表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/75

新章開幕 あれから二年。最強の経済都市への飛躍

第4章、開幕です。

奈落の森・深淵を制覇したあの日から、二年の時が経ちました。

捨てられたハズレ職たちが作り上げた、理想の街。

その圧倒的な繁栄と、再始動する彼らの物語をお届けします。

ぜひ、最後までお付き合いいただければ幸いです。

 奈落の森の深淵を制覇し、伝説の爆炎竜エクスプロード・ドレイクを喰らったあの日から、二年の月日が流れた。


 かつて辺境の「捨てられた村」でしかなかった開拓都市『豊穣』は、今や王国全土から注目を集める活気に満ちていた。


 二年前はわずか数百人だった人口は、今や数千人規模へと鰻登りに増加。


 刀真の鍛冶技術と、深淵の雷鳴鉱を組み合わせて作られた巨大な『魔力炉』が街の心臓部として稼働し、夜になれば温かな魔導の光が街中を照らし出す。


 その豊かさと発展のスピードは、王国のどの地方都市をも凌駕する勢いだった。


「……ふぅ。今日もいい朝だな」


 防壁の上。


 街を一望できる特等席で、一人の青年が大きく伸びをした。


 多目蒼汰。十九歳。


 二年前の少年らしい面影は完全に消え去り、爆炎竜の肉を血肉に変え続けた身体は、岩のように分厚い胸板と、しなやかで強靭な四肢を備えた「本物の戦士」のものへと成長していた。


 腰に差した『赫炎・魔竜刀』は、鞘に収まっていてもなお、周囲の空気を微かに揺らすほどの熱量を放っている。


「あ、蒼汰くん! やっぱりここにいた」


 軽やかな鈴の音のような声。


 振り返った蒼汰の視線の先には、純白の巫女装束を現代的にアレンジしたような、気品ある衣装を纏った乃亜が立っていた。


 十九歳になった乃亜は、かつての「泣き虫で優しい女の子」から、大人の女性としての艶やかさと圧倒的な包容力を備えた美女へと成長していた。


 結い上げた髪の間から覗くうなじは白く、その慈愛に満ちた瞳は、今やこの街に住む数千人の住民にとって、本物の「女神」として崇められている。


「乃亜か。朝から精が出るな」


「うふふ、だってもうすぐ市場が開くもの。

 今日はお土産用の『魔物肉のそぼろ』の仕込みがあるから忙しくなるわよ。

 はい、これ。蒼汰くんの朝ごはん」


 乃亜から手渡されたのは、彼女の代名詞とも言える『銀シャリのおにぎり』だ。


 中身は森の中層で狩った魔物肉を贅沢に使い、理人が調合した特製スパイスで煮込んだ究極の逸品。


 蒼汰が大きく頬張ると、口の中いっぱいに強烈な旨味と、身体の芯から湧き上がるような熱い魔力が爆発した。


「……んんっ! 相変わらず最高だ。これ食うと、他の飯が食えなくなるぜ」


「よかった。さあ、行こう? みんな広場に集まってるわよ。今日も入国希望者の列がすごいんだから」


 二人は肩を並べて、活気あふれる街へと降りていった。


 ◇


 中央広場には、すでにすさまじい熱気と喧騒が渦巻いていた。


 王国の圧政や重税から逃れてきた難民、一攫千金を狙う商人、そして「ハズレ職」として居場所を失った若者たち。


 彼らが毎日のように、この豊穣の街へと押し寄せている。


 その入国審査の最前線に、一人の小柄な女性が凛として立っていた。


 北条萌音である。


「……はい、次の方。ええと、あなたは王都のギルドで『ただの草むしり』と判定されて追い出されたんですね?」


「はい……。魔物と戦う力もなく、農作業でもすぐにバテてしまう役立たずだと……」


 みすぼらしい身なりの青年が、肩を落として答える。


 萌音は手慣れた様子でホログラムウィンドウを展開し、彼をジッと見つめた。


「ふふっ、王宮のシステム(UI)って本当にポンコツなんだから。

 ……お兄さん、あなたの隠しスキルは『土壌改質・極』ですよ。

クワなんて振らなくても、魔力を少し流すだけで荒れ地を最高の畑に変えられる超レアスキルです。

 西地区の農業開発チームのリーダーをやってください!」


「えっ……鑑定……!? ほ、本当ですか!? 私がリーダーに!?」


 青年が、信じられないものを見たという顔で、ボロボロと涙を流して頭を下げた。


 この王国において「鑑定」という儀式は、高位の貴族や王宮の神官に莫大な金貨を積まなければ受けられない、超高級な特権だ。

 庶民は自分の本当の才能も知らず、初期に表示されたジョブ名だけで「ハズレ」と呼ばれ、一生を終える者が大半なのだ。


 だが、萌音の『管理者権限マネージャー』というジョブは、その鑑定を「無料」で、かつ王宮よりも遥かに正確にこなしてみせる。


 彼女の鑑定によって、埋もれていた才能が次々と発掘され、適材適所に配置されていく。


 それが、この街が数千人規模の都市へと爆発的な発展を遂げた最大の原動力だった。


「おーい、萌音! そろそろ休憩にしろ。

 あまり根を詰めると倒れるぞ」


 そこへ、巨大なハンマーを腰に差した刀真が、温かい飲み物の入った水筒を持ってやってきた。


「あ、刀真。ありがとう! 

 でも大丈夫だよ、みんなすごくいい顔で喜んでくれるから」


 萌音が、刀真の手から水筒を受け取る。


「馬鹿。お前が倒れたら俺が一番困るんだよ。……ほら、少し座れ」


 刀真がぶっきらぼうに、だが極めて自然な動作で萌音の隣に座り、彼女の肩に手を置く。


 日本にいた頃から付き合っている二人。


 深淵での死闘を乗り越えたことで、その絆はもはや説明の必要すらなくなっていた。


 二人が隣にいる風景は、この街の住民にとっても一つの「安心」の象徴となっている。


「感情的な充実も重要だが、刀真くんの言う通り技術的な休息は必要だよ。

 人が急激に増えれば、それだけ衛生管理やインフラへの負荷も大きくなるからね」


 冷静な口調で割り込んだのは、白衣を颯爽と翻した理人だ。


 十九歳になった彼は背も大きく伸び、知的な顔立ちには鋭い凄みが備わっていた。


 理人はこの二年で、街の上下水道の整備や、魔力を用いた高度な衛生管理システムを構築し、数千人の人口を抱えながらも病気の蔓延を完璧に防いでいる。


「理人は相変わらず細かいんだから。

 ……あ、蒼汰! 街道のパトロール、異常なしだよ!」


 屋根の上から音もなく舞い降りてきたのは、楓菜だ。


 成長した彼女は、少女のようなあどけなさを残しつつも、そのプロポーションは美しく洗練され、身のこなしはもはや風そのもの。


 深淵で覚えた『瞬歩』はさらに磨きがかかり、街道の安全は彼女一人の監視下にあると言っても過言ではなかった。


「お疲れ、楓菜。これで全員揃ったな」


 蒼汰が仲間たちの顔を見渡す。


 ハズレ職、無能。


 そう呼ばれて王都から捨てられた六人。


 だが今、彼らの前にあるのは、自分たちの手で作り上げた活気あふれる巨大な街だ。


 そこへ、街の最高責任者である辺境伯の長男・ルークと、ゲン村長がやってきた。


「蒼汰、諸君。おはよう」


 ルークは今や、父である辺境伯からこの領地の全権を委任されていた。


 蒼汰と決闘したあの頃の尖った雰囲気は消え、真に領民を愛する名君の風格が漂っている。


「ルーク。新規の受け入れ、街のキャパはまだ大丈夫か?」


「ああ、問題ない。理人くんの都市計画と、刀真くんの新型魔力炉のおかげで、居住区はまだまだ拡張できる。

 ……それにしても、君たちの力には本当に驚かされるよ。

 このペースで発展すれば、いずれ王都の経済力すら上回るだろう」


 ルークが誇らしげに笑う。


 彼らがやろうとしているのは、武力による侵略ではない。


 圧倒的な技術、圧倒的な美食、そして圧倒的な幸福度によって、自らを捨てた王国そのものを「過去の遺物」へと追い込む、静かなる反逆だった。



 ◇



 一方その頃。


 王都近郊、王国が管理する最上位ダンジョン『黄金の回廊』の最深部。


 そこには、地響きのような咆哮と、目も眩むような聖なる光が渦巻いていた。


「……はああああっ!!」


 神宮寺勇輝が、眩い光を放つ聖剣『エクスカリバー・レプリカ』を振り下ろす。


 一閃。


 王国の守護獣ですら恐れる伝説の魔物、『白銀の古竜ハイ・シルバー・ドラゴン』の巨体が、断末魔の叫びと共に真っ二つに裂け、光の塵となって霧散した。


 神宮寺の視界に、煌びやかなUIユーザーインターフェースが浮かび上がる。


『経験値を獲得しました。神宮寺勇輝のレベルが上昇します』


『レベル:64 → 65』


『称号:【人類最強の守護者】に進化しました』


「……ふぅ。ようやく、ここまで来たか」


 神宮寺は聖剣を無造作に地面に突き立て、汗を拭う。


 その顔には、隠しきれない全能の笑みが浮かんでいた。


「凄いよ、勇輝くん! 鑑定で見たら、あのドラゴンのレベル、65だったよ!?」


 西園寺美海さいおんじみみが、弾むような足取りで駆け寄り、神宮寺の腕に自身のそれを絡めた。


「それを一人で倒しちゃうなんて……もう、勇輝くんは本当にこの世界の神様みたい!」


「はは、大袈裟だよ、美海。でも……レベル65か。

 王国の建国史を見ても、この若さでこの領域に達した奴はいない。

 ……今の俺にかなう奴なんて、もうこの大陸のどこにもいないだろうな」


 神宮寺の言葉に、勇者パーティーのメンバーから歓声が上がる。


「本当よね! 神宮寺くんがいれば、魔王軍だって怖くないわ!」


「それに比べて、あの時に追放された多目くんたちはどうしてるかしら? 

 今頃、レベル5くらいでうろちょろしてるんじゃない?」


 美海たちの下卑た笑い声が、ダンジョンの最深部に響く。


「……神宮寺、あまり浮かれすぎるな。レベルの優位性を保つためには、次の作戦行動も合理的である必要がある」


 パーティーの『司令塔』を務める山城翔也が、空中に展開した戦術マップを操作しながら、冷徹な口調で割り込んだ。


 彼自身のレベルも60の大台に乗っており、その知略とステータスの組み合わせは、王国の軍師たちを戦慄させる域に達している。


「山城、お前は相変わらず硬いな。

 ……だが、お前の指揮と、レベル65に達した俺の力があれば、もはや不可能なことなど何もないのは事実だ」


「それは否定しない。……報告によれば、辺境の『豊穣』とかいう村に難民が集まり、勝手な商売を始めているらしい。

 王国の法を無視して私腹を肥やしている不届きな『ハズレ職』の集まりだそうだ」


 神宮寺は鼻で笑った。


「ハズレ職か。レベル20にも満たないゴミをいくら集めたところで、俺たちレベル60オーバーのパーティーには指一本触れられないさ。

 ……もし、多目たちがまだそこで生き恥をさらしているなら、ついでに引導を渡してやるのも、かつての級友としての情けかもしれないな」


「神宮寺くん、優しい! あんな無能たち、勇輝くんの顔を見ただけで失神しちゃうかもね!」


 西園寺たちの軽薄な笑い声に包まれながら、神宮寺は絶対的な優越感と共に、出口へと歩き出した。


 彼らは信じて疑わなかった。


 画面に表示された「レベル65」という数字こそが、この世界の絶対的な真理であり、正義であることを。


 その慢心が、奈落の深淵を喰らい、システムの枠組みを物理的に食い破った「本物の怪物」の逆鱗に触れることになるとは、夢にも思わずに。


 ◇


「……さて、蒼汰くん。今日のパトロールが終わったら、例の『新メニュー』の試食をお願いね」


 豊穣の街角。


 乃亜が、いたずらっぽく微笑みながら蒼汰の腕を引いた。


「新メニュー? また美味そうな響きだな」


「ええ。深淵の食材と、最近入ってきた移民の人たちが教えてくれた特産品を合わせた、この街の自慢になる料理よ。蒼汰くんに一番に食べてほしくて」


 蒼汰は、腰の『赫炎・魔竜刀』を軽く叩き、力強く頷いた。


「ああ。腹一杯食って、明日もこの街を守る。……それが俺たちのやり方だ」


 朝の活気は最高潮に達し、数千人の住民たちの笑顔が広場に溢れる。


 かつて奈落に落とされた六人の英雄は、今、歴史を塗り替えるための静かなる、しかし力強い一歩を踏み出した。


 反逆の狼煙は、もう、誰にも消すことはできない。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


ブックマーク登録も、執筆の励みになります。 よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ