【覚醒】赫炎の反逆者と、巫女の祈り
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!
――また、守られるだけなのか。
目の前で、刀真の巨体が地面に叩きつけられた。
ドロリとした赤い鮮血が、萌音の泣き叫ぶ顔に、そして乃亜の足元にまで飛び散る。
爆炎竜が放つ、皮膚を焦がすような死の熱風。
砕け散った結界の破片。
震える指先。
乃亜の脳裏に、あの日、あの時の光景が、呪いのようにフラッシュバックした。
追放された初日。
『凶暴熊猪』の前に立ち尽くし、蒼汰の背中を見ていることしかできなかった、あの絶望的な無力さ。
ただ震えて、泣いて、誰かが傷つくのを待つしかなかった、無能な私。
(……いやだ)
乃亜の瞳の奥で、青い火が灯った。
(もう、あんな思いは……絶対に嫌っ!!)
胃袋の中で、理人が作った『固形ブイヨン』が激しく燃焼を始めた。
限界まで引き上げられた知力(INT)が、乃亜の精神を研ぎ澄ましていく。
乃亜の魔力上限(MP)が、システム上の数値を無視して、パチパチと音を立てて逆流を始めた。
「……私の、大事な仲間を……傷つけさせないっ!!」
乃亜が叫び、握りしめていた薙刀の石突を大地に強く打ち鳴らし、鋭い刃を天高く掲げた。
その瞬間、彼女の背後に、巨大な白百合を思わせる清らかな光の陣が浮かび上がった。
「目覚めなさい……『神明・浄界』!!!」
それは、乃亜が深淵での浄化の果てに掴み取った、真の覚醒スキルだった。
ただの結界ではない。
乃亜を中心とした半径十メートル、その空間内のすべての「熱」と「穢れ」を強制的に祓い、仲間に「絶対的な加護」を与える神域の展開。
「……えっ?」
爆炎竜に立ち向かおうとしていた蒼汰の体が、一瞬で純白の光に包まれた。
呼吸を焼いていた熱気が消え、代わりに体中の細胞が活性化し、無限の力が湧き上がってくるのを感じた。
「蒼汰くん……! 今のあなたなら、あの竜の炎にもきっと耐えられるわ! 行って、みんなの仇を……っ!」
乃亜の鼻から一筋の血が流れる。MPの過剰出力。
だが、彼女は薙刀を構えたまま、その足を一歩も引かなかった。
「乃亜……! ああ、分かった!!」
蒼汰が吠えた。
刀真を傷つけられた怒りと、乃亜が命を懸けて繋いでくれた光。
彼の体内で、地鳴り熊の肉から得た膨大なカロリーが、蒼汰の意志に呼応して『変質』を始めた。
――火ではない。
――ただの熱でもない。
それは、すべてを焼き尽くし、理不尽を塗りつぶす『反逆の意思』。
蒼汰が構えた魔骨鋼の刀身が、赤色を超え、目に痛いほどの『白銀の炎』を纏い始めた。
新スキル――『赫炎』の覚醒。
だが、爆炎竜は逃がさない。
竜は再び顎を大きく開き、トドメの極大ブレスを蒼汰に向けて放とうとした。
「させるかぁぁぁぁっ!!!」
その時、爆炎竜の視界を、一筋の『青い閃光』が遮った。
楓菜だ。
「私の……『瞬歩』を……ナメないで!!」
楓菜は、月影豹から得た凄まじい敏捷値、そのすべてをたった一度の機動に凝縮させた。
シュバッ!と音がした瞬間、楓菜の姿が十重二十重の残像となり、爆炎竜の四方を囲んだ。
『!?』
爆炎竜が困惑し、首を激しく振る。
どこが本体か分からない。どこにブレスを吐けばいいのか分からない。
「こっちだよ、トカゲ野郎!!」
楓菜が、竜の眼前に躍り出た。
それは、文字通りの死地。
竜の巨躯が、鬱陶しい羽虫を叩き落とすように、巨大な右爪を振り下ろした。
「楓菜!!」
理人が叫ぶ。
バキィィィィンッ!!!
「が……はぁっ!?」
楓菜の小さな体が、竜の爪に弾き飛ばされた。
防御力など皆無に等しい彼女にとって、それは致命的な一撃になりかねない衝撃。
だが、楓菜は吹き飛ばされながらも、口角を上げて不敵に笑った。
「……今だよ、蒼汰……!」
楓菜が命を懸けて作り出した、たった一秒の『隙』。
爆炎竜が、楓菜を叩き落とした直後の、ほんの僅かな硬直。
そこに、白銀の流星となった蒼汰が突き刺さった。
「これでお別れだ、深淵の暴君……!!」
蒼汰は跳躍し、竜の眉間へと刀を突き立てた。
体内の全カロリー、乃亜からもらった聖なる加護、そして刀真と楓菜の流した血。
そのすべてを、白銀の炎に変換する。
「燃え尽きろ……ッ!!! 『赫炎・断罪』!!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
爆炎竜の頭部から、白銀の火柱が空を貫いた。
ドラゴンの堅牢な鱗も、内部に秘めた爆炎も、蒼汰の放った『赫炎』の前では単なる燃料に過ぎなかった。
竜の巨躯が、内側から白銀の炎に焼かれ、一瞬にして炭化していく。
「ガ、ア…………」
爆炎竜は咆哮を上げる暇すらなく、その場に崩れ落ち、静かに絶命した。
◇
沈黙。
熱風が止み、静寂が訪れた森に、蒼汰の荒い呼吸だけが響く。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
蒼汰が刀を地面に突き立て、肩で息をする。
全身の力が抜け、膝がガクガクと震えていた。カロリー切れだ。一歩も動けない。
「……乃亜、楓菜……刀真……」
蒼汰が真っ先に目を向けたのは、仲間たちの姿だった。
「ひ、ヒール……っ! お願い、繋がって!!」
乃亜が、限界を超えた精神状態で這いずり回り、真っ先に刀真のもとへと辿り着いていた。
彼女の手から放たれる光は、新スキル『神明・浄界』の影響か、以前よりもずっと力強く、温かい。
「ゴホッ、ガハッ……! ……あ、れ? 俺……生きてる、か?」
血まみれだった刀真が、うっすらと目を開けた。
「刀真!!」
萌音が泣きながら刀真に抱きつく。
「痛ってぇ……萌音、そんなに抱きつくなよ。骨が、折れてるんだって……」
刀真は顔をしかめながらも、萌音の頭を優しく撫でた。
「楓菜! 楓菜は無事か!?」
蒼汰が叫ぶと、岩陰から理人に抱えられた楓菜が、ヒョコッと顔を出した。
「……ん、大丈夫。瞬歩で……ギリギリ、致命傷は避けたから。
……でも、肋骨、いっちゃったかも」
楓菜は痛みに顔を歪めながらも、蒼汰を見て親指を立てた。
「ナイス、一撃……。最高に、カッコよかったよ、蒼汰」
理人も、ボロボロになった白衣で楓菜を支えながら、蒼汰を見て静かに頷いた。
「……想定外の連続だったが、生存確率はゼロじゃなかった。」
六人全員、生存。
レベル48という、勇者たちですら足元にも及ばない絶望を、彼らは自分たちの「力」と「絆」で打ち破ったのだ。
「……乃亜」
蒼汰が、ふらつきながら乃亜のそばへ歩み寄った。
乃亜は刀真の止血を終え、精根尽き果てたように座り込んでいた。
「助かった。お前のあの陣がなきゃ、俺、あの熱に焼かれて死んでたよ。……ありがとうな」
蒼汰が、不器用ながらも乃亜の頭を撫でようとした、その時。
「蒼汰くん……」
乃亜が、潤んだ瞳で蒼汰を見上げた。
「私……役に立てたかな?
あの日みたいに、ただ泣いてるだけじゃなくて……蒼汰くんの力になれた?」
「……ああ。当たり前だろ」
蒼汰は力強く頷き、最高の笑顔を見せた。
「お前は、俺たちの『巫女』だよ。お前がいなきゃ、この深淵は一歩も進めなかった。
……世界一の飯を炊く、世界一の仲間だ」
その言葉に、乃亜の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
あの日からずっと彼女を縛り付けていた「無能」という呪縛が、蒼汰の温かい言葉によって、ゆっくりと溶けて消えていった。
「うふふ……。なら、今すぐ世界一の料理を作らなきゃ、ね」
倒れた爆炎竜の巨躯を見上げながら、六人は静かに勝利の余韻に浸っていた。
だが、休んでいる暇はない。深淵の王者の肉と素材が、山のように目の前にあるのだ。
「さあ、みんな……」
蒼汰が、疲労を吹き飛ばすようなギラギラとした野性の笑みを浮かべる。
「こいつの解体と、極上のメシが俺たちを待ってるぜ! この深淵の主を喰らって、俺たちはさらに化けるんだ!」
「おうよっ……! 俺の新しい武器の素材も、たっぷり剥ぎ取ってやるぜ……」
蒼汰の号令に、倒れていた刀真も痛みを堪えてニヤリと笑い返す。
限界を超えた死闘の果てに待つ、究極の食事。
彼らのサバイバルは、いよいよ最も熱く、最も美味しいクライマックスへと向かうのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
修行編の大トリ、爆炎竜との決戦。
薙刀を掲げてトラウマを乗り越えた乃亜の覚醒、楓菜の命懸けのアシスト、そして蒼汰の新スキル『赫炎』……。今の彼らが持つすべての力を出し切った総力戦を描かせていただきました。
追放された時は、ただの「無能」と「足手まとい」でしかなかった六人。そんな彼らが、知恵を絞り、絆を深めることで、勇者すら届かない高みに到達した姿に、作者自身も胸が熱くなりました。
さて、激闘を終えた彼らを待っているのは、皆様お待ちかねの「超絶メシテロ」のお時間です!
次回、レベル48の爆炎竜を解体し、究極の料理へと昇華させます。深淵の王を喰らった彼らのステータスは、一体どうなってしまうのか!?
【作者からのお願い】
「乃亜ちゃん、よく頑張った!」「蒼汰、最高に熱かった!」「ドラゴンの肉、早く食べたい!」と思ってくださった方は、ぜひ**【ブックマーク登録】や、ページ下部の【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】にして評価**いただけますと、作者の執筆の特大バフになります!
皆様の応援が、彼らをさらなる高みへと導きます。
次回、究極のドラゴン料理編!どうぞお見逃しなく!




