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豊穣・名物料理コンテストの開催!

いつも応援ありがとうございます。

新エピソード「豊穣・名物料理コンテスト編」に突入します。

前回、温泉での思わぬハプニングにより、乃亜を「一人の女性」として決定的に意識してしまった蒼汰。一方の乃亜も、母性バリアにわずかな亀裂が……?

そんなギクシャクした空気の中、街の威信をかけた一大イベントが幕を開けます。

英雄としての武力ではなく、今度は「味」と「情熱」の真剣勝負。

個性豊かな三組のペアが、どんな一品を練り上げるのか。

修行から二年、さらに深まった仲間たちの絆と、少しずつ変化していく恋の行方をどうぞお楽しみください!

 開拓都市『豊穣』の朝は、活気ある鐘の音と共に幕を開ける。


 二年前、深い森に囲まれた絶望の地だったこの場所は、今や石畳の街道が整備され、数千人の住民が笑い合う王国随一の活気あふれる街へと進化を遂げていた。


 その中央広場に、今朝はひときわ巨大な特設ステージと、いくつもの調理台が設営されている。


「……皆、集まってくれたか!」


 ステージの上に立ち、凛とした声で群衆に呼びかけたのは、この街の最高責任者・ルークだ。


 その隣には、視察を兼ねて王都から訪れている彼の父、辺境伯が威厳を漂わせながら座っている。


「我が街『豊穣』は、皆の努力により、わずか二年でこれほどの発展を遂げた。

 だが、我々は満足してはいない。この街を王国で唯一無二の場所にしたい。

 そのために必要なのは……そう、誰もがこの街を訪れたくなる『名物』だ!」


 おおおっ!! という地鳴りのような歓声が上がる。


 ルークはニヤリと不敵に笑い、力強く宣言した。


「本日、ここに『豊穣・名物料理コンテスト』を開催する! 

 優勝した一品は、この街の公式名物として認定し、街道沿いの全ての食堂で看板メニューとする!

 審査員は、この私ルークと、我が父・辺境伯。そして、住民代表の子供たちだ!」


 ステージの脇には、審査員席に座る厳格な面持ちの辺境伯、そして期待に目を輝かせるハナとタイキの兄弟の姿があった。


 このコンテストを発案したのは、他でもない蒼汰たち六人だ。


 街の経済をさらに回し、住民たちの帰属意識を高めるための「遊び」を含めた戦略だった。


 だが、言い出しっぺの彼ら自身も、この勝負に本気で挑もうとしていた。


「……さて、蒼汰。気合は入っているか?」


 ステージの下、調理エリアで準備をしていた蒼汰に、ルークが声をかける。


 だが、当の蒼汰は――。


「……あ、ああ。おう、もちろんだ。

 気合は……その、十二分に入ってる、ぜ」


 いつもの覇気はどこへやら。蒼汰は乃亜と目が合うたびに、茹でダコのように顔を赤くし、視線を泳がせていた。


 脳裏に焼き付いて離れないのは、昨夜、月明かりの下で見た乃亜の……白く、柔らかな「大人の女性」のシルエットだ。


(……くそっ、思い出すな。今は料理に集中しなきゃならねえのに……!)


 蒼汰は必死に木ベラを握りしめるが、その手は微かに震えている。


 一方、乃亜もまた、いつもの「聖母」のような落ち着きが影を潜めていた。


 蒼汰の隣で食材を並べながら、頬をほんのりと朱に染め、どこか落ち着かない様子でエプロンの裾を整えている。


「蒼汰くん、あの……今日は、頑張りましょうね?」


「お、おう! まかせとけ! 俺の筋力で、どんな硬い肉でもミンチにしてやるからな!」


「うふふ、そんなに力まなくても大丈夫よ。

 ……でも、あまり私のこと、じっと見ないでね? 

 ……恥ずかしいから」


 乃亜が上目遣いで、昨夜のハプニングを暗に想起させる言葉をこぼす。


「――ッ!!」


 蒼汰の体温が一気に沸騰した。


 もはや『赫炎』を発動しているのと変わらない熱量が全身を駆け巡る。


「ヒュー! 朝から熱いねぇ、蒼汰!」


 屋根の上からひらりと舞い降りてきた楓菜が、意地悪な笑みを浮かべて蒼汰の背中を叩いた。


「……楓菜! お前、茶化すんじゃねえよ!」


「はいはい、アシスト同盟のリーダーとしては、このギクシャク感も『進展』として歓迎するけどさ。

 今はコンテストに集中しなよ? 私たちは容赦しないからね」


 楓菜の隣には、白衣を脱ぎ捨てて機能的な調理着に身を包んだ理人が、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせて立っていた。


「楓菜の言う通りだ。僕たちは『完璧な数値』によって導き出された至高の一品を披露する。友情と勝負は別だよ、蒼汰」


 そして、その向こう側。


 日本時代からの安定した絆を持つ刀真と萌音のペアは、すでに熟練の夫婦のような、迷いのない手つきで巨大な魔力コンロの火を調整していた。


「萌音、火加減はこれでいいか?」


「うん、完璧。深淵雷鳴鉱の熱伝導率から計算して、肉の芯温度が63度に達するまであと4分。

 最高のタイミングで出せるよ」


「よっしゃ。俺は肉の繊維を叩き切っておくぜ」


 刀真が巨大な包丁を振るい、萌音がその横で冷静にタイムキーパーを務める。


 この三組のペア、および一般参加の住民たちが、これから『豊穣』の頂点を競い合うことになる。


 ◇


 調理開始の合図まで、あと三十分。


 各調理台では、何を作るかの最終確認が行われていた。


「さて、楓菜。僕たちの『戦略』を再確認しておこう」


 理人が、机の上に広げた複雑な数式と成分表を指差した。


「今回、審査員には辺境伯という『食通の貴族』と、ハナたちのような『正直な子供』が含まれている。

 この両方の舌を同時に満足させるには、栄養学的にも味覚的にも『完璧な黄金比』が必要だ」


「理人らしいね。で、結局何にするの?」


 楓菜が小首を傾げる。


「日本における、最も合理的かつ究極のどんぶり料理……『親子丼』だ。

 ただし、使うのは中層で採取した極上の火喰い鳥の肉と、その卵。理詰めで温度管理された半熟の卵が、絶妙な旨味成分を引き出す。

 名付けて『化学式・黄金比親子丼』だ」


「おー! なんか凄そう! 私も全力で具材を切るからね!」


 一方、刀真と萌音のエリアでは、開幕の合図を待たずして、豪快に肉を切り分け始めていた。


「俺たちが作るのは、理屈じゃねえ。腹を空かせた開拓者たちの魂を震わせるメシだ!」


 刀真が、魔物肉の巨大な塊を高く掲げる。


「萌音と相談して決めたんだ。名付けて『爆炎の厚切り焼肉・深淵ソースがけ』!

 深淵の香草を理人に分析してもらって作った、スタミナ抜群の特製ダレをぶっかける。

 萌音の鑑定で、一番美味い肉の部位を選別済みだ。これを食って元気が出ない奴はいねえ!」


「ふふっ、刀真くんの腕力なら、どんなに分厚い肉でも柔らかく焼き上げられるからね。

 楽しみにしてて、みんな」


 萌音が、信頼しきった瞳で刀真を見つめる。


 そして、蒼汰と乃亜の台。


 二人は、自分たちの原点を見つめ直していた。


「……乃亜。俺たちのメニュー、あれでいいよな?」


「ええ、もちろん。色々と考えたけれど……やっぱり私たちが一番最初に出会った時の、あの味が一番だって思ったの」


 蒼汰が深く頷く。


 あの日、王都を追放され、奈落の森で死にかけていた蒼汰を救ったのは、乃亜が泣きながら作ってくれたおにぎりだった。


「今回の主役は、あの日俺たちを襲った『凶暴熊猪マーダー・ボアグリズ』だ」


 蒼汰が、丁寧に下処理された熊猪の肉を見つめる。


「あいつの肉を甘辛く煮込んで、そぼろにする。それを乃亜の『浄化』で磨き上げた銀シャリの中に閉じ込めて、おにぎりにするんだ。

 ……あの日の絶望を、今日、最高の幸せに塗り替える」


 乃亜が、優しく微笑んだ。


「うん。あの時は、お塩しか味付けがなかったけれど……今は理人くんが作ってくれた調味料も、刀真くんが作ってくれたお鍋もある。

 ……今の私たちの集大成を、おにぎりに詰め込みましょう」


 蒼汰は乃亜の笑顔を見て、心臓が跳ねるのを感じた。


 温泉のハプニングによる気まずさは、まだ消えていない。


 だが、料理を通じて重なる二人の想いは、二年前よりもずっと強く、確かなものになっていた。


(乃亜……お前と一緒に、絶対に優勝してやる)


 蒼汰は拳を固め、静かに闘志を燃やす。


 背後では、ハナとタイキが「お兄ちゃんたち、頑張れー!」と無邪気に声援を送っている。


 辺境伯も、蒼汰たちの様子を興味深げに観察していた。


「……全組、準備はいいな!」


 ルークが、空中に光り輝く合図弾を放った。


「料理コンテスト、開始ッ!!」


 ドォォォォンッ!!


 という轟音と共に、豊穣の街を揺るがす料理バトルが、ついに幕を開けた。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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