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月影豹のジャーキーと、覆らないステータスの壁

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 月影豹ムーンライト・パンサーの極上カルパッチョによるステータス上昇の歓喜(と、一部の者の絶望)から一夜が明けた。


 深淵の森の朝は、分厚い葉の隙間から差し込むわずかな木漏れ日と共に始まる。


 見張りの交代を無事に終えた六人は、朝食を済ませると、昨夜残った月影豹の大量の肉の処理に取り掛かっていた。


「昨夜も言った通り、この月影豹の肉は火を通すと筋繊維が異常に硬くなる性質がある。さらに、乾燥や加工の工程を挟むことで、あの生肉カルパッチョの時のような劇的なステータス上昇効果はかなり薄れてしまうはずだ」


 理人が、残った巨大なブロック肉を見下ろしながら冷静に解説する。


「だけど、この高温多湿な深淵の森で生肉を持ち歩いたら、一発で腐っちゃうよね?」


 楓菜の問いに、理人は頷いた。


「ああ。いくら乃亜ちゃんの浄化があるとはいえ、限度がある。

 ステータスアップの効率が落ちてでも、携帯できる保存食ジャーキーに加工しよう」


「任せて! 火を通すと硬くなるなら、向こうが透けるくらい極薄にスライスしちゃえばいいんだよ! 

 それなら噛みちぎれるしね!」


 楓菜が神速の小刀さばきを見せ、ブロック肉があっという間に極薄の肉片へと変わっていく。


「私は味付けを担当するね! お塩と、烈火草をすり潰した特製のタレに漬け込むよ」


 乃亜のタレに漬け込まれた肉を網の上に並べ、下から蒼汰が『陽炎』の微弱な熱風を当てて、焦がさないようにじっくりと水分だけを飛ばしていく。


 数十分後。


 網の上には、黒光りする硬そうな肉のチップ――『月影豹の特製干しジャーキー』が大量に完成していた。


「よしっ、完璧に乾燥したぞ! これなら背嚢リュックに入れても腐らねえな」


 蒼汰が、額の汗を拭いながら満足そうに笑う。


「少し味見してみようか」


 理人が一枚手に取り、ガリッと音を立てて嚙みちぎった。


「おお……確かに生肉より硬いが、極薄だから噛み切れるな。

 それに、噛めば噛むほど昨日の強烈な旨味と、烈火草のスパイシーな香りが口の中に広がってくる。

 最高の携帯食料だぜ」


 刀真も、干し肉を奥歯で噛み締めながら嬉しそうに頷く。


「んんっ、美味しい! ……あ、待って!」


 干し肉をかじっていた萌音が、突如としてホログラムのウィンドウを空中に展開し、驚いたように目を丸くした。


「萌音ちゃん、どうしたの?」


「これ、ただの保存食じゃないよ! 

 干し肉を食べた理人くんのステータスに、一時的なバフ(強化)アイコンが点灯してる!」


「バフだと?」


 理人が眼鏡のブリッジを押し上げる。


「うん! 永続的なステータスアップじゃないと思うけど、食べた瞬間から敏捷(AGI)の数値がプラス15されてる!

 いざっていう時の戦闘中に食べれば、一時的に足を速くできる『加速アイテム』になるよ!」


「なんだって!?」


 その萌音の言葉に一番過剰な反応を示したのは、他でもない蒼汰だった。


 昨夜のカルパッチョで敏捷が「プラス2」しか上がらず、膝を抱えていじけていた彼にとって、それはまさに神の啓示だった。


「マジかよ萌音! つまり、これを戦闘の直前に食えば、俺も楓菜みたいに超スピードで動けるってことだな!?」


 蒼汰の目が、ギラギラと欲望に燃え上がる。


「えっと、理屈の上ではそうなる、かな……?」


「よっしゃあああ! これで俺もスピードスターの仲間入りだぜ! ちょっと試しに食ってみる!」


 蒼汰は勢いよく干し肉を鷲掴みにすると、三枚まとめて口の中に放り込み、ガシガシと咀嚼して飲み込んだ。


「うおおおおっ! すげえ、体の奥から燃えるような力が湧いてきやがる! 

 血管の中を風が吹き抜けていくみたいだ! 

 ……どうだ萌音! 俺の敏捷、爆上がりしてるだろ!?」


 蒼汰が、期待に満ちた目でバッと萌音を振り返る。


 しかし。


 ステータスウィンドウを見つめる萌音の顔は、昨夜と全く同じ――いや、それ以上に気まずそうな、引きつった愛想笑いへと変わっていた。


「……そ、蒼汰くん」


「おう! いくつ上がった!? プラス30か!?」


「えっとね。……敏捷は、1ミリも上がってない、です……」


「…………は?」

 蒼汰の動きが、ピタッと停止した。


「敏捷は上がってないんだけど、その代わり、一時的なバフの効果が全部『熱量上限カロリータンク』と『筋力(STR)』のブーストに変換されてるみたい。

 ……今、蒼汰くんの筋力、さらに二割増しになってるよ!」


 萌音が、フォローするように明るい声で言う。


「いやいやいや、おかしいだろ! 理人は敏捷が上がったんだろ!? 

 なんで俺だけ筋肉と熱に変換されてんだよ!!」


 蒼汰が、バンバンと地面を叩いて抗議する。


「お、落ち着けよ蒼汰。……なら、俺が食べてみる。俺と理人じゃ体格が違うからな」


 そう言って、刀真が干し肉を数枚口に放り込んだ。


 鍛冶で鍛え上げられた分厚い胸板を叩き、刀真はフンッと息を吐く。


「おおっ、確かに力がみなぎる!体が軽いぜ! 

 ……萌音、俺の敏捷はどうだ!?」


 萌音はウィンドウをスワイプし、刀真のステータスを確認した。そして、ふいっと目を逸らした。


「刀真も、敏捷の上がり幅は……ゼロだね」


「なっ!?」


「刀真は『防御力(DEF)』と『筋力』に極振りされた重装甲タンクの適性だから……干し肉のバフ効果が、全部そっちに吸収されちゃってるみたい」


 その瞬間、その場に気まずい沈黙が流れた。


 蒼汰と刀真は、ゆっくりと顔を見合わせた。


「……どうやら、食べた栄養素の変換効率に『強烈な個人差』があるみたいだね」


 理人が、呆れたように眼鏡を押し上げて分析結果を口にする。


「君たち二人の体は、初期ステータスから完全に『火力』と『耐久』に極振りされたピーキーな構造をしている。

 だから、どんなに素早さに作用するバフを摂っても、体が勝手に『おっ、これは筋肉を動かすための熱源だな!』

『防御力を上げるための装甲だな!』と勘違いして、すべて得意なステータス側に回してしまうんだろう」


「俺たちの体、筋肉馬鹿すぎねえか……?」


 蒼汰が、刀真の肩に手を置く。


「ああ……。スピードスターへの道は、遠いな」


 刀真も、遠い目をしながら蒼汰の肩に手を回した。


 だが、二人は顔を見合わせたまま、ふと同時に口角をニヤリと吊り上げた。


「……まぁ、よく考えりゃ、俺たちにはちょこまか逃げ回る戦い方なんて性に合わねえか」


「違いない。どっしり構えて、迫ってくるバケモノの装甲を真正面からぶっ叩き割るのが俺たちの役割ロールだ」


「スピードは楓菜たちに任せとこう。俺たちは、いざって時にこの干し肉で筋肉をパンパンに膨れ上がらせて、全部一撃で粉砕してやろうぜ!」


「おうよ!!」


 ガシィッ!!


 蒼汰と刀真が、分厚い筋肉のついた腕を交差させ、熱い友情のハイタッチを交わした。


「あははっ、なんか負け惜しみに聞こえるよー!」


 楓菜が、お腹を抱えてケラケラと笑う。


「でも、これで戦術の幅が広がるね。理人くんと楓菜ちゃんは緊急回避の加速用に、蒼汰くんと刀真くんは一撃必殺のブースト用に使えるんだから!」


 乃亜が、完成した大量の干し肉を布袋に詰めながら嬉しそうに微笑んだ。


 いくら強力な魔物の力を借りても、自分たちの本質(得意分野)は決して覆らない。


 だが、それを理解し、長所を極限まで押し上げる強かさが彼らにはあった。


 前衛の二人の頼もしい背中を見つめながら、六人はさらなる獲物を求めて、深淵の森の奥地へと歩みを進めるのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます!


今回は月影豹の肉を使った保存食作り……でしたが、まさかの「身体がバフを拒否する」という事態に。理人や楓菜が華麗に加速していく一方で、どれだけ素早さの素を摂取しても筋肉と熱に変換されてしまう蒼汰と刀真。

「スピードスターになりたい」という蒼汰のささやかな夢は散りましたが、前衛二人の筋肉同盟(笑)が結成されたことで、パーティーの結束はより強固になった……はずです!

前衛二人の不憫さに笑った、あるいは「脳筋コンビ最高!」と思ってくださった方は、ぜひ**【ブックマーク】や【下の評価欄から★★★★★】**をいただけると、彼らの筋力(と作者のやる気)がさらにブーストされます!よろしくお願いいたします。

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