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激震の王宮。辺境の「無能」たちの正体

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 バルカエス王国の王都。その中心にそびえ立つ王城の謁見の間は、重苦しく、そしてひどく血生臭い空気に包まれていた。


「……トトメスよ。それは、一体何の冗談だ?」


 玉座に腰掛けるバルカエス王が、ピクピクと額に青筋を浮かべながら、眼下に這いつくばる肉塊のような男を見下ろした。


 豪奢な貴族服は見る影もなくボロボロに引き裂かれ、全身に包帯を巻かれたその男――国王の名代として意気揚々と辺境へ向かったはずのトトメス伯爵は、ガタガタと歯の根を鳴らしながら床に額を擦り付けていた。


「じ、冗談などではございません、陛下……っ! 事実なのです! 

 あの『豊穣の街』にいる者たちは、人間ではありません! 

 人の形をした化け物……いや、天災そのものです!」


 トトメスは、自らの馬車に轢かれた恐怖と痛みがフラッシュバックしたのか、おこりがかかったようにブルブル震えながら叫んだ。


 彼と共に帰還した五十名の近衛騎士団の精鋭たちも、一様に顔面を蒼白にし、全身が小刻みに震えている。


 物理的な外傷こそ両肩を矢で射抜かれた一人だけであったが、彼らのプライドと精神は、辺境の広場において完全に粉砕されていた。


「化け物だと? たかが辺境の開拓村にいるような連中が、王国の近衛騎士五十名を手も足も出させずに追い返したと言うのか!」


 王の怒号が響き渡る。


「事実でございます!」


 トトメスが悲鳴のように声を張り上げた。


「奴らは、大岩を指先一つで粉々に砕き、何トンもある馬車を軽々と持ち上げました!

 王宮の騎士が瞬きをする間に背後を取り、聖女様をも凌駕する浄化の魔法を無詠唱で放ち……さらには、触れれば狂い死ぬような未知の毒を平然と撒き散らしたのです!」


 その報告に、玉座の傍らに控えていた宰相が、忌々しそうに眉をひそめた。


「……馬鹿な。そのような圧倒的な力を持つ集団が、辺境に隠れ住んでいるなどあり得ん。

 それに、密偵の報告によれば、その街を治めているのは……」


「そ、その通りでございます、宰相閣下!

 あの化け物どもの正体こそが、この報告の最も恐ろしい点なのです!」


 トトメスは、恐怖で白目を剥きそうになりながら、震える唇を動かした。


「奴らの正体は……二年前、王宮から奈落の森へと追放された、四人の『ハズレ職』の異世界人たちだったのです!」


 ――ピキッ、と。


 謁見の間に、見えない亀裂が走ったような静寂が落ちた。


 逃げ帰った使節の報告により、豊穣を治めているのが「かつて追放したハズレ職の学生たち」だと判明した瞬間であった。


 ついに王宮側に「蒼汰たちが強い」ということが、明確な事実として突きつけられたのだ。


「……は? なんだと?」


 王が、間の抜けた声を漏らす。


「あ、あの浪人と、毒見役と、清掃婦と、警備員の小娘です! 間違いありません! 

 さらに、彼らと一緒に二人の若者がおりました。

 そのうちの一人が、私の馬車をひっくり返した男です! 

 調べたところ、あれは二年前、王宮から姿を消した見習い細工師の遠山という男と、見習い商人の北条ろいう女

 ……つまり、全員で六人の異世界人が、あの街を支配しているのです!」


「な……あの逃げ出した見習いどもまで一緒にいただと!?」


 宰相が驚愕の声を上げる。


「はい! 奴らははっきりと、『二年前、俺たちをゴミ扱いして森に捨てた連中に伝えておけ』と言い放ちました! そして……」


「『俺たちは生きてる。お前らが一生かかっても届かない場所で、最高の飯を食ってる』と……。

 我々王国に対する、明確な宣戦布告を行ってきたのです!」


 トトメスは、蒼汰の冷たい眼差しを思い出し、ヒッと喉を鳴らした。


 静寂。


 そして、直後に爆発したのは、王の怒髪天を衝くような激怒だった。


「――ッ!! 戯れ言を抜かすなァッ!!」


 ダンッ!! と、バルカエス王が玉座の肘掛けを激しく殴りつける。


「あの最底辺のゴミ共が、近衛騎士団を退けるほどの力を持っているだと!? 

 馬鹿にするのも大概にせよ! 奴らの初期ステータスは農民以下であったのだぞ! 

 レベルシステムに選ばれなかった無能どもが、たった二年で強くなるわけがなかろうが!」


「お、お待ちください陛下! 私はこの目で確かに……!」


「黙れ! 己の無能と失態を、そのような妄言で誤魔化す気か!」


 王は激しく息を荒らげ、顔を紅潮させていた。


 彼にとって、レベルやステータスという「神のシステム」は絶対だ。


 それに選ばれなかった蒼汰たちが、努力や独自の成長システムで強くなるなどという概念は、王の矮小な脳では理解できないことだった。


「お父様、どうかお鎮まりを」


 その時、扇子で顔の半分を隠したクレア姫が、冷ややかな声で口を挟んだ。


「トトメスが恐怖のあまり幻覚を見たのは事実でしょうが、使節団が追い返されたこともまた事実。

 ……おそらくは、こういうことではないでしょうか」


 クレア姫は、嗜虐的な光を瞳に宿しながら言葉を続けた。


「あの無能どもは、辺境伯に取り入って街の『顔役』に据えられただけ。


 大岩を砕き、馬車を持ち上げたのは、クレマン辺境伯が秘密裏に雇った腕利きの傭兵か、あるいは強力な古代魔導具の力によるもの。

 ……トトメスは、その見掛け倒しのハッタリに腰を抜かして逃げ帰ってきた。

 そう考えるのが、最も『論理的』ですわ」


 クレア姫の解釈は、王宮側の驕りと偏見が凝縮されたものだった。


 だが、現実を受け入れたくない王と宰相にとって、それは非常に心地の良い「真実」として響いた。


「……なるほど。流石はクレア姫、理にかなった推測です」


 宰相が、薄気味悪い笑みを浮かべて同調する。


「使節団を追い返したということは、クレマン辺境伯は明確に王家に牙を剥いたということ。

 ……あの田舎貴族め、異世界人のゴミどもを大義名分に担ぎ上げ、独立でも企てているのでしょう。

 全くもって、身の程知らずな話ですな」


「たかが家畜の分際で、この私をコケにしおって……っ! 許さん、絶対に許さんぞ!」


 王は、ギラギラと血走った目で立ち上がった。


 蒼汰たちが本当に強いかどうかなど、もはやどうでもよかった。


 王宮の命令に背き、使節を無様に追い返したという事実に対する「怒り」が、王の理性を完全に焼き尽くしていた。


「宰相よ! 直ちに討伐軍を編成せよ! 

 クレマン領に侵攻し、反旗を翻した辺境伯の首を刎ねろ! 

 そして、あの目障りな異世界人のゴミ共を一人残らず捕らえ、王都の広場で四つ裂きの刑にしてくれるわ!」


「はっ。直ちに国軍を動かしましょう」


 宰相が深く首を垂れる。


「しかし陛下。辺境伯の私兵も、防衛戦となれば地の利がございます。

 確実に、かつ迅速にあの街を蹂躙するためには……我が王国が誇る『最強の剣』を用いるのがよろしいかと」


「……最強の剣。勇者たちか」


 王が、ニヤリと残酷な笑みを浮かべた。


「左様でございます。神宮寺殿をはじめとする勇者パーティーは、現在レベルの停滞に少々苛立っておられるご様子。

 憂さ晴らしの『狩り』として、辺境の反乱鎮圧を任せれば、喜んで飛びつくでしょう。それに……」


 宰相は、陰湿な声で付け加えた。


「かつての同級生を自らの手で蹂躙させることは、勇者たちの王家への忠誠心をさらに高めるための、良い余興になるかと存じます」


「ふふふっ、それは素晴らしい名案ですわね、宰相」


 クレア姫が、扇子の奥でくすくすと笑う。


「自分たちが見下していた無能なゴミが、調子に乗って街を作った。

 それを、圧倒的な力を持つ勇者たちが、再び完膚なきまでに叩き潰す。

 ……ああ、想像しただけで胸がすくような光景ですわ」


「うむ! 決まりだ!」


 バルカエス王が高らかに宣言する。


「神宮寺らを呼び出せ! 辺境の小生意気な街を、そしてあの大言壮語を吐いたゴミ共を、跡形もなく消し去ってこいと命じるのだ!」


 王族たちの狂気に満ちた哄笑が、謁見の間に響き渡る。


 彼らは信じて疑わなかった。システムの寵児である勇者たちが向かえば、辺境の街など一日と持たずに灰燼に帰すだろうと。


 豊穣の街と王国の、絶対的な力の差が激突するその時は、もう目前にまで迫っていた。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

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