幕間1 至高の鍛造と、ドラゴンの祝宴
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深淵の主、爆炎竜との死闘を終え、開拓都市『豊穣』に帰還した蒼汰たちを待っていたのは、安らぎではなく、興奮と熱狂の渦だった。
村の西端にある、新設されたばかりの巨大な鍛冶工房。
そこからは、昼夜を問わず、地響きのような槌音が響き続けていた。
「……火力が足りねえ! 蒼汰、もっとだ! もっと熱量をぶち込めッ!!」
上半身裸になり、滝のような汗を流しながら叫ぶのは刀真だ。
彼の前にある特注の炉には、深紅に輝く爆炎竜の鱗と、太い骨が放り込まれている。
しかし、通常の炭火では、奈落の主の素材を融かすことすら叶わない。
「わかってらぁ!! 『赫炎』……出力最大だ!!」
蒼汰が右手を炉に翳すと、白銀の炎が噴き出した。
竜の肉を喰らい、熱量上限が跳ね上がった今の蒼汰が放つ『赫炎』は、鋼をも一瞬で蒸発させるほどの超高温を宿している。
キンッ!! ガギィィィィンッ!!
白光する炉の中から取り出されたのは、蒼汰の愛刀、魔骨鋼の刀だ。
刀真は、その刀身に竜の鱗を粉砕した粉末と、骨から抽出した純粋な魔力液を幾層にも重ね、叩き込んでいく。
「……視える、視えるぜ!
この素材、俺の槌を受け入れるどころか、もっと叩けと喚いてやがる。
なんて強欲な素材だ!!」
刀真の瞳には、狂気にも似た鍛冶師の情熱が宿っていた。
かつて王宮で「ハズレ職」と嘲笑われた細工師の腕が、今、伝説の素材と出会ったことで真の覚醒を遂げていた。
そして、三日三晩にわたる不眠不休の鍛造の末。
工房の中に、一筋の清冽な、そして圧倒的な威圧感を放つ光が奔った。
「……完成だ。蒼汰、受け取れ」
刀真から手渡されたその刀は、もはや以前の「魔骨鋼」とは別次元の存在へと変貌していた。
刀身は深い紅を帯び、その表面には爆炎竜の鱗を思わせる繊細な紋様が浮かんでいる。
柄を握った瞬間、蒼汰の体内のカロリーが刀と共鳴し、呼応するように白銀の火花が散った。
「これが……俺の、新しい刀……」
「ああ。爆炎竜の魂を封じ込めた反逆の刃――『赫炎・魔竜刀』だ。今の俺の全霊を込めた」
蒼汰が軽く振るうだけで、大気が熱を帯びて震える。
それは、ただの武器ではない。蒼汰の命そのものを熱量へと変換する、最強の触媒だ。
「それから、こっちは俺の相棒だ」
刀真が自慢げに掲げたのは、巨大な戦鎚。
竜の頭骨をそのままヘッドに加工し、鱗で補強されたその槌は、振るうたびに爆発的な衝撃波を周囲に撒き散らす。
『爆炎の戦鎚』。
一撃で城壁をも粉砕する、破壊の権化のような一品だった。
「最高の気分だぜ、刀真。
……さて、俺たちが武器を作ってる間、村の方はとんでもないことになってるみたいだぞ」
蒼汰が工房の窓から外を指差すと、刀真もつられて視線を向け、驚愕に目を見開いた。
◇
村の中央広場。
そこでは、かつてない規模の「祝宴」が繰り広げられていた。
広場の中央には十数個の巨大な鍋が並び、そこから立ち上る香りは、もはや犯罪的なレベルで村人たちの食欲を暴走させていた。
「はい、お肉が焼けたわよ! どんどん食べて!」
乃亜の声が響く。
彼女は、村の女性たちを総動員して、爆炎竜の解体された肉を調理していた。
ステーキ、シチュー、串焼き、そして巨大な塊肉の丸焼き。
「乃亜さん、このお肉……食べた瞬間、体が熱くなって、力がみなぎってくるんです!」
給仕を手伝っていた自警団の若者が、興奮気味に叫ぶ。
「ふふ、そうでしょう?
これは理人くんが抽出した薬草の成分と、爆炎竜の魔力を私が『浄化』で整えて、一番美味しく吸収できるように調理したんだから!」
それは、単なる祝宴の料理ではなかった。
乃亜の『調理』と理人の『化学』、そして爆炎竜の持つ強大な生命エネルギーが融合した、「超高密度栄養食」の配給だった。
「ルーク様、ご覧ください。村人たちの顔つきが……」
ゲン村長が、震える声でルークに告げた。
宴に参加している村人たちは皆、顔を上気させ、その瞳には活力の光が満ち溢れている。
病気がちだった老人は背筋を伸ばして笑い、非力だった若者たちは、丸太を軽々と持ち上げて宴の準備を手伝っている。
中には、爆炎竜の肉に含まれる強大な魔力に当てられ、その場でジョブが進化したり、新しいスキルに目覚めたりする者まで現れ始めていた。
「信じられん……。ただの食事で、これほどまでに人が変わるものか」
ルーク自身、乃亜から手渡されたステーキを一噛みし、その衝撃に目を見開いた。
舌の上で爆発する旨味。
そして、腹の底から湧き上がってくる、抑えきれないほどの全能感。
「蒼汰たちが持ってきたのは、ただの素材じゃない。
……この村そのものを、根底から変えてしまう『力』だ」
ルークは確信した。
この開拓都市『豊穣』は、もはや辺境の開拓地ではない。
伝説の竜を喰らい、最強の武具を打ち鳴らす――真の「英雄の拠点」へと覚醒したのだ。
◇
夜が更けても、宴の喧騒は収まらなかった。
広場のあちこちで焚き火が焚かれ、人々は歌い、踊り、自分たちが手に入れた「強さ」を祝っていた。
完成したばかりの刀を腰に差した蒼汰と、戦鎚を背負った刀真が、広場の隅に姿を現した。
「おっ、主役の登場だ!」
ルークが大きなジョッキを片手に二人を歓迎する。
「……すげえな。これ、本当に俺たちの村か?」
刀真が、活気に満ち溢れた村人たちの姿を見て呆然と呟く。
「そうよ、刀真くん。みんな、あなたたちが持ち帰ってくれたお土産で、こんなに元気になったの」
乃亜が、大皿に盛られたドラゴンのローストを抱えてやってきた。
「さあ、二人とも! 頑張ったご褒美よ。冷めないうちにいっぱい食べて!」
「おうっ!!」
「いただくぜ!!」
蒼汰が、白銀のサシが入ったドラゴンの肉をガブリと頬張る。
途端に、全身の細胞が歓喜の声を上げ、新たな刀と肉体が完璧に馴染んでいく感覚がした。
「……神宮寺たちに見せてやりたいぜ」
蒼汰が、脂の乗った肉を飲み込みながらボソリと呟いた。
「『無能』だの『ハズレ』だのって捨てられた俺たちが、ドラゴンの肉を食って、最高の仲間と笑い合ってる今の姿をよ」
「……ああ。あいつらが王宮でちやほやされてる間に、俺たちは地獄の底で『本物』になっちまったからな」
刀真がジョッキを蒼汰の刀にカチンと当てた。
宴の熱気は、深淵の森の冷気を完全に塗りつぶしていた。
最強の武具。
最強の食事。
そして、それらを分かち合う絆。
王宮のシステムという「既製品の強さ」ではない、自分たちの手で掴み取った「真実の強さ」が、今、この村全体を包み込んでいた。
反逆の準備は、これ以上ないほど整った。
爆炎竜の咆哮を宿した村は、もはや何者にも侵されない、最強の牙を持った。
蒼汰は夜空を見上げ、遥か彼方にある王都へと想いを馳せる。
――待ってろよ、神宮寺。
次に会う時、お前の信じる「レベル」や「ジョブ」が、俺たちの『食欲』の前にどれほど無力か、思い知らせてやるからな。
祝宴の火は、夜明けまで赤々と燃え続けていた。
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