鑑定の儀 選ばれし者と、落ちる花
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重苦しい夜が明け、朝食を済ませた蒼汰たちは、王宮の地下深くにある『神具の間』へと案内されていた。
ひんやりとした空気が漂う石造りの広間。
その中央の祭壇には、大人が両手を回しても抱えきれないほどの巨大な透明の水晶が鎮座していた。
「皆様、どうかリラックスなさってください。
あの神聖なる水晶に触れれば、皆様に眠る『ジョブ』が空間に投影されます」
宰相が恭しく説明するが、クラスメイトたちの顔には緊張と、それを上回る強烈な期待が入り混じっていた。
「じゃあ、まずは私から行くね!」
静寂を破って真っ先に名乗り出たのは、西園寺美海だった。
彼女は自信たっぷりに進み出ると、細い両手を水晶に押し当てた。
――カッ!!
水晶が強烈な白い光を放ち、空中に黄金色の文字が浮かび上がる。
【西園寺 美海:ジョブ『聖女』】
「おおおっ……! いきなり回復の最上位職、聖女様が現れるとは!」
「やったぁ! 私、聖女だって! ねえ勇輝くぅん、見た!?」
王族や騎士たちがどよめき、美海は得意絶頂の笑顔で神宮寺に手を振る。
クラスの女子たちからも「美海ちゃんすごーい!」「さすがモデル!」と的外れな歓声が上がった。
「素晴らしいスタートです。さあ、次の方」
その後、何人かのクラスメイトが順に水晶に触れていく。
『戦士』『剣士』『魔道士』――次々と飛び出す戦闘職に、王宮側は満足げに頷いていた。
「次、遠山様、北条様」
「……行くぞ、萌音」
「うん」
呼ばれて前に出たのは、遠山刀真と北条萌音の二人だった。遠山は無口だが手先の器用な男で、北条とは付き合っていたはずだ。
二人が水晶に触れると、先ほどまでの派手な光はなく、ぼんやりとした淡い光が灯った。
【遠山 刀真:ジョブ『見習い細工師』】
【北条 萌音:ジョブ『見習い商人』】
それを見た瞬間、宰相が「チッ」とあからさまな舌打ちをした。
「……なんだ、生産職か。後方の工房にでも放り込んでおけ」
先ほどまでの熱狂が嘘のように、王宮の連中は氷のような目を二人に向けた。
クラスメイトたちも「ハズレじゃん」「裏方おつー」とクスクス笑っている。
だが、蒼汰は見逃さなかった。
遠山と北条が水晶から手を離す瞬間、ほんのわずかに、安堵したような『アイコンタクト』を交わしたのを。
(……あいつら、もしかしてステータスについて何か気が付いたのか?)
蒼汰が疑念を抱く間もなく、儀式はついに『真打ちグループ』の順番を迎えた。
「――ふむ。俺の番だな」
山城翔也が余裕の笑みで水晶に触れる。
青白い知的な光が弾けた。
【山城 翔也:ジョブ『司令塔』】
「おお! 軍全体を強化し操る、万に一人の指揮官職!」
「当然だ。俺の計算能力なら、戦場などチェス盤も同然だからな」
続いて、一文字雫が進み出て【ジョブ『賢者』】を引き当て、王宮がどよめく。
そして。
満を持して、神宮寺勇輝が自信に満ちた足取りで祭壇へと歩み寄った。
彼が水晶に両手を触れた、その瞬間だった。
――ドォォォォンッ!!
爆発音のような地鳴りと共に、地下室の天井を突き破らんばかりの極太の光の柱が立ち昇った。
広間全体が真昼の太陽のように白く染まり、強烈な魔力の波動が吹き荒れる。
【神宮寺 勇輝:ジョブ『勇者』】
「勇者だ! 真なる勇者が現れたぞおおおッ!!」
バルカエス王が玉座から身を乗り出し、狂喜の叫びを上げた。
クレア姫に至っては、頬を薔薇色に染め、恍惚とした表情で両手を胸の前で組み合わせていた。
「ああ……なんて美しく、力強い光……。
神宮寺様、あなたこそが我々を救ってくださる本物の英雄ですわ……!」
その顔は、強力な『兵器』を引き当てた支配者の、歪んだ歓喜に満ちていた。
クラスメイトたちも「勇輝最強!」「俺たち無敵じゃん!」「魔王軍なんてワンパンだぜ!」とお祭り騒ぎだ。
「……異常な発光現象だ。
あんなエネルギー質量を人体に内包するなど、熱力学の法則を完全に無視している。
間違いなく、彼らの脳や精神構造に何らかの不可逆的な影響が出るはずだ」
理人が眩しさに目を細めながら、ひどく冷めた声で分析を呟く。
「……現実でも異世界でも、あいつが主人公ってわけか」
蒼汰は、神宮寺の周りに群がるクラスメイトたちを見つめながら、圧倒的な『住む世界の違い』を見せつけられたような虚無感を抱いていた。
「俺に任せてください! この力で、必ず世界を救ってみせます!」
神宮寺が拳を突き上げると、割れんばかりの拍手が起こる。
まさに『選ばれし者』の独壇場。
王宮は、これ以上ないほどの最高の空気に包まれていた。
「――では次。冨永様、お願いいたします」
歓声が続く中、促された冨永乃亜がビクッと肩を揺らした。
神宮寺の『圧倒的な正解』が出た直後のプレッシャーは計り知れない。
彼女は不安そうに蒼汰を一度だけ振り返ると、小さく深呼吸をして祭壇へ向かった。
(大丈夫だ。冨永さんなら、きっと……)
蒼汰も息を呑んで見守る中、乃亜が震える両手を水晶に押し当てた。
――しかし。
光は、弾けなかった。
代わりに、泥水が混ざったような淀んだ鈍い光が、水晶の中で力なく蠢く。
「……え?」
乃亜の口から、戸惑いの声が漏れる。
空中に、かすれた文字が浮かび上がった。
【冨永 乃亜:ジョブ『清掃婦』】
ピタリ、と。
あれほど熱狂に包まれていた王宮の広間が、水を打ったように静まり返った。
「せい、そう、ふ……?」
乃亜が、震える声でその文字を読み上げる。
回復魔法も、攻撃魔法も使えない。
ただゴミを拾い、床を拭くためだけの、王宮の最下層の職業。
それが、彼女に下された絶対的な『鑑定結果』だった。
「あははははっ! ちょっと待って、嘘でしょ!?」
静寂を破って、甲高い笑い声が響いた。西園寺美海だった。
彼女は腹を抱え、指を差して乃亜を嘲笑った。
「清掃婦って! ただの掃除係じゃん! やっば、超ウケるんだけど!
高嶺の花だった乃亜ちゃんが、異世界じゃ便所掃除担当だってさ!」
「ねえ美海、言い過ぎよ」
と口では言いながら、周囲の女子たちも必死に笑いを堪えている。
「笑い事ではないぞ、西園寺」
山城が、冷酷な目で眼鏡を押し上げた。
「非戦闘職どころか、生産性すら皆無だ。
……ハッキリ言わせてもらうが、冨永。
お前はただの足手まといだ。
軍の限られたリソースを、無能に割く余裕などないはずだ」
山城の無慈悲な宣告に、乃亜の顔から急速に血の気が引いていく。
彼女はすがるような目で、輪の中心にいる神宮寺を見た。
中学時代から、困った時はいつも助けてくれたクラスのリーダー。
彼なら、きっと庇ってくれる。
「神宮寺、くん……」
だが。
神宮寺は、乃亜の視線から逃げるようにスッと目を逸らした。
「……わりぃ、乃亜。俺たちはこれから、命がけで戦うんだ。
戦う力がない奴を、最前線で庇いながら戦うなんて……俺には、背負いきれない」
それは、実質的な『見捨て』の宣言だった。
傷つきたくない神宮寺は、苦渋の決断を下すリーダーを気取りながら、内心では無価値な彼女をあっさりと切り捨てたのだ。
「そんな……私……だって、私……っ」
信じていた者たちからの嘲笑と裏切り。
あまりの絶望に、乃亜はその場に力なく膝から崩れ落ちた。
床に手をつき、ポロポロと涙をこぼす彼女を見下ろす王族やクラスメイトたちの目は、道端のゴミを見るかのように冷え切っていた。
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