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極秘任務? 幻の宝石獣を追え!

いつも応援ありがとうございます。

名物料理コンテストの喧騒から一ヶ月。豊穣の街には、驚くほど穏やかで、満ち足りた時間が流れています。

修行から二年が経ち、十九歳となった蒼汰たち。実力はすでに大陸最強クラスですが、中身は等身大の若者たちです。

今回は、そんな彼らの「男同士の裸の付き合い」を描くエピソードです。

 物料理コンテストでの狂騒から、一ヶ月の月日が流れた。


 街の公式名物に認定された『ボアグリズのそぼろおにぎり』は、今や『豊穣』を訪れる旅人や商人たちの間で絶大な人気を誇っている。


 街道沿いの食堂からは朝から晩まで香ばしい醤油の匂いが漂い、それを頬張る人々の笑顔が街の至る所に溢れていた。


 人口はさらに増え、一万人を超える人々の活気が街の隅々にまで浸透している。


 萌音による適正鑑定は、今やこの街の「希望の灯」だ。


 王都でハズレと切り捨てられた人々が、ここで自分の本当の価値を見つけ、生き生きと働いている。


 その光景は、蒼汰たちにとって、どんな勝利の凱旋よりも誇らしいものだった。


 そんな穏やかな一日の終わり。


 深夜の静寂が包み込む街の修練場では、蒼汰が最後の一振りを終えようとしていた。


「……ふぅっ! はぁ……はぁ……ッ!」


 空を裂く風切り音と共に、重木剣がピタリと静止する。


 一ヶ月前の温泉でのハプニング直後のような、浮ついた動揺はもうない。


 あの夜の乃亜の姿は、蒼汰の胸の奥に「消えない熱」として深く刻まれているが、それを無理に追い出すのではなく、自らの力へと昇華させる強さが今の蒼汰にはあった。


 汗を拭い、蒼汰は夜空を見上げる。


 二つの月が、優しく街を照らしている。


「……そろそろ、いい時間か」


 蒼汰はタオルの入ったカゴを手に取り、慣れた足取りで『魔力ドーム温泉』へと向かった。


 時刻は深夜零時過ぎ。


 一ヶ月前のあの日とは異なり、完全に『男性専用』に切り替わった時間帯だ。


 ◇


 ガラリと木戸を開けると、浴場の中にはすでに先客がいた。


「お、蒼汰。今日も遅くまでやってたな」


 湯気の中に浮かぶ、岩山のような逞しい背中。


 刀真が、浴槽の縁に腕を預けて、気持ちよさそうに目を細めていた。


「おう。お前もか、刀真」


「俺は新型の炉の調整で、萌音に『いい加減に休め』って追い出されたんだよ。

 ……あ、蒼汰。そっちの洗い場、理人が使い終わったばかりだぞ」


 見れば、一番奥の洗い場で、一分の隙もなく身体を磨き上げている理人がいた。


 十九歳になり、さらに知的な鋭さを増した彼は、お湯を浴びる姿すら何かの実験を完遂したかのような、完璧な様式美を感じさせた。


「……蒼汰。一ヶ月前の失態を繰り返さないよう、時計を三回確認したんだろう?」


 理人が、鏡越しに蒼汰へ視線を向ける。


「うっ、うるせえよ! あれは……事故だ。もう時計は目に焼き付いてるよ!」


 蒼汰は顔を赤くしながら、理人の隣で一気に身体を洗い流した。


 爆炎竜の肉によって底上げされた蒼汰の筋肉は、重厚な鎧のように躍動している。


 対照的に、理人の身体は無駄な肉を削ぎ落とした、しなやかな鋼のよう。


 そして刀真は、防御特化らしく、物理的な攻撃を一切受け付けないほどの圧倒的な質量を備えていた。


 三人で、巨大な岩風呂に肩まで浸かる。


「……あぁ〜。生き返るぜ」


 蒼汰が大きく息を吐き出した。


「本当に、いいお湯ね……じゃなくて、いいお湯だ」


 刀真が、どこか落ち着かない様子で呟く。


「……刀真くん。先ほどから、日本語の語尾が迷子になっているようだが。どうかしたのかい?」


 理人が、冷静にお湯をすくいながら尋ねた。


「……いや。……その。……お前ら」


 刀真が、お湯から顔半分を出し、ボソリと言葉を漏らした。


 いつもなら「飯だ!」「鍛錬だ!」と豪快に笑う男が、今は何故か、深淵の主を前にした時よりも緊張した面持ちで、自分自身の指先を見つめている。


「一ヶ月前のコンテスト……。

 蒼汰と乃亜さんが優勝して、おにぎりが名物になっただろ」


「ああ。最高の結果だったな」


 蒼汰が、少しだけ得意げに鼻を鳴らす。


「あの時、お前らがハイタッチして……楓菜にからかわれて真っ赤になってるのを見て。

 ……俺、思ったんだよ」


 刀真が、バシャリと音を立てて浴槽から立ち上がった。


 月明かりが、彼の広い肩と、そこに刻まれた数々の古傷を照らし出す。


 それは、日本から共に異世界へ来、死線を越えて大切な人を守り抜いてきた証だ。


「俺と萌音は、日本にいた頃からずっと一緒にいた。

 ……向こうでも、こっちに来てからも。

 アイツは、俺が『見習い』と馬鹿にされても、ずっと信じて隣にいてくれた」


 蒼汰と理人は、静かに耳を傾ける。


 刀真と萌音。


 二人の関係は、もはや「恋人」という枠を超え、魂の伴侶と呼べるほどに完成されている。


 蒼汰や理人、楓菜から見ても、二人が離れることなど想像すらできない、理想の姿だった。


「深淵で、萌音が狙われた時。……俺、死ぬ気で守った。

 あの時、俺は一生アイツの盾になろうって決めたんだ」


 刀真の拳が、お湯の中で硬く握られる。


「この豊穣も安定してきた。……俺の技術も、アイツの鑑定も、もう誰にも文句は言わせねえ。……だから」


 刀真が、真っ直ぐに蒼汰と理人を見据えた。


 その瞳には、かつてないほど真剣で、重厚な意志の炎が宿っていた。


「俺、萌音に……正式にプロポーズしようと思う」


 ――沈黙。


 浴場に、コポコポとお湯の湧き出る音だけが響く。


「……おう」


 蒼汰が、少しだけ震える声で答えた。


「ついに、か。刀真」


「……確率論から言えば、君たちの関係性はすでに『確定した未来』だ。

 いまさら儀式的な宣言をする必要はないと思っていたが。

 ……なるほど。この世界の倫理と、君自身のケジメというわけだね」


 理人が、少しだけ目を細めて口元を緩めた。


「お前らには、一番に伝えておきたかったんだ。

 ……日本にいた頃は、まだ学生だからとか、色々考えてたけどさ。

 ……この世界で、あんな目に遭って。

 ……今、こうして笑えてるのは、全部、アイツがいたからだ。

 だから、ちゃんと言葉にして、責任を取りたい」


 刀真の言葉は、重く、力強かった。


 それは単なる「好きだ」という告白ではない。


 この理不尽な異世界で、一人の女性の人生を背負い、死が分かつまで守り抜くという、究極の『覚醒』に近いものだった。


「……かっこいいじゃねえか、刀真」


 蒼汰が、ガシガシと自分の頭を掻いた。


「俺も、お前らに負けてらんねえなって……今、本気で思ったぜ」


 蒼汰の脳裏に、乃亜の笑顔が浮かぶ。


 一ヶ月前のハイタッチの感触。


 温泉での恥じらい。


 乃亜は自分をどう思っているだろうか。


 今の自分に、刀真のような「背負う覚悟」があるだろうか。


「……で。どうするんだ? 指輪とか、用意するのか?」


 蒼汰が尋ねると、刀真は再び湯船に沈み込み、少しだけ照れくさそうに言った。


「ああ。……店で売ってるような、誰が作ったかもわからねえ国宝級の宝石なんて、萌音には似合わねえ。……俺が打つ。

 俺が世界で一番硬い、絶対に壊れねえ指輪をアイツに贈るんだ」


「流石は鍛冶師だね」


 理人が頷く。


「……だが、素材はどうする? 王宮の宝物庫にあるミスリルなど、君の技術を注ぎ込むには不純物が多すぎるだろう」


「だから、だ。……蒼汰。理人。……お前らに、頼みがある」


 刀真が、不器用に、しかし深く頭を下げた。


「萌音に内緒で、手伝ってほしい。

 ……森の中層、いや、深淵の縁にしかいないと言われてる、伝説の『宝石獣』の素材が最高にいいらしいんだ。

 ……それがあれば、俺は萌音にふさわしい、最高の指輪が作れる」


 蒼汰は、力強く拳を突き出した。


「当たり前だろ。親友のプロポーズだ。

 ドラゴンでも魔王でも、なんでも狩ってきてやるよ!」


「……僕も協力しよう。不純物の除去と、結晶化の安定化には化学的なアプローチが必要だ。

 ……何より、この街の幸福指数の向上のためにも、このプロジェクトは完遂させなければならない」


 理人も、不器用ながらも承諾の言葉を添える。


「……ありがてえ。本当に、ありがてえ」


 刀真の目元が、少しだけ潤んだように見えたのは、きっと温泉の湯気のせいだけではないだろう。


 ハズレ職として捨てられ、絶望を分かち合ってきた仲間。


 その仲間たちが、今、自分たちの幸せを掴むために再び手を取り合う。


 裸の付き合い。


 十九歳の男たちが、お湯の中で交わした約束。


 それは、どんな軍事同盟よりも堅固で、どんな金貨よりも価値のある、本物の『絆』の証だった。


「よっしゃ……! 明日から、極秘任務の開始だな!」


 蒼汰が、浴槽の淵を叩いて叫ぶ。


「しっ! 声がデカいよ、蒼汰。萌音ちゃんや楓菜に聞こえたら、サプライズが台無しだ」


 理人が窘めるが、その顔もどこか楽しそうだった。


 豊穣の街を包む夜は、どこまでも深く、優しい。


 英雄たちの日常は、戦いだけではない。


 大切な人のために、自らの命と技術を捧げる。


 その想いこそが、彼らをさらに強く、高みへと押し上げていく。


 翌朝。


 蒼汰、刀真、理人の三人は、何食わぬ顔で乃亜の作る朝食を囲んでいた。


 だが、その瞳の奥には、女たちには内緒の、熱い秘密の炎が灯っていた。


(待ってろよ、萌音。……刀真が、最高の一撃を食らわせてくれるからな)


 蒼汰は、乃亜がよそってくれた山盛りのご飯を頬張りながら、密かに自分自身の『次の一歩』についても、決意を固めていた。


 友情と愛情、そして職人の魂が交差する。


 『宝石獣』を求める、男三人の隠密行が、今ここから始まった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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