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圧倒的な暴力。陽炎の剣と、打ち砕かれた補欠の意地

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

「……神宮寺」


 蒼汰が、ギリッと奥歯を噛み鳴らす。


「王宮で無能って追い出された時はどうなるかと思ったけどさ。

 相変わらず万年補欠の『ダメそうだ』は、這いつくばって生きるのがお似合いだな」


「本当よねぇ。ねえ、勇輝。あっちで震えてるのって、乃亜じゃない?」


 神宮寺の腕にベタベタとすがりつきながら、聖女・西園寺美海が、汚物でも見るような冷ややかな目を乃亜に向けた。


「元クラスのアイドル様が、清掃婦のハズレ職をもらって、こんな薄汚れた服着て……すっごく惨めね。

 あーあ、可哀想に。私みたいに優秀な聖女なら、毎日綺麗なドレスを着て王宮の美味しいスイーツを食べられたのにねぇ」


「西園寺さん……っ」


 乃亜は顔を強張らせたが、言い返すより先に蒼汰たちを庇うように杖を握り直した。


「フッ、そこにいるのは福島の『ふなっしー』か? 相変わらず猿みたいにチョロチョロしてんな。

 そんなオモチャみたいな弓で、魔物でも狩るつもりか?」


 大魔導士・藤堂隼人が、楓菜の構える弓を見て鼻で笑う。


「ふなっしーって言うな! 私の名前は楓菜だよ!」


 楓菜が怒りに顔を赤くして叫ぶが、勇者パーティーの誰も彼女の言葉など聞いていない。


「……あ、そうだ。山城、例の連中、こいつらなら知ってるんじゃねーの?」


 神宮寺が思い出したように、司令塔である山城に声をかけた。


 山城は無機質な視線を蒼汰に投げかける。


「ああ。多目、お前たち、遠山と北条を見なかったか?」


 蒼汰の心臓が跳ねた。資材置き場の陰に隠れている二人の顔が浮かぶが、蒼汰は表情を変えず、吐き捨てるように答えた。


「……さあな。知らねえよ。ここにはいねえ」


「あはは、だよな! あいつら、王宮のブラック労働からバックレて逃げ出したんだけどさ」


 神宮寺が、頭を掻きながらヘラヘラと笑い声を上げた。


「逃げたところでここは奈落の森だぜ? 

 無能二人が装備もなしに飛び出したんだ。

 今頃は魔物の腹の中で、とっくにクソになってる頃かなぁ? 

 ギャハハ!」


「……っ!!」


 その笑い声を聞き、資材置き場の陰で、刀真は拳が砕けんばかりに握りしめ、萌音は震える口元を両手で押さえて声を押し殺した。


 かつての級友が、自分たちの生死を「クソ」と笑っている。


 そのあまりの理不尽さに、二人の目からは静かに、しかし熱い涙が零れ落ちた。


「時間をかける価値もないゴミどもですね。クレア様のクエストの邪魔です。

 さっさと処理してしまいましょう」


 賢者・一文字雫が、ホログラムのウィンドウを弾き消しながら冷淡に言い捨てる。


「そうだな。お前らみたいな底辺、俺のレベル25の剣の錆にもならねえけど……ちょっとくらいは楽しませてくれよ?」


 神宮寺が、三日月のようにつり上がった目で狂気の笑みを浮かべ、一歩前に出た。


 ズンッ。


 奈落の森に、立っていることすら困難なほどの重圧プレッシャーがのしかかっていた。


 レベル25超えという、人間の限界をとうに突破した勇者パーティーの圧倒的なステータス。


 彼らがただそこに立っているだけで、大気を震わせるほどの魔力が吹き荒れ、ルーク率いる辺境伯軍の屈強な工兵たちでさえ、恐怖で膝をガクガクと震わせていた。


「楓菜! ルークたちを下がらせろ!」


 蒼汰が、腰を落として魔骨鋼の刀を正眼に構えながら叫んだ。


「っ……! させないっ!」


 蒼汰の声に弾かれたように、楓菜が動いた。


 彼女は『叉鬼マタギ』の異常な素早さを活かし、一瞬で木の上に跳躍すると、愛用の弓を引き絞り、三本の矢を同時に番えた。


 狙うは、六人の中心に立つ勇者・神宮寺。


 一切の淀みもない、風を切り裂くような神速の三連撃。


 これまでの魔物狩りにおいて、幾度となく強敵の急所を撃ち抜いてきた必殺の矢だ。


 ヒュッ、ヒュンッ!!


 だが。


「遅いですね」


 無機質な声と共に、神宮寺の前に巨大な盾を持ったパラディン・月城光莉が立ち塞がった。


 彼女は一歩も動かず、ただ手首を僅かに返しただけで、目にも留まらぬ速さで飛来した楓菜の矢を、剣の腹で「カィンッ」と小気味良い音を立てて弾き落とした。


「えっ……!?」


 楓菜が、信じられないものを見たように目を見開く。


 神速の矢が、まるで子供の投げた小石のように、いとも簡単に払いのけられたのだ。


無能モブの放つ物理攻撃など、私の防御力(DEF)を貫通することはありません」


 月城が、感情の一切抜け落ちた瞳で楓菜を見上げた。


「くそっ! 理人、援護しろ!」


「分かっている!」


 蒼汰が地面を蹴って突進する。


 同時に、背後にいた理人が白衣のポケットから複数のガラス瓶を取り出し、月城の足元へ向けて正確に投擲した。


 パァンッ! とガラス瓶が割れ、中から視界を奪う強烈な閃光と、呼吸を封じる刺激性の煙幕が吹き上がる。理人が調合した、対魔物用の特製化学催涙弾だ。


「目眩ましのつもりか。下等な手段だな」


 しかし、大魔導士・藤堂隼人が鼻で笑い、指先を軽く振った。


烈風ブラスト


 たった一言の詠唱。


 それだけで、理人の煙幕は一瞬にして跡形もなく吹き飛ばされ、逆に暴風となって蒼汰の体を押し戻そうとした。


「うおおおおっ!!」


 だが、蒼汰は風圧に逆らい、強引に距離を詰めた。


 狙うは、陣形の先頭に立つ月城だ。


 蒼汰は渾身の力を込め、黒光りする魔骨鋼の刀を上段から振り下ろした。


 ガギィィィィンッ!!


 激しい金属音が森に響き渡る。


 蒼汰の全力の一撃は、月城が掲げた白銀の盾に完全に受け止められていた。


 刃が食い込むどころか、傷一つ付いていない。


「なっ……!?」


「無駄だと言っているでしょう、多目蒼汰だめそうだ


 盾越しに、月城が氷のように冷たい目で蒼汰を見た。


 元生徒会の風紀委員長であった彼女の、他人を見下すような冷たい視線。


「あなたの動きは単調すぎる。それに、威力も足りない。

 ……あなたは現世でも、万年補欠の目立たない存在でしたね。

 異世界に来ても、所詮は本物の戦士の代用品……補欠にすぎないのですよ」


「なんだと……っ!」


 月城の言葉が、蒼汰の心の一番柔らかい部分を無残に抉った。


 スポーツでも、勉強でも、常に誰かの後ろに隠れていた自分。


 同窓会でも隅っこでジュースを飲んでいた自分。


 その「補欠」という呪縛を打ち破るために、この森で死に物狂いで足掻いてきたのだ。


「補欠、補欠って……るせぇんだよ!! 

 俺は、俺の足で立ってんだ!!」


 蒼汰の怒りが頂点に達し、体内のカロリーが爆発的に燃焼を開始する。


 胃袋の中にある食物のエネルギーが、一気に凄まじい熱量へと変換され、両腕を通って刀身へと流れ込んだ。


陽炎かげろう』!!


 蒼汰が編み出した、初期の熱量操作スキル。


 刀身が超高温の赤銅色に輝き、周囲の空気が陽炎のようにぐにゃりと歪む。


 月城の盾を強引に弾き飛ばし、蒼汰はその熱の刃を、後方に立つ勇者・神宮寺へと真っ直ぐに突き立てた。


「死ねとは言わねえ……少し、痛い目見て目ェ覚ませ!!」


 だが。


「へぇ、熱いじゃん」


 神宮寺は、欠伸を噛み殺しながら、片手で聖剣をすっと持ち上げた。


 ドゴォォォォォォンッ!!


 蒼汰の『陽炎』の熱線が、神宮寺の聖剣と激突し、爆発的な衝撃波を巻き起こす。


 地面が抉れ、周囲の木々が熱風で薙ぎ倒される。


 ルークや理人たちが、その余波で吹き飛ばされそうになるのを必死に堪えた。


「やった…!?」


 楓菜が祈るように叫ぶ。


 だが、土埃が晴れた後――そこには、絶望的な光景が広がっていた。


「ちょっとはやるようだが……。まだまだだな、ゴミ」


 神宮寺は、焦げ跡一つない涼しい顔で立っていた。


 蒼汰の渾身の『陽炎』は、神宮寺が片手で持った聖剣の刀身に、完全に防がれていたのだ。


「うそ……だろ……」


 蒼汰が、愕然と目を見開く。


 カロリーを大量に消費したせいで、息が荒い。


「お前さ、自分が主人公だとでも思ってんの? 

 補欠はどこまで行っても補欠なんだよ。

 俺たち『選ばれた人間』のEXPエサにでもなってろ」


 神宮寺が、ニヤリと嗤った。


 次の瞬間、神宮寺の蹴りが、見えないほどの速度で蒼汰の腹部に叩き込まれた。


「ガァッ……!?」


 蒼汰の体が「くの字」に折れ曲がり、砲弾のような速度で吹き飛ぶ。


 大樹の幹に激突し、バキバキと木をへし折りながら地面に叩きつけられた。


「蒼汰!!」


 理人が血相を変えて叫ぶ。


「蒼汰くんっ!!」


 乃亜が、悲鳴を上げて蒼汰の元へ駆け寄った。


 蒼汰は口から血を吐き、激しい痛みに顔を歪めていた。


 肋骨が何本か折れ、内臓にもダメージが達している。


 乃亜は涙目で蒼汰にすがりつくと、震える両手を彼の胸にかざした。


「清らかなる水よ、生命の光よ……彼を癒やして! 『浄化ヒール』!!」


 乃亜の手から、温かく透き通った光が溢れ出す。


 それは、ただ傷を塞ぐだけの無機質なゲームの魔法ではない。


 相手の痛みに寄り添い、内側から細胞を活性化させる、彼女自身の深い母性と慈愛から生まれた真の回復魔法だった。


 蒼汰の折れた肋骨が繋がり、内出血が急速に引いていく。


 その様子を、後方で腕を組んで見ていた司令塔・山城翔也が、興味深そうに目を細めた。


「ほう……。冨永乃亜。

 お前、王宮では清掃婦の『ハズレ職』だと判定されていたが……

 ずいぶんと効率の良い回復魔法を使うじゃないか」


 山城が、まるで新しい便利な道具アイテムを見つけたように、冷徹に評価を下す。


「どうだ、冨永。お前、俺たちについてこないか?」


 山城が、傲慢な笑みを浮かべて提案した。


「俺の部隊ユニットに入れば、こんな泥だらけの森でゴミ共と泥水をすするような真似はさせない。

 王宮で安全に、美味しいものを食べて、楽をさせてやるぞ」


 山城にとって、他人はすべて盤上の駒だ。


 使える駒であれば、かつて追放した者であっても利用する。


 それが彼の合理主義であった。


 しかし、その提案に一番面白くなさそうな反応を示したのは、聖女である西園寺美海だった。


「ちょっと山城くん! どういうつもり!?

 このパーティーの回復役ヒーラーは私という『聖女』がいるでしょ!

 あんな、泥だらけで不潔な女、必要ないわよ!」


 西園寺が、露骨に嫌悪感を顔に張り付けて抗議する。


「黙ってろ西園寺。お前のヒールはMP効率が悪い。

 予備の回復ポーション代わりはいくらいても邪魔にならないだろう」


「あんなのいたって邪魔なだけじゃない!! キーッ、ムカつく!」


 仲間内で言い争う彼らの姿は、あまりにも醜かった。


 乃亜は、蒼汰の体を抱きかかえたまま、山城たちを真っ直ぐに睨みつけた。


「……お断りします」


 乃亜の声は、怒りで微かに震えていたが、決して折れることのない芯の強さがあった。


「えっ?」


 山城が、予想外の返答に呆気にとられる。


「私は、蒼汰くんたちと一緒にここで生きていく。

 ……あなたたちのように、心を失って、他人を道具扱いするような人たちと一緒に食べるご飯なんて、絶対に美味しくないから!」


 乃亜の毅然とした拒絶。


 それは、王国のカーストと洗脳に囚われた彼らに対する、強烈な決別の言葉だった。


「……チッ。馬鹿な女だ。せっかく拾ってやろうと思ったのに」


 山城が、不愉快そうに舌打ちをする。


「交渉決裂ですね。ならば、すべて排除するだけです」


 一文字が眼鏡を光らせ、魔法の詠唱準備に入る。


 一方、その絶望的な光景を、少し離れた資材置き場の陰から見ている二人の姿があった。


 見つかるとまっさきに攻撃対象になる恐れがあるため、後方で身を隠している刀真と萌音である。


「くそっ……! くそぉぉっ……!!」


 刀真は、握りしめた鍛冶用のハンマーを、ギリギリと音を立てるほど強く握りしめていた。


 手から血が滲んでいることにも気づいていない。


「ごめんね、刀真……。私、みんなのステータスが見えるのに、なんのアドバイスもできない……!

 レベルの差が大きすぎて、どうやっても勝てる計算が成り立たないの……!」


 萌音が、大粒の涙をポロポロと零しながら、顔を覆って泣きじゃくっている。


「俺だってそうだ……! 

 俺が死に物狂いで打った魔骨鋼の刀が、あいつらの剣に傷一つ付けられなかった。

 俺の武器じゃ、蒼汰たちを守れねえ……っ!」


 刀真は、己の不甲斐なさに唇を噛み破り、血の涙を流していた。


 仲間が傷ついているのに、何もできない。圧倒的な暴力を前に、ただ隠れて震えているしかない自分たちが、どうしようもなく情けなかった。


「あーあ。弱すぎて冷めたぜ」


 張り詰めた空気を破ったのは、神宮寺の退屈そうな声だった。


 彼は聖剣を肩に担ぎ直し、首をボキボキと鳴らした。


「帰ろーぜ山城。こんなカスども虐めても、一ミリも経験値エサになんねーし。時間効率悪すぎ。

 早くクエスト終わらせて、王宮の美味い飯食いに帰ろーぜ」


「……そうだな。いつまでも雑魚を相手に遊んでいるのは時間の無駄だ」


 山城も、興味を失ったように踵を返した。


「待ってよね! 私の靴、こんなに汚れちゃったじゃない!」


 西園寺が文句を言いながら続く。


 月城、一文字、藤堂も、蒼汰たちを一瞥もすることなく、まるで路傍の石でも通り過ぎるかのように森の奥へと歩き去っていった。


 やがて、彼らの異常な重圧プレッシャーが完全に消え去った後。


 破壊された森の中に残されたのは、圧倒的な敗北感と、己の無力さに打ちひしがれる豊穣のメンバーたちだけだった。


「……くそっ……!」


 蒼汰は、乃亜に支えられながら地面を叩き、悔しさに顔を歪めた。


 理不尽なまでのレベルの暴力。


 今のままでは、絶対に勝てない。


 国を護ることも、洗脳されたあいつらをぶん殴って目を覚まさせることもできない。


 この日、名もなき廃村から成り上がってきた英雄たちは、異世界に来て初めて、完璧で残酷な『敗北』を味わったのだった。

ご一読いただきありがとうございます!

思った以上に読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。

もっと楽しんでもらえるように頑張りたいと思います。

今後の励みになりますのでもし「面白かった」「続きが読みたい」と思っていただけたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援してもらえると嬉しいです。


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