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暴君の解体と、極上ドラゴンステーキ丼

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 白銀の炎『赫炎』によって脳天を貫かれ、完全に沈黙した爆炎竜エクスプロード・ドレイク


 先ほどまでの死闘が嘘のように静まり返った深淵の広場に、ゴクリ、と誰かが生唾を飲み込む音が響いた。


「……なぁ、理人」


 蒼汰が、力尽きて横たわる五メートル超の巨躯を見上げながら、震える声で口を開く。


「これ……全部、俺たちのモン、なんだよな?」


「ああ。奈落の森の生態系の頂点、レベル48の竜の死体だ。……その価値は、王宮の国庫すら傾けるかもしれない」


 理人が、割れた眼鏡を指で押し上げながら、興奮を隠しきれない声で頷いた。


「よっしゃああああっ!! 剥ぎ取り祭りだぁぁぁっ!!」


 その瞬間、先ほどまで肋骨を折って瀕死だったはずの刀真が、目を見開き、奇声を発して竜の死体へとダイブした。


「ちょっ、刀真くん! まだ乃亜ちゃんのヒールが終わってないのに!」


 萌音が慌てて止めるが、鍛冶師としての本能を爆発させた刀真の耳には全く届いていない。


「すげえ……すげえぞこれ!! 

 見てみろ蒼汰、この深紅の『鱗』! 

 俺のハンマーを砕いた剛石猪の三倍の硬度はあるぜ! 

 これであいつの白銀の盾をもブチ割る最強の武器と、俺の新しい装甲が打てる!!」


 刀真は血だらけの顔を紅潮させ、竜の背中の鱗を愛おしそうに撫で回している。


「刀真の言う通りだね。……楓菜、悪いがその神速で、竜の顎から『牙』を引き抜いてくれないか? 

 あれは極上の矢尻や短剣の素材になる」


 理人が白衣の袖をまくり、解体の指示を出し始める。


「任せて理人!叉鬼またぎの冴え、見せてあげる!」


 肋骨の痛みを微塵も感じさせない動きで、楓菜が竜の頭部へと跳躍する。


「よい、しょぉっ!」


 楓菜の正確な小刀さばきによって、短剣ほどもある鋭く巨大な牙が次々と根本から切り離されていく。


「それから、あの口元に生えている『ひげ』だ。

 あれは竜の魔力を周囲から集める超高純度の魔法触媒になる。

 乃亜ちゃんの杖の強化に必須だ」


「えっ、私の杖に? なんだかすごいことになりそうね……!」


 乃亜が、自身の薙刀を見つめながら目を輝かせる。


 そして、刀真がひしゃげたハンマーの柄を使い、テコの原理で竜の強靭な『骨』を外していく。


「蒼汰! この骨、信じられねえくらい魔力を含んでやがる! 

 これがあれば、お前の魔骨鋼の刀をもう一段階……いや、三段階は進化させられるぜ!」


「マジかよ刀真!! 絶対全部持って帰るぞ! 

 鱗、牙、骨、ひげ……素材は余す所なく全部お持ち帰りだ!!」


 六人は、疲労も負傷も完全に忘れ去り、目を血走らせて巨大なドラゴンの解体作業に没頭した。


 彼らの背嚢リュックは、あっという間に国宝級の超希少素材でパンパンに膨れ上がっていく。


 ◇


 そして……装甲や骨格の回収が終われば、残るは「肉」である。


「……見事なサシだ」


 解体された竜の胴体から現れた、極太の赤身肉。


 理人が感嘆の声を漏らした通り、その深紅の肉には、魔力が結晶化したかのような美しい純白のサシが網の目のように走っていた。


「乃亜、お肉切り分けたよ! こっちは背中の分厚いところ、こっちの筋張ってるのは太い『尻尾』のお肉!」


 楓菜が、自分の身長ほどもある肉のブロックをドサリと乃亜の前に置いた。


「ありがとう、楓菜ちゃん! 

 ……それじゃあ、私たちの修行の集大成、最高に美味しく料理するわよ!」


 乃亜が、袖をまくり上げて気合を入れる。


「まずは、この太い尻尾のお肉からね。

 刀真くんが砕いてくれた竜の骨と一緒に、大きなお鍋でじっくり煮込むわ。

 理人くん、火加減のサポートお願いできる?」


「ああ。竜の肉は非常に筋繊維が強靭だが、一定の温度を保って煮込めば、結合組織がゼラチン化して一気にトロトロになるはずだ。僕の化学式陣で温度を完璧に固定しよう」


 理人の陣によって、鍋の温度が魔法のように一定に保たれ、コトコトと静かな音を立て始める。


 竜の骨から溶け出した極上の出汁と、尻尾の肉の旨味が混ざり合い、深淵の森に信じられないほど芳醇な香りが漂い始めた。


「よし、スープを煮込んでいる間に、メインディッシュにいくわよ! 蒼汰くん、火をお願い!」


「おうっ! 任せとけ乃亜!!」


 蒼汰が、フライパン代わりの平らな石板を下から炙る。


 先ほどの『赫炎』の余韻か、蒼汰の熱量コントロールは今まで以上に冴え渡り、石板は瞬く間に理想的な温度へと熱された。


「いくわよ……!」


 乃亜が、楓菜の切り分けた分厚い竜の背肉ステーキを石板に乗せる。


 ジュワァァァァァァァァァァッ!!!!!


 乗せた瞬間、激しい音と共に、竜の純白の脂が一気に溶け出し、炎のように舞い上がった。


「うおおおおおっ!? いい匂いすぎるだろ!!」


 蒼汰が、あまりの暴力的な香りにのけぞる。


 焼けた肉の香ばしさと、魔物肉特有の野性味、そして高級牛すらひれ伏すような強烈な旨味の匂いが、六人の胃袋を激しくノックする。


「表面を一気に焼き固めて、旨味を内側に閉じ込めるの! 

 味付けは……深淵で採れたニンニクに似た『鬼蒜おにびる』と、理人くんが調合してくれた醤油風の発酵調味料で作った『特製ガーリック・ソイソース』よ!」


 乃亜が、焼けたステーキ肉の上に特製ソースを豪快に回しかける。


 ジュジュゥゥゥゥッ!と焦げた醤油とニンニクの香りが爆発し、蒼汰と刀真はもはや正気を保てないほどに口から涎を垂らしていた。


「さあ、あらかじめ炊いておいた私の特製『銀シャリ』の上に、このお肉をたっぷり乗せて……」


 乃亜が、どんぶり代わりの巨大な木椀に盛られた純白の米の上に、分厚くスライスしたステーキを花びらのように並べていく。


 最後に、中央に卵黄代わりの『火喰い鳥の卵』を落とし、残ったソースを上から回しかける。


「完成よ! 『爆炎竜の極厚ステーキ丼』と、『ドラゴンテイルのコラーゲンスープ』!!」


「「「「いただきますっ!!!」」」」


 六人の声が重なった。


 蒼汰はもはや箸も使わず、どんぶりを抱え込んで、肉と米を一緒くたにガツガツと搔き込んだ。


「んむっ……! うぉぉぉぉぉぉんまっ!!!!」


 蒼汰が、目を見開いて絶叫する。


「なんだこれ!? 分厚いのに、噛んだ瞬間に肉の繊維がホロォッて解ける! 

 そこからすげえ量の肉汁と、マグマみたいな熱い旨味がドバァッて溢れてきやがる! 

 鬼蒜のガツンとくるソースが、甘みのある銀シャリと絡んで……もう、箸が止まらねえぇぇ!!」


「うわぁ……美味しいっ! 

 お肉の脂が全然しつこくない! 

 むしろ食べれば食べるほど力が湧いてくるよ!」


 楓菜も、頬をパンパンに膨らませながら満面の笑みを浮かべる。


「あむっ……! こっちのスープもやばいよ! 刀真、飲んでみて!」


 萌音が、ドラゴンテイルスープを一口飲んで身悶えする。


「骨のダシが全部溶け出してて、スープが白濁してるの! 

 尻尾のお肉もゼリーみたいにプルプルで、口の中でスゥッて消えちゃう……!

 これ、絶対お肌ツルツルになるやつだよ!」


「おおっ、ホントだ! 

 五臓六腑に染み渡るぜ……。

 折れてた肋骨の痛みが、スープ飲んだだけで一気に引いていきやがる」


 刀真が、大鍋から直接スープを掬ってゴクゴクと飲み干す。


「乃亜ちゃん、完璧な火入れだ。竜の魔力が一切損なわれることなく、極上の旨味に変換されている。……これ以上の料理は、世界中を探してもどこにもないだろうね」


 理人が、ステーキを優雅に嚙み締めながら、眼鏡の奥で感動の涙を微かに浮かべていた。


「うふふ、みんながいっぱい食べてくれて嬉しいわ!」


 乃亜は、自分の作った料理が仲間たちの血肉となり、笑顔を作っているその光景だけで、胸が張り裂けそうなくらい満たされていた。


 ◇


 三十分後。


 巨大な爆炎竜の肉は、骨の髄まで完全に六人の胃袋に収まっていた。


 鍋もどんぶりも、一滴の汁すら残っていない。


「……ぷはぁっ! 食った! 食いきったぜ!!」


 蒼汰が、パンパンに膨れたお腹をさすりながら大の字で寝転がる。


「ねえ萌音。……ステータス、どうなってる?」


 楓菜が、期待に満ちた目で萌音を振り返った。


「うん……今、見てみるね」


 萌音が空中にホログラムウィンドウを展開する。


 そして、表示された六人の最新のステータスを見た瞬間、萌音はポカンと口を開けたまま固まった。


「……萌音? どうしたんだ?」


 刀真が心配そうに覗き込む。


「す、すごいよ……! レベルっていう概念が、もう完全にぶっ壊れてる!

 ただでさえ高かったみんなの特化ステータスが、竜の肉を食べてさらに一段階、バケモノみたいに進化してる!」


「マジか!? 俺の知力(INT)もついに上がったか!?」


 蒼汰がガバッと起き上がる。


「えっとね。……蒼汰くんの知力は、プラス2だね」


「またかよ!! 竜の脳ミソまで食ったのになんでだよ!!」


「その代わり! 蒼汰くんの『筋力(STR)』と『熱量上限カロリー』が、元の四倍近くまで跳ね上がってるよ! たぶん今の蒼汰くん、城の城壁くらいなら素手で殴り壊せると思う」


「城壁を素手で……!? 俺、いよいよ人間やめかけてねえか!?」


 蒼汰が自分の拳を見つめて戦慄する。


「刀真もすごいよ! 防御力(DEF)が規格外になってて、もうそこらの中級魔法なら、裸で受けても傷一つ付かないレベル!

 楓菜ちゃんは敏捷が竜の飛行速度を超えてるし、理人くんと乃亜ちゃんに至っては……保有魔力が測定限界を振り切って、エラー出てるよ」


 萌音の報告に、六人は顔を見合わせた。


 勇者たちに「無能」と見下され、王宮を追い出されたあの日。


 泥水をすすり、泣きながら魔物の肉を嚙みちぎった蒼汰たち。


 命の危険を感じて逃げ出してきた、刀真と萌音。


 だが今、彼らは深淵の王を喰らい、文字通り「英雄」すら凌駕する規格外のバケモノへと変貌を遂げていた。


「……よし。素材も肉も、全部回収したな」


 蒼汰が、大の字から立ち上がり、刀を腰に差した。


 その顔つきは、森に入った時のような頼りなさはない。


 自信と野性に満ちた、本物の強者の顔だった。


「ああ。これだけの素材があれば、王宮の連中なんか目じゃない最強の装備が整えられる。

 ……豊穣の街に帰って、すぐに工房に籠るぜ」


 刀真が、素材でパンパンになった巨大な背嚢を軽々と背負い上げる。


「うん! 早く帰ろう。みんな、いっぱい歩いてお腹が空くかもしれないから、干し肉も持ってるしね!」


 乃亜が、薙刀を杖代わりに微笑む。


「乃亜ちゃん、どんだけご飯食べさせる気なの……」


 楓菜が呆れながらも、嬉しそうに笑う。


「さあ、凱旋だ。俺たちの、最高の家にな」


 かくして、彼らの過酷にして最高に美味しい『奈落の森・深淵修行編』は、完全に幕を閉じた。


 最強のステータスと、無尽蔵の超希少素材を手に入れた彼らが、開拓都市『豊穣』に帰還した時、王宮のシステムはかつてないほどの揺らぎを見せることになる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


修行編の完結にして、怒涛の素材回収&超絶メシテロ回!

 爆炎竜の鱗、牙、骨、ひげを余す所なく剥ぎ取り、極上の「ドラゴンステーキ丼」と「テイルスープ」を喰らう。RPGの醍醐味と飯テロを全部詰め込ませていただきました。


そして、爆発的に進化した彼らのステータス。

 知力は相変わらず上がらない蒼汰ですが(笑)、素手で城壁を殴り壊せるほどの筋力を手に入れ、刀真は完全無欠の歩く要塞と化しました。

 これだけの最強素材を持ち帰った刀真が、一体どんなぶっ壊れ武器を打ち上げるのか。


次回から、いよいよ新章へ突入します!

 圧倒的な力を持って村へ帰還した彼らの、痛快な反逆劇がここから始動します!


【作者からのお願い】

 「ドラゴンステーキ丼、めっちゃ美味そう!」「いよいよ反撃開始だ!」とワクワクしてくださった方は、ぜひ**【ブックマーク登録】や、ページ下部の【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】にして評価**していただけますと、新章執筆の最高のモチベーションになります!


皆様の応援が、蒼汰たちの反逆の力になります。

 新章も、どうぞよろしくお願いいたします!

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