【熱量の獣】暴君・爆炎竜と、蘇る絶望の記憶
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!
奈落の森・最深部。
そこは、生命の息吹というよりも、原始的な暴力そのものが支配する熱帯の地獄だった。
周囲の大樹は不自然に炭化して黒焦げになり、地面からは陽炎が立ち昇っている。
息を吸い込むだけで肺が焼けるような異常な高温の中、静寂を切り裂いたのは、鼓膜を直接叩き割るような高く鋭い「咆哮」だった。
「嘘……っ!? これ、本当に幼体なの!?」
背後でホログラムウィンドウを展開した萌音の声が、かつてない恐怖に震え上がっていた。
揺らめく陽炎の向こうから、ズズン……と地を揺らして姿を現したのは、深紅の鱗を纏った竜――『爆炎竜』であった。
幼体とは名ばかりで、その体長は五メートルを優に超え、全身の鱗の隙間からはマグマのような高熱の魔力が漏れ出している。一歩踏み出すたびに、足元の土がドロドロに溶岩化していく。
「ステータス……レベル48!!
ダメだよ、こんなの深淵の主じゃない、奈落の王だよ!!」
「レベル48だと……!」
蒼汰が、魔骨鋼の刀の柄を握る手にギリッと力を込める。
勇者・神宮寺たちがレベル25付近で停滞している中、その倍近い数値を叩き出す「本物の怪物」。
「グガァァァァァァッ!!!」
爆炎竜が顎門を開いた。
瞬間、超高温の火炎放射が直線状に放たれる。
「みんな、散れ!!」
理人の鋭い叫びとともに、六人が左右に散開する。
直後、彼らが立っていた場所は、一瞬にしてガラスのように結晶化して吹き飛んだ。
「理人の言う通りだね……。
今の私たちが、どれだけ強くなったか試すには、最高の相手だよ!」
楓菜が、残像を残す『瞬歩』で竜の側面に回り込み、弓を引き絞る。
「私の目から……逃がさないよっ!!」
放たれた三本の矢が、爆炎竜の眼球を正確に狙う。
だが、矢は竜の纏う異常な熱気によって、着弾する前に発火し、灰となって散った。
「楓菜の矢が燃えた!? どんだけ熱いんだよこいつ!」
蒼汰が驚愕する。
「なら、僕の陣で相殺する! 乃亜ちゃん、合わせてくれ!」
「うんっ!」
理人が白衣を翻し、竜の足元に複数の小瓶を叩きつける。
「『吸熱冷却』の陣!!」
青白い化学式陣が発動し、周囲の熱を強引に奪い去り、竜の足元を一瞬だけ凍結させる。
「『高圧浄化』!!」
すかさず乃亜が、MPが1.5倍に跳ね上がった膨大な魔力を込め、超高圧の水流を竜の胴体に叩きつける。
理人の急激な冷却と、乃亜の物理的な水圧。
極端な温度変化による「熱疲労」が、爆炎竜の強靭な紅い鱗にピキピキと微かな亀裂を走らせる。
「今だ、刀真!!」
「おうよっ!!」
地鳴り熊との死闘を経て、歩く要塞と化した刀真が跳躍した。
「『盾割り(シールドブレイカー)』ッ!!」
構造の急所を的確に見抜いた大槌の一撃が、亀裂の入った鱗を粉砕し、竜の生身を露出させる。
「やった!」
楓菜が歓声を上げる。
完璧な連携だった。深淵で培った「科学」と「浄化」と「力」の結晶。レベル48の竜に、確かなダメージを与えたのだ。
だが。
「……グルルルルルッ!!」
爆炎竜の喉の奥で、嘲笑うような低い音が鳴った。
傷口から溢れ出したのは血ではなく、凝縮された液状の『炎』だった。竜の全身の鱗が、激怒に呼応するように赤黒く発光し始める。
「……っ! ダメ、みんな離れて! 敵の魔力出力が跳ね上がってる!!」
萌音の警告と同時。
爆炎竜が全方位に向かって、爆発的な『熱の衝撃波』を放った。
「ガハッ!?」
防ぐ間もなかった。
前衛の蒼汰と刀真が、そして後衛にいた理人と楓菜までもが、嵐の木の葉のように軽々と吹き飛ばされ、大樹の幹に激突する。
「ぐぅっ……! なんて馬鹿力だ……っ!」
刀真が血を吐きながら立ち上がるが、その足取りは重い。
「みんな、バフを! 今すぐ食べて!!」
萌音が、叫びながら指示を飛ばす。
「理人くんと乃亜ちゃんは『固形ブイヨン』! 楓菜ちゃんは『干し肉』!
蒼汰くんと刀真は、昨日作った『地鳴り熊の特製カツレツ』を!!」
司令塔の悲痛な声に、全員が背嚢から深淵の食事を引っ張り出し、無理やり胃に流し込む。
瞬間、六人の体に爆発的な魔力とステータスのブーストが掛かる。
「っしゃあああっ! カロリー全開だ!!」
蒼汰が、地鳴り熊の肉から得た莫大な熱量と筋力を刀に込め、超高温の『陽炎』を纏わせる。
「俺の熱とどっちが上か、勝負してやるよ!!」
蒼汰が真正面から爆炎竜に突っ込み、熱と熱、力と力が激突する。
ドゴォォォォォォォンッ!!
森が揺れ、すさまじい火柱が上がる。
だが、バフを全開にした蒼汰の全カロリーを賭けた一撃すら、爆炎竜は分厚い前足で受け止め、逆に蒼汰を力任せに弾き飛ばした。
「蒼汰!!」
理人が叫ぶ。
「……グガァァァァッ!!」
爆炎竜の敵意が、完全に切り替わった。
この厄介な人間たちを統率し、ステータスを操作している「要」が誰なのか。
竜の恐るべき知能が、それを看破したのだ。
竜の赤黒い双眸が、最後尾でウィンドウを操作する、丸腰の萌音を真っ直ぐに射抜いた。
「えっ……?」
萌音の動きが止まる。
爆炎竜が、前衛の蒼汰と刀真を無視し、大気を焦がしながら一直線に萌音へと突進してきた。
「萌音ちゃん!!」
乃亜が悲鳴のような声を上げ、萌音の前に飛び出した。
ブイヨンでMPを限界まで引き上げた乃亜が、全生命力を懸けて杖を突き出す。
「『絶対浄化の結界』ッ!!!」
幾重にも重なる、分厚く眩い光の壁。
だが、レベル48の竜が放つ『極大火炎』の直撃を受けた瞬間。
パリンッ……!!
「きゃあっ!?」
乃亜の最強の結界が、まるで薄いガラスのようにあっけなく砕け散った。
魔力逆流のショックで乃亜が倒れ伏し、無防備になった萌音の頭上に、竜の巨大な顎が迫る。
「……あ……」
萌音は、迫り来る死の熱風に声も出せず、ただ目を閉じた。
その時だった。
「萌音に……触んじゃねええええええええええええッ!!!!!」
鼓膜を破るような絶叫と共に、巨大な鉄の塊が、萌音と竜の間に割って入った。
刀真だ。
地鳴り熊の肉で防御力(DEF)を限界突破させた彼が、己の肉体と大槌を巨大な「盾」にして、竜の突進と炎のすべてを正面から受け止めたのだ。
メキィィィィッ!!
刀真の構えた魔骨鋼のハンマーが、竜の圧倒的な質量の前にひしゃげ、砕け散る。
防ぎきれない。
竜の鋭い爪と業火が、刀真の分厚い胸板を無残に引き裂いた。
「ガハッ……ァ……!!」
大量の鮮血が、空中に舞う。
「刀真……っ!? 刀真ぁぁぁぁぁぁっ!!」
萌音の顔に、温かい血の飛沫が降り注ぐ。
刀真の巨体が、ボロ布のように宙を舞い、大樹の根元に激しく叩きつけられた。
ピクリとも動かない。
彼の胸からは絶え間なく血が流れ出し、地面を赤く染め上げていく。
「…………ぁ」
少し離れた場所で吹き飛ばされていた蒼汰は、その光景をスローモーションのように見ていた。
刀真が、やられた。
一番頑丈で、一番頼りになる親友が、あっけなく。
――その瞬間。
蒼汰の脳裏に、かつてない強烈なフラッシュバックが襲いかかった。
『グガァァァァァッ!!』
王宮を追放された初日。
奈落の森で遭遇した、あの『凶暴熊猪(マーダーボアグリーズ』の圧倒的な暴力。
何もできず、ただ死を待つしかなかった自分たちの無力さ。
誰かが死ぬかもしれないという、凍りつくような絶望。
「あ……ああ……っ」
蒼汰の歯の根がガチガチと鳴る。
レベルの壁。チートを持たない者たちの限界。
結局、俺たちはシステムに殺されるだけの「無能」なのか?
「刀真くん!! いやっ、目を開けて、刀真くん!!」
萌音が、血だらけの刀真にすがりついて泣き叫んでいる。
乃亜が必死に這いつくばりながら、ヒールをかけようと手を伸ばしている。
理人が、楓菜が、絶望の淵で立ち尽くしている。
爆炎竜が、鬱陶しいゴミを掃除し終えたとばかりに、ゆっくりと蒼汰の方へと首を向けた。
「…………ふざ、けんな」
蒼汰の中で、凍りついていた絶望が、真っ黒な『怒り』の炎へと反転した。
ふざけるな。
俺たちは、生きるために喰ってきたんだ。
泥水をすすり、化け物の肉を嚙みちぎり、笑い合って、強くなってきたんだ。
その全部を、たかだか数字の暴力なんかに、奪われてたまるか。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
蒼汰の体内で、未だかつてない異常な現象が起きていた。
地鳴り熊の肉から得た莫大なカロリーが、いや、彼自身の命の火そのものが、リミッターを外して『熱量』へと爆発的な変換を始めたのだ。
血を流して倒れる親友。
泣き叫ぶ仲間たち。
深淵の暴君。
全カロリーを賭けた、蒼汰の真の反逆が、今、始まろうとしていた。
ご一読いただきありがとうございます!
思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。
もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。
今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。
ブックマーク登録も、執筆の励みになります。 よろしくお願いします!




