ない。
奪う気があれば奪える──今のわたしのように。
ゲームの仕様ではない以上、それをスマホ上のキャラ操作で実行することはできない。
バトル担当のユキくんには動かせない。頼れない。
ここから先は、純粋にわたしとチハヤくんとのガチバトル。
ユキくんの言葉を借りるなら「リアルソードバウト」。
けれど。でも。
だとしたら。
これが「ゲーム」じゃなくて、本当の闘いだったら。
そうだとしたら、もしその戦いで、わたしが目の前の彼を、
チハヤくんを「倒して」しまったら。
この世界から消し飛ばしてしまったら。
それがゲームプレイヤーなら、強制ログアウトされるだけ。
それがゲームのキャラクターなら、ただデータが書き換えられるだけ。
それがこのゲームの仕様。
この「最終章」のルール。
でも彼は──は。
チハヤくんは。
魔剣士チハヤ・ルースは。
「ここ」にいる。
ゲーム世界で、その中でリアルを生きている「わたし」の前に。
「だったら、このまま倒しちゃったら……本当に死んじゃうんじゃないの?」
『ナキ姉、何言って……死ぬ? 誰が?』
「……だめだよ」
襟元の黒猫バッジが何か言ってる。でも聞こえない。
「だめだよ……死んじゃうなんて、殺す、なんて」
振りあげた腕から力が抜ける。
剣先が地に落ちる。
もしゲームなら。ただのゲームなら。
これが「本物のゲーム」だったら。
ここで剣を振り下ろすのが正解なんだろう。
敵の魔剣士を──ボスクラスの強敵を、ただの「治癒師」が倒せる唯一最大のチャンス。
一発大逆転。
強敵をやっつけて、たぶんこの聖剣も手に入れて。
もしかしたらレベルだって上がるかもしれない。
ボスらしく、けっこうなお宝もドロップするかも。
きっとお金だって(ステータス上のわたしは今無一文……)。
剣を下ろしたまま、顔を上げる。
目の前には、ケモミミ銀髪の魔剣士少年。
わたしは「彼」のことはよく知らない。
ウィンドウ画面に表示された「公式情報」だけ。
強敵。魔剣士。
人に滅ぼされた魔狼族の最後の生き残り。
魔王皇帝トーヤに絶対の忠誠を誓う腹心のひとり。
それはでも、ただの情報で。ゲームの知識で。
だったら。
彼は、あなたは、
チハヤくん、あなたは──
目の前にいる、本当の──「リアル」のあなたは、
「あなたは、誰?」
それはさっき、彼自身がわたしに対して言った言葉。
このゲーム世界には存在しないはずの、魔王皇帝トーヤと同じ黒目黒髪の「わたし」に向かって、放った言葉。
「わたしは、ユナキ」
手にした聖剣──七星剣を、その柄を彼へと差出しながら。
「この終わる世界をなんとか救いたくて」
金色の瞳を大きく見開いて、わたしとその剣を見つめる彼に。
「この世界の終わりと共に消えてしまう、魔王皇帝トーヤを救うために」
まるで重さを感じないその剣を、彼に手渡しながら。
「ただそのためだけに、この世界にやってきた女の子」
くすっと笑う。笑ってしまう。
だって、言うに事欠いて自分でオンナノコとか。
けれどチハヤくんは。
再び手にした聖剣を、信じられないという風に見つめながら、
「なんで、なんでだよ……!」
その真っ青な顔を上げて、きっと鋭くした瞳でわたしを睨む。
「どうして! 勝てたのに……おまえ、勝ててたのに!」
「おまえじゃない。ユナキだってば」
「ユナキ……魔王皇帝を、我が主を──救う?」
うなずく。
「救いたい。絶対に」
「でも、でもおまえは敵だろう!」
手にした聖剣を、今度は彼が振り上げて。
「敵? わたしが? どうして?」
それがゲームが私たちに与えた「役割」だから?
でも今、わたしはそのゲームを超えたリアルにいる。
だったら。
敵とか味方とか、ただの役割で決められちゃっていいの?
チアキくんの手が止まる。
「どうして、って……だって、だって」
彼の頭上で、七色に輝く剣先が迷うように円を描く。
ゲームとリアルの間で、彼自身迷っているのかも。
「だって、おまえはあの聖堂から出てきたじゃないか!」
「聖域の廃聖堂?」
「そうだ! オレたちには近寄ることさえできない、別の世界に通じる場所だ!」
なるほど、彼らにはあの場所はそう見えてるんだ。
「そんな場所からやって来たおまえが、この世界を救う、だって?」
苦しそうに笑う。
「我が主を、救いたい、だって?」
叫ぶ。
「信じられるか! そんなこと!」
さらに剣を振り上げる。
そして──
次回予告!
一発大逆転のチャンスがさらに一転、
大ピンチ!
「諦めたらそこで終わりだよ」
わたしにはそう言ってくれた人がいたから。
だから、だから──諦めるもんか!
バトル編ラストエピソード(のはず)!
お見逃しなく!




