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4つの階級と、ホコリまみれの相部屋

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

「……なんだよ、これ」


 案内された昼食のテーブルを見て、蒼汰は思わず低い声を漏らした。


 広い宴会場は、露骨なまでに『4つの階級ランク』に分断されていたのだ。


 最も上座、クレア姫たち王族のすぐ隣には、『勇者』の神宮寺や『聖女』の西園寺、『賢者』の一文字、そして『司令塔』の山城が座る【特別席】。


 そこには、昼から信じられないほど豪華な霜降り肉のローストや、色鮮やかな果実のタルトが並べられている。


 山城は宰相とグラスを合わせ、早くも王国の中枢にふんぞり返っていた。


 一段下がった席には、戦士職を引いた者たちの【戦闘職席】。


 ここも十分すぎるほど上等なシチューや白パンが配膳されている。


 さらに下には、見習い細工師の遠山や見習い商人の北条たち【生産・非戦闘職席】があり、一般的なパンと肉野菜炒めが置かれている。


 そして。


 会場の最も端、隙間風の吹き込む扉のすぐそばに用意された小さな丸テーブルが、蒼汰たち「ハズレ職」4人の席だった。


「ひどいものだね。栄養学を根底から否定している」


 理人が、テーブルの上に置かれた木皿を見て冷たく吐き捨てた。


 そこに乗っていたのは、石のように硬く黒ずんだパンが一つと、野菜のくずが数切れ浮いているだけの、濁った塩水のような薄いスープ。


 まるで残飯か、囚人の食事だった。


「……文句があるなら、食べなくてもよろしくてよ」


 配膳係のメイドが、汚物を見るような目で冷笑する。


 遠くの上座からは、神宮寺たちの「肉うめー!」「姫様、このワイン最高です!」という無邪気な笑い声が響いてくる。


 自分たちの特権に酔いしれる彼らは、最底辺に落とされた蒼汰たちの食事になど、もはや一切の関心を向けていなかった。


「……食べようよ」


 静寂を破ったのは、楓菜だった。


 彼女は硬い黒パンを手に取ると、一切の感情を交えずにガリッ、と音を立てて齧り、無言で咀嚼を始めた。


 乃亜も「そうだね。食べないと、倒れちゃうもんね」と弱々しく微笑み、木の匙で薄いスープを口に運ぶ。


 蒼汰も無言でパンを齧った。


 ボソボソとした食感と、微かな酸味。視界の右下の『満腹度ゲージ』は、数パーセントしか回復しなかった。


(いつか絶対に、あいつらより美味い飯を食ってやる……!)


 塩水のようなスープを飲み干しながら、蒼汰は硬く心に誓った。



 ◇ ◇ ◇



 食後、蒼汰たち4人はメイドに連れられ、王宮の外れへと歩かされていた。


「お前たちの部屋はここだ。

 与えられただけありがたく思え」


 衛兵が忌々しそうに吐き捨てて立ち去った後、蒼汰は目の前の光景に絶句した。


 そこは王宮の隅にある、どう見ても『使われなくなった古い納屋』だった。


 ホコリっぽくカビ臭い空気。


 床には藁が散乱し、部屋の隅には粗末な木組みのベッドが四つ、申し訳程度に並べられているだけだ。


「……待てよ。ここ、四人部屋なのか!?」


 蒼汰は慌てて部屋を見回した。


 昨晩までは一人一部屋の豪華な客室だったのだ。


 だが、ハズレ職と判定された途端、男女の区別すらなくこの納屋に押し込まれたということになる。


「い、いくらなんでも、年頃の女子と一緒に寝泊まりなんて……っ!」


「何をうろたえているんだ、蒼汰。

 生物学的な性差など、この劣悪な衛生環境の前では些末な問題だ。

 ああ、ひどいカビだ……」


 理人は女子と同室であることなど全く意に介さず、眉間にシワを寄せて部屋を見渡している。


「そ、そうだけど! 冨永さんや福島くしまさんは嫌だろ!? 

 俺がメイドに掛け合って……」


「いいよ、別に」


 振り返った蒼汰の言葉を遮ったのは、楓菜だった。


 彼女はホコリまみれのベッドにドカッと腰を下ろすと、大きく伸びをした。


「私、上に兄貴が三人いてさ。

 ずっと男だらけの家族で育ったから、男のニオイとか無神経さには慣れてるんだ。

 むしろ、変に気を使われる方が疲れる」


 あっけらかんと言い放つ楓菜。


 その男勝りな態度に、蒼汰は毒気を抜かれたように目を丸くした。


「それに……」


 乃亜が、部屋の隅にある小さな窓から差し込む光を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「私、ここの方が好きだな。綺麗なお部屋だったけど……

 あそこに戻って、またあの冷たい視線の中にいるより、ずっといい」


 乃亜が振り返り、ふわりと柔らかく微笑む。


 その顔を見て、蒼汰は自分の小心者ぶりがひどく恥ずかしくなった。


 一番傷ついているのは、王宮中から「ゴミ」だと嘲笑われた彼女たちのはずなのに、自分は相部屋だという思春期特有のくだらない緊張感で慌てふためいていたのだ。


「……そうだな。俺も、あいつらの顔を見なくて済むこっちの方がマシだ」


「でしょ? それに、多目くんも梶原くんも、絶対に私たちに変なことしないって分かってるしね」


 楓菜がイタズラっぽく笑うと、乃亜も「ふふっ、そうだね」と同意して笑った。


 ホコリっぽい納屋の中に、同窓会の時には決して生まれなかった、穏やかな空気が流れる。


 しかし、会話が途切れると、再びしんと重い静寂が降りてきた。


 窓の外から聞こえてくる、騎士たちの足音。


 自分たちが「無能」として見捨てられたという現実が、じわじわと4人の肩にのしかかる。


「……私、掃除するね」


 沈黙を破るように、乃亜が立ち上がった。


 彼女は部屋の隅にあった古びたほうきと雑巾を手に取ると、自嘲するように小さく笑った。


「私、『清掃婦』だから。……せめて、みんなが少しでもゆっくり休めるように、掃除くらいは頑張らなきゃ」


 強がっているのが痛いほど伝わってきた。


 蒼汰が「俺も手伝うよ」と声をかけようとした、その瞬間だった。


「え……?」


 乃亜が雑巾でサッと木組みのベッドの枠を拭き、箒で床のホコリをひと撫でした直後。


 ――ふわり、と。


 部屋の空気が、劇的に変わった。


「な、なんだこれ……!?」


 蒼汰は思わず声を上げた。


 先ほどまで充満していた鼻を突くカビの臭いや、喉をイガイガさせていたホコリっぽさが、一瞬にして完全に消え去ったのだ。


 それだけではない。


 薄汚れていたベッドのシーツは真っ白に輝き、まるで晴天の太陽の下で丸一日干したかのような、ふかふかで清潔な匂いを放ち始めている。


「ば、馬鹿な……あり得ない!」


 理人が血相を変えてベッドに駆け寄り、シーツに顔を近づけた。


「アルコールや次亜塩素酸を使ったわけでもないのに、ダニやカビの胞子が完全に死滅しているように感じるぞ……

 いや、空間そのものが無菌状態に近いレベルまで『浄化』されている気がする! 

 物理法則を完全に無視した滅菌作用だ!」


「えっ? う、嘘……私、ただ普通に拭いただけなのに……」


 乃亜自身が一番驚いたように、自分の両手と雑巾を交互に見つめている。


 楓菜も目を丸くして、ふかふかになったベッドをバンバンと叩いていた。


(……ただの、掃除係?)


 蒼汰の脳裏に、強烈な疑問が浮かび上がった。


 これは本当に、底辺の『ハズレ職』の力なのか?


 これほどの異常な現象を引き起こすスキルが、ただの清掃婦なわけがない。


 蒼汰は、自分の視界の端で光る『満腹度ゲージ』を見た。


 乃亜の規格外の清掃能力。


 もしかしたら理人も福島さんもとてつもない力を持っているんじゃないか?


 王国の連中が認識しているような「ただのゴミ」ではないんじゃないか?


 そして俺も…



「……明日から、訓練が始まるな」


 蒼汰の呟きに、3人が顔を上げる。


 絶望に染まっていたはずの納屋の中に、微かな、だが確かな熱が生まれ始めていた。


「俺たちのジョブが本当にハズレなのか。明日、試してみようぜ」


 底辺に突き落とされた4人の目に、わずかな希望の光が宿った。


 明日の訓練で、自分たちの『本当の力』が分かるかもしれない――そんな期待を胸に、彼らは王宮の片隅で静かに夜明けを待った。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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