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招かれざる客。王族の哄笑と勇者の慢心

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 バルカエス王国の王都、その中心にそびえ立つ壮麗な王城。


 豪奢なシャンデリアが天井から吊るされ、最高級の絨毯が敷き詰められた王の執務室には、王国を牛耳る三人の人物が集まっていた。


 恰幅の良いバルカエス王、陰湿な光を瞳に宿す宰相、そして、可憐な微笑みの裏に冷酷な本性を隠し持つクレア姫である。


  「……宰相よ。その報告は、真実まことなのだろうな?」 


 バルカエス王が、手元の羊皮紙を乱暴に机に叩きつけながら、低い声で問いただした。 


 その顔には、驚きと、そして隠しきれない欲望の脂が浮かんでいる。


「はっ。我が王室直属の密偵が、北の辺境……クレマン領の領都にて直接見聞きした情報に間違いございません」 


 宰相が、薄暗い笑みを浮かべて深く頭を下げた。


「クレマン領の北端、あの奈落の森の境界付近に、『豊穣』と名乗る開拓都市が突如として出現いたしました。


 しかも、その街と領都クレマンを繋ぐ街道が、未知の漆黒の鋼によって舗装されているとのこと。


 その道を通って運ばれる『名物料理』や希少な素材により、現在、辺境伯領の経済は爆発的な潤いを見せております」


「未知の鋼だと? 王宮の兵器工場ですら聞いたこともない技術だぞ。

 辺境伯め、一体どこからそのような技術を……」


「お父様、重要なのはそこではありませんわ」


 クレア姫が、扇子で口元を隠しながら、鈴を転がすような声で口を挟んだ。


「密偵の報告書には、こうも書かれております。

 その『豊穣の街』を実質的に支配し、未知の技術や食文化をもたらしている者たちの正体が

 ……二年前、私たちが奈落の森へと捨てた『ハズレ職』の異世界人四人と、王宮から逃亡した見習い細工師と商人である、と」


 クレア姫の言葉に、執務室の空気が微かに揺らいだ。


 蒼汰、理人、乃亜、楓菜。


 二年前の『鑑定の儀』において、浪人、毒見役、清掃婦、警備員という底辺のジョブを下され、王宮から嘲笑と共に追放された者たちだ。


「……あのゴミ共か」


 バルカエス王が、忌々しそうに鼻を鳴らす。


「二年前、神宮寺ら勇者どもが『辺境の森の入り口でボコボコにして、這いつくばらせてやった』と自慢げに報告しておったな。

 てっきりそのまま泥水でも啜って野垂れ死ぬか、良くて辺境の小作農にでも成り下がっていると思っていたが……街を支配だと?」


「ふふっ、本当にしぶとい虫のようですね。

 どうせ、辺境伯の哀れみを引いて取り入り、運良く『お飾り』の代表にでも据えられたのでしょう」


 クレア姫が、嗜虐的な笑みを深めた。


 二年前、蒼汰たちを追って王宮から脱走した刀真と萌音は、豊穣の街では裏方に徹して身を隠しているため、密偵の報告にはその存在が上がっていなかった。


 だからこそ、王族たちは「無能な四人」が自分たちの力だけで未知の鋼や名物料理を生み出したとは微塵も思っていなかったのだ。


「ですが、お父様。これは都合が良いではありませんか」


 彼女にとって異世界人は、どのような能力を持っていようと『便利な家畜』でしかない。


「都合が良い、とは?」


「あの無能どもが、辺境伯の入れ知恵か何かのまぐれで、どのような利益を生み出しているのかは存じませんが……それらが莫大な富を生んでいるのは事実。

 ならば、彼らの『真の所有者』である私たちが、それを正当に『保護』して差し上げるのが筋というものでしょう?」


 クレア姫の意図を察し、宰相が下劣な笑い声を漏らした。


「左様でございますな。あの者たちは元々、我が王国が召喚した所有物。

 彼らが辺境で築いた財産も、技術も、そして人材も……すべては王家のもの。

 辺境伯が独占するなど、許されるべきではありません」


「うむ……」


 王が、欲望にまみれた舌で唇を舐め回す。


「よいだろう。直ちに王宮から『徴税使節団』を派遣せよ。


 名目は、未開の地の治安維持と、異世界人の保護だ。


 奴らが築いたという街の富を接収し、有益な技術を持つ者――その料理を作っている女や、未知の鋼の製法を知る者は、王都へ強制連行して奴隷として働かせろ。


 もし抵抗するようなら、反逆罪として街ごと焼き払っても構わん」


「承知いたしました。高位の貴族と、近衛騎士団の精鋭を向かわせましょう。

 二年前、勇者たちに無様に這いつくばらされただけの無力な子供たちなど、騎士の鎧を見るだけで平伏するはずです」


 宰相が恭しく一礼する。


 彼らは誰も、蒼汰たちが深淵を越え、自分たちの想像を絶する『最強の力』を手に入れているなどと、微塵も思っていなかった。


 レベルシステムに縛られた彼らの常識では、初期ステータス最底辺のハズレ職が、王国騎士団に敵うはずがないと信じきっていたのだ。


 ◇


 一方、王宮内の別棟。 勇者たちが拠点としている豪華絢爛なラウンジでは、陰鬱で苛立った空気が充満していた。


「……クソッ! クソがッ!!」


 ガシャンッ! と、高級な陶器の皿が壁に叩きつけられ、粉々に砕け散った。 


 荒々しい息を吐いているのは、勇者のジョブを持つ青年――神宮寺勇輝である。


「どうしたのよ、神宮寺くん。あんまり暴れないでよ、せっかくのお食事が台無しじゃない」


 読者モデルだった聖女・西園寺が、呆れたようにため息をつきながら、テーブルに並べられた豪華な肉料理を口に運ぶ。


 彼らの食事には、王宮が密かに混入させている思考抑制と依存性の『黒い粉』がたっぷりと振りかけられていた。


 それを食べる彼らの瞳は、どこか虚ろで、狂気的な熱を帯びている。


  「うるせえ! 上がらねえんだよ、レベルがッ!」 


 神宮寺が、血走った目で自身のステータスウィンドウを睨みつける。


「毎日毎日、用意された魔物を狩り続けてるのに……レベルが65からピタリと止まりやがった! 

 俺は選ばれた『勇者』だぞ!?

 この世界で一番強いはずなのに、なんでこれ以上上がらねえんだ!」 


 神宮寺たち勇者パーティーは、システムの限界とも言えるレベルキャップの壁に直面し、激しい停滞感と苛立ちに苦しんでいた。


 チート能力を与えられ、ちやほやされることに慣れきった彼らにとって、「成長できない自分」を受け入れることは、肥大化したプライドが許さなかった。


  「落ち着けよ、神宮寺。システム上の限界が来ているなら、あとは伝説級の武具を集めるか、まだ見ぬ上位の魔物を狩るしかない。

 ……それより、さっきメイドたちから面白い噂を聞いたぞ」 


 司令塔の山城が、ワイングラスを傾けながら冷笑を浮かべた。


「面白い噂? くだらねえ話なら斬り捨てるぞ」


「二年前、俺たちにボコボコにされて、奈落の森でくたばったはずの『ゴミ四人組』のことだ。

 多目や冨永たちが……なんと生きていて、北の辺境でしぶとく街を作っているらしい」


「……は?」 


 神宮寺の動きが止まった。


 そして、数秒の空白の後――ラウンジに、嘲笑が爆発した。


「はははっ! マジかよ! あの『浪人』や『清掃婦』が生き延びてたのか!?」


 神宮寺が、腹を抱えて笑い転げる。


「どうせ、森の入り口で震えながら草でも食って生き延びて、たまたま辺境伯の哀れみを引いたんだろうぜ。

 で、田舎村の村長にでもなって、泥水すすって満足してやがるんだろ?」


「本当よね。乃亜とか、昔はちょっと可愛いからって調子に乗ってたけど、今はボロボロの服着て泥だらけになってるんじゃない? あーあ、可哀想に」


 西園寺が、自分の煌びやかなドレスを見下ろしながら優越感に浸る。


「だが、王宮は彼らの作った街の利益を没収するために、使節団を送るらしい」


 山城が、冷徹な目で状況を分析する。


「どうやら、あのとき逃げた、見習い細工師の遠山が何か珍しい鋼を作ったらしいな。

 ……ま、所詮は底辺職の小手先の技術だ。

 だが、もし使えるようなら、俺たちの武器のメンテナンスくらいにはやらせてやってもいい」


「違いない」


 神宮寺が、テーブルの上の『黒い粉』がまぶされた肉を乱暴に手掴みで口に放り込み、獣のように咀嚼した。


「俺たち『勇者パーティー』の拠点として、あの辺境の街を直轄にしてやるのも悪くねえな。

 蒼汰の野郎には、俺の馬の世話くらいさせてやるよ。

 あいつらみたいな無能でも、俺たちの奴隷としてなら、まだ少しは利用価値があるってもんだ」


 神宮寺の瞳には、かつてのクラスメイトに対する友情や憐れみなど微塵もなかった。


 薬物に蝕まれた精神と、歪に肥大化した選民思想。


 彼らは、二年前の「弱かった蒼汰たち」の記憶のまま思考が停止しており、自分たちがこの世界で絶対的な強者であると疑っていなかった。


「……あいつらが俺たちより凄いわけがない。

 俺は勇者だ。システムに選ばれた、最強の存在なんだからな」 


 神宮寺が、虚空に向かって呟く。 


 その声は、自分自身の停滞をごまかすための、哀れな強がりのようにも聞こえた。


 ◇


 その数日後。 


 王都の大通りを、一隊の絢爛な馬車と、重武装の近衛騎士団が北へ向かって進軍を開始した。 


 馬車の中でふんぞり返っているのは、王家から『徴税使節』として全権を委任された、高慢で欲深い小悪党の貴族である。


  「ふふふ……辺境のド田舎に、莫大な利益を生む街があるとはな。

 すべて私のもとへ接収し、王家へ献上すれば、私の地位はさらに盤石となる」


 貴族は、ワインを啜りながら下品な笑みを浮かべた。


「聞けば、その街を治めているのは、王宮から追放されたハズレ職の小娘や小僧どもだというではないか。

 我ら高貴なる使節団の威光を見せつければ、泣いて命乞いをして、すべての財産を差し出すに違いない。

 逆らうなら、その場で首を刎ねてくれるわ」


 彼らは知らない。 


 彼らがこれから向かう先にあるのが、王国の兵士など赤子同然に捻り潰す、人の姿をした『天災』たちが治める街であるということを。


 強欲な王族の企みと、狂気に満ちた勇者たちの嘲笑。 


 それらを乗せた破滅への使節団は、自らの死地へ向かっているとも知らず、呑気に辺境への道を急ぐのだった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

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