幻の宝石獣狩り。男三人の余裕の共闘
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今回は男三人の極秘任務、幻の「宝石獣」狩りをお届けします。
彼らの圧倒的な成長ぶりを、どうぞお楽しみください!
開拓都市『豊穣』から数キロ離れた、奈落の森・中層域。
鬱蒼と生い茂る巨大な樹木が陽光を遮り、常に薄暗いこの一帯は、王国の精鋭騎士団であっても一個大隊を組まなければ生きては帰れないとされる魔境だ。
二年前、王宮を追放されたばかりの蒼汰たちが、双頭の熊猪から泥水まみれになって逃げ惑ったのも、この森の入り口付近である。
だが現在。
その凶悪な森の中を歩く三人の青年の足取りは、王都の公園を散歩しているかのように、あまりにも軽快だった。
「……なぁ理人。本当にこの辺りにいるのか? その『宝石獣』ってやつは」
先頭を歩く蒼汰が、腰の『赫炎・魔竜刀』を抜くことすらなく、欠伸交じりに尋ねた。
彼の分厚い胸板と丸太のような腕は、ただ歩いているだけで周囲の空気を微かに揺るがすほどの覇気を放っている。
「データと生態記録を照らし合わせた結果、間違いない。
宝石獣は高純度の魔素を含む鉱石を主食とする。
刀真が先日、この近くの地層にミスリル鉱脈の兆候を発見したと言っていたからね。
確率論から言えば、遭遇率は八十五パーセントを超える」
理人が、片手に持ったフラスコを揺らしながら、極めて冷静に答える。
「頼むぜ。……萌音に渡す指輪には、絶対に世界一の宝石を使いたいんだ」
最後尾を歩く刀真が、背中に『爆炎の戦鎚』を背負ったまま、深く息を吐いた。
その時だった。
ガサガサッ!! という不気味な葉擦れの音と共に、周囲の茂みから、六つの巨大な影が飛び出してきた。
『グガァァァァァッ!!』
現れたのは、体長四メートルを超える『鋼殻の鎧熊』の群れだった。
通常の物理攻撃や下位の魔法を一切弾き返す鋼のような外殻を持ち、鋭い爪はミスリルの盾すら紙切れのように引き裂く。
中層の生態系のトップクラスに君臨する、凶悪な魔物だ。
「……チッ。宝石獣のお出ましだと思ったら、ただの雑魚かよ」
蒼汰が、面倒くさそうに頭を掻く。
六頭の鎧熊が、獲物を前に血走った目を剥き、一斉に三人に襲いかかった。
――だが、彼らには微塵の焦りもなかった。
「刀真、右の三頭は任せた」
「おう。……来いよ、デカブツ」
刀真は、戦鎚を背負ったまま、無防備に両手を広げた。
鎧熊の凶悪な爪が、刀真の岩山のような胸板に容赦なく振り下ろされる。
ガキィィィンッ!!!!
鈍い音が森に響き渡った。
だが、引き裂かれたのは刀真の肉体ではない。鎧熊の『爪』の方だった。
爆炎竜の肉を喰らい、防御力(DEF)が限界突破している刀真の肉体は、すでに鋼殻の鎧熊の外殻よりも遥かに硬い。
「……痛くも痒くもねえな」
刀真が、呆然とする鎧熊の顔面を、巨大な手のひらで無造作に鷲掴みにした。
「そらよっ! 蒼汰!」
刀真は圧倒的な膂力で、その巨大な鎧熊を空高く放り投げた。
「おう」
蒼汰は短く応えると、腰の『赫炎・魔竜刀』の柄に手をかけた。
抜刀。それは瞬きをする間もない、神速の一閃だった。
刃に熱量(赫炎)すら込めない、純粋な筋力(STR)のみによる斬撃が空気を裂く。
ズバァァァンッ!!
鋼のような外殻を持つ鎧熊の巨体が、空中で綺麗に一刀両断され、左右に分かれてドスンドスンと地に落ちた。
あまりにも圧倒的な暴力。
その光景を目の当たりにして、刀真に向かっていた残り二頭の鎧熊が、ピタリと足を止めた。
魔物特有の闘争本能すら塗り潰す、絶対的な『恐怖』による硬直だ。
「よそ見してんじゃねえぞ!」
刀真が、背負っていた『爆炎の戦鎚』を抜き放ち、足を止めた二頭に向かって力任せに振り抜いた。
ドゴォォォォンッ!!
戦鎚が二頭の頭部にクリーンヒットする。
爆発的な衝撃波が鋼殻と頭蓋を粉々に砕き、二頭の魔物は一瞬で絶命して地に沈んだ。
「左は僕が処理しよう」
理人が、眼鏡のブリッジを中指で押し上げる。
鎧熊が咆哮を上げて理人に突進してくるが、理人は動かない。
ただ、手に持っていたフラスコを、足元の地面に軽く落として割っただけだ。
パリンッ。
その瞬間、理人の足元に展開されていた見えない『化学式陣』が起動した。
フラスコ内の液体と大気中の魔素が急速に化学反応を起こし、絶対零度の冷気が爆発的に広がる。
「『急速凍結(液体窒素)の陣』。……質量が大きいほど、細胞膜の破壊は致命的になる」
ピキキキキッ!!
突進してきた三頭の鎧熊は、理人に触れるどころか、その数メートル手前で完全に全身を凍結させられ、氷の彫像と化してピタリと動きを止めた。
「終わったか? あーあ、こいつら肉が硬すぎて乃亜の料理にも向かねえんだよな。
食えない魔物を出されても、腹が減るだけだぜ」
蒼汰は、刀の血糊を振って払い、鞘に収めながら大きく背伸びをした。
二年前、双頭の凶暴熊猪一匹に、四人がかりで死に物狂いになったあの日々が嘘のようだ。
深淵というシステムの理の外側で、規格外の「命」を喰らい続けてきた彼らにとって、中層の魔物など、もはや道端の石ころと何ら変わりはなかった。
「無駄口を叩いている暇はないよ、蒼汰。
……僕の探知薬が、微かな特異魔素を捉えた」
理人が、懐から取り出した小さな試験管を見つめる。
中の液体が、淡い虹色に発光していた。
「来たな。……刀真の婚約指輪の、極上の素材が」
蒼汰の顔つきが、ここで初めて「戦士」のものへと切り替わった。
静寂。
風の音すら止んだ森の奥から、チリン、という、鈴を転がしたような澄んだ音が響いた。
三人の視線の先。
巨木の枝の上に、それは優雅に佇んでいた。
体長は中型の犬ほど。
全身が透き通るようなクリスタルで覆われ、尻尾の先には、世界中のどんな宝石よりも美しく、七色に輝く巨大な結晶体――『虹星晶』が輝いている。
幻の魔物、宝石獣だ。
「……すげえ。あんなに綺麗な輝き、今まで一度も見たことねえぞ」
刀真が、感嘆の息を漏らす。
「よし、狩るぞ。……だが、気をつけろ」
理人が声を潜める。
「宝石獣の戦闘力自体は低いが、その敏捷性(AGI)と幻惑魔法は、深淵の魔物すら凌駕すると言われている。
少しでも刺激を与えれば、音速で逃げられるぞ。
それに、尻尾の『虹星晶』に傷をつけたら、素材としての価値はゼロだ」
「要するに、逃げ場を塞いで、傷をつけずに生け捕りにしろってことだろ?
面倒くせえが……刀真のプロポーズがかかってるからな。一肌脱いでやるよ」
蒼汰が、ニヤリと笑う。
「刀真、理人。陣形はBだ。一瞬で決めるぞ」
「了解した」
「おう。逃がさねえ!」
その気配を感じ取ったのか、宝石獣が警戒の鳴き声を上げ、空中に光の屈折を利用した数十体の「幻影」を発生させた。
どれが本物か視覚では全く判別できない。
そのまま、音速の壁を超える速度で、全方位へ向けて一斉に逃亡を図る。
「逃がすかよッ!!」
最初に動いたのは刀真だった。
彼は宝石獣の後方の退路を塞ぐように跳躍すると、『爆炎の戦鎚』を全力で地面に叩きつけた。
ドゴォォォォンッ!!
大地が爆発し、巨大な土壁が隆起して、後方の逃げ道を完全に遮断する。
「幻影の屈折率は、化学物質で可視化できる」
同時に、理人が計算し尽くされた軌道で、特殊な煙幕弾を上空に放つ。
パーンッ! と弾けた赤い煙が森を包み込む。
幻影の宝石獣たちは煙をすり抜けるが、実体のある「本物」だけは、煙の粒子を弾き、その輪郭をはっきりと虚空に浮かび上がらせた。
「そこかァッ!!」
蒼汰が、地面を爆発させるような踏み込みで跳躍した。
狙うは、空中に浮かび上がった「本物」の宝石獣。
宝石獣も蒼汰の殺気に気づき、空中で強引に軌道を変えようとする。並の騎士なら、その超絶的な反応速度についていくことは不可能だ。
(楓菜の『極限瞬歩』には敵わねえが……俺の筋肉(STR)が生み出す瞬発力を、舐めるなよ!)
蒼汰は体内のカロリーを爆発させ、空中でさらに加速した。
『赫炎』の熱量を一切外に出さず、ただ自身の筋繊維の出力を限界突破させるためだけに使用する。
ドパァァンッ!! という空気を叩き潰すような音と共に、蒼汰の身体が弾丸のように宝石獣の眼前に肉薄した。
『キュィィィィッ!?』
宝石獣が驚愕に見開いた瞳。
「安心しろ。刀真の大事な指輪だ。……傷一つ、つけねえよ!」
蒼汰は刀を抜かず、丸太のような太い腕を伸ばした。
そして、逃れようとする宝石獣の首根っこを、傷つけないよう絶妙な力加減で、しかし絶対に逃げられない万力の握力でガシリと掴み取った。
「捕らえたぜ!!」
蒼汰が、宝石獣を抱えたまま着地する。
暴れる宝石獣の鼻先に、すかさず理人が睡眠薬を染み込ませた布を押し当てた。
数秒後、幻の魔物はスゥスゥと安らかな寝息を立てて沈黙した。
「……完璧な連携だ。所要時間、わずか八秒」
理人が懐中時計をしまい、眼鏡を光らせた。
「すげえ……。お前ら、本当にすげえよ! ありがとう!」
刀真が駆け寄り、蒼汰の腕の中で眠る宝石獣の尻尾――眩いばかりに輝く『虹星晶』を見て、歓喜の声を上げた。
「へへっ、これくらいどうってことねえよ。
俺たちは、深淵を生き抜いたチームだからな」
蒼汰が、ドヤ顔で鼻の下をこする。
「これで、俺のプロポーズの準備は整った。……最高の指輪に仕上げてみせるぜ。
萌音が、腰を抜かして喜ぶくらいのやつをな」
刀真が、太い指でそっと『虹星晶』を撫でた。
その顔は、凶悪な魔物を素手で捻り潰した大男のそれではなく、愛する人を想う、一人の不器用で優しい青年の顔だった。
蒼汰は、そんな親友の横顔を見て、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。
(刀真は、ちゃんと前に進んでる。……俺も、このままじゃいられねえな)
脳裏に浮かぶのは、乃亜の笑顔。
そして、一ヶ月前の温泉での、赤く染まった彼女の顔。
アシスト同盟の楓菜に頼りきりだった自分だが、刀真のこの覚悟を見せられて、自分だけが足踏みをしているわけにはいかない。
「……よし。指輪の素材も手に入ったし、さっさと街に帰るぞ!
この宝石獣、肉はすげえ美味いらしいからな。
乃亜に極上のステーキにしてもらおうぜ!」
蒼汰が、照れ隠しのように大きな声で笑い飛ばす。
「君は本当に、頭の中の八割が食欲で構成されているね。……まあ、賛成だが」
理人が呆れながらも、口元に微かな笑みを浮かべた。
十九歳になった男三人の、少しだけ大人びた、それでいて変わらない友情。
彼らは手に入れた『最高の贈り物』と『極上の食材』を抱え、待つ人のいる『豊穣』の街へと、意気揚々と帰還の途についた。
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