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重装コンビの狂瀾と、不発のアシスト

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 地鳴りアース・クエイク・ベアという、深淵の絶対強者を打ち倒した直後の広場。


 そこには、静寂ではなく、耳を疑うような野太い咆哮が響き渡っていた。


「うおおおおおおおおおっ!! 見たかコラァ!! 壊した! 

 俺が、俺のハンマーが、あのバケモノの外殻を粉々に粉砕してやったぞぉぉぉぉ!!」


 先ほどまで死線を彷徨っていたはずの刀真が、魔骨鋼の大槌を天高く掲げ、勝利の舞を踊っている。


 その隣では、蒼汰がこれまた負けじと喉を枯らして叫んでいた。


「しゃああああああっ!! 刀真、最高だぜ!! あのデカブツがひっくり返った瞬間の音、聞いたか!?

 ズドォォンってよぉ! 俺の心臓まで震えたぜ!!」


 二人の男が、汗と泥にまみれたまま互いの肩を組み、ガシガシと頭をぶつけ合うようにして喜びを爆発させている。


 それはまさに、文明を忘れた野生児たちの祝祭だった。


「おい蒼汰! 今の俺の『盾割り』、百点満点中、何点だったよ!?」


「何言ってんだ、一億点に決まってんだろ!! あの瞬間の刀真、マジで誰よりもデカく見えたぜ!」


「だろ!? だろぉぉぉ!! いやぁ、萌音の指示が脳に直接刺さった瞬間、俺、マジで世界を叩き割れる気がしたわ!!」


 暑苦しい。


 とにかく、視覚的にも聴覚的にも温度が高すぎる。


 焚き火の熱など比較にならないほどの熱気が、前衛二人の周囲から立ち上っていた。


「……ねえ。あいつら、いつまでやってるの?」


 少し離れた場所で、月影豹の干し肉を齧りながら、楓菜が呆れ果てた顔で呟いた。


 彼女の隣では、乃亜が「うふふ」と、まるで無邪気な子供の喧嘩を見守る母親のような慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。


「いいじゃない、楓菜ちゃん。二人とも、あんなに一生懸命頑張ったんだもの。

 男の子って、ああいう風に喜び合うものなのよ、きっと」


「乃亜ちゃん……あれを『男の子』っていう括りで納得しちゃうのは、ちょっと心が広すぎる気がするよ……」


 楓菜は深いため息を吐き、隣で大人しく眼鏡を拭いている理人に視線を向けた。


「理人はどう思う? あの暑苦しいの」


「……生物学的には、極限の緊張状態から解放されたことによるドーパミンの過剰分泌だね。

 放っておけばそのうち賢者タイムが来て、泥のように眠るだろう。

 ……ただし、あの騒音で他の魔物が寄ってこないかだけが、僕の懸念事項だ」


「理人くん、相変わらず冷静だね……」


 理人の冷淡な分析に、楓菜は苦笑いした。


 だが、その時、楓菜の脳裏に昨夜の『秘密同盟』のことが閃いた。


(そうだ! 今こそアシストのチャンスじゃない!?)


 蒼汰は今、戦い終えたばかりの「戦士」として最高に輝いている(見た目は泥だらけだが)。


 このタイミングで、乃亜に蒼汰のカッコよさを刷り込めば、一気に好感度を稼げるはずだ。


 楓菜はわざとらしく「はぁ……」と感嘆の声を漏らし、乃亜の顔を覗き込んだ。


「ねえねえ、乃亜ちゃん。でもさ……認めざるを得ないよね。

 今の蒼汰、すっごく頼もしくなかった? 

 あんな強い魔物に真っ向から立ち向かって、仲間を守るために刀を振るう姿……正直、ちょっとドキッとしちゃったなぁ」


 これだ。


 完璧なパスだ。


「ドキッとした」という直接的なキーワードを混ぜることで、乃亜の深層心理にある恋心を揺さぶる、高度な心理戦。


 さあ、乃亜、どう返す!?


「……そうね!」


 乃亜が、パッと花が咲くような笑顔で応じた。


「本当に、蒼汰くんはすごかったわ! 

 あんなに大きな熊を相手にしても一歩も引かないで……。

 私、蒼汰くんがああやって頑張ってるのを見ると、いつも思うの」


(おおっ、来るか!? 乙女な発言、来るか!?)


 楓菜が期待に胸を膨らませ、耳をそばだてる。


「やっぱり蒼汰くんは、誰よりも『お腹が空きやすい子』なんだなって!」


「…………へ?」


 楓菜の動きが止まった。


 乃亜は、拳を握りしめて熱っぽく語り続ける。


「だってそうでしょ!? あんなに激しく動いたら、きっと今、蒼汰くんの胃袋は空っぽで悲鳴を上げてるはずだわ! 

 守ってあげなきゃ、すぐにでも美味しいものを食べさせて、パンパンに満たしてあげなきゃ……!

 ああ、早く熊を料理してあげないと!」


「…………」


 楓菜は、天を仰いだ。


 違う。


「ドキドキする」というパスを、「給食のおばさん」のモチベーションに変換されてしまった。


 乃亜の母性は、海よりも深く、そして恋愛感情という波をすべて飲み込んで凪に変えてしまう。


「……ねえ、乃亜ちゃん。そうじゃなくてさ。

 男の人として、こう……守ってもらって嬉しいとか、支えてあげたいとか、そういう特別な感情はないの?」


 楓菜が食い下がると、乃亜は不思議そうに小首を傾げた。


「特別な感情……? あるわよ! 

 蒼汰くんは、私の料理を世界一美味しそうに食べてくれる特別な人だもの! 

 だから、蒼汰くんが強くなるために、私は世界一美味しいお米を炊くって決めてるの!」


 乃亜の瞳には、一切の曇りがない。


 それは「愛」ではあるが、残念ながら蒼汰が望んでいる「恋」の色ではない。


 信仰に近い献身と、ペットの飼い主に近い慈愛。


(だめだ……この子、絶対防御スキル『無自覚・聖母の微笑み』を持ってるわ……

 。蒼汰の攻撃アプローチ、一ミリも通ってないよ……)


 楓菜が絶望に沈んでいると、ようやく「賢者タイム」が訪れたらしい蒼汰と刀真が、肩を組んでこちらへやってきた。


「はぁ、はぁ……。よし、乃亜! 熊だ、熊! 

 こいつの肉を早く食おうぜ! 俺、もう腹が減って刀も持てねえ!」


「うふふ、分かってるわよ、蒼汰くん。

 今、最高に美味しい『地鳴り熊のフルコース』を作ってあげるからね!」


 乃亜が優しく蒼汰の泥を拭ってやり、蒼汰はそれだけで「へへへ……」とだらしなく鼻の下を伸ばしている。


 その光景は、側から見れば十分仲睦まじいのだが……。


(蒼汰……あんた、それでいいの? 完全に『よく食べる息子』扱いされてるけど……)


 楓菜が憐れみの視線を送ると、蒼汰がそれに気づいて、こっそりと親指を立ててみせた。


(楓菜、ナイスアシスト! 乃亜が俺のこと『特別』って言ってるのが聞こえたぜ! 同盟最高だな!!)


 そのアイコンタクトを読み取った瞬間、楓菜は悟った。


 この同盟の最大の問題点は、乃亜の鈍感さ以上に、蒼汰が「ポジティブすぎる勘違い男」であることだと。


「……はぁ。次は理人の方、頑張ってみるか」


 楓菜がボソリと独り言をこぼすと、隣で鍋の準備を始めた理人が、眼鏡を光らせて反応した。


「楓菜ちゃん、僕に何か用かな? もし解体を手伝ってくれるなら、大腿筋の筋膜を傷つけないように切り分けてほしいんだ。……どうしたの、そんなに遠い目をして」


「……なんでもないよ、理人くん。

 ただ、この深淵は、魔物より手強いバリアがあるんだなって思っただけ」


「バリア? さっきの熊の外殻のことかな。確かにあれは……」


「いいの! もういいの、理人くんはそのまま解析してて!」


 楓菜の叫びは、調理を開始した乃亜の包丁の小気味いい音と、前衛二人の賑やかな笑い声にかき消されていった。


 最強の連携を見せる六人だが、その心の矢印が重なる日は、まだ遠い。


 だが、そんな凸凹な関係性こそが、過酷な深淵の夜を少しだけ明るく照らしていた。


「さあ! お肉が焼けるわよ! みんな、準備して!」


 乃亜の号令とともに、地鳴り熊を喰らう、狂乱のディナータイムが幕を開けるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、地鳴り熊との激闘を終えた後の「反省会(?)」をお送りしました。

 前衛二人の暑苦しい友情と、空回りする楓菜のアシスト。そして乃亜の「聖母バリア」の強固さが浮き彫りになった回ですね(笑)。蒼汰が幸せそうなので今はいいのですが、彼が乃亜の本当の視点に気づく日が来るのかどうか……。


そして次回、ついに地鳴り熊の肉を喰らいます!

 歩く要塞の肉を食べた時、彼らのステータスはどう進化するのか。そして、あの硬い肉を乃亜はどう料理するのか!?


【作者からのお願い】

 「蒼汰と刀真のコンビが好き!」「楓菜、次も頑張れ……!」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録や、下の**【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】にして評価**をいただけますと、次のエピソードを書くための大きな『カロリー』になります!


皆様の応援が、彼らの恋と筋肉の糧になります。

 次回もどうぞお楽しみに!

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